- Amazon.co.jp ・本 (275ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122049543
作品紹介・あらすじ
アステカ帝国を一夜にして消滅させた天然痘など、突発的な疫病の流行は、歴史の流れを急変させ、文明の興亡に重大な影響を与えてきた。紀元前五〇〇年から紀元一二〇〇年まで、人類の歴史を大きく動かした感染症の流行を見る。従来の歴史家が顧みなかった流行病に焦点をあてて世界の歴史を描き出した名著。
感想・レビュー・書評
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人類の世界共同体化と西洋の興隆において、疫病と免疫が果たした役割の重要性を指摘した著述。これまで世界史というと武器・農機具・移動と生産に関する技術の発展の観点から語られることが多かったけれど、実は生物学的なプロセス、具体的には病原体と人間の免疫の共進化が強い影響力を持っていたという話。
現代の文明化された人類の共同体ではただの小児病とされていたり生活習慣によってレア・ケースとなった感染症の多くが、古代においては死に至る病だった。あまりに迅速に感染者を殺し、未感染者をほとんど残さない病原体は、子孫を残すことができない。よって、新たに人類に寄生するようになった病原体は、最初は激甚な症状を表すものの、次第に弱毒化していくように進化する。また、人類の側でも共同体内に一定の免疫を維持した状態が保たれるようになっていく。確かに、生物学を学んだものとしては、そういったとこだろうなと理解できる。その理解の単品と、人類の歴史という壮大なプロセスを組み合わせて新たな発見を発見・提唱できるというところがマクニールのすごいところだと思う。
上述の理解と世界史を組み合わせた場合、それまで交流のなかった人間集団同士が交流するようになった時には一種の無自覚の細菌戦争が行われることが分かる。その時点までにより多くの集団と交流してより多くの病原体と出会っていた方の集団の成員が、他方のインタクトな集団に対して病原体をばらまくことになるからだ。スペイン人がアメリカ大陸に進出した際にインディオを壊滅させた仕組みだ。
マクニールのすごいところは、上記の仕組みに気がつくことに加えてさらに、膨大な量の史料をあたり、各分野の専門家と議論して、着想への裏付けを取る努力をすること。また、その内容を大著として書き上げる能力。着想・裏どり・記述という一連をこなし、何冊も本を書いている。本当に偉大な学者だ。 -
感想は下巻で
ただし印象深い一節があったので引き写しておく
「死の災厄のうちにわれわれの多くの者が死んでいく。つまりわれわれの多くの者がこの世界から解放されていくのである。この死の災厄は、ユダヤ人と異教徒とキリストの敵たちにとっては、ひとつの禍である。だが、神のしもべたちにとって、これはひとつの幸運な出発である。人の種族の如何を問わず、正しき者がよこしまな者と共に死んでいくこの事実を前にして、あなた方は破壊が善人にとっても悪人にとっても等しいものと考えてはならない。正しき者は新たなる生へと召され、よこしまな者は責め苦に処される。信仰ある者には速やかに保護が与えられ、信仰なき者には罰が与えられる。……(中略)……一見恐るべきものに見えるこの疫癘が、すべての人びとの正しさを探し出し、人の心を検証してくれるのは、なんと適切でなんと必要なことであろう。
P201より引用」
251年カルタゴ司教キプリアヌスの当時荒れ狂っていた疫病を賞め讃える一文
遠藤周作『沈黙』とこの一文を比べて
宗教が必要とされてきたということにどちらが近いかは
やはり近代以降の日本人には及び得ないところなのではないかと感じる -
経済雑誌のおすすめ。
決して難解な文章ではない。
ただ、あまりに膨大な情報量、
反語表現の多さ、
時空を超えた例示にキャパオーバーになってしまう。
自分がどこにいるのか、いつの何の話を読んでいるかを
見失いがち、とでも言うか。
そしてついつい、本筋を離れて、枝葉末節の話を拾ってしまう。
英国海軍が壊血病に効果のないライムジュースを飲んでいて、ライミィと呼ばれてたとか、
農業が始まってからよりも、狩猟時代の人類の方が、
健康的で余暇があったとか。
(下巻に続く) -
読了したのはかなり前だが…
ワクワクしながら、「スゲー!スゲー!マジでー?!」と驚きながら、あれよあれよという間に読み終わってしまったことが印象的。
ザックリとしていながら、世界が網羅されているという、スリリングで素敵な歴史書です。
超オススメ!!-
「疫病と世界史」疫病との戦いと克服の歴史?
ジャレド・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」も読んでみたいと思っているのですが、どちらを先にしよう...「疫病と世界史」疫病との戦いと克服の歴史?
ジャレド・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」も読んでみたいと思っているのですが、どちらを先にしようかな?
2012/04/12
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人類史の疾病との関係なのだが、どうも肌にあわないのでやめた。
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まったく頭に入ってこなかった。自分の理解力不足ももちろんあるが、訳の問題なのか、書かれている内容があまりにも淡々としていて、なんのドラマを見出せなかった。
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世界史を疫病の面から考察していて面白い。ぱっと思い付いたのは中世ヨーロッパのペストと新大陸の疫病くらいだったけど、至る所で病気の流行と人口減少は発生していたのだろうと考えさせられた。
ジャレド・ダイヤモンドの『銃・病原菌・鉄』と合わせて読むとより面白いかも。 -
初稿1974年。本書は疫病がいかに世界史に大きく影響し続けてきたのか、その可能性を提示するものであり、それを裏付ける証拠については、筆者自らが語るように十分ではない。
疫病による世界への影響が改めて確信された2022年現在においては、その主張の全てを受け入れてしまいそうになるが、『熱帯アフリカからの人類進出に大きな影響を果たした』『都市で保持されていた感染症が農村に輸出され、文化圏の確立に影響した』など、本書だけでは判断ができない論説も多く、特に『キリスト教も仏教も、感染症の影響で浸透した』という主張は、あまりにも力点を感染症に置きすぎているように思える。
そもそも1974年の本を正しく評価するには、当時の状況と最新の研究を知らずには判断できそうにない。下巻の題材はAD1200年以降であり、まだ古代よりは証拠が残っていそうなものだが、注意深く読み進めたい。 -
世界史において「疫病」について語る時、私たちは当然のように「疫病は自然災害と同じ災厄であり、人間は常に疫病と戦ってこれを克服してきた」という人間からの目線で考える。しかし、果たして本当にそうだろうか。他の生物から見れば、人間こそが悪性の疫病のような存在ではないだろうか。
本書では、人間も動物も寄生生物も全部ひっくるめた生態系システムの上で、人間が起こした変化に対する生態系のシステマティックな反応の帰結として世界史で起こった事象を読み解いていこうというユニークな議論が展開されていく。
例えば、寄生生物が宿主である人間に感染するのを「ミクロ寄生」と呼ぶ一方で、支配者層や都市住民が自己の生存のために農民から食物などを取り上げることを「マクロ寄生」と呼び、従来の歴史家はマクロ寄生的側面のみを強調し過ぎていると言う。また、ローマ帝国と中国王朝で同時期に、それぞれキリスト教と仏教が受け入れられたことは、この時期にどちらも疫病が猛威をふるったことと無関係ではないと主張する。
このような視点で歴史を読み解いていく方法にまず驚いてしまうが、話がロジカルに展開するので不思議とすんなり頭に入ってくる。著者の論理を私が十分に理解し得たかどうかは怪しいが、とにかく何か推理小説の謎解きを読んでいるような面白さがあった。
(本書は上下巻の上巻として先史時代から紀元1200年頃までを対象としている)