荒地の恋

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163263502

感想・レビュー・書評

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  • 本を読み終えたばかりは、胸の中にいろんな感情が湧いては消える。

    私にはいつでも「覚悟」が足りないのだ、と思ったり。
    ああいうふうに、大切な人をないがしろにはできないよ、と思ったり。
    自分の気持ちに嘘をついたままで、それは生きていると言えるのか、と問いかけてみたり。

    詩人は、会社勤めをやめ、妻に好きな女ができたと言い、家を出たらそれまでの20年では書けなかった詩が、またすらすらと書けるようになったという。
    こころが動くと、血が体をめぐるようになり、頭の、それまで使われず休んでいた部分が活性化されるのだ、きっと。




    「荒地」は、詩人の田村隆一、北村太郎、鮎川信夫らによって作られた同人誌の名前で、ねじめ正一著の『荒地の恋』は、田村と田村の妻 明子、北村太郎との三角関係からはじまる実名の小説。


    はきはきとした物言いで、北村を魅了する明子はきっと私にこういうだろう。

    どうせ、あなたみたいな若い人に、大人のイロコイがわかるはずはないのよ。

    時代は昭和のど真ん中で、登場人物たちは、両親の年代よりもさらにすこし上なのだった。
    だから私は、いつまでも小娘の気持ちで読んでいたけれど、途中でふと気が付いた。
    明子が、田村の元を離れ北村と崖の下の小さなアパートに住み始めた時の年齢よりも、今の私のほうが上じゃないかと。

    50を越えた男女の、それも互いに伴侶持ちの、男女の恋の行く末がパラダイスのはずはないと、想像するのは容易なことで、だから「荒地の恋」とはこれ以上の題名はないと思った。


    誰に泣かれ、誰を裏切り、世捨て人のように暮らし、お金の心配をし続けても、歩き出し、歩き続けなければいけない「荒地」。
    そこにはどんな風が吹き、どんな夕陽を眺めることができるのか、平坦な道を歩いているものにはわからない。

    わかりたくもないという人も、迷い出るはずじゃなかったという人も、それぞれのみちをただ進んでいくしか方法はほかにない。
    もちろん、わたしも。それがどこへ続いてゆくのか知っていても知らなくて

  • 2015/08/27 読了

  • 中学生のころ、テレビで詩を朗読する田村隆一氏を見て、
    なぜか印象に残っていた。
    その田村さんが登場する小説ということで読んでみた。

    主人公は、田村と中学生のころからの親友でもあり、
    自身も詩人の北村氏。

    その北村と田村の四人目の妻、明子が恋に落ちるところから物語は始まる。

    大人の恋、といえば聞こえはいいけれど、一般的に考えると、
    結婚25年にもなる壮年の男性が、長年の友人の妻と不倫関係に陥るということ。

    長くサラリーマン生活を送って詩作も思うように行かなかった北村氏が、
    明子と恋に落ちて、詩が溢れだしてくる。

    「こちらの世界」と書かれた詩人の世界に北村はすっかり入り込んでしまったようだった。

    ただ、物語はただの不倫小説では終わらない。
    最後の北村氏の死の場面と締めくくりは淡々と物悲しくも残酷。

    そして、田村氏の存在感が圧倒的。
    周囲を巻き込み、破壊し、けれど、傷つきやすい才能の塊。

    作者のねじめさんは、関係者の方に丁寧に取材を重ねて書かれたらしい。
    その誠実な姿勢があったから、ただの恋愛小説にはならなかったのかもしれない。

  • 「道楽からは詩は生まれない」という最初の方に出てくる一言が読後まで続く本。生きることも、愛することも、詩を書くことも文字通り「生命を賭して」やった荒地グループの詩人たちが死ぬまでをたどる。
    クンデラ『存在の絶えられない軽さ』のような愛憎劇に、詩の世界がまじりあって濃密で重い、でもどうしようもなく惹きつけられる。

    最後の章の主人公・北村一郎の詩

    モノをほしがる物欲、のほかに
    ココロをほしがる心欲、まで持っているから
    ヒトは怪物、なのだ  「すてきな人生」

    という一節が痛切に沁みる。

  • 詩人北村太郎の後半生を描いている事実に基づいた小説。
    出てくる詩人たちの作品は教科書にも載っているのに、
    その現実の行動は教科書には載せられない破天荒なもの。
    やっぱり詩人はこうじゃなくっちゃ。傑作。

  • 60になろうが70になろうが恋はするし、恋をするとやっぱり想いが溢れ、一途でときには分別もなくなるしみっともないし、じたばたするものらしい。しかし詩人にとってはそれは生きることであり、詩を生み出す糧となる。だから病に冒されようと、彼は恋に貪欲だった。恋人のことを想い、きっと病床でもこころの中で詩を紡いでいたに違いない。あまりにも激しくて、傍目には痛々しくもうつる生き様であっても、うん・・・しあわせだったんだろうな。

  • 最初のうちは、この詩人・北村太郎の身勝手さに腹が立って仕方がなかった。
    自分の勝手で浮気したくせに、妻のことを鬱陶しがって(るように見えた)、「何様!?」とムカムカしました。

    だけど、読み進めて行くうちに、ど~も、この北村という人、にくめない人になってくるんだよなぁ……。

    最後はなんかしんみり、「そうか……」と残念なような、清々しいような気持ちで読み終わりました。

    ここに出てくるのは、実在した詩人の方々なんですね。
    詩には本当に疎いので、知りませんでした。

  • 詩人・北村太郎の50歳を過ぎてから69歳で亡くなるまでの人生そして恋。

    面白かったです。一気に読めてしまいました。
    最初、自分の不倫を奥さんに打ち明けてしまうなど身勝手さになんなの、コレ?という感じがありましたが・・
    読み進めるうちに突っ走っちゃう人なんだなあと納得。
    芸術家ってそういうものなのかもしれません。

    それにしても50すぎて極貧生活を続け、不倫相手との恋にも破れたのに「気持ちは変わってしまった」と家に帰らない主人公のエネルギーの強さにはびっくり。後半の若い女性との恋を成就させちゃうのもこの生きるエネルギーゆえなんですね。

  • 田村隆一 北村太郎
    正直な生き方

  • 2008年1月9日(水)、読了。

著者プロフィール

ねじめ正一
1948年東京都生まれ。詩人、作家。 
詩集『ふ』(櫓人出版会)でH氏賞、『高円寺純情商店街』(新潮社)で直木賞、『荒地の恋』(文藝春秋)で中央公論文芸賞、『商人』(集英社)で舟橋聖一文学賞、『まいごのことり』(佼成出版社)でひろすけ童話賞、『ひゃくえんだま』(鈴木出版)でけんぶち絵本の里大賞びばからす賞を受賞。
主な児童作品に『ぞうさんうんちしょうてんがい』(くもん出版)、『ずんずんばたばたおるすばん』(福音館書店)、『みどりバアバ』(童心社)など多数ある。

「2022年 『たんていベイビー きえたヤギのおばあさん』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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