人体600万年史(下):科学が明かす進化・健康・疾病

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152095664

感想・レビュー・書評

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  • 3

  • 農業や産業革命は、人類全体にとって大いなる恵みだったが、人体にとっては複雑な恵みだった。
    確かに暮らしは豊かで便利で快適になったが、同時にすべての人間の身体に決定的な変化をもたらした。
    健康に関するパラドックスとして、長生きできるようになったが、慢性病で長患いすることも多くなったと言われる。
    つまり、食物の量は豊富になったが質は低下し、死亡率は下がったが罹患率を上昇させた、と。
    著者は、こうした環境の変化が今日いかにわれわれを進化的なミスマッチによる病気にかかりやすくさせているかについて、読者の目を向けさせる。

    エネルギーの摂り過ぎや、生理学的な負荷の不十分さなど、現代環境の新しい側面が原因で生じるさまざまなミスマッチ病。
    単に目の前の病に対処するだけでなく、その予防の重要性を強調するが、同時にその裏で、人々の衝動や無知を食い物にする食品業界や、病人を生かしておける環境を作ることに腐心する製薬業界の存在も明かし、食習慣の継続的な改善と合わせて、問題の解決の困難さも指摘している。

    しかしこうしたミスマッチ病の環境的な原因を放置することは、いつまでもその病を蔓延させ、悪化させることにもつながりかねない。
    このあたりの、ミスマッチ病を誘発する環境条件が、文化を通じてそのまま子供に伝達されていく様は、技術的、経済的、科学的、社会的な変革の総体が、いかに人間の身体に大きな影響を及ぼしてきたか、改めて考えさせられた。

  • 表紙を一見して、人体の進化の歴史を上下巻で延々と説明した本、にも見えるが、副題にもある通り、進化の観点から、現代の人類を悩ます病気とその対策について考察した本である。

    筆者はハーバード大学の人類進化生物学者という肩書きであるが、人類の進化の歴史に目を向けるのみならず、進化が現代の私達の体をどう作り上げ、それが文化的な発展と相まって、どういった健康上の問題を起こしているのか、そして、それを解決するにはどういった個人的、社会的な取り組みが必要なのか、といったテーマについて研究をしているらしい。(あとがきによると、進化医学というとか。)
    現代に存在する病気は全て、体の進化が文化の進化に追いつかないことによる、「ミスマッチ病」であるという指摘は、目から鱗だった。
    子供の頃からそこにあると思っていた、各種感染症、糖尿病、がん、心臓病、アレルギーから、近視や扁平足に至るまで、本書の指摘に鑑みれば、旧石器時代以前の人間には、確かに起こりようがなかったのかもしれない。
    また、感染症はともかく、非感染性のミスマッチ病については、環境と遺伝子の相互作用が複雑に関連しあっており、原因遺伝子を少数に絞り込むことは実質的に不可能で、症状の緩和はできても、根本的な治療は難しいため、今後、画期的な治療法が見つかる可能性にも本書は懐疑的で、予防が肝要であるらしい。
    では、これらのミスマッチ病を予防するにはどうしたらいいのか。
    それは、旧石器時代の生活習慣を考察し、なるべくそれを実践することだ。
    具体的には、本書で口を酸っぱくして繰り返し述べられているように、食習慣(植物、木の実、植物性の油脂、果実、動物や魚介類をバランスよく摂取し、過度な糖質や脂肪の摂取に留意すること)を見直すことと、定期的にある程度の激しさを持った運動をすること。
    これらは、子供の頃から「健康的な習慣」として教えられてきたことである。
    しかし、様々な情報が錯綜する現代では、果たしてそれらが正しいのか、そしてなぜ正しいのかを理解するこは困難だ。
    また、本書でも述べられているが、経済的な圧力、同調圧力、また、目の前の安楽を優先しがちな人類の進化的な特性も考えると、なかなか実践は難しいのだ。
    本書を読むと、これまでの研究の成果から、旧石器時代以前の人々はどういう生活を送っていたのか。
    また、その生活習慣に適応した人類が、文化の急激な進化により、どういう不健康な状況に追い込まれているのか。
    その結果、どういう病気が生じてきたのか。
    そして、それがどういう社会問題につながり、どういう対策をとっていくべきか。
    そういったことを一つ一つ、参考文献やデータを引用して丁寧に説明してくれており、巷にあふれる健康本とは一線を画す本だ。(参考文献が上下巻それぞれの20%にも及んでいる。)
    恐らく筆者の専門や、現在の研究成果の限界もあるのだろうが、どういった食習慣がいいのかといった考察の部分には曖昧さと歯切れの悪さを感じたが、(例えば、過剰な動物性脂肪の摂取は問題なのか?といった部分。「かも」という表現が多い。)全体を通して非常に重要な内容だと感じた。
    最終章で、国家財政を圧迫する巨額の医療費の問題と、本書で書かれている観点での予防に注力することで、それを大幅に圧縮できる点について考察されているが、その実現の困難さはともかく、我々人類にはもう、そこに取り組むしか道は残されていないように思われた。

  • 購入。

    下巻では農耕とはどのような生活かを人体に与えた影響から解説し、ミスマッチ病の説明をしている。

    一例として、人体は一日に数キロ移動することに適応しているから動かないことによる病が存在する、というような指摘を著者はしている。面白いのは、だからエレベーターなどの動かなくてすむような機械を使わないようにすべきだ、という提案を行わないことにある。
    著者の提案は万全だと思えないが、人がどのような存在かを理解する際にはよい内容だと思う。

    現代が病気への対処は行うが予防には全然お金をかけていないという指摘があったのは嬉しかった。

  • 2016年1月新着

  •  下巻では、「過剰」と「快適」が問題となっている。今では、少なくとも日本やアメリカのような24時間営業の店が、住んでいる地域にある人にとって、手軽に好きな食べ物や飲み物が手に入り、便利だ。しかし、摂取するものによっては過剰摂取になり、脂肪という余分なポイントをため込むことになり、臨界点を超えると様々な病気を抱えることになる。

     第13章で、「本当の適者生存」として、いくつかの方法を提案している。

    1. 問題解決を自然選択のふるいわけに任せる
    2. 生物医学による研究と治療にもっと投資する
    3. 教育して力をつけさせる
    4. 環境を変え
    5. 後ろを向きながら前へ進もう

     人体の歴史を踏まえて、どう健康であるかふと考えさせられる本だ。

  • 本文だけで上下巻合わせて500ページを超える大作だが、著者の言うように、これでもまだ事象の表面をなぞっただけ、もっと深いところまで考察を進めたものを読みたくなる、そんな総論だ。
    非常に壮大なテーマを高く掲げ、網羅的かつ論理的に、それでいて平易な言葉で分かりやすく見解を説いているという点では、ジャレド・ダイアモンド氏の「銃・病原菌・鉄」にも匹敵するようなスケールのノンフィクションといってもいいのではないだろうか。
    和訳者がいい仕事をしているというのも同じく。
    ベアフットランニングやパレオダイエットなどに代表されるように、現代の科学技術や文明の利器による恩恵を受ける前のあるべき人間の姿に戻ろう、という主旨のムーヴメントが近年、特にアメリカを中心に広がりつつあるが、そういった傾向を感覚的にではなく、進化医学や文化的進化といった概念を軸に、カチッと理屈で説明している、とも言える。
    本論中のディテールに目を向けてみても、例えばカロリー消費における脳と腸のトレードオフの関係とか、人間が例外的に口呼吸を行う根拠、虫歯のメカニズムなどなど、興味深いトピックスは数多い。
    学術論文とは違うので、著者の主観が強く反映されている箇所ももちろんあるが、そういった見方も含めて、読者が現代社会の抱える問題群を有機的に考える際に、有用な示唆を与えてもくれる。
    そして考えれば考えるほどに、我々人類はおそらくは最近の数百年のうちに、もはやなかったことにすることは決してできない、致命的な過ちを一度ならず犯してきてしまったのだろう、ということが確信される。
    個人的なレヴェルでささやかな抵抗を試みることは可能だが、種族として、慣れきってしまったこの大量生産・大量消費・大量廃棄社会を根底から作り直すことはできない。
    ホモ・サピエンスという動物としてナチュラルに生きることよりも、利便性と経済性をとにかく優先して人間は月日を重ねてきた(つまり著者のいうところのディスエボリューション)、ということがここでも自ずと分かってしまうのだ。

  • 請求記号 491/L 62

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