血液と石鹸 (ハヤカワepi ブック・プラネット)

  • 早川書房
3.53
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本棚登録 : 233
感想 : 31
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  • Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152089571

感想・レビュー・書評

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  • 皮肉なユーモアが魅力的な短篇集。慣れない言語ですばらしい作品を生み出してきたディアスポラ作家は多いが、このひとの場合、見たこともない道具をバラバラに分解して組み立てなおす人のように、言葉を物質的にいじって、思いもかけなかった文脈で使用してみせるところから、悲壮感のかわりに、皮肉なおかしみが生まれてくるようだ。知らない言語の辞書を丸暗記する男の話(「囚人と辞書」)、自分だけの英語を発明する男(「“!”」)、未知の食べ物の名前を愛する女(「食物の召喚」)など。とはいえ、この言語間の移動が、アメリカとベトナムの間の圧倒的格差に構造づけられていることは疑いようがなく、「エルヴィス・フォンは死んだ!」や「スチュアート・クレンショー」などの短編では、植民地主義を軽やかに皮肉ってみせている。このひとの作品、もっと読んでみたい。

  • 図書館で。
    結構面白いんだけど、短編って読むのに頭を切り替えないとイカンので大変。世界観が切り替えられない…のでそのうち時間がある時に読みたい。そのうち。

  • デヴィッド・フィンチャー監督作品「セブン」を思い出した。七つの大罪をテーマに犯罪がクリエイトされる。この映画は学生の頃に友人が関わる映画祭にて一般公開前の情報が過疎の状態で観たんだけども、余りの不条理さに衝撃を受けた。神、罪、罰、まるで宗教をデザインするために人間が存在させられているのか、彼らのありがたがる聖書とは、本当に人間を救うために存在しているのか?半年位ショック状態だった。神=悪魔、いや、文字通り人間は神の奴隷なのだろう。人間はどぶねずみのような存在で地下の暗い汚水が滴る場所からは這い上がれない。

  • ほとんど亡命作家なのに民族的悲喜劇っぽさを感じさせないドライなユーモア。なんだけど、篇中には「自国語でない言語をなんとか自分のものにしようとするが、それに成功しているのかどうか本人には永久にわからない」というようなモチーフで書かれた作品がいくつもある。ひょっとするとこの感覚というのは、東アジアの人間にしか本当に理解することのできない不安のようなもので魯迅とか漱石なんかと通底しているんじゃなかろうかという予感もする。

  • よみたい

  •  ベトナム系アメリカ人のディン氏によブラックユーモアとアイロニーに満ちた短篇集です。

    ■概要
    牢獄で一人、何語かさえ不明な言語の解読に励む男の姿を描く「囚人と辞書」。逮捕された偽英語教師の数奇な半生が明らかになる「"!"」。不気味でエロテックな幽霊とのホテルでの遭遇を物語る「もはや我々ともにない人々」。アパートの隣人が夜中に叫び続ける機会な台詞の小体に迫る「自殺か他殺か?」など、ブラックユーモアとアイロニーに満ちた37編を収録。

     「真面目さの足りない神」の視点を持つとは訳者柴田氏の評ではありますが、私にはこの作者からは不まじめさは感じない。むしろ、シリアルな問題意識と反骨精神を帯同した作者であると思う。

     「囚人と辞書」と「"!"」では、言葉のもつ定義の軽さを取り上げています。定義の軽さを指摘することは、言葉が武器である作家にとって重要であると思う。言葉は大体において、その内容よりも誰が言ったほうが重要である。いわゆる言葉は権威であり、権威と内容はそれぞれ耐え難い軽さを持っているいえる。これは、風刺にも見えるのです。

  • 都甲幸治の「21世紀の世界文学30冊を読む」で著者を知り、たまたま図書館にあったので借りてみた。

    もともとは詩人なのだそうだ。
    10行に満たない、短編どころか掌編ともいえないようなごく短い作品もあり、小説というより散文詩といった趣のものもあって、納得。

    都甲さんによると、著者がアメリカに移住したのはやむにやまれぬ事情からであり、そのあたりもあってか非常に皮肉っぽく自虐的。
    アメリカ批判でもなくベトナム批判でもなく、でもそのどちらでもあるような。「移民」という事象にかかわる全ての事柄や人を突き放して真っ向から否定したような。
    非常に冷めた目で国や人々を見つめている、という印象がある。

    どうだろう、好みが分かれるかもしれないが、結構嫌いじゃないかも。
    翻訳ものの小説が苦手な私が、こんなふうに思える作家はそういない。
    都甲さんが前述の本で紹介していた作品が翻訳されないかな~(タイトルなんだっけ?手元に本がないのでわからない…。また借りなければ…)。
    読んでみたい。

    追記
    ”Fake House”でした。都甲さんは「偽の家」としていました。

  • 本当は『偽の家』が読みたい

  • 飛行機に乗る、が良かった。自虐

  • どこまでが現実だかわからなくなるような短編集。
    真面目な人の語りの中のズレのようなおかしみ……かと思いきや真顔で大法螺を吹かれたような。
    わりと意味がわからないけれどなぜだか面白い。飄々とした皮肉。

    自分に知識がないせいで、どこまでが本当かわからない。(英語やベトナムや歴史や文化について)
    著者略歴に惑わされて、どこまでが本当かわからない。(ベトナム人の「私」にはどこまで著者の経験が反映されているのか)
    一人称で描かれるから、どこまでが本当かわからない。(おかしいのは「私」なのか他者なのか)

    嘘と真実をとっぱらって物語をそのまま読めば、夢とうつつをフラフラと楽しめる。

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著者プロフィール

1963年、ベトナム、サイゴン生まれ。詩人、小説家、翻訳家。ベトナム戦争末期の75年、アメリカに居住。2007年、詩集『Borderless Bodies』(未邦訳)でAsian American Literary Award受賞。2018年、ベトナムに戻った。著書に『血液と石鹸』(早川書房)、『Love Like Hate』(未邦訳)など。

「2018年 『アメリカ死にかけ物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

リン・ディンの作品

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