アクシデンタル・ツーリスト (ハヤカワ・ノヴェルズ)

  • 早川書房
4.14
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152076588

感想・レビュー・書評

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  • 読んでいる間、しばしばドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」が頭をよぎった。
    滑稽で理不尽で、でも当人は至って真剣。
    ユーモアとペーソスが混ざり合った文章が絶妙だった。
    タイトルとそこに結びつく設定が上手いなぁ。

    余談、映画の「ツーリスト」と混同していて、全然サスペンスっぽくないな…?と思いながら1/3くらいまで読んでいた。
    別物だったね…!

  • この作品は、
    私の好きなR.B.パーカーのタッチと似ていることに気付きました。
    再読して、本当によかった。  \^○^/

    という訳で、やっと再読、終わりました。
    アン・タイラーは、私が古今東西で一、二を争う好きな作家♡
    本書、文章はとても読みやすくてサラッとしています。 
    あっという間に読了でしたし^^;
    なのに不思議。 しっかりと臨場感が得られるの。
    一つ一つのシーンがくっきりと浮かび上がり、ハッとさせられるフレーズが多々ある。
    そしてじんわりと心に残るの。 魔法に掛かったみたい(笑)

    この作品は、映画化されています。(観ていませんが^^ゞ)
    それに、アン・タイラーにしては…ちょっとシリアスな出来事があるのです。
    (邦題「偶然の旅行者」主演:ウィリアム・ハート、ジーナ・デイヴィス)。

    主人公、メイコン・リアリーは、ある日20年連れ添った妻のサラと別居します。
    彼らは1年ほど前、一人息子のイーサン(12歳)を
    バーガーショップに入った強盗の銃撃で亡くしていました。
    2人はずっとその喪失感に耐えてきた。  だが、その耐え方には違いがありました。

    メイコンの仕事は、
    ビジネスマン用の旅行ガイドブック「アクシデンタル・ツーリスト」(やむなき旅人)を書くこと。
    妻に出て行かれたメイコンは、ガイドブック執筆のため、時折旅に出るほかは、
    ほとんど人と接しなくなっていきました。

    そんな中、ちょっとしたトラブルから脚を折ってしまったメイコンは、飼い犬のエドワードと
    兄妹たちの住む家に転がり込みます。
    このメイコンを含む四人兄妹は、奔放な母に捨てられ、厳格な祖父母の元に育ったため
    自分達だけの、なんと言うか独特な世界を持っているの(要はかなり変わり者^^;)。
    それ故なのか、二人の兄も離婚を経験。
    しっかりものの妹が家族と地域の人々(主にお年寄り)の面倒をみています。


    飼い犬エドワード(イーサンが可愛がっていたのです)の世話に疲れたメイコンは
    犬の調教師として雇った、ミュリエルという、風変わりな若い女性と知り合います。
    そして、その彼女との出会いが、メイコンを変えて行くのです。
    中年のメイコンに対し、ミュリエルは若くてとても個性的です。
    だが、楽天的でサラよりも破天荒に見えるミュリエルも、人生で傷を負っていました。
    結婚に失敗し、体の弱い幼い息子を、一人で抱えていたのです。

    メイコンはそんなミュリエルを意識し始め、次第に惹かれていきます。
    でも必死で惹かれまいとするの。その反面、彼女といると不思議と安らぐ自分もいたり・・・。
    その微妙な心理が、とてもリアルに描かれています。 素晴らしいわ。
    これこそが、恋愛の姿なのね!としみじみ思いましたもの。


    ちょっと話は戻りますが、
    メイコンは、几帳面であまり感情を露わにしたりは、しないタイプです。
    感情をはっきり表現して欲しいと好むサラには、
    とても冷たく写り、物足りなさを感じさせていました。
    ある時、サラは、メイソンに対し、息子の死後の態度を罵ります。
    「あなたがあの子を愛してたのはわかってる。
     でも、わたしほどは愛してなかった。
     あの子の死をもってしても、
     あなたは見も心も引き裂かれるような思いになることはなかった。
     あの子の死をあなたが嘆き悲しんだことは、わかってる。
     でも、あなたの経験のしかたには、なんというか、
     どこか抑制されたところがあるのよ。
     それが愛であれ悲しみであれなんであれ。」
    しかし、メイコンは傷ついていたんです。サラよりずっと深く・・・。


    メイコンは人生に疲れ、ミュリエルに語ります。
    「毎日ぼくはもう立ち直っていい頃だと自分に言い聞かせてる。
     みんながぼくにそれを期待してるのがわかるから。
     みんな昔は同情を示してくれた。
     でも今はちがう。今は息子の名前も口にしない。
     みんなはぼくはもう人生を再出発させていい頃だと思ってる。
     でも、どうしたことか、ぼくは逆にどんどん悪くなってしまってる。
                      (略)
     サラとは互いに傷つけ合うことしかできなかった。
     このことは自分たちのありのままの姿を
     ぼくたちに見せてくれたような気がする。
     いかにぼくたちは、互いにかけ離れた人間なのかということを。
     でも、残念ながら、
     ぼくたちはそもそも互いにかけ離れていたから結婚したのだ。」と。

    今の自分は誰からもかけ離れてしまったと嘆くメイコンを、
    ミュリエルは支えます。

    やがて二人は、一緒に暮らし始めます。
    メイコンはミュリエルの息子のアレクサンダーに、
    家の修理の仕方を教え、ジーンズを履かせるのです。 
    (この子、アレルギー体質で、やせぽっちで、いじめられっ子なの;;)

    メイコンは思います・・・。
    「これでまた自分の人生は危ういものになった。
     これでまた核戦争と地球の未来について心配しなければならなくなった。
     イーサンが生まれたあと、しばしばとらわれた、
     誰にも言えないうしろめたい思いにまたとらわれた 
     ”今から自分はもう完全に幸福にはなれない”」

    そんなある日、
    別居中の妻サラがメイコンの前に現れ、もう一度やり直したいと告げるのです…。
    メイコンは、自分の優柔不断さから、決断というものをしてこなかったことに気づく。
    そして最後に下した彼の決断とは?

    こう書くと、なんかシリアスっぽいですが、チガーウ(-_-)ノノ  
    基本、物凄〜く面白いんです。  
    ユーモアとペーソスに満ち溢れていますから。(((*≧艸≦)ププ…ッ!

    彼がどんな人生を選ぶことになるのか、気になった方は、是非読んで下さい!


    ◆ワシントン・ポスト紙より
    「美しく、熱く、悲しいくらいに感動的で、そして元気の出る小説…
     常識的に考えて、これ以上の小説はまず望めないだろう」


    生きることって、滑稽だし、みじめだけど、なんて素晴らしいの!
    人生、なかなか思うようにはいかないけれど、でもやっぱり、悪くないよね―。
    と思える素敵な小説です。

  • 主人公のメイコンはつまらない人間として描かれている。自己流の洗濯方法を頑なに続け、旅行に行っても朝食はいつも食べ慣れている食事をこのみ、夜はベイクドポテトを食べる。飛行機の中では隣の席の人に話しかけられないように本を読むふりをする。仕事が旅行先でも自宅に居間にいるようにするためのガイドブックを作っているのが象徴的です。

    ストーリーもほとんど無いと言って良いでしょう、メイコンが妻に逃げられ、飼い犬エドワードがあまりの凶暴であることから訓練士ミュリエリと出会い恋をし、妹が自分のボスと結婚するくらいです。

    私はこの小説をのめりこんで読みました、なぜだろうか。それは登場人物の会話がたのしいからだと思います。メイコンが実家にいれば兄2人と妹がしゃべりまくるし、ミュリエリといれば一方的に身の上話を聞かされる。その話が面白いので小説を読むのが止まらないのです。

    メイコンとちがってミュリエリは非常に活発で挑戦しつづける女性です。いくつもの仕事を掛け持ちし、勤めとはべつに副業で稼いでいくように非常に活動的です。どんな人間にも襲いかかるエドワードもミュリエリの前ではおとなしいのが印象的です。ですが、メイコンがフランスに行くときに、おなじ飛行機に乗っているところは驚きを越えて怖さを感じました。

    読み終わって、気になって冒頭をすぐに読み返しました。サラがメイコンに別れ話をするところです。メイコンがいやなやつだと思うように描かれています。彼が最後にとる行動の布石になっている気がしました。



  • 図書館で。
    断片的にこの映画、覚えてるなぁと本を読みながら思い出しました。妹が丸1日かけて七面鳥を焼いて家族全員が手を出さないのにお客さんだけが食べたシーンとか。後は主人公が飛行機に乗った時に話しかけられた所とか。

    なんていうのか今でいう所の発達障害みたいな主人公といろいろとすれ違ってボタンの掛け違いになってしまった夫婦と。そしてずいぶんすぐにお互いに恋人候補が出来るものなんだなぁ、とか。さすがアメリカというべきか。

    そこまで面白いとは思わないけれども面白くないというわけでもない。なんか不思議な印象のお話だなぁと思いました。そしていくら、何十年一緒にいたとしても夫婦とか家族でも話し合わなければ思いは伝わらないよね、という事はなんとなく思いました。そして偶然の旅人って訳はなんか…印象が違うなぁ。仕方なく旅に出てる、というか必然の旅、というか。必要に迫られてしか旅に出たくない、というような意味合いがあまり伝わってこない気がする。

  • 書棚の整理も兼ねて、厚めの本から片付けようかと思って手に取った本。主人公と同世代で、結婚生活の期間も同じという事もあって、久々にのめり込み読みしました。

    始めの引きつけは弱いけれど、大体の把握が出来てから面白くなる。

    ミュリエルとの出会いは、これからの展開を予感させる。さりげなく。あれ?予感が外れたかな?と思わされたところで再登場。

    ミュリエルの魅力が存分に描かれている。部分的に赤毛のアンを彷彿させる。ハチャメチャでありながら、大胆不敵。常識破りであっても、本質を見る確かな目を持つ生活力旺盛なキュートな女性。結婚式の日取りに印をつけたカレンダーを送ってくるなんて、自分ならこれでイチコロです。

    最後まで優柔不断で、自分勝手な主人公だが、彼の思考や彼なりの論理構造は手に取るように理解出来る。なのに、最後の決断に至った経緯だけがあたかも天からの啓示を受けたかの様に唐突な感じに思えてしょうがない。

  • 4/26-

  • 沢木耕太郎の「深夜特急ノート」で名前が挙がっていたので手に取った。
    序盤から中盤までは何というか普通の小説という感想。
    面白いのは主人公を中心としたリアリー家の滑稽さ位だろうか。

    終盤でメイコンが言った、
    「ある一定の年齢を過ぎた者には失うものを選ぶ選択の余地だけが残されてるのさ。」
    というセリフが胸に刺さる。
    こういう言葉を見るたびに自分がけっして若くは無いということを考えてしまう。

    次は「夢見た旅」を読もう。

  • ガイドブックの著者である主人公は、
    息子を亡くし、妻にも出ていかれてしまう。
    ある時、息子の犬が問題行動を取るようになったことがきっかけで
    犬の訓練士である女性と出会い…。

    感情を表に出さず、状況をコントロールすることに
    喜びを見出すタイプの主人公が物悲しい。
    なんてことのない話なのに善悪にとらわれない
    人間臭いキャラクターたちの世界に引き込まれる。
    はっちゃけた訓練士も、できた女房も、
    どちらも欠点を抱えている。
    主人公が出した結論に万人が賛成できるつくりでもないが、
    それでも納得させられてしまう説得力。
    人物造形の妙、洞察力の鋭さに脱帽して読み終えた。

  • 作家の平安寿子さんがおすすめしていたので読みました。平さんのペンネームもアンタイラーさんから来てるとご存知でしたか?
    読み始めはなかなか先が読めないし、こういう男性好まないなあとおもって読んでました。まさにそこがポイントです。
    アンタイラーさんも平さんも、読みすすめるうちに自分もその物語の中に入っている感覚になるところが素晴らしい。
    最後までどうなるのかわからない結末にわくわくしたり、ちょっとがっかりしたりを繰り返し、あっという間に読み終える感じです。
    最初に強く感じた、「こういう人いやだなあ・・・」って感情は一人の人間の良さを違う角度からみるとそうなる。人生には、自分をどんどん引き出してくれる人と出会えるようになっているのだと感じました。
    久しぶりにどっぷりとつかった読書でした。映画も見てみたくなりました。

  • 一人息子を亡くして1年、メイコンとサラのリアリー夫婦の仲は冷え切っていた。
    妻サラが出て行き、結婚20年でついに別居となった。
    「アクシデンタル・ツーリスト」という旅行案内を書くのが仕事。観光ではなく用事で旅行するサラリーマン向けの本。
    几帳面で堅苦しく、感情を表に表さないメイコン。
    厳格な祖父母に育てられたことが直接の原因だろうが、父を亡くした後、気まぐれな母に翻弄されたことや、4人も兄弟がいたので、自分たちだけで結束したことも一因?
    一人暮らしを楽しもうと工夫するが…
    ボルティモアの旧市街の住宅地にある大きな家に、猫のヘレンと犬のエドワード(ウェルシュ・コーギー)だけと一緒にいる。
    メイコンにとってはサラはただ一人の女性だった。

    骨折したことをきっかけに、実家に戻る。
    リアリー家の古い建物には、既に離婚して戻ってきた兄二人と、結婚も就職もしないままの妹ローズがいた。
    世話焼きのローズは有能なのだが、オールドミスしか着ないような服装。
    猫はいいが犬のエドワードは環境の変化に混乱してますます手に負えなくなり、来客には吠え、家を出ようとする家族にまで襲いかかる始末。撃ち殺せとまで言われるが、それだけはメイコンも首を縦に振らない。キャンプ地で強盗に出くわして殺されてしまった12歳の息子イーサンの犬だったのだ。
    エドワードを預けるために行った犬猫病院で、ミュリエルという25歳の女性に出会う。
    派手な服装で若すぎる彼女に何かと接近され、かわそうとするが、いつしか…

    メイコンの担当編集者でもある出版社のジュリアンが来訪。
    古風で独特な暮らしぶりに興味津々となる。
    陽気でお気楽なバツイチ独身のジュリアンの好奇心を煩わしく思うメイコンだが、なんとジュリアンが二つだけ年上のローズと恋に落ちるのだ。

    ユニークな一家の堅苦しくも不器用なのが何ともおかしみがあります。
    メイコンは最初は本当に冷淡なのかとも思えるのですが、次第に味が出てきます。
    若いミュリエルの強烈なキャラクター。
    少々とっぴで品はないけど、不屈の精神がいいですね。若くしてできちゃった婚で、未熟児で生まれた息子を一人で育て、アレルギーのある息子に対してはいささか過保護。
    ミュリエルの住む界隈は貧しく、メイコン一家とは社会階層が違うのだが。
    縁は異な物としみじみ。
    荒れていた犬のエドワードが、ミュリエルの躾でしだいにマシになっていき、ミュリエルの家で、少年アレクサンダーの隣で初めて眠るところ…何気なく書いてあるけど、泣けます。

    アン・タイラーで一番オススメできます。
    映画化されているのもわかりますね。
    映画化名は「偶然の旅行者」

    アン・タイラーは1941年ミネソタ生まれ。
    1964年デビュー。1984年の本書が長篇10作目。

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