人口減少社会の成長戦略 二宮金次郎はなぜ薪を背負っているのか? (文春文庫 い 17-14)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167431143

感想・レビュー・書評

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  • 現東京都副知事の猪瀬直樹の作品である本書は、著者が小泉政権下で公共事業が縮小されるなかで起こった建設業の労働問題、その解決策の発想の基となった二宮金次郎の生涯を描いた作品である。

    本書を読んで、著者の発想方法を垣間見ることができた。少子高齢化を基調とした経済の低成長時代は、現代の課題であるが、歴史を振り返ると、同じ問題をすでに江戸時代の後半で経験していた。その解決策の事例として二宮金次郎の荒廃農村の再建策を研究している。独自のアイディアではなく、偉大な先人の知恵を学び、それを発想の基とし、現代に生かす。その過程を読み取ることができた。

  • 小学校にあった二宮金次郎の銅像。薪を背負いながら、読書する姿は、彼の一面であった。努力の人だけではなく、効率化が彼の真骨頂。薪を売って稼いだお金を運用して、貧しい人たちに貸して、皆が幸せになる。コスト削減によって生じた余剰をどう使うか…そこが本質である。
    低成長時代の現代で、いかに効率的に働くか。国民全てが、そうできれば富は増え、右肩上がりの経済成長並みの、富を実感できるはず。

  • 仕事のヒントにつながればと思って読んでます。読み物としても面白い。空いた時間で少しずつ。

  • 二宮金次郎をイメージするなら貧しいけれど勉強を怠らず
    そして将来は偉い人になりましたと・・。そんな感じです。
    たしかに金次郎の銅像を見ると薪(たきぎ)を背負いながらも読書に励む金次郎少年がいるし
    早くに父親を亡くして働かなければならない状況にいた。
    しかしあの銅像は「学ぶついでに収入を得る」と言う少年の合理主義者としての象徴だった。
    少年という特権を活かして(大人が勝手に薪を拾っていたら地主に怒られる)利益の高いエネルギーを勉強のついでに売っていた
    さらに得た収入をただ消費するだけでなく低金利で人に貸すことで資産運用する。その複利は金次郎ファンドとして町の領民を救っていく・・。
    その後の「分度」という概念は現在の平成ニッポンにもっとも必要なアイデアなのではないでしょうか?
    低成長・人口減少・・当時の江戸後期時代と現在の共通点はあまりにも大きい。
    その逆境の時代を真正面から受け止めた林蔵(金次郎)の現代版を待望したいものだし
    著者である猪瀬さんは東京都副都知事。金次郎の考案した金融モデルを大いに理解した本人そのものだから
    当時の領地を再生させた金次郎の如く東京都さらには日本の再生を期待してしまう。

  • 勤労、勤勉、そういった徳目の象徴くらいの認識でしかなかった二宮金次郎が実は先進的な金融システムの発案者だったことに驚く。
    現代と同じ、人口減少、低成長社会であった江戸の中期に金次郎が行ったことから今に学べることは多いようだ。

  • 今の日本と同じような低成長、人口減であった江戸の1時代において二宮金次郎はどのような行動をとったのか。という視点が面白いとおもった。卓越したリーダー力とか抽象的なものではなくて、合理的な金融モデルを構築したというところが面白い。グラミン銀行を思い出した。

  • 「道路公団民営化」を推進した著者のメッセージは、「これからは、農業民営化だ」。二宮尊徳の功績については、詳細かつ正確である。

  • 10年位前に小田原市の報徳博物館に行った事が、あるがすごく感動したのを思い出した。副知事になった著者は何をみしてくれるのだろうか(期待している)

  • 当たり前のように小学校にあった二宮金次郎像。
    勤勉の人という先生の説明であったが、金融・経営コンサルだったとは。
    これからの人口減社会について、もっと考えさせられたしもっと今の日本は歴史から学ぶべきとも思った。
    また、猪瀬氏の抽斗の多さ・・・色々な歴史的事実および例え・・・を出し行ったり来たりしながらも核心を突いてくる文章が非常に興味深く読めた。

  • 二宮金次郎の偉大さが今ようやく分かった。というか、今までにその実像をここまで分かりやすく示してくれた人はいなかった。 報徳教とか報徳思想というものの存在は知っていたが、どうにも雲をつかむような話でよく分かっていなかった。(何より、戦前・戦中の報徳教育のせいでイメージが悪かった) しかし、本書では金次郎の「財政再建の実践」を描くことで、非常に鮮明にその本質を浮かび上がらせている。 ・分度=プライマリーバランス ・五常講と冥加金の推譲=マイクロファイナンス、(金利の)再投資、非営利活動(利益の分配を目的としない) ・入り札=チームビルディング、モチベーションの維持 ・積小為大=複利効果、余剰の再投資 などなど、現代でも再発見・再発明されているようなアイディアが目白押しだ。 江戸時代の農民・町民のたくましさ、競争の厳しさに比べると、現代日本のなんとぬるいことか。現代に生まれてよかった(のか?)。 それに対して、幕府や藩などの行政機構の頭の固さ、保身に走る卑しさについては、現代の政治家・官僚とあまり変わり映えしていない点は、苦笑するしかない。 [more] ・「終身雇用は日本の伝統」は間違い。江戸時代の奉公は「年功序列」ではあったが、同時に「能力主義」も徹底されていた。 丁稚・小僧などの「子供」は11〜14歳。そこで一旦郷に戻され、実力のある者だけが呼び戻される。次が手代で生き残れば「初登り(旅費とボーナスが付く里帰り)」。呼び戻されれば幹部候補として色んな部署を経験させられる。その後も「登り」を経て実力が認められれば地位が上がる。徹底した能力主義の競争社会だった。 ・五常を指針とした。「忠、考、悌」を除く「仁義礼智信」。身内ではなく他人同士の関係性を重視したためと思われる。(身内意識は腐敗につながる?) ・積小為大。「大きなことを為したいならば、小さなことを怠らず務めなさい。小人は大きなことを望み小さなことを怠るから、成し遂げられない」 ・コンサルタントの限界。実質的な権限(司法、立法権)を武士が握っていて、重要なポイントを押さえられない。権限移譲のための賭けに出る。成田山に雲隠れ。 ・メディアとしての銅像。偉大な教えも、やがては後継者によってゆがめられ、あるいは都合の良い解釈をされ、矮小化してしまう。単なる道徳の話になったり、精神論だけになったり。 ・豊田佐吉は父の影響を受け、報徳思想に帰依していた。つまり、あのトヨタにも金次郎の教えが関わっている。

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著者プロフィール

猪瀬直樹
一九四六年長野県生まれ。作家。八七年『ミカドの肖像』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。九六年『日本国の研究』で文藝春秋読者賞受賞。東京大学客員教授、東京工業大学特任教授を歴任。二〇〇二年、小泉首相より道路公団民営化委員に任命される。〇七年、東京都副知事に任命される。一二年、東京都知事に就任。一三年、辞任。一五年、大阪府・市特別顧問就任。主な著書に『天皇の影法師』『昭和16年夏の敗戦』『黒船の世紀』『ペルソナ 三島由紀夫伝』『ピカレスク 太宰治伝』のほか、『日本の近代 猪瀬直樹著作集』(全一二巻、電子版全一六巻)がある。近著に『日本国・不安の研究』『昭和23年冬の暗号』など。二〇二二年から参議院議員。

「2023年 『太陽の男 石原慎太郎伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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