玻璃の天 (文春文庫 き 17-5)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167586058

感想・レビュー・書評

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  • 「街の灯」に続く“ベッキーさん”シリーズの第二弾。
    英子の成長とともに世の中には不穏な空気が流れるようになっていく。クラスメイトの内堀家で催された講演会で出会った陸軍少尉若月との短いやりとりが印象的だ。全体を通して、ただのお嬢様ではない英子の生きる姿勢ともいうべきものが表れているのがこの第二弾ではないだろうか。
    そんな中、ある事件をきっかけにベッキーさんの正体も明らかに…。
    「街の灯」に続いてミステリーという側面ではちょっと納得いかない本書だが、変化が見られたのはよかった。

  • 『街の灯』の続編だから読んでみたが、目が離せないほどおもしろい。『幻の橋』『想夫恋』『玻璃の天』の連作三編。平家物語、伊勢物語、枕草子とお抱え運転手ベッキーさんの教養が主人公・英子さんを助ける。英子さんも冴えている。図書館に調べものに行くくだり、パーラーでお食事する場面、新発売の電池式懐中電灯など、時代の匂いをうまく漂わせてタイムスリップ感を味わわせてくれる。その一方「時間を元に戻すことはできない。私たちは前に進むしかないんだわ」とベッキーさんの過去を知った主人公の言葉が心に残る。玻璃の天のトリック、美しくてなかなか良かったです。

  • 久しぶりのベッキーさんシリーズ。かなり前に『街の灯』を読んで以来だな。シリーズ最終巻の『鷺と雪』が直木賞なんだよね。今度読んでみたいが。

    内容としてはまあまあ面白かった。北村薫の書く世界観ってのは、やっぱり独特。主人公の女の子がやっぱり独特なんだろうなぁ。円紫さんシリーズの『私』もそうなんだけどね。

    ただ、この本は謎解きよりも若月少尉やベッキーさんに「富める者(=花村英子)」と「その日暮らしの庶民」との違いを語らせているところがハイライトなんじゃないかな、と思うんだけど。

    結局英子は、世間知らずのお金持ちのお嬢ちゃん、でしかないんだよね。使用人であるベッキーさんとは、最後の最後までその1点は交わらないんじゃないかと感じた。

    どれだけ英子がベッキーさんのことを慕っていたとしても、ね。

    その点が、この本の評価されるべき点であり、切ない部分でもある、と思うんだけど、どうだろう?

  • ベッキーさんシリーズ第二弾。
    やっぱり面白い、綺麗というかしなやか?文体、家族、言葉、会話、雰囲気、イメージが綺麗。推理小説のはずだけど、それだけじゃない。
    ベッキーさんも好きだが、やはり主人公英子がお気に入りだ。令嬢だが、好奇心旺盛で行動力があり、我儘でもなく、理解もある。前作より成長してるなぁと「幻の橋」では伺える。とても15歳前後?だとは思えない。自分よりかなり教養があるだろう。和歌すら読めない日本人なんで反省している。もうちょっと文学を勉強しようと思う。このままだと、まずい……。
    あと昭和初期という舞台も覗けて、楽しい。コピー機でコピーが10分程かかる。何っ‼これが当時の最新なのか。俺が生まれた時には携帯電話がすでに誕生してたし、パソコンもあった。可笑しな気分になる。

    「玻璃の天」。玻璃とは、硝子のことだ。ここでは、ベッキーさんの素性がやや触れられる。見所だね、これが。他にも見所は山ほどあるが…。この時代ならではの暗がここにはある。
    「幻の橋」が個人的には好きなんだが。どうだろう。

  • ベッキーさんはかっこいいし、英子さまも賢くて、脇役のお兄ちゃんも可愛くて魅力的だけど、少し重苦しいところが多かった。

  • 「街の灯」がおもしろくて、一気に3部作を読み終えてしまった。
    短編でありつつ、連作としてのおもしろさもある。このシリーズを読んでいると、銀座と軽井沢に行きたくなる!

  • 「蛍と雁」

    <マイ五ツ星>
    私の愛:★★★★★

    <あらすじ>-ウラ表紙より
    昭和初期の帝都を舞台に、令嬢と女性運転手が不思議に挑む〈ベッキーさん〉シリーズ第二弾。犬猿の仲の両家手打ちの場で起きた絵画消失の謎を解く「幻の橋」、手紙の暗号を手がかりに、失踪した友人を探す「想夫恋」、ステンドグラスの天窓から墜落した思想家の死の真相を探る「玻璃の天」の三篇を収録。

    <お気に入り>
     その夜の夢には、濃い黄色の福寿草が現れた。《夢には色がない》という人がいる。わたしは、子供の頃から、よく色の付いた夢を見る。これは動かすことの出来ない事実だ。人の夢の中までは、誰も足を踏み入れることなど出来ない。断じて。

    <寸評>
    ※※今回は作品の内容に結構触れます※※

    なぜ気付かなかったのか。
    前作の『街の灯』のレビューを見返して、思う。
    「帝都」を舞台に「昭和七年から」スタートする、「名門家の令嬢」の「成長譚」。
    ……どうしたってぶつかるではないか。

    本作は、直木賞受賞作『鷺と雪』で完結する“ベッキーさんシリーズ”の第二弾、ちょうど中間にあたるものである。
    読み終えた後、オビにあった次作完結編となる『鷺と雪』の紹介を見て、絶句した。
    「昭和十一年二月、物語は切なくも劇的な幕切れを迎える。」

    宮部みゆきさんの『蒲生邸事件』が人生ベスト3に入る俺が、これを見るまで気付かないとは……。
    やはり俺も、昭和の人間ではあっても、あくまで末期の人間なのだと痛感した。

    はじめから、終わりは見えていたのだ。
    「雪」降りしきる、あの日の帝都が……。


    さて、前作『街の灯』のときにも書いたが、このシリーズは日本最後の封建社会の中で生きる主人公・花村英子と、彼女の運転手兼ボディーガードで、かつ相談相手であるベッキーさんこと別宮みつ子が、昭和初期の帝都の上流社会の中で出会う様々な謎を解き明かす、“やんごとなき探偵小説”である。今回の三つの短編は、どれも恋を題材にした淡い物語をベースに、和歌や古典をスパイスに読みやすいミステリーとなっている。そして、前作同様にミステリーの本筋以外の叙述の中で、昭和初期の日本の姿を垣間見ることのできる物語である。

    満州事変をすでに経て、大戦に向かうしかないことを予め知る読者は、この物語の明るさの中にもいくばくかの陰りを感じざるをえない。


     (本文より)
    「-たってとおっしゃるなら、申し上げましょう。軍の方には、お耳障りの筈。しかし、庶民には力となる言葉です」
     ベッキーさんは、いった。
    「-善く敗るる者は亡びず」

     (同)
     冬だから地は暗く、彩りとなるような花はない。こっそり福寿草を植えれば、そこに黄色の燈が灯る。

     (同抜粋)
    「どうにもならないことはあるのよ。ベッキーさんの願う道は、時間を元に戻して、……止めることでしょ。……-でも、それは出来ない。そんなこと、誰にも出来ない。だから苦しい。-わたし達が進めるのは前だけよ。なぜ、こんなことになったのか。このことを胸に刻んで、生きていくしかないのだわ」


    信念に生きる別宮、そしてまだ若いお嬢様でありながら確たる正義感を持つ英子、この二人の「女性」の姿は、我々読者の今在る現代、これを創り上げた礎ではなかったか……。著者・北村薫さんのそのようなメッセージを感じる、秀作である。

  • 一作目に引き続き、耽美な昭和初期を舞台に、柔らかく描いている。
    推理小説ではあるが、推理小説っぽくなく、大正から昭和の文化を感じるにはとても良い本だと思いました。
    上品な小説です。

  • 5
    シリーズ前作「街の灯」を読んだときは、それほど面白いというわけでもなく、かといってつまらないというわけでもなく、そこそこ興味を引かれる北村作品に目を通しましたというぐらいの感想だった。しかし本作はぐいぐい物語に引き込まれる。面白い。前作も読み返したくなるし、読めば以前と異なる感想になるだろう。次作も早く読みたい。

  • ベッキーさんシリーズ二作目。昭和初期が舞台のミステリシリーズ短編集。とにかくこの時代の雰囲気が良い。ベッキーさんがかっこいいというイメージだったけど、主人公のお嬢様もかっこいいんだなぁ。

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著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大学時代はミステリ・クラブに所属。母校埼玉県立春日部高校で国語を教えるかたわら、89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。著作に『ニッポン硬貨の謎』(本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(直木三十五賞受賞)などがある。読書家として知られ、評論やエッセイ、アンソロジーなど幅広い分野で活躍を続けている。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。

「2021年 『盤上の敵 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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