日本断層論 社会の矛盾を生きるために (NHK出版新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140883471

作品紹介・あらすじ

植民地という原罪、中央の論理で容赦なく切り捨てられる坑夫たち、消費され踏みにじられる女性-一枚岩とされた戦後日本に走る数々の断層に鋭く注目し、それらを克服しようとしなやかな思索を重ねてきた森崎和江。末端労働者や女性たちの苦脳、谷川雁や埴谷雄高など戦後知識人の素顔を、孫世代の論客が聞き出していく。格差社会の今日、なおも存在する断層に苦しむ人たちに向けた、異色の日本・日本人論。

感想・レビュー・書評

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  • 「からゆきさん」を書いたひとだなと思ってなんとなく借りた本。しかしかなりおすすめ本!!!

    これは読んでほしい。


    中島岳志さんが聞き手を務めたからこそ森崎さんの今までがより広がりをもって伝わってきた。

    「私には顔がなかった」

    九州はあたしにはほんと遠くて馴染みがないなと改めて感じて、九州に行くことをしたいと思った。

  • 森崎和江さんの本は「からゆきさん」しか読んだことがない。中島岳志さんとの対談ということで読むことにした。中身がとても濃かった。森崎さんの生き方が濃いからか。
    植民地下の朝鮮で生まれ育ったことを原罪と感じ、17歳で日本に戻ってから「日本」に違和感を感じる。劣悪な環境で働かされる炭鉱夫、消費され踏みにじられる女性を支援し、沖縄や北海道などを訪ね歩き、執筆を重ねる。頑強とは恐らく言えない身体でエネルギッシュに活動する。
    他の作品も読んでみたい。

  • 均質社会と言われてきた日本の内部に走る断層に踏み込んできた森崎和江と大学教授の中島岳志の対談集。格差社会に踏み込んでしまった日本が進む道のヒントがここにある。

  • 読み助2015年11月7日(土)を参照のこと。http://yomisuke.tea-nifty.com/yomisuke/2015/11/nhk-17ad.html

  • リベラルな朝鮮学校長の父の元で育てられた森崎和江は、朝鮮の人達を友としながら自由な環境で育つ。17才で日本に帰り福岡県立女子専門学校に入学。日本の公娼制度のもとで苦しむ女性、炭鉱に強制労働させられる朝鮮人等、朝鮮では見なかった下層の人々の現実に「日本」という言葉が書けなくなる。そこから彼女の自分を確立するための模索の歩みが始まる。本書は中島岳志との3日間の対談の記録であり、北は北海道から南は沖縄までの全国幅広い人達との交流、韓国の人々や社会改革を志す人達との交流、それらと通じて変わって行く彼女の考えと生き方が明快に述べてある。

  • 民俗学者で詩人で日本の女性史学を創出した高群逸枝の学究の徒というイメージにコペルニクス的転回を迫った力作評伝の丹野さきら著『高群逸枝の夢』について、かつて私はこう書いたことがありました。(2009年4月14日)

    「115年前の1894年1月18日熊本県に生まれた髙群逸枝は、日本女性史を独力で切り開いた人。
    彼女のあとには、血族のように強い意志を持った後継者たちが続くのですが、奇しくも同じ1927年生まれの『苦海浄土 わが水俣病』の石牟礼道子、『女の論理序説 族母的解放の始原』の河野信子、『ははのくにとの幻想婚』の森崎和江は、さらにもっとより深くより真相を暴き出し、研ぎ澄まされた表現力は文学の新しいかたちを創造するようにみごとな結実をみせています」

    これは、私が高校生の頃に巡り合った1960年70年代のさまざまな雑誌の論文・エッセイを読んでいくうちに自然と浮かび上がってきた問題性でしたが、まさかあの、新宿・中村屋に潜んで日本にインドカレーを伝えたりインド独立運動を指導したボースや、東京裁判でA級戦犯全員無罪という破天荒の主張をしたパール判事を描いた中島岳志が、こういう問題意識に貫かれた本を出すとはまったく予想もしませんでした。

    本書は、孫子の隔たりがある今年85歳のわが森崎和江との対談で、彼女の性差別・大衆対知識人・朝鮮と日本・辺境論・植民地主義批判などについて、半世紀以上の闘いの歴史と思想をひとつひとつ思いを込めて振り返り吟味する貴重な本です。

    彼はかつて『中村屋のボース インド独立運動と近代日本のアジア主義』(2005年)で、1915年に日本に亡命し新宿・中村屋に密かに身を隠してインド独立運動を指導した、そしてインドカレーを日本に伝えた人物でもあるラース・ビハーリー・ボースを描いて、大東亜戦争とナショナリズムを改めて断罪したり、そして『パール判事 東京裁判批判と絶対平和主義』(2007年)では、戦勝国の独断制裁の東京裁判で、あえてA級戦犯全員無罪を宣言して、世界連邦の確立と日本の再軍備阻止・平和憲法死守を企図したインドのラダ・ビノード・パール判事の崇高な生涯を描いたりしましたが、この本のような谷川雁が主導したサークル村や大正行動隊の中で、深く先鋭に表現活動を繰り広げたわが森崎和江を媒介するとは、本当に思ってもみない予想外なことでした。

  • 1927年うまれの森崎さんと、孫のような歳になる1975年うまれの中島さんとの対話集。2010年の8月、昨夏の暑い暑いころに福岡の宗像で対話の場はもたれた。

    いろんな話がされているなかで、人称の話が印象に残る。妊娠5ヶ月目のときに、「私」と言おうとして引っかかった森崎さん。「私の体内に別の命が宿っている状態の人称を、日本語は持っていない。その人称とは何か」と。

    妊娠という生理に密着している女性性というものが、日本の言語を使ってしまうと放棄されてしまう、排除されてしまう、と中島さんが語っている。私は他の言語をあまり知らないけど、「私の体内に別の命が宿っている状態の人称」を持っている言語って、どんなんがあるんかなと思った。(こんな本『世界言語の人称代名詞とその系譜』に、なにかあるかな…)
    とちゅうで出てきて、読んでみたいと思った本。
    『アジアが生み出す世界像─竹内好の残したもの』(編集グループSURE)
    『タブー―パキスタンの買春街で生きる女性たち』

    あとがきに、『くらしと教育をつなぐWe』と出てきた。森崎さんが感動したという「セクマイ流 国に意見する方法」は、『We』154号に掲載。

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著者プロフィール

森崎和江(もりさき・かずえ) 1927年朝鮮大邱生まれ。福岡県立女子専門学校(現・福岡女子大学)卒。詩人・作家。谷川雁・上野英信・石牟礼道子などと「サークル村」をおこし、文化運動・大正炭坑闘争を闘う。執筆活動・テレビなどで活躍した。主な著書に、『まっくら』『奈落物語』『からゆきさん』『荒野の郷』『悲しすぎて笑う』『大人の童話・死の話』『第三の性』『慶州は母の呼び声』など多数。詩集に『かりうどの朝』『森崎和江詩集』など。2022年、95歳で死去。

「2024年 『買春王国の女たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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