汚れた手をそこで拭かない

著者 :
  • 文藝春秋
3.58
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本棚登録 : 3735
感想 : 390
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163912608

感想・レビュー・書評

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  • ★4.0
    全5編が収録された短編集。「ただ、運が悪かっただけ」と「忘却」は、まだ主人公の心を軽くしてくれる内容だったものの、他3編は見事なまでに主人公がどつぼに嵌っていく作品揃い。中でも、「埋め合わせ」で嘘を塗り重ねていく主人公があまりに痛々しい。そして、「ミモザ」の元彼が本当に気持ち悪いものの、最終的なオチは少し分かりやすかった。当事者は気が動転しているから気付かなくても、第三者は夫が帰ってきた時点で「あれ?」と思ってしまう。全体的に腑に落ちる話揃いで面白くはあるものの、直木賞はちょっと違う気がする。

  • お金にまつわる後味の悪い短篇集。
    些細な悪意やズル、余計な事をしたばかりに面倒に巻き込まれる後悔。ふとした瞬間に陥る取り返しのつかない事態。
    サラサラ読みやすくてよく出来たお話で、本当に嫌な気分になった。

  • 日常のちょっとしたことが徐々に影響を及ぼしていく。そのじわじわくる感じが不気味。なんとかごまかそう、逃げ延びようと画策することと、打ち明けようという迷いの葛藤。大きな仕掛けがあるわけではないけれど、だからこそ日常に続いているのを感じられ誰の生活にもスッと入り込んでくるような物語。一編一編は短いけれど心になにか残るようなものがどの短編にもあってとても面白い。

  • +++
    平穏に夏休みを終えたい小学校教諭、認知症の妻を傷つけたくない夫。元不倫相手を見返したい料理研究家…始まりは、ささやかな秘密。気付かぬうちにじわりじわりと「お金」の魔の手はやってきて、見逃したはずの小さな綻びは、彼ら自身を絡め取り、蝕んでいく。取り扱い注意!研ぎ澄まされたミステリ5篇。
    +++
    「ただ、運が悪かっただけ」 「埋め合わせ」 「忘却」 「お蔵入り」 「ミモザ」
    +++

    初めはほんの小さな出来心、保身、思いやり、といった小さなほころびだった。それが、もがけばもがくほど広がり、とうとう修復不可能なところまでいってしまう。その家庭の心象風景や、自身で感じられる周囲の景色の変化が恐ろしくて、興味深い。思わず次の展開を待ち望んで引き込まれてしまう。こんなはずじゃなかったが、これはすべて自分の罪なのだろうか、と自問するとき、人は、本性をさらけ出すのかもしれない。他人事ではない恐ろしさをはらんだ一冊だった。

  • ラストでドキッとするような感覚がとても面白い。芦沢先生のそういう話がとても好き。
    特に【忘却】と【お蔵入り】のオチがとてもゾッとする話でお気に入りでした。

    【忘却】は意味が分かると怖い話風でシンプルに怖い。
    【お蔵入り】はオチを察したけど、それでも最後の一言が怖いな、、、と感じた。

    全ての話でお金が絡んできてるせいか緊張感がとても伝わり、話の進行と共になんとなく「やばい、、、」と感じてしまい恐くなる。

    殺人事件のミステリーとは違ったお金と言うテーマの話であった為、芦沢先生の他の作品と違ったようなキレを感じた。
    個人的にはインパクトのある事件を絡めた話の方が好きだったし、期待し過ぎた感があり物足りなさを感じてしまった。

    この作品を読んで面白いと感じたのなら、「許されようとは思いません」を読んでほしいなと思いました。

  • 初・芦沢央でした。短編集,例えば2作目「埋め合わせ」は,過ってプールの水を抜いてしまった小学校教諭が水道料金の請求を恐れてごまかしを図る話で,途轍もなくスリリングな物語に仕上がっています。他作も些細な綻びが徐々に広がっていき破滅に至る様に手に汗握る。脇役の悪意にもヒリヒリする。

  • 約一年ぶりの読書にはもってこいの選書だったと自分を褒めたい。特徴的な書名が目に入るたび気になってはいたので、読破できてとりあえずは満足。ただ、帯で煽っているほど怖くないし、新しくもないし、だからといってつまらなくもない。読書の筋力が衰えきった私には丁度いい作品でした。

    簡素で平易、癖もなく素直な文体で描写もそこそこ丁寧。プロット重視で文体にはあまり重きを置かないタイプとみた。東野圭吾ほどシンプルではないけれど、恩田陸ほど文学的ではない、池井戸潤あたりが近しいような印象。短編作品全てに同じような薄暗く湿った空気が流れていて、ミステリーだからと言われたらそれまでなんだけど、ちょっと違う温度を差し込んでも良かったかなと思う。初めて読む作者さんで、しかも短編集なのでこれが全てとは言わないけれど、機会があれば他の作品も読んでみようかな、という程度。でもとりあえずは、このくらいの軽さならばすいすい読み進めるように、読書筋をまた一から鍛えねばなと思いました。

    ■ただ、運が悪かっただけ、、、よく作り込まれてるな、と思った。自分の理屈っぽさがコンプレックスで、かつ中西の娘と同じように余命幾許もない十和子だからこそ辿り着けた真実が、最期に長年の呵責から夫を救う。にも関わらず、冷たい真実と十和子の最期が相まって暗い読後感。唯一、夫の自責の念はどこから?(実直で責任感が強いからと言われたらそれまで)という違和感を除けば、本当に隙のない構成。上手い。
    ■埋め合わせ、、、客観的に見ればこの短編集の中で一番取り返しがつきそうなのに、一番焦りが心に迫って苦しかった。ジリジリと追いかけるような粘着質で細かい描写が見事に効いている。丸く収まりはしないだろうと思っていたけれどまさかの終着。これは予測できない。
    ■忘却、、、個人的には一番好き。認知症の妻然り、急逝した息子然り、自業自得の隣人然り、内容的には多分に重さを孕んでいるのに、丁度いい短さに丁度いい塩梅の薄暗さでまとめた丁度いい短編。重いのに軽い。
    ■お蔵入り、、、予想しうる結末。ただ、映画人生をかけた作品が正当に評価されるまで誤魔化せれば良かった筈なのに、罪から永遠に逃れられる可能性が出てきた途端に傾く天秤がなんとも人間臭くて良き。その後を読者の想像に任せられる余白が大きいのも、色んな想像ができて良いなと思った。
    ■ミモザ、、、これも予想がつく話。に加えてドツボに嵌っていく美紀子の焦りが真に迫ってこない。情景は浮かんでくるんだけど下手な再現ドラマみたいな感じ。ただ、夫の自分へのベクトルの大きさやその質を察する場面は、美紀子と同じように衝撃だった。これも「お蔵入り」と同じように色んな想像ができて良き。

    書名にはなにか意味があるのかなーと薄っすら思いながら読んだんだけど、全く見当がつかなかった。でも好き、センスある。

  • 五編の短編集。初めて読む作家の本。う〜ん、なるほどと共感するところもあり、そうかなぁ?と首を傾げるところも。でも最終編の「ミモザ」はイライラがつのるそんな主人公の行動には全く共感出来ない。

  • 心理描写が上手い作家さんだ。
    主人公が追い詰められていく過程にぞわりとさせられた。
    5編の中でも「埋め合わせ」と「忘却」はリアル過ぎる! 
    ああ〜読まなければよかった。

  • 汚れた手になったとして、それを見なかったことにすると…。自分にもこういう要素があるんだろう。

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著者プロフィール

1984年東京都生まれ。千葉大学文学部卒業。出版社勤務を経て、2012年『罪の余白』で、第3回「野性時代フロンティア文学賞」を受賞し、デビュー。16年刊行の『許されようとは思いません』が、「吉川英治文学新人賞」候補作に選出。18年『火のないところに煙は』で、「静岡書店大賞」を受賞、第16回「本屋大賞」にノミネートされる。20年刊行の『汚れた手をそこで拭かない』が、第164回「直木賞」、第42回「吉川英治文学新人賞」候補に選出された。その他著書に、『悪いものが、来ませんように』『今だけのあの子』『いつかの人質』『貘の耳たぶ』『僕の神さま』等がある。

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