イスラーム国の衝撃 (文春新書 1013)

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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166610136

感想・レビュー・書評

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  • イスラム政治思想史の専門家によるイスラム国の台頭の裏側にある歴史的・宗教的背景や、その台頭を招いた中東の政治的状況などがまとめられた一冊。論旨が非常に明快であり、なかなか理解しにくいイスラム国を巡る状況の見取り図がぱっと頭に入ってくる点で、非常に貴重。

    このわかりやすさは、著者が冒頭で説明しているように、イスラム教という宗教が持つ政治思想史の文脈と、中東の政治的情勢の文脈の両面からの説明がなされていることに起因しているのだと思う。読了して実感したが、確かにイスラム国がアルカイダ以降の政治思想を引き継いだ政治思想的な内在的側面と、アラブの春以降、独裁国家が崩壊したことによる中央集権的政府の空白の誕生という外在的側面の両面からの説明は非常にロジックとしてわかりやすい。

    読み終わって個人的に感じたのは、国民国家(Nation-State)という枠組みの限界が、こうした問題にも現れているということだった。本書では、イスラム国が最初はイラク北部から勢力を拡げつつ、シリア内戦に乗じてシリアへ勢力を広げることで、イラクからの軍事攻撃を避けることができたという意味合いが語られているが、これはまさに一方は国民国家という枠を超えて自由に動いている中で、他方はその枠組みに縛られて動かざるを得ないという問題を露わにしている(もちろん、21世紀に入ってからの過激派テロは概ねそのような国家の枠を超えた活動をする点に特徴があるわけで、特段イスラム国が顕著だとは思わないが)。

    もちろん、新書ということもあって、詳細な点は語り足りないところはあるのだと思うけれど、イスラム国について何かを知りたいという僕のような人が最初に読むには適切だと思う。

  • イスラム国による日本人人質事件が起きて、得体のしれないものの恐怖に慄いたので得体が知ればちょっとは怖さが和らぐかなと思ったのがきっかけ。
    あのときはニュースでもちきりだったのに、今じゃどうだろう。みんな忘れてるんじゃないかな。とかいいつつ私自身も人質になった方の名前が思い出せない。後藤さんだったか。

    第三次世界大戦が起きるときはイスラム国が発端になると思ってるんだけど、それを予期させるものがあって怖い。

    イスラム国が作った年表
    1.目覚め 2000-2003年
    2.開眼 2003-2006年
    3.立ち上がり 2007-2010年
    4.復活と権力奪取と変革 2010-2013年
    5.国家の宣言 2013-2016年
    6.全面対決 2016-2020年
    7.最終勝利 2020年

    9.11は2001年に起きている。
    国家を名乗り出したのも去年あたりと記憶している。この年表どおりに世界が進んでるとしたら、2016年に戦争が…考えたくないけど、これまでの歴史がそれを証明しちゃってる。

    その他、目にとまった箇所抜粋
    ・最終目的は世界規模でのカリフ制イスラム国家の再興
    ・アラブの春以降、独裁政権が倒れるもそれに代わる政権樹立に至っていない国が多い→国が管理できない無法地帯が生まれる
    ・それがシリア。イラクに駐留していた米軍が捨てて行った(撤退)武器がイスラム国に流れる
    ・戦闘員は金銭的な代償よりも、崇高なジハード目的のために一身を犠牲にするつもりで渡航している

    この本を読んだ後に、「アメリカンスナイパー」を見てとてつもない空虚さを感じた。イラク帰還兵のPTSD、心の病について。

    宗教VS宗教の争いは、いつ終わるのだろう。

  • 最近立て続けに出版されているイスラム国関係の書籍の中では良書に属する。
    著者の池内氏は現在中東政治とグローバルジハードに関してそれぞれ執筆中とのことなので、上梓されるのを心待ちにしている。

    この本が良書である所以は、綿密な情報分析がベースにあることである。特に、2020年の世界規模でのカリフ制の再興に至る行動計画も記述されている。

    (1)目覚め(2000年〜2003年)
    (2)開眼(2003年〜2006年)
    (3)立ち上がり(2007年〜2010年)
    (4)復活と権力奪取と変革(2010年〜2013年)
    (5)国家の宣言(2013年〜2016年)
    (6)全面対決(2016年〜2020年)
    (7)最終勝利(2020年)

    イスラム国をテロ活動と認定して戦っている欧米諸国は、この行動計画と戦っていることになる。
    では、日本はどうすべきか。このことについては著者は以下の様に述べている。

    ”「イスラーム国”への対処は、日本の自由主義体制と市民社会の成熟度を問う試金石となるだろう。”

    つまり、まずはイスラーム国の歴史的背景を正しく理解し、日本が欧米と共同戦線を張るのか、独自の立場をとるのか、国政レベル、市民レベルそれぞれで十分な議論が必要だということだ。
    今はまだ他人事となっている部分が大勢を占めていると思われるだが、原油問題も含めて生活に直結する問題でもあるので、日本としてどうあるべきか、日本の利益だけを考えるのではなく、国際社会の中でイスラームとはどういう付き合い方をするべきかの姿勢を明確にすることが、日本が国際社会の一員として果たす役割と言えるだろう。

    一方で、著者はイスラーム社会にも提言をしている。

    ”イスラーム世界にも、宗教テキストの人間主義的な立場からの批判的検討を許し、諸宗教間の平等や、宗教規範の相対化といった観念を採り入れた宗教改革が求められる時期なのではないだろうか。”

    どちらかの一方的な勝利ではなく、相互理解による共存が望ましいという著者の意見には賛成だ。

  • ジャーナリストの後藤さんがイスラム国で殺害されるまで中東のことに全く興味がなかった。報道されたニュースを見ても何が真実なのか歴史的な背景もわからず評論家たちの言ってることが正しいのかも分からない。それでまずこの本から読むことにしたが基本的なことがわかってないので読むのに苦労したし理解もできない部分が多かった。それでも大まかなアウトラインはわかってきたのでこれを基礎にして新聞記事など中東関係の記事を読んで行こうと思う。

  • 僕がイスラーム国について知っていたことなんて、本当にごく一部でしかなかったということをこれでもか、これでもか、と見せつけられた気がします。

  • 「イスラーム国」が世界を驚かせたのは,2014年6月にイラクで広範な地域を制圧した時である.(冒頭の一文)

    自分用の要点
    ISISの原点は,アルカイダの一派.アフガン戦争後,地下に潜ったアルカイダは,テロ組織のフランチャイズ化を図る.
    アラブの春以降の混乱に乗じて,政治空白地帯を占領.スンニ派の支持も得る(政権がシーア派,クルド人も自治権が与えられていた).
    2011年の米軍全面撤退後,マーリキー政権の失策.スンニ派を迫害.フセイン残党も合流.
    シリア内戦を機に,イラクとシリアの両国に拠点を持つことで幅が広がった.国境を越えて追えないため.
    アラブ諸国は自国内の反体制の過激派を真面目に制圧しなかった.イラクに流れさせておけば,自国は安全.

  • ISIS、ISIL、ダーイシュと呼ばれるテロ集団のことを理解するのに、最も適した入門書と紹介されていたので買ってみた。
    やっぱり、歴史的経緯を鑑みて国境線は引き直した方がいいのだろうけど、そんなの簡単にできないよね。


    1)オスマン・トルコ崩壊時に列強が勝手に国境線を引いて火種が元からあったが、これまでは強権的な政権がその火種を抑えてきた
    2)強権的な政権が倒れ、米軍が撤退した後の政権の空白地帯に、ISのようなテロネットワークが拠点を得た
    3)テロネットワークは、アル・カーイダのような従来型のテロ組織と違った性格を持っている
     ・明文化された「グローバル・ジハード」という思想で自律的に活動し、中心・強い連携を持たないので行動が把握しにくい
     ・イスラム法に則った国を作ると宣言していて、欧米や世俗的な政権に対する対抗勢力として、ある程度支持を集めてしまう
     ・倒された強権的政権のメンバを取り込むことで軍事的プロ集団になっている
    4)アラブの春後に選挙によってできた政権は、これまでの強権的政権に抑圧されていた恨みから、対立勢力を弾圧してしまうので国を統一するような力を持てない
    5)ただし、国を作るために都市を制圧して拠点を作るので、従来型の軍隊での対処が可能で、全世界的に広がるという可能性は低い

  • イスラム国ないしISILないしISISの出現とその伸張について私は、正直、先日の日本人人質事件があるまでほぼ無知に等しかった。中東にこれだけの大激変が起きているのに知らなかったとはやはり忙しさにかまけててはいけない、ということだと思う。著者の池内氏はこの分野は日本の研究者の中では図抜けて詳しいという。なので2月、急ぎ読んでみた。

    なるほど。オレンジ色の囚人服を着させてやたらに残酷な映像をハイ・メディアリテラシーで前々から流していたのはこの勢力だったのか。そして、このオレンジ色の囚人服はアルグレイブ等米軍収容所の囚人服を意図的に使っていたのか。。なぜいまイスラム国が成立しているのか、本書を読むとその文脈がわかる。イラン革命、アフガニスタン紛争、湾岸戦争、9.11、イラク戦争、そしてアラブの春。。これら混乱と報復の数十年間の経緯の上に、21世紀、突然にイスラム教の本願であるイスラム一神教国、カリフ制の樹立のような歴史的なものが乗っかってくるのだから、人間のなすことはなんとも複雑で不思議としかいいようがない。

    とまあ、知的好奇心だけでみればそういう一神教世界の他人ごとで興味深く読めるのだが、世界は経済や情報の力でどんどん小さくなっており、アジア多神教圏とも一衣帯水、現実の影響がどんどん出てくるので見逃すことはできない。これからは定期的に情報を更新してきちんとした理解を持つ事にしよう。

    イスラム国や世界情勢を理解したい人にはオススメの本。

  • 学術的な側面からしっかりとイスラーム国が検証されている。単純な感情的な批判ではなく、では我々は何をしなければならないのか、ということのヒントになる。テレビではしきりに貧困や差別が原因と位置づけられているが、そんな単純なものではないよと諭しているようだ。

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著者プロフィール

東京大学先端科学技術研究センター教授。専門はイスラーム政治思想史・中東研究。著書に『アラブ政治の今を読む』(中央公論新社)、『増補新版 イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社)『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』(新潮選書)、『シーア派とスンニ派』(新潮選書)など多数。

「2022年 『UP plus ウクライナ戦争と世界のゆくえ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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