集中講義! アメリカ現代思想 リベラリズムの冒険 (NHKブックス)
- NHK出版 (2008年9月25日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (291ページ)
- / ISBN・EAN: 9784140911204
感想・レビュー・書評
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ロールズを中心に、大戦後のアメリカ政治思想が俯瞰できる本。
当時の社会問題など時代背景とリンクさせることで、一見抽象的な議論が実感を伴って伝わるような構成になっている。
アメリカに対して大味なイメージを持つ人にとっては、この本によって「アメリカの底力」を知ることになるだろう。
リバタリアニズム-リベラリズム-コミュニタリアニズムという中心軸と、その周辺を回るポストモダニズム&プレモダニズムが複雑に入り組み、お互いを切磋琢磨している。
アメリカが熱狂的に一方向に振れつつも、時間とともに冷静に回帰していくプロセスを我々は目にすることが多いわけだが、それはこうした「知的な厚み」に支えられているわけである。
ローティの書名ではないが、アメリカそのものが未完のプロジェクトなのだ。
政治思想というと、「現実政治に一体なんの役に立ってるの?意味ないんじゃん」というのが日本人の多数の正直な感想と思う。
しかしながら、そうした日本人の知的な怠惰が現状を生んでいるとも言えるように思う。国の政策が変わるか否かではなくて、自分がどう考えどう行動するかが、結果国を変えていくのではないだろうか。
そうした意味では、現代日本で求められている教育の問題(『“何が道徳か”を教えるか否か』から、『”何を道徳とするのか”考えることを教えるか否か』への昇華)、資源配分の問題(『世代による資源の取り合い』から『不公平間のない資源配分』への昇華)も、これらの思想を導入することでレベルアップが図れるのではないかと思う。
そんなアメリカだが、ゼロ年代に入ってロールズもノージックもローティも死んでしまった。また、影響力の強かったサイードやデリダ、ブルデューも鬼籍に入っている。
911~イラク戦争~リーマンショック~黒人大統領誕生という、アメリカ史に残るだろう事件が相次いだ時期に、思想界がちょっと低迷してるのが残念ではある。
本書で「マンネリだ」と評されているサンデル教授の本が売れているのも、ちょっと皮肉な感じがする。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
これまで漠然とイメージしていたことが、本書を読むことでかなりクリアーになりました。例えば、「保守」や「リベラル」という言葉のアメリカでの使用法についてです(ちなみに、日本については、高原基彰『現代日本の転機:「自由」と「安定」のジレンマ』(NHK出版・2009)の整理が参考になると思います)。また本書では、思想の変遷を現実の政治・社会情勢の変化と関係づけながら辿るということを試みているのですが、そうした試みがアメリカ現代思想を理解するうえで多いに役に立ったと思います。
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リベラリズム、ポピュリズム、リバタニアンなどなど、やや後半になって頭の中で人物名が混乱してしまったが、久々に哲学思想関係で面白く読めた本だった。
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これは読みやすい。ハイエクのような古典的な自由主義にはじまり、価値中立に立つリベラリズムを前提としつつ秩序の根拠を説明しようとするロールズ・ドゥウォーキンを押さえ、そうした意味でのリベラリズムに反対するラディカルな(古典的な方向へのゆり戻しというか)ノージックや、価値中立に対する限界から価値や文化を政治思想に取り込もうとする理論、もはや国家のあり方を説明する政治思想ではなくその枠を超えたまとまりを説明しようとする「帝国」の議論まで。これらの見取り図をこの薄い本で整理してくれて、さて、では、それぞれに取り掛かってみよう!と思わせてくれる。
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広範囲をきれいにまとめているため、あまり説明されていないけれど、9.11前後で思想があわてて混迷したり変容したり転向したりする必要ってそんなにあるのかなあ、そういう臨機応変に立ち回るのは政治家とかに任せておけばいいことじゃないかなあという点がよく分からなかった。