地下鉄のザジ (中公文庫 C 11)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122001367

感想・レビュー・書評

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  • パリを舞台にめくるめく市中冒険。テンポよくどんどん場面が変わっていくし、主人公の女の子・ザジや叔父のガブリエルたちが共有している世界観(「当時のパリ庶民の精神風俗」なんて解説もある)に匂うくらいの温かく人間くさい血が通っていて、なおかつ軽い。高尚なことを考えたり表現できた入りする人が、ざっくばらんな砕けた形式で多くの人が楽しめるように作ったような作品でした。

    主人公のザジは10歳の女の子なのですが、口が悪くて口癖は「○○、けつくらえ!」で、扱いにくいどころか誰もが手にあますような子どもです。フランスという自己主張の激しい国の子どもですし、それにこれはフィクションでもありますから、なおさらザジのキャラクターは強烈なパンク調というか、世間でも有数の問題児レベルのような言動や振る舞いをしています。でも、そこに僕は自分の子ども時代のどうしようもない性格の部分、いわゆる「クソガキ」だったところを思い起こさせずにはいられませんでした。そういう自分だったことがわかっているから、もしも自分に子どもができたらそういうところが遺伝して育てるのに難儀するだろうなと思うくらい。

    閑話休題。
    小説は、どちらかといえば「知性的に味わう性格の強いもの」と、どちらかといえば「感性的に味わう性格の強いもの」とがあるように思います。乾いた文体だとか、濡れた文体だとかという特徴だってありますし、それらと「知性的」か「感性的」かの連関もあるでしょう。『地下鉄のザジ』は、知性的に味わう性格の強いほうです。ドライな笑いがちりばめられていて、そのおかしさを堪能するのは感性ではなく知性のほうです。なので、門戸の広い楽しめる作品でありながら知的な深さを備えているといえるでしょう。僕はおそらく、というか間違いなく隅から隅まで楽しめたわけではないですが、教養が豊かであればあるほど楽しめる作品かもしれません。フランス語の単語や文章のままの箇所もあります。そこは言葉をいじくって面白く表現している、文学的に譲れないような部分なのでそのまま訳さないでいるのでしょうか。はたまた技術的な問題なのか。判断はできませんでしたが、読んでいても意味がわからなくなるところではないので困りはしないのですが。

    話が大きく発展したりひねりのある展開をしたりもします。それでいてユーモアが忘れられることはなく、昔のヨーロッパのアニメを見ているかのような独特の感覚がありました。そういう感覚は久しく忘れていたので、懐かしくもおもしろかったです。

  •  楽しい!凄まじいほどのテンポの良さ、ユーモラスでとぼけた台詞、説明しすぎない描写によって生まれる意表をつく展開があり、ぐいぐい読み進められるドタバタ喜劇。
     現代ほど市民権を得られていない男色家への辛辣な物言いや生意気なザジの背景にある複雑な家庭環境など、楽しいことばかりが書かれてあるわけじゃないけど、ウィットに富んだ筆致とガブリエルやザジたちの強かさによりそんなもの"ケツくらえ!"といった痛快さがある。

  • ザジの子供っぽいけれど、頭の回転がはやい大人のような言葉がとてもおもしろかった。けつ喰らえ!

  • パリの叔父のもとへやってきた少女ザジは、地下鉄に乗るのを楽しみにしていたのに、なんと地下鉄はスト中。
    街に出たザジは、奇妙な人物と奇妙な出来事にまきこまれてゆく。

    文章とか詳しい内容とかはほとんどわからなかったけど、なんか面白かったなぁ。
    決してスタイリッシュではないけれど、洒落ている。可愛くはないけど、チャーミング。下品な言葉(名台詞「けつくらえ!」)を連発し、子どもっぽいのに妙に道理がわかっている風なザジがおかしい。周りの大人たちも、絶対に変なのに、なんだかとっても楽しげで、読んでいて胡散臭さがなかった。

    この本、口語体というか演劇体(?)というか、とにかく文章が“生身”な感じで、内容もとても自由度が高い。文章の合間や終わりに「(身振り)」だとか「(間)」なんて表現が出てくるし、確信犯的に何度も同じ言葉が使われる。
    なんでも、フィクションがシュルレアリズムにがちがちに囚われ、難解になっていた当時のフランス文芸界に、斬新な文体で一石を投じた本であるそうだ。
    この時代背景を知らないと、わけがわからない文章に「??」と面食らうだろう。正直、私も話の筋は全然わからなかった。しかし、それでもなんとなく読んでいて楽しく、くすっとしてしまう雰囲気がきちんと伝わってくるのだから不思議なものである。
    フランス文学は今までなんとなく受け付けなくて、自分には合わないのだと思っていたけれど、これは楽しめた一冊だった。

    追記;この本を読んだあとで映画も観たところ、私には映画のほうが楽しめて、好きだった。原作よりもドタバタに徹していたところがよかったのだと思う。スプラスティックでカラフルな演出が、見た目にも楽ししかった。

  • 映画観るより先に読んだんだろう。何しろ、存在は知っていても観ることが出来なかったのだから。クノーは、「はまむぎ」で既知。カバーは、現行のものよりこのイラストレーション版の方が馴染み深いぞ。

  • 映画が面白かったので、本屋さんで見かけた時に購入。
    原作(日本語訳)も面白いけど、語学が出来たらもっと面白いんだろうな。
    でも映画を観る前に、文章の方を読めば良かった。
    そうしたら映像化の面白さがもっと味わえたハズ。

  • その当時のパッリィー(パリです)の雰囲気がリズミカルな文章に乗っかってきてそれが面白かった。

  • キュートなザジと仲間たち。
    これを読むと、純日本人の私がこんなところで暮らせるわけがないって思うけど、それでもやっぱり憧れてしまうパリ。なんなんでしょう。

  • 田舎からはじめてパリへやってきた、お転婆娘ザジの、愉快ツーカイ大冒険。
    おかまストリッパーの叔父さんをはじめ、変ちくりんな大人たちをひっかき回して けつ喰らえ!
    はちゃめちゃをくり広げるから、ついといで!
    「あたし宇宙飛行士になるわ。宇宙飛行士になって火星人をいじめに行くんだ!」

  • 「人間は一生誰かから侮辱されっぱなしさ」

著者プロフィール

一九〇三年ル・アーヴル生まれ。パリ大学で哲学を学び、シュルレアリスム運動に参加。離脱後、三三年に「ヌーヴォ・ロマン」の先駆的作品となる処女作『はまむぎ』を刊行。五九年に『地下鉄のザジ』がベストセラーとなり、翌年、映画化され世界的に注目を集める。その後も六〇年に発足した潜在的文学工房「ウリポ」に参加するなど新たな文学表現の探究を続けた。その他の小説に『きびしい冬』『わが友ピエロ』『文体練習』『聖グラングラン祭』など、詩集に『百兆の詩篇』などがある。一九七六年没。

「2021年 『地下鉄のザジ 新版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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