新装版 富士山頂 (文春文庫) (文春文庫 に 1-41)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167112417

感想・レビュー・書評

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  • 史実に基づいた話。葛木測器課長の姿は気象庁の役人と作家の二足の草鞋を履いた著者がモデルになっている。
    ここぞというところで意思を曲げず、押し通す。
    この人がいなければ、こんなに短時間で、
    富士山レーダーは実現しなかっただろう。

    ヘリでレーザードームを山頂に運ぶ山場や、
    台風に宿舎が飛ばされたり、責任者が噴火口に
    落ちてずぶぬれになりながらも、運用にこぎつけた。
    伊勢湾台風で膨大な被害をだしてから5年ほど。
    気象衛星ひまわりが運用されるまで、この日本を
    守り続けていた本当にすごい大事業に、
    ロマンや、男たちの心意気や誇りなどを感じる。
    まさに、プロジェクトXの初回にふさわしい内容。

    しかし、富士山山頂ということ以上に困難なのが、
    国の組織と役人たちの勢力争いに、許可庁の横暴、
    マスコミや企業の圧力。
    はっきりしない正体の幽霊の出現に、さすがの葛木も上司の村岡観測部長のことを考えると妥協せざるをえなかったが、相手方の自滅により助かった。実際に似たようなことがいくらでもあるのかもしれない。
    それにしても、いろんな人と渡り合い、押し切るところは押し切り、引くところではいくらでも頭をさげ、富士山頂での頭痛を乗り越える体力もあり、文才もある、周りの人にはさぞ煙たかろうが、著者はすごい人に違いない。誇張もあるかもしれないと思ったが、別の人の手記にも同じエピソードが出ているので、現実に近いところもたくさんあるのではないだろうか。

  • 『八甲田山』などの山岳小説で知られる新田次郎の作品。富士山レーダーの入札から稼働の物語。山岳小説でありながら、入札における企業間の駆け引きなど、産業小説としての一面も持ち、読み応えがある。
    リアリティがあり迫真の物語だなぁと感じたが、本書の背景などを調べてみると、事実を題材にしていた。しかも、著者である新田次郎はこの富士山レーダー事業の気象庁側の担当課長であり中心人物の一人。この仕事には、思い入れがひとしおだったのだろう。良書。

  • 名作と言われているので、一度は読んでおこうということで読了。
    さすが、プロジェクトX第1話のテーマになった富士山レーダー建設の話。それを気象庁の測器課長というまさに中心的な役割で推進したのが当時小説家との二足のわらじを履いていた新田次郎本人。そりゃあ小説にもするわな。

    富士山頂はときに風速60mを超える風が吹く過酷な環境。工事は雪の消える夏場に限られ、その中でもヘリが飛ばせるような良好な天候の日はもっと限られる。しかし2年で事業を完遂させねばならない。(まぁ、予算上2年でやるって言っちゃったからという風にも見えましたが。。)
    そこで手を挙げてくるメーカー3社+α。業者選定からしっかり書く辺りが誠実と言うべきなのか、とは言え様々な人の思惑が交錯する姿が描かれ、建設開始・完成までの軌跡が描かれていきます。

    個人的には、面白いのですが少し淡々としすぎているような感もありました。記録なのか小説なのかで言うと前者寄りのような気がしていて、もちろん富士山という歴史に残る仕事だという憧れはそれだけで燃える要素ではあるのですが、それを更にドラマチックにする見せ方は(敢えて?)しなかったように感じました。
    どちらかと言うと役所の中の縄張り争いやしきたりのバカらしさがありのままに、せっかくの富士山レーダーを邪魔するありのまま厄介なものとして描かれていて、意趣返し的な側面があるのでしょうか。。
    著者自身、と言うか主人公葛木は役所の中でも一貫して自分の考えを主張する「うるさ型」という役回りで、作家もやっているから…なんて言われつつも強力に仕事を進めていきます。文句なしにカッコいいのですが、自分でそれを描くことの難しさ!だからこそ淡々としているのでしょうか。

    自然描写が圧巻だったので、今度は山岳モノでも読んでみようかな。

  • 「要するに二億四千万で、富士山レーダーに関する一切合財の仕事をすればいいのだ」(P.57)

  • 『官僚たちの夏』のレーダー版(気象庁版?)といった一冊。
    しかし、『官僚たちの夏』が法改正・人事・予算一辺倒であるのに対し、むしろ現場での苦闘が描かれているのが良い。
    予算折衝のくだりは(冒頭でこそあれ)冒頭の高々10ページにとどまっていて、その後の実現のための各種調整に重きが置かれていることが象徴的。

    「これこそ人生を賭してなすべき一大事」との気概を抱いて、関係各社が奮闘する様子が描かれる。
    気象庁職員にあっても、その覚悟を基に、本件事業にあっては多少泥臭く動いている。
    また設置業者に対しても「銘板に名を遺す」と鼓舞して、「皆で取り組むのだ」という意思を示し団結している。
    こんな仕事、出会えたら、良いなぁ。

  • 気象庁が富士山頂に天気予報用のレーダーを設置するにあたり、実際に気象庁に勤めていた著者が入札から工事、完成までを描いている。

    富士山は標高3776m、冬の間は工事ができない。短い夏の間に無事終えることができるのか。
    当初、山頂までの荷上げは馬を予定していたらしい。馬とな!結局荷物はブルドーザーで運ばれる。

    富士山頂ゆえ、気候の変化も激しく台風が直撃すると、強風で生命の危機に陥るほど。
    ブルドーザーで運べない資材を天候と風向きをみて、ヘリコプターで運んだ話はプロのパイロットテクニックに感動した。

    たぶん相当大変ですごい偉業を成し遂げた話なんだろうけど、本としての面白さはなかった。

  • 藤原正彦さんの本をほぼ読破して、次は新田次郎と思いはじめに手に取った一冊。富士吉田市出身の私にとって富士山レーダーは身近な存在。中学の学園祭ではレーダーを設置した男たち的な演劇もした。
    まさか新田次郎が、富士山レーダー建設の責任者だったとは。大蔵省から予算をとりつける話からメーカー入札の話、建設最中の話など、事細かに書かれている企業小説。とても面白かった。

  • 2014*11*10

  •  富士吉田市にある富士山レーダー館を参観して、新田次郎の作品を読んでみたいと思っていた。
     並々ならない苦労。富士山という霊峰への憧れと、世界一の気象レーダーというのが相混ざって、私欲を捨てて向かっていった男たちの姿に迫力がある。
     実話ではヘリコプターによるドーム屋根の設置には危機一髪というところだったが、そういうところをクローズアップするのでなく、公務員としてのしばり、役所と企業とのからみ、富士山の自然情景等、幅広く描いている作品だった。高度成長期へ向かう底力を見せてくれた作品にも思う。
     新田氏でなければ書きえなかったでしょう。

  • 山岳小説だけでなく大手重電メーカーの特徴、役所の実体験などコンパクトな一冊で贅沢な内容。

    入札、難航する工事、完成後の顛末を描いた富士山での三菱電機気象レーダー完成にいたるまでの経緯。

    作者のノンフィクションと言っても過言でない。
    お役所に所属していた作者だからこそ、合理性からかけ離れた妙な縄張り意識を描いた臨場感溢れた作品。
    役人•官僚って大変ですね。と思いつつ、意外に自分の所属している組織でも、大なり小なりあるよねと苦笑いしている自分がいます。

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著者プロフィール

新田次郎
一九一二年、長野県上諏訪生まれ。無線電信講習所(現在の電気通信大学)を卒業後、中央気象台に就職し、富士山測候所勤務等を経験する。五六年『強力伝』で直木賞を受賞。『縦走路』『孤高の人』『八甲田山死の彷徨』など山岳小説の分野を拓く。次いで歴史小説にも力を注ぎ、七四年『武田信玄』等で吉川英治文学賞を受ける。八〇年、死去。その遺志により新田次郎文学賞が設けられた。

「2022年 『まぼろしの軍師 新田次郎歴史短篇選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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