- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163808505
作品紹介・あらすじ
戦争を生き延びた男三人。抱える事情は様々なれど安劇場にひろわれて、踊り子のぼろアパートで珍妙な共同生活をはじめる。戦後復興期、焼け跡の浅草でエロに燃えて笑いに悩む。
感想・レビュー・書評
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戦後まもない浅草六区のエンタメ界隈のあれやこれや。戦争に翻弄され尽くした人々が何を見て、感じて、折り合いをつけながら日々を生き長らえたのか。
時に涙、時に笑い。心の機微を掬い取った木内さんの美しい言葉に心を過去に馳せ、立ち止まり、そしてページを捲り…。本当にいい作品に出逢うことが出来た。
住まい、衣服、食料すべてに充足がない時期に人はどう振舞ったのであろうか。
「お国の為の戦争」と信じて疑わなかったイデオロギーが青天の霹靂のごとく一変したことを庶民はどうとらえ、呑み込んだのか。
生と死が紙一重の時代に、親しい人や家族を失い、たまたま生き残ってしまった人の罪悪感はいかばかりか。そしてどうやって光を見出し、前に進むことが出来るのか。
戦時中娯楽から遮断されていた人々は、映画・漫才・歌・踊り等エンタメの萌芽をどのように伸ばしていったのか。
ちょうどNHKの朝ドラで「ブギウギ」が戦時中の苦悩のシーン放映中。笠置シズ子さんの『東京ブギウギ』が木内さんの本作の舞台のBGMで登場する。
登場人物たちは本当に魅力的。誰もが何か欠けている。それぞれ疑心暗鬼になりつつも、互いに関わり時間を経て、次第に自分自身を問うきっかけをさりげなく差し出してくれる。
木内さんの含蓄に富んだ時代小説が本当に心地よい。時代を超えて人間とは? 生きるとは?といった深いところに流れる事柄を正義や正答の押し付けなくさらりと描ききる。
巻末の参考文献が示すよう丁寧に調べたうえで、実在の地名や人名等も織り込みながら作品が呈される。
装丁も挿画も内容にぴったり。
困難な時代に共に生きた、血の繋がりのない、不完全でうだつがあがらなくて、ある意味頑固で、理不尽な目にも遭い、不運のくじも引っ張ってしまった人たちの辛くて、甘くて、苦くて、酸っぱくて、素敵な物語でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ひと笑いも涙もなし。戦後をたくましく生きる姿が、多少感じられたかなって程度。
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戦後の芸人たちのお話。苦労した時代だと思いますが、何か人情溢れる人が多いなあ、と。善造の人柄が温かくて素敵。武雄は善造と出会えて良かったなあと思いました。
光秀がこれからどう生きていくのかだけすごく気になりました! -
「漂砂のうたう」で直木賞受賞の女性作家、木内昇(のぼり)作品。
昭和21年10月、まだ焼け野原の景色が延々と続く東京。そこへやってきたのは、万歳を極めようと地方から出てきたばかりの岡部善造。45歳。
大空襲で両親、兄をいっぺんに失い、浮浪児となった田川武雄。栄養失調の11歳。そのせいで耳から滲出液が出て垢も鱗の様に嵩を為している。
そんな武雄は、こののんびりした、間の抜けたおじさんについて、しばらく食料を得ようと思っている。
決して感情を表さない子供だった。
武雄は文字しか信じない。印刷物になっている文字だけを、貪る様に求め読んだ。およそ子供らしくない子供だった。
栄養失調で体も小さく物事を多く知る武雄は、他の子どもよりも屁理屈を言う様で、いつも傷が絶えない。
そんな武雄と善造が雇ってもらえたのは元映画人の杉浦。
小屋を建てて、出し物、初めはストリップをしようとしていた。そこで初めは全然受けなかった、誰をも傷つけない笑いを目指す善造のコントが、しばらくすると、その妙に朴訥で、ほのぼのとした内容の笑いがうける様になる。。。。。。
初めは、お笑いの創世記の話なのだろうかと、読み始めたのだが、100ページを過ぎたあたりで気づく。
ミリオン座で知り合う踊り子や、同僚などと戦争を経験したあとの人格と価値観の違いから問題も起こる。
決してブレない善造の生き方と武雄への接し方。
決してブレない冷淡な光秀。
戦争に協力してしまうことになった映画人、杉浦の絶望。戦争記者として従軍した大森。
それぞれの悩みと苦しみは彼ら自身の生きにくさでもある。
読み進めるうちに、それぞれの人生の再生と、
反戦のテーマが
不器用な生き方しかできない岡部善造の言葉に、涙するページも多数。心に残る言葉がたくさん出てきます。
感動の一冊でした。 -
戦後の浅草を生きた人々の物語。
それぞれの個性が光り、歯車が動き始めると、おもしろくなる。
いい加減で、中途半端で、いまひとつパッとしないミリオン座。
力の抜けたユーモラスな日々に、ふと戦争と死が顔を出す。
おそろしいほどの自己肯定感の高さと、だれに対しても変わらぬまなざし。
最初は滑稽なくらいだった善造の人のよさが、だんだんと浸透し、人情味あふれた世界に。
特に世間ずれした武雄との交流には、グッときた。
読後感もよかった。 -
読了⭐︎2.5
「櫛挽道守」の作風から、追読
戦後まもない浅草の混沌とした時代に変わらない善三さんの雰囲気に癒される
私には盛り上げに欠けてしまうけど、ほんわかが沁みる
#ブクログ -
善三の言葉がいちいち悲しい
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何度もクスッと笑ってしまった。
爆笑じゃなくてクスッという感じ。
泣けるというよりじんわり涙ぐんだ。
善造さんが大好き。