汚れた手をそこで拭かない

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163912608

感想・レビュー・書評

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  • お金にまつわるブラックなミステリー短編集。5編が収録されているが。その中で「埋め合わせ」は、誤って学校のプールの水を半分抜いてしまった小学校教師が講じた画策を同僚教師に見抜かれるまでの心理状態の描写がリアルで巧み。繕おうとすればするほど、深みに陥っていく過程が興味深く、一番気に入った作品であった。
    熱中症で孤独死した隣人の意外な一面がひょんなことから暴露される「忘却」、工務店で働いていた時、自分が持って行った脚立のせいで人を死なせたと気に病む夫を余命わずかな妻が推理で救う「ただ、運が悪かっただけ」も意外な展開が面白かった。

  • タイトルに惹かれました。
    ざらっとしたものが残る話ばかり。

    最初の夫婦の話は好きです。お互いを思いやる愛情が感じられて。
    老夫婦の話も、お隣さんが…ですが。
    他は自分の嘘を隠そうとして泥沼に入り込んでいく人たちの話。
    結論は、やっぱり真っ当に生きましょう!ということですね。

  • 粒揃いのイヤミスで、実にイヤらしい。小市民的なのがポイントか。年末のミステリベストで評価されそう。

  • 本作はイヤミス短編集で「僕の神さま」も面白かったのだが、個人的にはこっちが好みだった。

    タイトルが自分に向けて言われているようでドキッとする。確かにトイレ後ジーンズで拭くことありますけど…見られてた?

    どれもじくじくと湿度が高く、そこに金銭が絡んでよりリアルに感じられる。読んでいただければ分かるのだが、あの脚立…そしてプールの栓…電気代マジか…薬物で上映が…靴ね…と一つ一つは些細な事柄なのだが、それを塗り固めてしまうと身動きが取れなくなる悪手の連続。嘘が嘘を重ね、焦る主人公たちの感情をひしひしと感じる。嫌な汗かいてるんだろうなぁ

  • 5話からなる短編集。

    「ただ、運が悪かっただけ」
    主人公は余命いくばくない主婦。
    彼女は夫から、昔、人を殺した事があると言われる。
    聞いてみれば、以前勤めていた工務店の顧客の男性に使い古した脚立を売った所、その脚立から落ちて死んだのだと言う。
    当時、その顧客の家には、家出して20年ぶりに帰ってきていた娘がいたと言う。
    さらに、死ぬ前に顧客は大金を手にしていたと言うー。

    「埋め合わせ」
    主人公は男性教師。
    彼はプールの水を抜くというミスを犯してしまう。
    以前同じような事例があった時の事と照らし合わせて弁償しないといけない・・・と思った彼は、他で水が出たままになっていたと見せかけるため細工をしようとするが、そこを同僚の教師に見つかってしまう。

    「忘却」
    自宅を売り、アパート暮らしの老夫婦。
    ある日、同じアパートで一人暮らしの男性が孤独死する。
    死因は熱中症で、死亡時、エアコンがつけられてなかった。
    実は、彼が死ぬ少し前に男性の電気代の請求書が誤って夫婦のポストに紛れ込んでいた。
    妻は認知症の気があり、その請求書を彼に渡すのを忘れていたのではないか、それでエアコンが止まってしまい、男性が死んだのでは・・・と夫は思うがー。

    「お蔵入り」
    主人公は新人の映画監督。
    出世作となるはずの映画の撮影中、その映画の主役である役者が薬物疑惑があるという情報を得る。
    映画がお蔵入りになる事を恐れた彼は役者に会いに行き、薬物使用の事実を伏せようとするがー。

    「ミモザ」
    主人公は料理研究家の女性。
    サイン会で、以前つきあっていた年上の男性と再会する。
    以前は編集長だった彼は今は落ちぶれていて妻とも離婚、主人公に借金を申し入れる。
    彼女は借用書を書いてもらい、お金を貸すが、それが悪夢の始まりだったー。

    どの話もさりげない、日常のささいな事をついていて、そんなささいな事から人間の恐い一面が垣間見えるというのが面白かった。
    とても繊細な感覚だと思う。
    今まで読んだこの作者の本の中ではこの本が一番面白い。
    上品で洗練された仕上がりだと感じた。

    個人的には、「忘却」と「ミモザ」が面白かった。
    「ミモザ」の夫はどういう人なんだろう?
    主人公の女性は「優しい人」と言っていたけど・・・。
    それが一番気になった。

  • 短編集なので読みやすさは抜群。日常の出来事がテーマにされてるので他人事じゃない気分にさせられる。1個選択を間違えるごとにどんどん不幸になっていく感じがリアル。個人的にはプールの話が1番好き。失敗を隠したくて咄嗟に嘘ついちゃう気持ち分かるけど、気をつけないとなあ。

  • 運気は己の行い次第だということをパシッと否定した理屈くささに拍手。

  • 短編集。
    「埋め合わせ」と「ミモザ」が特に好き。
    やはり怖いのは人間。
    「ミモザ」の夫は寒気がした。
    何を考えているのか分からない人は不気味。

  • 心の中に汚い水槽があって、その汚れた薄緑の水面をそっと両手ですくい上げる感覚。そして水が零れ落ちた掌に残る藍藻やらをまじまじと見つめるような読書体験。

  • こんなに息を詰めて読んだ短編は久しぶりだった。
    芦沢さんの書く何気ない文章に含まれた伏線…
    短編なのにズブズブにのめり込んで、本から顔を上げた瞬間息をずっと止めていた事に気づく。
    いやー面白かったー。

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著者プロフィール

1984年東京都生まれ。千葉大学文学部卒業。出版社勤務を経て、2012年『罪の余白』で、第3回「野性時代フロンティア文学賞」を受賞し、デビュー。16年刊行の『許されようとは思いません』が、「吉川英治文学新人賞」候補作に選出。18年『火のないところに煙は』で、「静岡書店大賞」を受賞、第16回「本屋大賞」にノミネートされる。20年刊行の『汚れた手をそこで拭かない』が、第164回「直木賞」、第42回「吉川英治文学新人賞」候補に選出された。その他著書に、『悪いものが、来ませんように』『今だけのあの子』『いつかの人質』『貘の耳たぶ』『僕の神さま』等がある。

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