時間的無限大 (ハヤカワ文庫 SF ハ 9-2)

  • 早川書房
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本棚登録 : 115
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (351ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150110970

感想・レビュー・書評

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  • バクスター恐るべし

     文句なしの傑作。これまで読まなかったのが不思議なくらいに(私にとって)隠れていた本格的ハードSFだ。

     「シュレディンガーの猫」で驚いてはいけない。「ウィグナーの友人」まで出てくる。こうなるとアインシュタインと量子力学を本気で学習しないとおもしろさがわからない。

     次はグレッグ・ベアだと決めていたが、バクスターを見たいという気持ちが先行する。圧倒的スケールをもっと体験したい。


     手放しで絶賛できるこの物語は、その仮説・エンディング・ストーリー展開と、どれをとっても一流だ。登場人物は極めて限られており、そのために1人に多機能を持たせる結果となっている(学者であり、運動神経が良く・・・等)が、その明らかな虚構も隠されるほどのできだ。

    《ワームホール》
     時空のひずみってイメージかな。われわれの宇宙もどこかしこにこれがあって、別の宇宙へとつながっているらしい。

     この入口と出口を物理的に作ることができたとする。出口はそのまま木星付近に置いておき、入口をある宇宙船で引っ張って銀河系を一周し木星に帰ってくるとする。宇宙船は亜光速で飛ぶことにより主観時間で100年も飛べば、木星に帰ってくる頃には客観時間で1,500年は経っている。光速移動は時間の進み方が遅い(逆に周りは早い)という効果だ。

     つまり、乗組員は未来に行くことができる。もちろん光速で移動しなくてもわれわれは未来へいける。ただし、自身の寿命より先へは行けない。光速で移動すると、寿命より先の未来に行くことができるというわけだ。

     ここまではハードSFでよくある話。つまり未来に行くことはできるが過去に行くことはできないという話である。

     さて、宇宙船に乗っていた乗組員が出発後主観時間で100年(客観時間で1,500年)経ってから、自身が引っ張っていた入口に入るとどうなるだろう? もちろん出口から出てくるのだが、その出口は彼らの出発から客観時間100年後の出口なのである。乗組員は、100年の航海で1,500年後の世界を見ることができ、その後ワームホールにより自分たちが出発した世界に戻ってこれるわけだ。これで過去へ戻れるタイムマシンの完成。これがこの作品の第一のテーマ。

     本作の一番の魅力はここにある。1,500年後の世界は人類が異星人に支配されている。乗組員がそれを知り自分の時代へ戻る前に、支配されている1,500年後の人類が現在にワープしてくる。この未来人の目的は何か。

     加えて、1,500年後に人類を支配している異星人は、過去へ戻ることをせず、さらに未来にいくことを選択する。ところが、異星人もまた未来の異星人の逆侵入を受けることになる。そして未来の異星人はさらに過去に戻る。自分の時代では人類が解放され異星人が絶滅に瀕しているからだ。

     未来の異星人は、自らが人類を支配している時代に逆侵入し、さらに1,500年前の人類だけの時代まで逆侵入を試みる。もちろん人類抹殺のため。

     結局、人類だけの純粋な時代には、1,500年後の未来の人類とそれよりさらに未来の異星人という2種類の未来生物が侵入してくることになる。

     未来人類の目的、未来異星人の目的は、ともに成就されない。失敗に終わる。そして、現代人はワームホールの破壊を試みる。その結果、破壊を実行した現代人である主人公は遙かに未来に到達し、意識生命体となるというのが大まかなストーリー。いやぁ、あらすじだけでもややこしい。

    《超観察者》
     シュレディンガーの猫、ウィグナーの友人のパラドックスで代表される観察者問題がこの作品の二つ目の大きなテーマだ。

     すべてのことは観察されて初めて事実となるという表現では荒っぽすぎるが、このイメージがわかりやすい。宇宙は最終的に審判する神がいて、神が観察することで初めてすべての事象が事実となるという考えを未来の人類は信じているというのがサイドストーリーかな。

     未来異星人の目的は人類抹殺だが、未来人類の目的は宇宙歴史そのものの改変だ。過去に戻って木星をブラックホール化し、宇宙全体のブラックホール化を促進するという計画。それにより自身が支配される異星人を排除することができるという案配。しかし、彼らの目的は異星人排除にあらず、究極的には最後の審判で人類が永遠に存在することを理想としている。

     この審判(観察者)の部分は、バクスターの続編を読まないとすっきりしない。だからこそ楽しみだ。続編はRingというらしい。ここでの私のコメントは雑文・駄文だが、続編を読んでもうちょっと整理したい。今日は興奮を伝えることにしよう。

  • 良質なハードSF

  • ハードSF好きならいい評価になるだろうが・・
    表紙   5点加藤 直之
    展開   6点1992年著作
    文章   6点
    内容 590点
    合計 607点

  • ハードSF長編。作者さんの「ジーリー・クロニクル」シリーズ2冊目で、同シリーズの短編集「プランク・ゼロ」「真空ダイヤグラム」にも繋がる要素あり。だけどもちろんこれ単体でも読めます。
    未来とのコンタクトを期待して造られた1500年後へのタイムトンネルによって見えたのは異星人に占領された地球、トンネルを抜けて来たのは秘密主義のカルト集団とさらに未来の占領者と、って感じのストーリー。
    ハードSFとしてはドラマありアクションありでわりと登場人物へのフォーカス強めなんだけど、一方で定番ものからずいぶん尖った突飛なものまでSFかくあるべしと言わんばかりのアイディア・ギミックぎっしり。作中舞台の1500年の幅に収まらず遠未来から哲学の領域まで踏み出しちゃうスケール感はさすが!

  • 現在と1500年後の未来がワームホールのタイムマシンでつながった宇宙。1500年後の未来では、人類はクワックスに支配されており、そこから<ウィグナーの友人>という未来人がクワックスを滅ぼすためにやってきた。しかしこの未来人たちは、<プロジェクト>なるものに推進するばかりで、それがいかなるものなのかを明かそうとしない。そうこうするうちに、未来のそのまた未来を覗いたクワックスが、現在の太陽系にやってきて……

    片方の口を光速に近い速度で運んで相対論的な時間の遅れを作り出すとかいう何だか力づくなワームホール・タイムマシンがまずは面白い。

    印象に残っているのは、秘密主義でどこか宗教じみたものさえ感じさせる<ウィグナーの友人>たちに対し、現在のマイケルらが彼らを信じられずに、終盤でとある行動に出たこと。切迫した状況とはいえ、入念に準備されてるっぽい<プロジェクト>をぶち壊すような行動に「おいおい」と思ってしまった。
    未来人たちは準備万端、自信もあり気だし、敵はもちろん共通。しかし、彼らは現在人のマイケルたちを置いてけぼりにしている。こんな状況で、信じるか、信じないか。どこかねじくれた展開が違和感を感じさせ、それが面白く感じられた。
    あと、キャラとしてはクワックスとの外交官を務めるパーツが良かった。奇妙な立場から独特な世界観を持つようになったパーツが「クワックスなみのエイリアン」と密かに思われてしまうのが、少し悲しい。

  • 簡単に言うと異星人クワックスに占領された地球人(ウィグナーの息子たち)やそれを追ったクワックスがタイムホールから過去の地球にやってくるお話。

    ブラックホール作って、遠くもってってもって帰ってくるとタイムホールになるってアレが前半の中心。

    前半は未来と過去の視点を追いつつ話はすすむんですが、タイムホール抜けてからの後半は急速にスケールアップしていってまさにセンス・オブ・ワンダーな展開でした。

    ラストはまったく意味不明だったけど、続編あるみたいなんで、そこでわかるのかな。

    前半の話の進み方とか、キャラクターの存在感とかイマイチな部分も多かったけど、久々にハードSFな作品読めて満足。

  • 先に読んだ「虚空のリング」以来、待ちわびていたスティーブン・バクスターの長編ですが、まったく期待を裏切らない面白さでした。「虚空のリング」のあとジーリークロニクルということで、短編集を2冊読んではいたのですが、やはりこの人(というかジーリーシリーズ)は長編こそ醍醐味があると思わせます。本書はジーリークロニクルの歴史で語られる人類初期の異星人支配であるスクィームとクワックスのうち、クワックスの異星人支配を背景に物語が進行します。Ringでも登場したキーパーソン(意識だけの存在ですが)マイケル・プールが本書では実体のある人物として登場し、活躍をするところも楽しみです。

    物語のキーであるワームホールとそれによる時間旅行は、人類始まって以来の夢でもありパラドックスでもあると思うのですが、この人の小説の中ではあっさりとしかも不自然なく?存在しているのが凄いです。日本人とかだとついタイムパラドックスを難しく考えてしまうのですが。。。それでも最近のハードSFに見られる量子力学の波動関数なる考え方は、未だに馴染みません。本小説もこの波動関数の捉え方がキーとなっており、また作者の宇宙観の根本をなしているようなのですが、難しい物理学は本当に実感が湧かないものです。まあ宇宙のスケールそのものが実感湧かないものなのですが。。。

    ジーリーの正体(というか実体)は本作でもおぼろげですが、この広い宇宙にこんな存在の可能性を夢見るのもまた楽しいものです。とにかくも本著は異星人とのバトルシーンもあり、まったく飽きませんが、一転だけ登場人物に派手さがなかったり、極端な見せ場がなく淡々としたストーリー構成はイギリス人特有のものなのでしょうか!?次作も楽しみにしています!

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