- Amazon.co.jp ・本 (549ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167309558
感想・レビュー・書評
-
タイトルの意味は「花嫁修業学校」。
しかしこの穏やかなタイトルとは裏腹に内容は骨太の大傑作。ロシアという閉鎖的な大空間においてありとあらゆる人々の人生が錯綜し、壮大なる絵画を描く。
発端はロシアを旅行中のアメリカ人青年がふとしたことから迷い込んだ森林の中に建設された「チャーム・スクール」からの脱走兵との邂逅から始まる。冒頭のここら辺の文体は牧歌的だがこの青年がやがて大使館にこの存在の一報を入れたその瞬間から物凄い緊張感を纏って進行する。
「チャーム・スクール」―それはベトナム戦争などで捕虜となったアメリカ兵をインストラクターとし、アメリカ人としての教育をロシア人に施し、アメリカへスパイとして潜入させるための学校。やがては世界各地の民族に対しても同様の学校を作り、ロシア人で世界を支配しようと画策する。この物語はこの「チャーム・スクール」を設定し、そしてこれを一介のアメリカ人青年から大使館へ電話させたという構成をとったことでほぼ80%完成したといってもいいだろう。
通常の作家なら通俗的に超人的な能力を持つ凄腕のスパイを配し、ハリウッド映画ばりにアクションシーンをふんだんに盛り込んで銃撃シーン、格闘シーン、爆発シーンを連続させて「チャーム・スクール」に捕らえられているアメリカ人捕虜の救出、黒幕の抹殺、そして施設の壊滅を派手派手しく描く所だが、やはりデミルはデミルである。おいそれとそう簡単にはそういった手法を採らない。
まずは大使館や外交官といった特権階級の人間でさえ、ロシアでは外出するのも捕虜として捉えられる事と紙一重である事をこの電話に対しての主人公二人の活動を通じて詳細に緊張感をもって描く。この作品は一貫してそういった緊張感が張り詰めている。
ロシア、そしてロシア人というのは資本主義社会では到底考えられない自分勝手な哲学、主義が横行し、憚らないのだと読者の胸に刻み込むように描かれる―しかし、アメリカ人作家の手によるロシアの描写であるから情報としては一面的である事を忘れてはならない。過剰に書いてあるだろう事は推測できるから全てを鵜呑みにしてはいけないだろう―。
そういった背景を緻密な描写を丹念に重ねながら、チャーム・スクールの調査、侵入の困難さを少しでも触れれば切れそうな張り詰めた糸のような緊張感の下、確かな筆致で描く。
(下巻の感想に続く)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
デミルのユーモアと機知、アクションの融合があり、のちのコーリーシリーズの原型がある。ストーリーの唐突さが読み進んでいくと本当にありそうな気になってくる。
-
上下巻。最後まで誰が味方かわからなくてハラハラした。続編もあればいいのに〜。