監禁面接

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (462ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163908922

作品紹介・あらすじ

『その女アレックス』の鬼才ルメートル、最新作。 徹夜必至。一気読み保証。 どんづまり人生の一発逆転にかける失業者アラン、57歳。愛する妻と娘たちのため、知力と根性とプライドをかけた大博打に挑む! 鬼才のノンストップ再就職サスペンス! リストラで職を追われたアラン、失業4年目。再就職のエントリーをくりかえすも年齢がネックとなり、今は倉庫でのバイトで糊口をしのいでいた。だが遂に朗報が届いた。一流企業の最終試験に残ったというのだ。だが最終試験の内容は異様なものだった。〈就職先企業の重役会議を襲撃し、重役たちを監禁、尋問せよ〉 重役たちの危機管理能力と、採用候補者の力量の双方を同時に査定するというのだ。アランは企業人としての経験と、同じく人生どんづまりの仲間たちも総動員し、就職先企業の徹底調査を開始した。そしてその日がやってきた。テロリストを演じる役者たちと他の就職希望者とともに、アランは重役室を襲撃する! だが、ここまでで物語はまだ3分の1。「そのまえ」「そのとき」「そのあと」の三部構成を操って名手はアランと読者を翻弄する。残酷描写を封印、ルメートルが知的たくらみと皮肉なブラック・ユーモアを満載して送るノンストップ再就職サスペンス!

感想・レビュー・書評

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  • タイトルにはあまり惹かれなかったというか、むしろ引き気味でしたが。
    ルメートルにしては残虐描写がないとのこと。
    そして、失業したサラリーマンが面接で奮闘する話だということで読みました。

    57歳のアランは成功した管理職だったが、4年前にリストラされていた。
    再就職に苦しみ、倉庫係をしていたが、そこでもトラブルになって首になってしまう。
    愛し合っている今も美しい妻と、やや俗物だがまじめな長女、弁護士をしている気が合う次女という幸せな家族も、しだいに崩壊の危機に。

    とある会社の最終面接まで残ることに成功。
    ところが、最終試験というのが非常に変わったものだった。
    採用する人間を選ぶのに、危機に際してどう行動するかを見るという内容だったのだ。
    追い詰められているアランは、このチャンスに賭けるしかない。
    知恵と人脈を駆使して予測をたて、ありとあらゆる手を使って巻き起こる事態に対処する、その顛末は?

    面接の後の意外な展開も含め、読みごたえがありました。
    苦い部分も含め、やや皮肉で大人な味わいがさすがフランス、さすがルメートルという印象。

  • ピエール・ルメートルの新作です。
    表紙裏のあらすじに、残酷描写はないと書いてあったので今回は安心して読めました。

    主人公は57歳の失業者のアラン。
    物語は「第一部 そのまえ」「第二部 そのとき」「第三部 そのあと」に分かれています。
    「そのまえ」は少し退屈でしたが、すべてが「そのとき」「そのあと」への鮮やかな伏線になっていたことが、後でわかります。
    「そのとき」の後半から話は急展開し、俄然、面白くなってきます。二転、三転し、ワクワクしながら読みました。
    さすが、ルメートルです!

    テーマも現代社会らしいものだと思います。
    社会的弱者をばかにする、社会的態度は卑劣であると思います。主人公アランの怒りは正当だと思います。
    犯罪を犯しても、世に知らしめたくなる気持ちもわかります。

    ただ、この話はラストに深い悲しみが、漂っています。
    家族の為によかれと思って全部やったことなのに、お金で幸せを買うことはできなかった。
    失ったものの方が大きかった。
    こんな悲しみもあるのだと、思いました。

    『天国でまた会おう』の続編と、ノンシリーズのノワールが近日刊行予定だそうですが、このまま快進撃を続けていってほしいものです。

  • #読了 #監禁面接 #ピエール・ルメートル
    失業4年目、60歳を目前にしながらアルバイトで糊口をしのぐアラン。ふたたび返り咲くためには、何としても重役会議襲撃を成功させなくてもならない…
    三部構成の中でも、「そのあと」がスピード感溢れアランの頭脳が冴えわたり読んでいて感嘆しました。

  • アレックスが面白かったので、こちらも読んでみた。期待以上で非常に面白かった。特に「そのあと」はほぼ一気読み。こんなに先を急いで読んだ作品は久しぶりだった。まだ読んでいない人にはぜひおすすめしたい1冊だ。

  •  出版当時ハードカバーだったし、あんまり行けていない邦題だと感じたのでパスしたのだが、その後も他のルメートル作品(すべて初版が文庫本)を読んで外れがないために、Amazonで古書を漁って廉価で取り寄せるに至る。でもポケミスなども比較的新しい翻訳小説は¥2,000を超えるものも珍しくない現在、ハードカバーは高いという旧来の概念はそろそろ見直すべきなのかもしれない。

     閑話休題。邦題はともかく内容は完全なるページターナーであった。いつもの警察小説と違って、どこにでもいそうな小市民的五十代男性が主人公である。元は中堅どころの人事系管理職であったのが、フランス国内で拡大する人員整理の流れを受け失職、応募先の企業で奇妙過ぎる採用面接を受けることになる。面接中に襲撃を受けるという状況を作り出し、そのシミュレーションを通して5人の採用候補面接の能力を見極めるというもの。まさにタイトルはここにあるわけだ。

     主人公は人質になる側ではなく、採用側職員候補としてここに望む。人質たちのビッグ企業ではなく、人事業務の請負会社の側である。採用側と応募者側の同時選別シミュレーション。こう説明しても難しいと思うのだが、読んでゆくと必ずしもそれだけが物語を構成する主題ではないことがわかる。もっともっとずっと面白いものが満載なのが本書なのだ。

     人質シミュレーションの実際を時間軸の中心に据えて、作品は「そのまえ」「そのとき」「そのあと」の三部構成になっている。ちなみに「そのとき」が一番短く、そこに至る経緯、そこでの驚愕の展開、そのあとの予測のつかないどんでん返し、と、結局はいつものルメートル劇場に喝采を贈る結果になること請け合いの不思議フレンチ(ノワール)ミステリーなのである。

     ちなみに原題は「黒い管理職」。犯罪小説というより企業と個人とのコンゲームに近い小説であり、それ以上に、家族や友達との絆の物語でもある。とりわけどのページにも主人公の愛や友情が半端ではなく、だからこそ、突然の暴力や脅迫や守るべきものの多さ、失ってしまうことの悲しみ、などの感情面の起伏が小説を毛緊迫した時のなかに閉じ込めている。それゆえに疾走感のある読書タイムがぼくらにはもたらされるのである。

     逆転不能の状況をどのように切り抜けるのか、主人公の大して特殊能力も持たない人柄や弱い性格、予測不能の博打に打って出る無謀さなど、はらはらし通しの第三部「そのあと」は目を背けたくなるピンチの連続。どんでん返し小説だろうとの予測の中で全くそのトリックやストーリーが読めないところもルメートルならではの魔術的手腕である。

     最後は少し涙が出そうになった。愛と友情の深さや強さ。そういうこともしっかり描き切ってくれるところが、大人の小説を感じさせる本書なのである。うーむ。

  • 原題は「黒い管理職」という肝心の中身をバラしかねない題だ。邦題の方は、まさにピエール・ルメートルといったタイトル。しかし、カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズの持つ嗜虐趣味と謎解きの妙味はない。仕事にあぶれた中年男が持てる力を振り絞って、地位と金を手にしようと必死にあがく姿をサスペンスフルに描いたクライム・ストーリーである。

    五十七歳のアランは目下失業四年目。僅かな金のために働く仕事先で、足蹴にされたことに腹を立て、上司に頭突きを食らわせる。それで失職し、訴訟を起こされる。二進も三進もいかなくなったアランのところに、応募していた大手の人材コンサルタント会社から書類審査に通ったという手紙が来る。キツネにつままれたような気持ちで筆記試験を受けると、これも合格。面接試験を受けることに。ところが、最終的に四人にしぼられた候補者の中から一人を選ぶ試験というのが問題だった。

    そのコンサルタント会社では、ある大企業の大規模な人員整理を担当する人材を探していた。最終的に絞った五人の候補者の中から一人を選ばなければならない。大規模な人員整理となれば反対運動がおこるのは目に見えており、それに動じることなく冷静に判断を下せる者を見極めるには通常の試験では難しい。コンサルタント会社の考えたのはとんでもない方法だった。

    試験と称して候補者を一室に集め、そこをゲリラに急襲させる、というものだ。もちろん犯人グループは偽物で、武器その他も実弾は入っていない。しかし、事実を聞かされていない候補者たちはパニックに陥るに決まっている。そういう場面でも冷静に判断を下せる人材は誰か、を見極める試験官を別室に潜むアランたちにやれというわけだ。候補者たちに候補者を選ばせるという一石二鳥の名案だった。事件が起きるまでは。

    小説はアランの視点で面接までの経過を記す「そのまえ」。「人質拘束ロールプレイング」のオーガナイザー、ダヴィッド・フォンタナの視点で事件の経緯を記す「そのとき」。そして、またアランの視点で事件のその後の出来事を描く「そのあと」の三部で構成されている。これが実にうまくできていて、この小説の鍵を握っている。

    アランには美しい妻と二人の娘がいる。姉のマチルドは銀行家と結婚し、妹のリュシーは弁護士だ。幸せを絵に描いたような生活は、アランの失職で一気に瓦解する。妻の働きのせいで、なんとか暮らしてはいけるものの、着古したカーディガン姿の妻を見るたびに、自分の力のなさが思いやられ、アランは娘たちにも引け目を感じている。フランスの話だが、日本に置き換えても何の不都合もない、身につまされる境遇に主人公は置かれている。

    ついこの前までは同じ位置にいた者に足蹴にされたら、誰だってプライドが傷つく。ましてや五十代のアランはまわりからおやじ扱いを受ける身だ。ふだんはキレたりしないが、再就職の口が見つからずイライラしていたところでもあり、つい暴力をふるってしまう。最初に暴力に訴えたのは相手だが、その上司は目撃者を買収することで裁判を有利に進めようとする。買収されたのは金に困っていた同僚で、証言を変えるはずもなかった。

    アランとしては、コンサルタント会社の面接に合格するしか道はなかった。まずは、その大手企業と匿名の候補者について知ることから始めねばならなかった。探偵会社を雇い、調べさせることはできるが、それには金がいる。娘の夫に借金を申し込むが断られ、娘を説き伏せ、新居のために積み立てた資金を取り崩させて探偵社に払う。もう一つ、人質拘束事件について実際に知っている人に話を聞きたいとネットに投降した。これにも元警察官のカミンスキーから連絡があり、彼の指導で練習を積み準備はできた。

    だが、作者はピエール・ルメートルだ。そうやすやすと話は通らない。コンサルタント会社に勤める女からアランに電話がある。会ってみると、面接は見せかけで、採用者はすでに決まっている。アランはただの当て馬だという。この試験のために娘の新居の資金をふいにした。これが駄目なら裁判に勝てる見込みはない。自暴自棄に陥ったアランはカミンスキーから拳銃を手に入れ、試験会場であるコンサルタント会社に出向く。

    見せかけの「人質拘束ロールプレイング」が途中から本物に変わる。コンサルタント会社の担当者も、オーガナイザーのフォンタナも、事態の急変を予期できなかった。「そのとき」で、事件の実況を受け持つフォンタナは傭兵経験を持つ百戦錬磨のつわものだ。その男の目に映るアランの姿は単に試験のために緊張しているにしては異様だった。その男はアタッシュケースからやおら拳銃を取り出すとその場を仕切りはじめるのだった。

    怒りに任せての復讐劇かと思わせておいて、「そのあと」で描かれる事件の顛末がいちばんの読みどころ。まるで映画のような見せ場がいっぱいだ。拘置所内でアランを襲う恐怖。娘リュシーの弁護のもとに行われる裁判劇。本業である自分が一杯食わされたことに腹を立てるフォンタナとアランの手に汗握る駆け引き。息もつかせないカー・チェイス。初めはもったりとしたテンポではじまった話がハイ・スピードで走り出す。

    話自体には、それほどの新味はない。ただ、アランを助ける友人その他のキャラが立っていて、くたびれた中年オヤジにしか見えなかったアランも、ひとつ場数を踏むたびに逞しくなり、勘は冴えわたり、巨悪を相手に一歩も退かないところが、だんだん頼もしく目に映るようになってくる。家族を愛する男はこうまで強くなれるものか。結末は万々歳とはいかない。いろいろと無理がたたって、ほろ苦い後味を残す。しかし、一皮むけたアランの明日にはかすかな灯りがほの見えてもいる。

    カミーユものとは一味ちがう、ピエール・ルメートルの小説家としての多面的な才能がうかがえる作品である。はじめは、さえない中年男の話かと少々だれ気味に感じられていたものが、ギアが切り変わるたびに加速されるような感じで、一気に加速すると、あとは一気呵成だ。息つく暇もなく読み終えてしまった。

  • 失業4年目、57歳アラン。仕事探しをしつつアルバイトで食いつないでいたが、応募した会社でテストを受け通過し、ようやく最終面接まで残る。しかし、最終試験は、重役たちの選抜昇進試験でもあり、重役たちにアランが質問を投げかけるといったものであった。その試験は重役たちの危機管理能力を見るため襲撃されるといったシナリオがあったのだ。さらに、試験も裏があり…試験の「そのまえ」「そのとき」「そのあと」に分かれ物語は進んでゆく。
    アレックスのような殺人事件・残虐なものではなく、失業のお話であり、アランの語り口調で楽しめるところもある。長いながらも(最初は特にそう思ったが)終わってみると、丁寧に全体を作り終えたなあと完成度が高いと思いました。
    切り返しが鮮やかであり、「そのあと」のアランの心理描写はもう、ノンストップで読み終える勢い。失業問題が根にあるけれど、男の意地のお話(そしてその結果のお話)でもあるかな。

  • ルメートルの小説といえばカミーユ警部シリーズをはじめとした猟奇殺人がつきものと思ったが、本作は猟奇殺人は無し。失業中の中年男性が再就職のために奮戦するのだが、そこはルメートルの小説なので一筋縄ではいかない。大どんでん返しがあるが、読後、一筋の寂しさと侘しさを感じるがそこがまたいい味を出している。

  • いやいやもういいよ!と突っ込みたくなるハラハラドキドキの展開だった。
    個人的には普通のサラリーマン中年の失業という悲哀が何とも言えず読んでいてつらかった。
    タイトルがよくない・・

  • 著者お得意の残忍な表現は形を潜め、心理戦が繰り広げられる。
    しかし、主人公のアランは、決して頭脳明晰な男ではない。
    ずっと人事に関わっていたが、今は失業中で、歳は60手前。
    正直なところ転職市場では、全くもって厳しいと言わざるを得ない。
    妻子を愛してはいるが、仕事を見つけようとするあまり、娘たちにも迷惑をかける男で、全く感情移入できない。
    昭和日本の企業戦士、みたいだ(今も変わっていなそうだけど)

    三部に分かれている物語は、「そのまえ」、「そのとき」、「そのあと」に分かれている。

    「そのまえ」はアランの転職市場でジタバタする様子が描かれ、それが次第に「うまい話」になっていく。

    「そのとき」は、実際に銃を持った人間が押し入り、会社の人々を人質に取る。
    こう言う時にこそ人の本質が現れる。
    まさに人事、面接官が見たいのはそこなのだろうと思うが、果たして選別する側も、気付いているのだろうか。
    自分たちも、見られていることに。

    「そのあと」は、この事件のせいで、アランの妻をはじめ、家族たちが危機に見舞われる。
    でも、どこか冷めた目で見てしまうのは…アランがあまりにも最初から最後まで自分勝手だから?
    結局誰にも感情移入できず、すっかともせず、あの事件は何だったんだ、とぼんやり考えて読了。

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