クローム襲撃 (ハヤカワ文庫 SF 717)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (334ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150107178

感想・レビュー・書評

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  • 1980年代を席巻したサイバーパンク・ムーヴメントの代表格、ウィリアム・ギブスンの短編集。かの有名な「ニューロマンサー」と同一の世界観に基づく「スプロール」シリーズをはじめとする、当時最高に尖りまくっていた作品を収録しています。

    そう、サイバーパンクなんですよ。90年代に入るとあっという間に消えていった、あのムーヴメント。
    不肖鴨、「ニューロマンサー」は読んだことがありません。同じくサイバーパンクの代名詞とも言えるブルース・スターリングの作品を読んだことがありますが、正直ピンと来ませんでした。この「クローム襲撃」も、音楽で言えば「懐メロ」的な、SF史の勉強がてら読んでおこうかなー、という軽い気持ちで手に取りました。

    ・・・いやいやどうして、王道SFでした。ちょっとビックリ。

    何分にもサイバーパンクの代表的作品群ですから、如何にもサイバーパンク的なデジタルなギミック、ぱっと見のカッコ良さを追求した造語の嵐、とにかくスピーディでカット割の激しいストーリー展開が当然のように押し寄せます。黒丸尚氏のワン・アンド・オンリーな訳文も、そのユニークさを際立たせるのに一役買っています。
    が、そうした表現上の華やかさ、「今風」さをいったん脇に置いて物語世界の骨子をシンプルになぞると、実に直球かつ王道の、古典的と言っても差し支えない端正なSFなんですね。
    鴨が特に感じたのは、未来的でエッジィな社会の中で所在無さげに彷徨する登場人物たちの孤独感。デジタル機器で全身を武装してばっちりキメたつもりではいるけれど、心の奥底に抱える不安を持て余してどうしようもなく焦っている、生身のヒトのもがき。ディレイニーのような、ティプトリーのような、あるいはヴァーリィのような、クールでスタイリッシュでどこか心に突き刺さる作品たちです。

    鴨が気に入ったのは、「ふさわしい連中」「辺境」「赤い星、冬の軌道」「冬のマーケット」「ドッグファイト」あたりですかね。サイバーパンクという前提抜きに、ひとつのSF作品として読んでみてください。心にしみます。面白いですよ。

  • 最高。。。

  • 1986年に原作が発売されたウィリアム・ギブスンの短編集。難読サイバーパンクに挑戦。どれも集中して読まないと全く意味がわからなくなり、何周か読んで、やっと意味がわかってくる。
    ということで、まず意味を理解するのに必死で、面白かったより大変だったが先に来るが、何周してでも理解したいと思わせるところがある。
    解説も書いているが、最後の4篇(ニューロールズホテル)からがザ・ギブスン作品という感じらしく、個人的には難易度が更に上がる。ただ、一話完結の短編とは言え、多くの設定や思想はギブスン作品で共通しているので、そのことを理解しておくのがよいと思われる。

    「記憶屋ジョニィ」★★★★☆
    - ニューロマンサーに繋がる話で、同様にサイボーグ的に身体を改造している登場人物たち。情報を頭の中に預かる「記憶屋」のジョニィ。ラルフィから預かった情報はヤクザのヤバイプログラムで、ヤクザに命を狙われることになる。ラストシーンはボディガードに雇った鬼ツヨ女モリイとヤクザが送り込んだ殺し屋とのバトル。

    「ガーンズバック連続体」★★★★☆
    - 写真入り歴史書を作るに当たって写真の撮影を依頼されたぼくは、過去における未来的な建物を巡り撮影をする。その中で存在するはずのない昔デザインされた巨大な飛行物体と、未来都市の幻影を目撃する。それをキーンは記号論的な亡霊だと言う。
    - 昔のアメリカのノスタルジーを楽しむ作品ぽい。ガーンズバックは実在のSF作家らしい。

    「ホログラム薔薇のかけら」★★☆☆☆
    - ギブスンのデビュー作らしく、その後のギブスン作品で繰り返し出てくる電脳系のアイデアが出てくる。
    - ASP(全感覚的知覚)ユニットという装置を使って、記録された情景を体験できる。

    「ふさわしい連中」★★☆☆☆
    - なんじゃこりゃ系な短篇。
    - アントワネットは自在に姿を変えられる。「ふさわしい連中」というバーの機能で、備え付けの人間だった。人間ではない何か。

    「辺境」★★★★☆
    - ファーストコンタクトものSF。かなり難読で繰り返し読んだが、重めで面白い。
    - ワームホール(ハイウェー)を通じて、地球外文明と接触するが、帰還した者は皆死亡しているか、瀕死の狂乱状態になっており、何が起こったのか知ることができない。帰還者は人類の持たない技術情報や生物の形跡(貝殻など)を持ち帰ってくるため、人類にカーゴ・カルト(積荷信仰)の時代が来る。人類はこのルートの開発を試みるが、主人公を含め、多くの人間が心に傷を負うことになる。オルガ消失後、別の宇宙飛行士を同じところへ飛ばしたが、やはり消失した。その後もソ連を送り込み続けていて彼らを肉弾(ミートショット)と呼んでる?帰還者の多くは死亡し、残りは病棟入りが必要な状態。今回もドイツ人学者レニがハイウェーから帰還する。

    「赤い星、冬の軌道」★★★☆☆
    - コスモグラードという宇宙ステーション内で繰り広げられる政治。ソ連はコスモグラードを停止しようとしていて、KGBはコロリョフに薬<恐怖>を盛った。
    - コロリョフ大佐:コスモグラードのリーダー。ソ連で初めて火星に到達した人物。身体的に地球には戻れない。

    「ニュー・ローズ・ホテル」★★★☆☆
    - 産業スパイもの。

    「冬のマーケット」★★★★★
    - 5回読んで★5に変更。新しいテクノロジーが生み出された時、それが思いもよらない方法に活用されることがある、ということに触れているあたりも良い(1985年の作品で!)。
    - 電脳もの。夢をパッケージ化して販売したり、それを脳に繋いだ電極を通じて視聴できる、という世界。ケイシーはあるパーティーで出会った麻薬中毒少女リーゼと直結した(電脳同士を直結すると編集されていない生々しい夢がなだれ込んでくる)。後にリーゼの夢をケイシーが編集して製作した〈眠りの王たち〉が大ヒットする。リーゼは病気か麻薬のせいか死にかけているが、スターダムと電脳不死性(死後も電脳は生き続ける)の野望を持っていて、作品によって野望の一つ目は達成された。ラストシーン、ケイシーとルービンは「もうすぐ(死んだ)リーゼから電話がかかってくるだろう」と話している。
    - 「お前の欠点がなんだか知ってるか。(略)もしそれが新しいテクノロジーだったら、だれもこれまで考えたこともないような領域がそこにひらかれる。だんなよ、おまえはマニュアルを読むだけで、そいつと遊びたわむれたりしない。ほかのだれかがおまえの考えてもみなかったやりかたでそいつを使いこなすと、おまえはすっかり調子が狂う。」

    「ドッグファイト」★★★☆☆
    - 唯一、読みやすかった作品。
    - ディークがふと立ち寄った場所ではミニチュアの飛行機(ドローン的なモノ)でドッグファイトが繰り広げられていた。思考で操作する仕組みになっている。万引きした安物のマシンで勝負に挑むが歯が立たず、偶然出会った女学生のナンスに改造してもらう。しかし、操縦する自分の能力が足りず、ナンスが大切にしていたハイプ(脳の処理能力を上げる薬)を奪い、勝負には勝つが、味方を失う。

    「クローム襲撃」 ★★★★★
    - 「楽園追放」にて既読。デジタル空間を通じて、超危険人物クロームのICEを破り、大金を奪うカウボーイたち(ハッカー)の話。

  • いやー作画がマジで完璧に映画で読んでてとにかくヴィジュアル面が楽しい。筋はイマイチよくわかんないものがほとんどというか、そこを追ってないから分かってないんだろうな。絵ばっかり見てた。色んな映画のトレーラーを細切れで見てるみたいな。

  • バーナード嬢曰く。の神林しおりがSFファンはSFを「実はみんな結構よくわからないで読んでいる」と言っていたような気がするけれど実にそうだと思う(笑)独特の世界観になれるのに時間がかかりなんとなく話が見えてきて面白くなってきたのはラスト3作ほどから(;´・ω・)でもなんでだろう、結構雰囲気だけで楽しめちゃうんだよな、、『ニューロマンサー』に繋がる話があったり、攻殻機動隊を彷彿させる話があったりでとりあえず満足。でも再読必死だな><本作、ニューロマンサーと来たら次ギブスン作品なに読んだらいいでしょう??

  • サイバーパンクといえばこの人、ウィリアム・ギブスンの第一短篇集がこちら。ハヤカワ文庫補完計画のおかげで手に取ることに。ありがとう、早川書房。ただし、装画は確実に旧版の方がかっちょいい。「ニューロマンサー」もまた然り。

    そんな自身初のギブスンは、なかなか刺激的でした。
    初っ端の「記憶屋ジョニイ」に感じたギラギラした読み応えは、途中の「ガーンズバック連続体」と「ホログラム薔薇のかけら」こそ肌に合いませんでしたが、「辺境」、「ドッグファイト」ときて、トドメの「クローム襲撃」まで終始変わらず。個人的には「辺境」の世界観がたまらなく好きなのですが、サイバーパンクを味わうという意味では、やっぱり表題作。電脳世界の片鱗を味わうことができました。が、ラストの展開には、多少拍子抜けの感。というのも、サイバーパンクの無機質でアンダーグラウンドな世界観には、どこか暴力的な展開を求めている姿がありまして、そういう意味で、「記憶屋ジョニイ」がとっても楽しめました。これが「ニューロマンサー」に通じる作品となれば、そろそろ読むしかありません、「ニューロマンサー」。
    さて、本短篇集を読んでいて気付かされるのが、ヒロインの存在です。彼女らは、時に共闘したり、あるいは敵対したりと色んな役割を果たしますが、どの作品においてもこの舞台装置の魅力は燦然と輝いています。とりわけ、大好きなヒロインは「ドッグファイト」のナンス。いやはや、おかげさまで主人公のダボさ加減が際立ちます。

  • 全10作品の短篇集。新版。サイバーパンクっぽくないものも。

    初ギブスンにして読むのに数ヶ月かかった「ニューロマンサー」から2年近く経ち。SF読解力(サイバーパンクと括る勇気は無い……)が少しは向上していることを願いながらギブスン再挑戦。

    通して読んでみて、黒丸 尚氏の訳は独特で格好良いんだけれども、私にはやはり難しいという感じ。シーンが想像し難く、読み進めるのに非常に時間がかかる。そんなわかりづらさこそがギブスンなのだろうと今までずっと思っていたが、収録作「辺境(浅倉久志訳)」、「赤い星、冬の軌道(小川 隆訳)」がスイスイと読め、「ニュー・ローズ・ホテル(浅倉久志訳)」は格好良さに身悶えし、「冬のマーケット(浅倉久志訳)」のあまりにも美しい“寂しさ”に胸震わせ、「ドッグファイト(酒井昭伸訳)」では男の馬鹿さに歯噛みし、最後の「クローム襲撃(浅倉久志訳)」で映画を一本観終わったような満足感とともに頁を閉じて、「ひょっとして黒丸さんの訳が自分に合わないのか……」と思ったのだった。精進したい。

  • サイバーパンクSF短編集。
    ところどころ日本の地名が出てくるのがなぜか妙にマッチしてて面白い。
    どの話も最初はよくわからない単語が並ぶが、ちょっと頑張って読むと何らかの解説があったりする。しかしながらよくわからないのに読み進めてしまう魅力はある。

  • サイバー・パンクの雰囲気に浸るなら、このくらいが濃すぎず軽すぎず、ちょっと得意になって楽しめる感じなのではないかと。
    かく言う自分が、サイバーパンクの世界を少しだけ味わってみたかったライトな読者です。

  • 2011 6/13読了。Amazonマーケットプレイスで購入。
    ギブスンの短編集。
    @sakstyleの感想を見て読んでみたいと思っていた本。初ギブスン。
    正直よくわからない話もあったけど、うまくイメージできると印象的な話が多かった。

著者プロフィール

ウィリアム・ギブスン
William Ford Gibson
米国のSF小説作家、脚本家。1948年、サウスカロライナ州コンウェイ生まれ。1984年発表の「ニューロマンサー」(ハヤカワ文庫刊)で長編小説デビュー。本作のヒットによって〝サイバーパンクSF〟と呼ばれる文学ジャンルが確立した。以後、「電脳」三部作、『ディファレンス・エンジン』、「橋」三部作など数多くの著作を発表している。ハリウッドからも早い段階から注目されていたものの、彼の原作である『ニューロマンサー』『クローム襲撃』なども映画化の案アナウンスは出るものの実現にはいたらなかった。ギブスンの関わった映像作品には以下がある。脚本を執筆した映画『JM』(1995)、短編『ニュー・ローズ・ホテル』を原作とした『ニューローズホテル』(1998)、テレビシリーズ『X-ファイル』の2エピソード(「キル スウィッチ」「ファースト・パーソン・シューター」)の脚本を執筆している。

「2022年 『ウィリアム・ギブスン エイリアン3』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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