のろのろ歩け

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 59
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163816302

感想・レビュー・書評

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  • 忙しい毎日に、こんな時があってもいいかと思う。

  • これも「ブックマーク」の本のアンケートにあって、図書館で確かめたら空いていたので借りてきた。

    中島京子、こんどは何を読ませてくれるのか? "のろのろ歩け"とは、いったい何の話かと思いながら、カバーを見てもまったくわからず。裏表紙には「慢慢走」と大きめの字が入っている。これは「のろのろ歩け」という意味か?

    と、まったくなんの予備知識もなしに、読む。北京の話と、上海の話と、台湾の話が入っている。私はどこも行ったことがない。

    中国で初めての女性向けファッション誌を創刊するプロジェクトに、日本人として北京によばれた夏美の話が、「北京の春の白い服」。10年前に北京へ留学していたとはいえ、北京のうつりかわりのあまりの速さに驚く夏美。そして、日本よりもはるかに寒い寒い北京で、それでも4月号の特集は「北京に春の服が来る」以外にありえないと夏美は主張するのだが、中国のスタッフは「冬の服をまだ着て春に備える」とするのがいいと譲らない。

    苦労して春の服を揃え、おしゃれな場所を探して撮影をすませ、写真があがってきて、リードやデザインをチェックして、それで夏美の仕事は一段落した。週末には、北京に留学している学生・コージの自転車の荷台に乗り、あちこちへ連れていってもらう。屋台が並ぶ通りで、去りぎわに屋台のおじさんから「マンマン・ゾウ」と声をかけられる。

    ザイチェンは、see you againで、マンマン・ゾウはtake careかなとコージは言う。
    ▼「…直訳するとのろのろ歩け、だからね、のんびり行けや、くらいの感じかな」
     慢慢走。のんびり行けやーーー。
     この、何もかもが疾走しているような北京で、それでも人々は「マンマン・ゾウ」とあいさつを交わす。(p.70)

    仕事を終えて日本へ帰ってからも、夏美の頭からは「マンマン・ゾウ」というユーモラスな響きの中国語が離れない。「マンマン・ゾウ」は実際どんなふうに聞こえるのだろうと思いながら読む。ゆっくり行きや、という感じか。おしゃれは、なんぼ寒くても春の服を着るところから始まるんかいなーと思い、でもそれやと冷えるしカラダには悪いわな…と思い、流行りもんのファッション誌という仕事は、私にはちょっと想像がつかへんなと思う。

    2つめの「時間の向こうの一週間」は、上海へ赴任した夫についてきた妻が、忙しすぎる夫に、日本語が堪能な同行者をあてがわれて、向こうでの住まい探しをする話。同行してくれるのは女性だったはずが、なぜかルー・ビンという男性が来て、あちこちの不動産をみてまわる間に、ちょっと恋仲にもなる。

    中国の離婚理由で一番多いのが「感情破裂」だという話があったり、大都会で暮らすのはストレスフルだから、雲南のようなルーザーズ・ヘブン(失敗者的天堂)へ行きたいという話があったり、日本とはまた違う感覚があるんやなと思う。

    ▼「…いまは上海でも北京でもどこでも、みんな成功を目指さなくてはならない。とても疲れます。都会では誰もが、成功者か失敗者か、どちらかになる。もうそれは疲れるから嫌です。そういうときに、私はルーザーになりたい、と言うのです。ルーザーになって、ルーザーズ・ヘブンで暮らしたい。…」(p.157)
    そんなふうにルー・ビンは言う。

    3つめの「天燈幸福」は、亡き母の「美雨には台湾に三人おじさんがいる」という言葉を頼りに、台湾へ旅する美雨の話。おじさん1、2、3は、母の留学時代の知り合いとおぼしいが、母といつどうやって知り合い、どんな関係だったのか、美雨はまったく知らない。わかっているのは、母が生前、毎年欠かさず旧正月におじさんたちにカードを送っていたことだ。

    母と父は、美雨が3歳のときに離婚した。だからなおさら、このおじさんたちと母との関係が気になっていた。もしかして恋人だったのか?などと。

    美雨のローカル線での旅のもようが、穏やかに感じられて、どんなところなんやろうなーと想像をめぐらせた。

    3作それぞれ、時間がぐんぐん過ぎたり、ゆっくり流れたり、旅の空を感じさせる。

    (8/30了)

  • 最初の二作は、異文化の中で、
    恋人や夫と溝を感じながらも、
    しなやかに対応していく女性たちの話。
    そんな彼女たちをとおして、
    ものすごいスピードで変化を続ける中国を
    ちょっとのぞいた気になった。

    また、劇的に変化していく中であっても
    食文化だけはアイデンティティとして
    強く根付いていることを感じさせらた。
    小説ででてきたお料理を、味わってみたい。
    高級ホテルや、有名人が食事したレストランなどではなく、
    そこに生活している人の息づかいが感じられる場所で。

    台湾だけ、少し毛色が違う話。
    母親との溝を感じているという部分は
    他の二作と共通点があるけど、
    ほわんとしたファンタジーのようなお話。
    一度旅してみたい!
    (そして、何よりもマンゴーかき氷を食べたい!)
    うさんくさい兄ちゃんがまた、いい味だしてます。

  • 北京、上海、台湾と3篇ともに中国が舞台。
    仕事で北京へ来た女性。
    夫の異動で上海に暮らす事になった女性。
    母の思い出を捜し求めて台湾に来た女性。

    中国はせかせかしたイメージをもっていたが、
    「漫漫走(のろのろ歩け)」って言葉もあるんだ。

    最初はなかなか信用できないけど、
    深く接すると心を開いてくれるんだな~
    それは、きっとどこの国でもそうなんだろうけど。

    中国が舞台のお話しってあまり読んだ事がないから、
    不思議な雰囲気だった。

  • 好きな国である台湾の話が最も想像出来やすく、楽しみながら読んだ。台湾の人の良さ、美味しいものが沢山の描写、ここでなら彼女は再生出来るはずだ。中国は、いろいろなニュースのせいであまり興味のない場所なんだけど、アジアの雰囲気、空気が感じられる独特な世界が伝わっていつかは足を踏み入れたいと思った。春が近付くこの季節にぴったりな一冊

  • 美容院でカラーしてる間の読んでいた雑誌のトピックスから。ああいうところから実際に手に取る本というのも私にしてはとても珍しい。北京、上海、台湾を舞台にした3編のお話。3つとも女性が主人公。上海の話は途中まで本当に小説らしい甘い感じが漂っていて、そこにばしっと入る展開が目が覚めていくようで清々しかった。日本と、その土地へ赴いたり往復したりというのは人と人との関係性まで掻き回していく行為なんだなあ。ただ人が移動していくわけではなくて。影響を残していく、変化を伴って。ロードムービーが好きなのもそんな理由かもしれない。ひとところにずっといるのは方向感覚も鈍るし第一間違い探しができないもの。全然日常と違う風景や背景の一致しない人と向き合っていた方がきっと、何したいかとか、こっちではないとか、動きやすいだろう、そういう作業は私は必要だと思う。そんな事考えた。マンマンゾウ、という挨拶が素敵。

  • 中国の現代を舞台にした短編3作品。
    市民の生活やそれぞれの思いなど、現地で働く日本人の目を通して描かれる。少しおしゃれなストーリー。

  • 中短編、3編。
    それぞれ、北京、上海、台湾を舞台に繰り広げられる、ちょっとした時間の中の物語。
    「慢、慢、走」

  • +++
    北京、台湾、上海――刻々と変わりゆくアジアの街で、変わりゆくことを強いられる年頃の日本の女性たちは何を見つけるのか。時の流れに移ろうものとそうでないものを、主人公の心の機微に沿いながら丁寧に、どこかユーモア漂うタッチで描き出す三篇。
    「北京の春の白い服」の舞台は、自由経済化が女性のおしゃれにも波及し、ついに中国国内でのファッション誌創刊が許された1999年の北京。日本でフリー編集者をしている夏美は中国の出版社からの招へいに応じて雑誌創刊準備のため働くことになる。アメリカ人の恋人ジェイソンは「君の価値観は受け入れられないだろう」と渋い顔だが、年齢的にも国内でのキャリア的にも微妙なところに差し掛かっている夏美には必要な変化に思えた。だが、いざ始まった北京での春物ファッション撮影は想像以上に過酷。大陸ならではの厳寒ロケ、流行の白い服はあっというまに黄砂で汚れ、現地スタッフとは一から十まで意見が食い違う。そこに追い打ちをかけるような「ほら、僕は正しかっただろう?」と上から目線の彼氏からのメール……。こんなはずじゃなかった。追い詰められた夏美の前に開けた道は? 実際に女性誌編集者として中国に赴いた著者の経験が活かされた一篇ほか、失恋したばかりの娘が、かつて台湾に留学していた母の恋の手がかりを追って現地の青年と旅をする「天燈幸福」、夫の転勤についてしぶしぶ上海に移った妻の異国の地での戸惑いと発見を描く「時間の向こうの一週間」。異国の風景の中を、不器用ながら飄々と明るく旅をするヒロインたちの姿が、静かな共感を呼ぶ中篇集です。
    +++

    舞台は中国。主人公は日本人女性。年齢や立場はそれぞれだが、単身中国へやってきて、戸惑い、反発し、もどかしさを感じ、ためらいを覚えながらも、その大らかさに溶け込んでいく――というか取り込まれていく――姿が描かれている。日本とのギャップのみならず、中国国内にも存在するギャップ――過去と現在とか、貧富の差とか――に目を瞠りつつも、抱き留められるような安心感と心細さを感じさせられる一冊である。

  • 中国周辺が好きなんだな、中島さんは。

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著者プロフィール

1964 年東京都杉並生まれ。小説家、エッセイスト。出版社勤務、フリーライターを経て、2003 年『FUTON』でデビュー。2010 年『小さいおうち』で第143 回直木三十五賞受賞。同作品は山田洋次監督により映画化。『かたづの!』で第3 回河合隼雄物語賞・第4 回歴史時代作家クラブ作品賞・第28 回柴田錬三郎賞を、『長いお別れ』で第10 回中央公論文芸賞・第5 回日本医療小説大賞を、『夢見る帝国図書館』で第30 回紫式部文学賞を受賞。

「2022年 『手塚マンガで学ぶ 憲法・環境・共生 全3巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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