宿縁の矢 (C・NovelsFantasia ら 1-2 ヴァルデマールの使者 2)
- 中央公論新社 (2008年4月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
- / ISBN・EAN: 9784125010281
作品紹介・あらすじ
「きみはクリスのもとで研修を受けるのだから、最後に彼に会ったときよりも落ち着いた状況で顔なじみになっておきたいだろうと思ったのだよ」「落ち着いた状況ですって?これが落ち着いた状況だっていうんですか?」「相対的にはな」正式な"使者"となり、"学院"での日々に別れを告げたタリア。研修の指導官はクリス、任地は北の"国境地帯"。辺境出身のタリアにとって比較的簡単な任務になるかと思われた。研修はクリスと協力して難題に向かうことが不可欠である。しかし、二人の信頼を揺るがすべく、密やかに不和の種は蒔かれていたのだった。執拗に迫る"女王補佐"排斥の魔手。タリアはこの陰謀を打ち砕けるのか。
感想・レビュー・書評
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このseriesは、やっぱり毛色が違うのだな、と改めて思いました。
と言っても、<ヴァルデマール>という世界観は、変わらずに健在です。
登場人物たちも魅力的だし、文章も非常に流暢。
グイグイと読者を引っ張り込む文章力も、相変わらず素晴らしいです。
けれど、創元でのseriesとは、明らかに違う空気感を感じます。
それは、ヴァルデマールが舞台だから、というだけではありません。
もっとこう張りつめた、緊迫感のある空気。
そして、全体的に、憂いを帯びた翳りを感じるのです。
タリアがその原因、というわけでもありません。
むしろ、タリアという人物像は、その真逆だと思います。
まるで日溜まりのように暖かく、健気でいじましい人物です。
その周りを固めている<使者>たちも、優しく真っ直ぐな人たちばかり。
では、この言いようのない不安を搔き立てるような雰囲気はなんなのか。
それが、このseriesでLackeyが狙っている効果なのではないかと思うのです。
年代記としてみたとき、この時代というのは、とても不安定な時代です。
その事は、すでに創元で出ている作品を読めば、理解出来る事だと思います。
このあとに待ち受けている時代の影響を、作中に滲ませているのだと感じました。
なんという表現力なのだろうと感嘆します。
そしてそれは、その空気感を減ずることなく移し替える、訳の見事さにも通じます。
澤田澄江さんの訳、見事だなと思いました。
これなら、前作『女王の矢』を買い直すべきかな、といま思ってます。
このあと、一体どのように展開していくのでしょうね。
全体を覆う翳りは、たぶんそのままで行くのだろうな、とは思います。
けれど、そろそろ、タリアには安穏をあげて欲しいなぁ。
とはいえ、他の作品でのあとがきとかを読むと、まだまだ受難は続きそうです。
<女王補佐>という役割と、激動へと足を踏み入れていく時代を考えれば余計に。
うう、可哀想なタリア。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
12:00
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先のお話の続き。タリアさんの成長物語第二弾。
昔カード氏の話を読んだ時も思ったのですが自分の意思を外部からの干渉により変異させられることへの反応ってキリスト教圏の人の方が強いのでしょうか。神様が人間に語りかけるなら許容範囲なのでしょうが同じ人間から影響を受けることには嫌悪感があるのかなあ、と。反対か。神様の力だから人間が同じことが出来ると言う発想に過敏に反応するのかな。
新井素子のカレンダーガールシリーズ(だと思う)の主役も共感能力を持つ女の子でしたが周囲の当惑よりは主人公自身の自己嫌悪と自己否定の方が強く語られていたのはお国と宗教の違いなのかな。日本人は集団心理に流されやすいし右に倣え、で多数派の意見に与しやすいですしね。
個人的には双方、彼女には別に絆の人が居ると知りつつそう言う関係になっちゃうんだ~みたいなものがありますね。あの世界の倫理感がよくわからない(笑)。そんなややこしい事にならないよう3人で行け、と個人的には思いました。(そして続きを読んだら案の定ややこしいもめ事になっていてそらみたことか、と言う感じです。)この作者は初恋は実らない…のはまあわかりますが女性が最初の恋人とゴールインすることは無いと言う信念でもあるのかな?別に良いですけど。 -
ヴァルデマール王国の「矢シリーズ」第2巻。
1巻はここで終わっても良いのでは?と思うくらい
すっきりした締め方だったが、今回はなんと未熟な状態のまま使者の訓練を開始し、能力暴走、苦悩しまくるタリア。
相棒が始終イライラしてる状態。クリス本当にお疲れさま。
まだ「共に歩むもの」が話し相手にいるからいいが、本当にふたりっきりだったら耐えられなかっただろうな。雪山で足止めのシーンは、何ヶ月も小屋にこもって正直、これが仕事ですか?という感じだけど、こういう冬支度の描写が好きなので私的に面白かった。ファンタジーだけどアメリカンな作者なので性描写はあからさまじゃないけどわりと出る。 -
再読ー。
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2009年4月17日読了。
ついにタリアが正式な使者に!でも問題山積み。
面白いんだけど、イマイチ集中できなかったのでちょっと中だるみ。
クリスの勘違い野郎ぶりが、結構笑えたけど。
今後ますますタリアの苦難が激しくなりそうな予感。
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ヴァルデマールシリーズのセレナイの治世、Arrowシリーズの中巻。成長したタリアはいよいよ指導官とともに研修の旅に出る。タルマ&ケスリーのシリーズよりは読みやすく感じます。(訳者がちがうからでしょうか)でも、やっぱりフェミニズムが強いところがちょっと気になります。確かにまだまだ男女不平等なことはいっぱいあるし、女性は男性に比べて力は弱いです。でもねあんまりファンタジーの中で強調されてもね。エンタテイメントは楽しめなくては、と思うので。ダイアナ・ウィン・ジョーンズくらいの女の子がはちゃめちゃに張り切っているくらいが、私には丁度いいのかもしれません。