わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫 イ 1-6)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (450ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200519

感想・レビュー・書評

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  • 「日の名残り」がとても気に入ったため
    こちらも読んでみることに

    当時映画の予告編を見て、行こうか迷っていたため気になっていたのだ
    だがこちらの映画化は2010年今から10年前!
    それでも忘れられず印象に残っていたのである(この頃、イシグロカズオ氏を知らなかったため、本と映画は結びついておらず…)
    それもあり、なんとなく内容は把握していたのだが…
    自分の甘っちょろい想像以上の内容であった


    現在から過去の出来事をゆっくりと紐解いて展開する
    (遡ること10歳くらいから、現在30代の主人公へ…)
    10代前半の彼らはヘールシャムの施設で保護官の元暮らしている
    キラキラ眩しくうるさいほどの無邪気な子供時代
    一見普通の子供達なのだが、少しずつ影と違和感が見え隠れし、次々の疑問が湧く
    何故か堂々と聞くことができない暗黙のなにか…
    何故、私達は絵や詩など展示館向けの作品を製作させられるのか?
    外の世界と自分たちはなにが違うのか?
    子供じみたいくつかの描写と対照的な謎めいたいくつかの暗い影(見事に引き込まれる)

    彼らは成長し、施設を出て、保護官のいないコテージで共同生活を共にする
    満ち潮のようにゆっくり迫る不穏な予感
    だが少しずつしか明かされないため、主人公たちと同じように読み手側も同じ気持ちにさせられる
    (この共感効果もなかなかである)
    自分に似た「ポシブル」の存在って?
    女性の主人公がアダルト雑誌ばかり見るのはなぜ?何を探しているのか?
    真実が揺らめきとともにわかりかけてくる頃、目を背けた方が楽しく生きられる!
    そんな確信があるからこそ、知りたいのに口にできないいくつかのことが徐々にわかってくるのだ
    その瞬間にもっと強く逃げずに向かい合っていたら…
    そんなことの繰り返しだ
    なぜなら、心のどこかでこの先を感じていたから
    それは提供者のことだけじゃなく、彼らの心もだ
    このちょっとした繊細なズレや綻びが積もっていき、悲しみに移行してしまう
    誰にもどうすることのできない悲しい残酷な運命を背負った彼ら
    それを各々が徐々に知り、受け入れ始める
    そう彼らはあらゆる出来事を受け入れるしかないのだ!彼らの方法で
    裏切りに近い友情でさえ受け入れ、友情を育んでいく
    激しく心が揺さぶられる内容でさえ、川のせせらぎのようだ
    じわじわ締め付けられる悲しみで表現され、信じがたい酷いことさえ、いつも静かで美しい世界なのだ
    覚悟をしていた悲しみがじわりと広がる
    彼らと同じように受け入れたのだ…

    イシグロ氏の本を読むといつもイギリスの田舎の湖畔の風景に自分が染められ、暑くも寒くもなく、かんかん照りでも雨でもなく、そよそよたまに風が吹く
    悲しみ溢れる作品のはずなのだが、穏やかで落ち着く世界観がとても居心地が良い
    読ませ方の構成や、読者の心を掴み続ける展開はさすがである
    だが決して行き過ぎたテクニカルでイヤミな感じが全くなく上品なのだ
    同じ内容の作品がイシグロ氏以外であったら、恐らく受け付けない内容だろうなぁ…
    (失礼ながらもう少し陳腐な作品か、こてこてのテクニックとお涙頂戴系の苦手なタイプになりそうである)
    しかし恐ろしいが、こんな時代がくるのかもしれない
    そういった意味でも問題提起があり、考えさせられる内容であった




    • トミーさん
      レビューを
      ありがとうございます。この作品「カズオイシグロ」頓挫してますので
      また挑戦したいです。「読みたくなりました」
      レビューを
      ありがとうございます。この作品「カズオイシグロ」頓挫してますので
      また挑戦したいです。「読みたくなりました」
      2020/07/01
    • ハイジさん
      トミーさん
      コメントありがとうございます!
      ぜひぜひ最後まで読んでくださいませ。
      後半から展開にスピード感出ますので読み切れると思いますよ♪...
      トミーさん
      コメントありがとうございます!
      ぜひぜひ最後まで読んでくださいませ。
      後半から展開にスピード感出ますので読み切れると思いますよ♪
      レビュー楽しみにしていますね!
      2020/07/01
  • 「自分は なぜ生まれてきたのか」
    「どうして生きているのか」
    「誰のために生きているのか」
    登場人物は、これらの問いに否応なしに巻き込まれていく…

    テレビドラマ化(2016年)されたことがきっかけで読んだのだが、読めて良かった。
    個人的には、音楽室のシーンが好き。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      workmaさん
      AI通して描く人間愛…カズオ・イシグロ、世界最速インタビュー(前編) : 読売新聞(2021/03/03)
      https...
      workmaさん
      AI通して描く人間愛…カズオ・イシグロ、世界最速インタビュー(前編) : 読売新聞(2021/03/03)
      https://www.yomiuri.co.jp/culture/20210226-OYT8T50051/

      此処に「『わたしを離さないで』は、(人間たちのために生きる)「提供者」を描くことで、より人間をうまく描けるのではないかと思いましたが、」とあるのですが、猫は最初、あるかも知れない未来を想像してゾっとし、読み返してからは人は人によって生かされているのだから感謝しなきゃ。
      更に、、、と色々思いが交錯する作品です。。。
      2023/12/27
    • workmaさん
      猫丸さんからのコメントを読んで、
      印象深いシーン以外は忘れてる部分もあるので…(^^)(ほとんどか?)
      昨日からもう一度読み直してます。

      ...
      猫丸さんからのコメントを読んで、
      印象深いシーン以外は忘れてる部分もあるので…(^^)(ほとんどか?)
      昨日からもう一度読み直してます。

       読み直して思ったのは、まず、導入キャシーが一人称で語り始めるところから…文章がほんとうに美しいんですよね…!情景も浮かび、読者は物語の世界の中へするりと入ってしまう…。文章が上手な作家さんの特徴ですね。
       もっと読みたいのですが、今寝台列車に乗って旅行中のため、電車酔いしないように、ゆるゆると読み進めていきます。

      2023/12/28
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      workmaさん
      良い旅を!
      workmaさん
      良い旅を!
      2023/12/28
  • 『日の名残り』が素晴らしかったため、同著者の有名な作品である『わたしを離さないで』を読むことを決意。
    長らく積読していたが、休日を使ってじっくりとカズオ・イシグロの描く緻密な世界を堪能することができた。

    ”提供者”や”介護人”、”施設”といった何かを暗示するかのようなキーワードが飛び交い、読者は主人公であるキャシーの回想を追っていくことでその哀しい真実に触れることになる。
    土屋政雄氏の名訳も相まって、爽やかな情景のなかに徐々におぞましい社会の構図が浮き彫りになっていく展開は、残酷だがそれゆえに儚さと美しさを感じることができた。
    どんでん返しや安直なハッピーエンドは望むべからず。だからこそどうしようもなく切なく、心にずしりと残る名作だった。

  • カズオ・イシグロ氏の著書を読んだのは4冊目。
    1番読みやすかったです。初めてカズオ・イシグロ氏の小説を読まれる方にオススメしたい本です。

    小説の序盤は「介護人」「提供者」「保護官」「へーシャム」が何を意味するのか謎でしたが、読み進めていくうちに解き明かされていき、カズオ・イシグロ氏の世界観に浸れました。

    ネタバレを避けるため詳しくは書きませんが、
    「スッキリ爽快、明るい系」とは程遠い小説です(←良い意味です)。

  • ノーベル文学賞作家。
    ということで、美しいが難解で読みづらい文章と格闘するのだろうなと覚悟して本を開いたが、完全に予想外。
    最初から最後まで、主人公の一人語りで話が進みます。
    スラスラ読めます。
     
    臓器移植のためだけに作り出された子供たちの話。
    不思議でした。
    まるでごく普通のどこにでもありそうな寄宿学校の話にしか思えないのです。
    子供たちは未来を悲観したり、憤ったりしません。
    運命を呪いません。
    逃亡を企てたり、反抗しようともしません。
    でも、普通の子供とおなじように豊かな感情を、人間性を持っています。
    そのことに多くのページが割かれています。
    将来、臓器提供をさせられて、殺されることも理解しているのに、だれもそのことを口にしません。
    従順です。
    教育のたまものでしょうか。
    なぜ逃げないのか。
    逃げようと思えば可能な大人になり、一人で車を運転できるようになっても逃げません。
    でも、やはり嫌なのです。
    提供までの期間の延長を模索するぐらいですから、臓器を提供して死ぬのはやはり嫌なのでしょう。
    でも、なにも際立った行動は起こしません。
    唯々諾々と子供たちは数度の提供を行って、死んでいきます。
    「使命を終えた」という認識で。
     
    作品にアクションはありません。
    二転三転はなく、どんでん返しもありません。
    ハッピーエンドは望むべくもありません。
    淡々とした悲しみだけがあります。

  • 会社の方からお借りしたので読んでみた。
    ノーベル文学賞受賞者の作品とのことで、難しい作品なのだろうと気合いを入れて読み始めたが、これが意外と読みやすい。

    語り手の回想で、誰にでもあるような子供時代の人間関係の話から、次第に違和感を覚える。

    先日読了した雪の鉄樹のような構成で、物語は最後までその世界が姿を現さない。

    上品な文章で語られる、上品な文学。

    村上春樹が訳したらどうなるのかな?と少し思ってしまった(*^^*)

  • 「ノーベル文学賞」受賞ということで、イシグロ氏の著書初読み。施設で過ごす子どもたちには、ある定められた重要な「役割」があった。しかし、それが正義なのかどうか、、私にはわからない。優しい語り口とは裏腹に、読む者に衝撃的な問いを投げかけられる。とても深い作品だった。【印象的な言葉】「この子らはどう生まれ、なぜ生まれたか」を思って身震いする。生まれてから毎日見慣れてきた鏡に、ある日突然、得体の知れない何か別の物が映し出されるのですから。

  • 1989年発表の第三長篇『日の名残り』にて、イギリス文学の最高峰ブッカー賞に、2017年にはノーベル文学賞を受賞死、2018年に日本の旭日重光章を受章、2019年には英王室よりナイトの爵位を授与。

    輝かしい経歴を持つ著者の作品を初読み。

    主人公はキャシー・H、彼女は優秀な介護人であり、本作は生まれ育ったヘールシャム時代の幼少期から始まります。

    独特の世界観、それは作品の中盤で明かされることとなりますが、臓器提供の為に生み出されたクローン人間の物語だから。

    医学や科学の進歩に伴い、もはや技術的には実現可能なレベルにあるものだと思いますが、それは倫理上許されるべきではない事であり、世のタブーとして扱われているもの。

    フィクションだから許される世界観ではあるが、本作にはクローン人間の心理描写というところまで踏み込むというよりも、そこにフォーカスを当てた作品。

    クローン人間の謎が明かされていないまま始まるストーリーではあるが、どこか違和感を覚える。

    謎が明かされた後に感じるのは、逆に我々と変わらないという感覚。

    現実に存在してはいけないクローン人間が我々と何ら変わらないというタブーのかけ算が読者を不思議な世界観へ誘ってくれます。

    何冊か著者の作品を購入したので、ゆっくりと読み進めていこうと思います。

    説明
    内容(「BOOK」データベースより)
    優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設ヘールシャムの親友トミーやルースも提供者だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度…。彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく―全読書人の魂を揺さぶる、ブッカー賞作家の新たなる代表作。
    著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
    イシグロ,カズオ
    1954年11月8日長崎生まれ。1960年、五歳のとき、海洋学者の父親の仕事の関係でイギリスに渡り、以降、日本とイギリスのふたつの文化を背景に育つ。その後英国籍を取得した。ケント大学で英文学を、イースト・アングリア大学大学院で創作を学ぶ。一時はミュージシャンを目指していたが、やがてソーシャルワーカーとして働きながら執筆活動を開始。1982年の長篇デビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年発表の『浮世の画家』でウィットブレッド賞を受賞した。1989年発表の第三長篇『日の名残り』では、イギリス文学の最高峰ブッカー賞に輝いている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

  • カズオイシグロの小説は初めて読んだけど、世界観に引き込まれた。
    この物語通りの世界になったらと想像したらゾッとする。クローン人間であっても私と同じく心を持ってる。なのに提供者は人間ではない、と一線を引いて、他人事のように捉えているのが怖いと思った。その臓器提供で何人もの人間の命を救ってるというのに、、、。
    タイトルの「私を離さないで」というのがキャシーの悲痛な心の叫びに思えて虚しくなった。家族もいなければ、親しい友人も亡くなっていく、、、キャシーが孤独に思えてならなかった。それでもキャシーは自分の使命を小さい時からなんとなく分かってるからこそ、何かに刃向かう訳でもなく、使命を全うしようとしてる姿が逆に私の胸を痛くさせた。

  • 読み進めるのに正直苦労した作品。筆者の抑えた表現と共に物語は淡々と進む。提供者の境遇には胸が苦しくなる。これは医学の進化に対する警鐘なのか、それともいろいろな理由で不当な扱いを受けている現代の人々の存在を代弁するものだろうか。読後の味わいが何とも切なくやりきれない。

著者プロフィール

カズオ・イシグロ
1954年11月8日、長崎県長崎市生まれ。5歳のときに父の仕事の関係で日本を離れて帰化、現在は日系イギリス人としてロンドンに住む(日本語は聴き取ることはある程度可能だが、ほとんど話すことができない)。
ケント大学卒業後、イースト・アングリア大学大学院創作学科に進学。批評家・作家のマルカム・ブラッドリの指導を受ける。
1982年のデビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年『浮世の画家』でウィットブレッド賞、1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞し、これが代表作に挙げられる。映画化もされたもう一つの代表作、2005年『わたしを離さないで』は、Time誌において文学史上のオールタイムベスト100に選ばれ、日本では「キノベス!」1位を受賞。2015年発行の『忘れられた巨人』が最新作。
2017年、ノーベル文学賞を受賞。受賞理由は、「偉大な感情の力をもつ諸小説作において、世界と繋がっているわたしたちの感覚が幻想的なものでしかないという、その奥底を明らかにした」。

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