ずる―嘘とごまかしの行動経済学

  • 早川書房
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感想 : 78
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  • Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152093417

感想・レビュー・書評

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  • この本を読んでると、知らず知らずに行なってるちょっとした嘘やごまかしを見つめ直すよいきっかけになった。ただ、前作で紹介されたようなアイデアあふれる実験が、講演で多忙なためか、今回は少ない気がする。不正の判定に使われる実験がいつも同じもの(数字探し実験)なので、新鮮味に乏しい。しかもこの実験では、シュレッダーでテスト用紙を実験者が自分で破棄するのだが、事前に答えた別のテストの正当数と比較して、「4問ほど水増しして申告した」、いわゆるズルをしたと認定されるのだが、何か釈然としない違和感を感じて仕方なかった。

    不正を防止する、より効果的で実際的な方法をもっと紹介して欲しかったが、最後のメイドの盗み癖に対抗して冷蔵庫に鍵をかけるという例のように、不正をへらすための秘策が、結局は単に複雑で不便な一手間を加えることに過ぎないとなれば、少し拍子抜けしてしまうな。

    歯医者と患者の例も面白かった。普通、つきあいが長くなればなるほど、医者は患者の身になって次の治療方針を立ててくれそうに思えるが、実際はその逆で、患者がどんどん信頼を寄せるのをいいことに、医者は自分の利益となる治療を押し付けてくるというのは、何か思い当たることが多すぎて考えさせられた。

    それと、不正の典型例である浮気を取り上げたコラムでは、読んでいて「浮気は文化だ」という迷言を吐いた某氏の顔が浮かんでしょうがなかった。

  • ダニエル・カーネマンのファスト&スローが認知、判断など広く扱っているのに対しこの本で扱うのは「ずる」の心理学、そうは言っても重なる部分はかなり有ります。

    どういうときに人はずるをするのか、アメリカのゴルファー1万2千人の調査ではライの改善について「平均的なゴルファーがボールを10センチ動かすと非常に有利になる場合動かす可能性はどのくらいか?」聞いた所、クラブを使って動かす場合23%、ボールを蹴る場合14%、手で動かす10%と言う回答だった。(日本のプライベートコンペだとそもそもリプレースOKとしている場合が多いので質問自体が成り立たないかも・・・)手を使うと心理的抵抗が大きいというわけである。また、マリガンルール(打ち直しOK、一説によるとマリガン大統領からきている)の場合平均的なゴルファーがスタートホールでのマリガンは40%、9番ホールでのマリガンは15%が打つと言う回答だった。そもそもわざわざ平均的な・・・と質問するのも意味がある、あなたはどうしますかだと自分はフェアだと信じたがる人はライの改善はしないし、マリガンもしない。平均的な他人は自分より不誠実だというのは本当だろうか?

    ずるをする際に最初にすることは自分をだますことなのだ。例えばダイエット中なのに少し食べ過ぎた際どうせ今日はだめだから自分を許して食べよう。朝からがんばればいいとか。自分が受け入れやすい言い訳を作り自分を納得させるのと同じ心理が働いているのだ。例えばニセモノブランド品を身につけるだけで不正行為(ちいさなずる)に対する抵抗は大きく下がる。みんなで渡れば怖くないというのもある。心理的な抵抗のハードルを下げるとずるに抵抗する力が弱まるのでずるは感染するものらしい。

    ではずるを無くすためにいい方法はあるのか?これも以外と簡単な答えで例えば宣誓をする、署名をする、見張られていると思わせるなど。いろいろな申告書で署名を取るのはエビデンスを残すためだと思ってたが、署名すること自体に抑止効果がある。ただし、できれば申告前に正直に申告しますと署名をさせる方が効果が高い(心理的な抑制効果が働く)と言うのが著者の実験結果であった。この話は保険会社に進めたがどこにも採用されなかったらしい。道徳心を定期的にリセットする仕組みは宗教などにも取り込まれている。行動心理学関係の本はお勧めできるものが多い。

  •  『予想通りに不合理』の作者の新著、おもしろくて当然。
     まず著者は、ノーベル経済学賞受賞者・ベッカーの「シンプルな合理犯罪モデル(SMORC)」=「人は誰でも、費用と便益をはかりにかけて、得な場合に犯罪をする」という仮説を実験で確かめようとする。盲人と一目でわかる人と、健常者を市場に買い物に行かせると、盲人のほうが見栄えのいい野菜を売ってもらえる、盲人をタクシーに乗せると遠回りどころか安く上げてくれるという結果になった。実験の結果を受けて著者は、SMORCを一蹴。<わたしたちは「そこそこ正直な人間」という自己イメージを保てる水準まで、ごまかしをする>という法則と、さらにその自己イメージを保つためにときに「つじつま合わせ」までするということを述べる。
     他にも、「疲れていると不正をしやすくなる」「自分の動機で目が曇る」「偽物を身につけていると、自己評価が下がって、不正をしやすくなる」「創造性が高い職業(デザイナー・コピーライター)の人は、経理担当者に比べ、“道徳的柔軟性”が高い(要するにズルをしても自己評価が傷つきにくい)」といった法則をつぎつぎに発見していく。
     人はだれでも、ずるをする。そしてそのことに対して自己正当化をはかる。ずるは感染し、いったん手を染めると次はもっと簡単にずるをするようになる。これを防ぐには、たんに監視を増やし、罰則を強化するだけでは足りない。なぜ人が不正な行為をするのか理解し、ずる・ごまかしから遠ざける「しくみ」が必要になる、というのが著者の結論である。

  • 行動経済学を通して、人はなぜずるをするのか?またどの程度水増しをするのか?身に着けるものが、本物か偽物かというだけで、ずるをする割合は変わるのか?などを、正直直接経済に関係ないことまで実験を通して検証できるのかと感じた。

    しかし、「予想通り不合理」と比べて、わかりずらい感じがした。

  • 人は小さな不正(ずる)を行い、時には自分をも欺く。こうした思考のクセを理解しておくことは、意思決定や判断を適切に補正することに役立つ。

  • 「創造力のある人たちは、なぜそういう行動をしてもかまわないのか、むしろ望ましくさえあるのかを説明する物語を紡ぎだすのに長けている」というのが笑えました(^^;)

  • ダン・アリエリーの本は、「予想どおりに不合理」「不合理だからすべてがうまくいく」に続いて三冊目。「ずる」ってテーマはどうかなと思ったけど、相変わらずの面白さであった。

    自分自身は正直で立派な人間だと思いたい心理と、ごまかしから利益を得て得したいという心理のせめぎあいに常にさらされる。
    それを左右するのは、現金との距離であったり、倫理基準を思い出す仕組み(署名とか)であったり、他の作業での意志力の消耗であったり、ニセモノを身に付けているか否かであったりと、実験に裏付けられた解釈を次から次へと見せてくれる。

    終章の「宗教や宗教的儀式は、道徳的義務を守ることを何かにつけて思い出させてくれる」との指摘は、宗教と文化という私の個人的関心事項とも関係深く、面白く読ませてもらった。

  • 不正を働いてしまう人間の行動心理を,推論と実験を元に明らかにしていく.「同じ取引相手と長く付き合っていると自覚のない不正に繋がる」「1人よりみんなで作業していた方が不正しやすい」「創造性豊かな人間は嘘のストーリー作りも上手」などなど,興味深い結論に繋がる実験が数多く収録されている.
    前著「予想通りに不合理」以来,この手の行動経済学の書籍はよく見られるようになったけど,本書の著者は,まず合理的な説明ができない人間の行動を実験によって一般化し,さらにその不可解な行動を回避するためにはどうすればいいかまで踏み込んで追加実験を行っているところが良い.例えば,ずるができない環境と,ずるをするようにしむけられた環境で比較対照実験を行い,続いてずるをしにくくするための効果的な環境はどう作ればよいかを試行実験している.こうして読んでいると,性善説に基づいた設計はなかなか今の資本主義の世の中では夢物語なのかも,なんて思ってしまった.

  • 誰もがごまかしをする能力を持っている。その自分が不正直でも不道徳でもない理由を説明づけるのがうまい。他人のごまかしに感染しやすく継続しやすい。

    人間としての根源的なもの。みんなが、ちょっとづつの効果。

  • レビューはブログにて
    http://ameblo.jp/w92-3/entry-11480870459.html

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