動物園にできること (文春文庫 か 28-3)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167662035

感想・レビュー・書評

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  • 興味の幅が広く、中立的な視点を心がけた丁寧な取材で定評がある川端裕人の、アメリカの様々な動物園を舞台としたノンフィクション。
    ハードカバー版の初出が90年代後半ということで、もう10年以上前に書かれた作品ですが、書かれている内容はいまだ古びず、どの章もとても刺激的です。

    檻の中に閉じ込めるだけだった「見世物小屋」時代から、動物の権利が意識されるようになった20世紀後半に生まれた、「できるだけ自然の状態に近づけよう」という思想であるランドスケープイマージョンの隆盛、「自然な状態はいいけど動物が豆粒みたいで見えないよ」といった客側のニーズ、「そもそも動物園は、何に向けて存在するべきか」という根源的な問い、費用の問題、広大なテリトリーを必要とする動物や、象などの危険性が高い動物を収容することの是非、出産サイクルが早い動物、寿命が長い動物の管理の問題、動物園同士が協力し合うことで遺伝子の多様性を保とうという「種の保存計画」等々。

    動物園先進国であるアメリカが直面する様々な問題や取り組みが綿密な取材によって書かれており、「生き物」を扱うということは、かくも複雑で難しいことなのだなと思ったり。


    「実際のとこ、どうなの?」と動物に直接たずねることができない以上、動物に関わる事物は人間のエゴと切り離せない関係にありますが、「エゴだから良くない」「自然が一番」で思考停止するのではなく、「エゴかもしれないけれど、それを認めた上で今やるべきこと、そして、この先出来ることはなんだろう」といった、様々な問題を前に考えることをやめない姿勢は、とても信頼できるものだと思います。

    この作品を読んで面白い!となった方は、イブニングでかつて連載されていた良作漫画、『ZOO KEEPER』(青木幸子/全8巻)もオススメです。こちらもぜひ。

  •  ものの見方は本一冊でまるで変ってしまう。サバンナやジャングルから莫大なお金をかけて街で檻の中の動物たちを見ることについての意味を私たちはもっと考えなくてはならない。動物園をなくせ、といいたいわけじゃない。ただ、みんなで考えなくてはいけないことなんだ。動物園はそういう場所のはずだ。

    (宮崎大学 学部生)

  • 世界の動物園がどのような取り組みを行っているのか、そして日本がそのような世界の取り組みに遅れをとっているという事を知る事が出来た。特に動物園における教育活動について関心があったが、それについても多く考えさせられる内容だった。

  • これを読むまで動物園に行って、「かわいい」とか、「寝てる」とか言って終わっていた自分ですが、こうして動物園について考えてみるといろいろあるなぁと。
    7年前のことだから、また少しは状況は変わっていると思いますが、動物の一生を拘束して動物園を作る分、エンリッチメントをしっかりやって欲しいと願います。また、動物園に行ったときにはそのようなことを気にしながら眺めて見たくなりました。

  • 動物園に少し興味が出たので導入として読んでみた。動物園を学問の対象として見たことがなかったので、書かれていることのどれもこれもが新鮮に感じられた。

  • 【内容】
    動物園は絶滅危惧種を救えるか?大自然から切り離された動物たちは幸せなのか?動物園先進国アメリカでのルポルタージュを通じて、子供たちの夢をはぐくむ娯楽施設の裏に隠されたフィロソフィーを探る、新感覚フィールドワーク。日本に於ける最新事情を加筆した“動物園を知るためのバイブル”最新版。

    【感想】
    力作。

  • 10/28/09
    読み終わった
    ランドスケープ・イマージョン、エンリッチメント、遺伝子…。今までの自分の「動物園」という言葉にはつかなかったタグがたくさんついてきた。動物園は教育施設であると自分は思っているので、そのような活動の先進国であるアメリカと、後進国である日本の違いなども面白い。動物園の見方を帰るのには充分な一冊。また読みたい。

  • この方の作品を2作読んで、他にどういう本書いてるのかな〜と検索したら動物園に関する本が出てきました。
    動物園は好きだしじゃあ読んでみるか!と買ってみました。

    自分は高校時代アメリカのワシントンDCに居たことがありまして、よくNationalZooには行きました。
    そうそう、入場料取らないんですよね。いたるところに募金や寄付の箱は置いてありましたが。そういえばお弁当におにぎりを持参して行ったところ、雀が食べ物をねだりに来たのでご飯粒をまいてあげたら食べなかったんですよ。やっぱり文化が違うからかしらねえ〜なんて話をしたのを覚えております。でも、アジア食品の軒下に積んである生米はよく雀の被害にあってましたけどね。
    その当時の話ですからもう…20年近く前になります。トイレの設備にお湯が出たり、車いすの人のことも考慮してバリアフリーだったり。動物の展示スペースもゆったりと取られていて、日本の鉄格子檻のような展示を見慣れていた自分達は日本の動物園とはえらい違うなあ、と感心したことを覚えています。
    あ。もう一つ思い出話が。姉が一眼レフを持って行ったんですよ。当時ですから35mmフィルムですね。その日は本当に良いお天気で、動物たちも機嫌が良かったのか格好の写真モデルとなってくれたんです。ライオンタマリンなぞ本当に2m位の距離でこちらを振り返ってくれたり。で、帰ってきて今日はすごかったねえ、という話をした後、姉が一言。「あ、フィルム入ってなかった…」懐かしいなあ。動物は絶対それを知っていてこちらを馬鹿にしていたに違いない。

    動物園の思い出を話しだしたらきりがありませんが、自分は確かに行き過ぎた報道や、繁殖計画などにそれはどうかな、と思うことはあっても動物園の根源的な存在の正当性などをきちんと考えることはなかったので。この本は色々と勉強になり、また考えさせられる点も多々ありました。

    野生動物の本来の生息地に似せた背景を創り、動物を飼育するイマージョン型の動物展示の発展と背景、エンリッチメント、野生復帰、人工授精、アニマルライツ、動物園の果たすべき教育の在り方、などなど。てんこもりで学ぶことは本当に多いです。いろいろと考えさせられることは多いし、動物主権の方の動物園批判なども面白く読みましたがやはり自分が一番関心を持って読んだのは日本の動物園事情でした。まあこの本が出された当初ですから古いことは置いておいても。体質が…古い。川端氏がアメリカ(やほかの国の)の動物園やその仕事に携わる人とインタビューをなさっているとかなりの数の人が博士号を取っていることに気付きます。そして年齢の若い方で重要なポストに就いていることにも。能力があっても年齢が、キャリアがないと上に配置しない。現場の意見を吸い上げない。…どこも似たような体質、と言ってしまえばそれまでですが。でも最後の最後に旭川動物園の例が出されていて、ちょっとほっとしました。旭川。まだ行ったことないんです。ぜひ行ってみたいなあ〜

    ただ、動物園の問題点もかなり浮き彫りにされてきています。自然環境保護の名をもとに建設されている割には建築資材までには目がいかない。本当の意味で環境保護を教育するのであれば、もっと一貫とした姿勢がとれるのではないだろうか?等々。この本の中で紹介された小さな動物園の姿勢には心から賛同したい。大きなどこかほかの国に住んでいる動物を見ることもいいけれども身近に住む野生動物やその環境に目を向けることも必要なのでは?という。

    葛西の臨海公園の水族館の横にある河川にすむ魚の展示は地味だけれども東京の魚、東北の魚、メダカなんかが居てとても楽しい。千葉動物公園も昔の意図は人間になじみのある動物の祖先、牛や馬の祖先はどんなだった?という主旨動物が集められる予定だったと聞きました。が、やはり動物園には象がいなくては、というような経営判断で今の動物園になったと聞きました。風太君のときの報道の在り方も問題にされていて千葉市民としてはちょっと片身が狭いのです…

    ヴィジョンがない、園長が何年かで転任してしまう日本の動物園。これから上野動物園にパンダが貸し出されてきます。そこまでしてパンダを東京で飼う意味があるのか?そんなことを考えるのにこの本はうってつけだと思います。
    オススメなのです。

  • 何週間か前の話だが、何十年かぶりに上野動物園に行った。
    正直に言って、動物園は嫌いではない。
    珍しい動物が沢山いるし、のんびりとした空気も心地よい。
    でも、「動物園が好き」と胸を張って宣言することは、どうしても躊躇してしまう。
    どう見ても神経症傾向と思われる反復行動を繰り返したり、明らかに肉体的なコンディションの悪い動物たちを、少なからず目にするからだ。
    本来はどこか別の場所で暮らしているはずの野生動物を(経緯はともかくとして)連れてきて、人工的な環境の中で飼育し、それを楽しむ人間のために展示する施設。高村光太郎の「ぼろぼろな駝鳥」を例に出すまでもなく、そんな動物園の有り様に疑問を感じている人は多いであろう。ぼくも動物園の動物たちを見る度に、何とも言えない気分になる。
    では、動物園は「悪」なのか?
    ある女性文化人(?)は、野生動物を見たければ彼らが暮らしている場所まで行って見てくるべきだ、と自身のラジオ番組で発言していた。動物園やアシカショーのある水族館などには決して子供を連れて行かない、と言っている外国人夫婦を見たこともある。
    しかし、個人的には、よく聞くこういった意見にもまた、すんなりとはうなずけない気分なのです。
    動物園に対して、こうした複雑な感情を抱いている人は、たぶん少なくはない気がするよな〜。

    などとつらつらと考えつつ探してみると、まさに同じような動物園への複雑な思いが序文に綴られている「動物園にできること」という本を発見した。
    アメリカの動物園の取り組みを通して、動物園の意味と未来を探るルポルタージュなのだが、ホントにホントに素晴らしい本でした。
    ルポルタージュを読んでいると、「なぜ(まったく意見を異にする)アチラの角度からも取材してくれないのだろう?、コチラの立場の人にもインタビューしないのだろう?」と歯がゆく思ってしまうことが多いのだが、この本に対してはまったくそういうストレスを感じることがなかった。著者の川端裕人さんという方の立ち位置とバランス感覚の取り方が、読者にとってまさに痒いところに手が届くといった感じなのだ。
    川端裕人さんという作家は今までまったくノーチェックだったのだが、ジャーナリストとしてだけではなく、小説家としても活躍されているらしい。
    この本があまりにも良かったので、他の作品もぜひ読んでみたいと強く思いました。

    「動物園にできること」でリポートされているアメリカの動物園とは色々な意味で目指す方向性が違うのかもしれないが、先日ある方のブログで見たドイツの動物園は、なんだか素敵そうな雰囲気だった(当然、犬連れもOK!)。
    作者がこの文庫版で希望を持って指摘しているように、日本の動物園も色々模索しながら変わりつつあるのだろう。と言うよりも、動物園を利用するその国の人々のニーズが変われば、おのずとその国の動物園自体も変わっていくものなのだと思う。

    それと、本題からははずれるが、近代動物園の有り様のひとつのキーワードとなる「エンリッチメント」の概念は、犬と幸せに暮らす上でもよく思い当たることだ、とも感じました。

  • 世界で、そして日本で変わり始めた動物園の新時代を紹介する本。教科書的な入門書といっていい?ほど、平易であるが非常によくまとまっていて示唆に富む。動物園に関心のある人は読んで公開のない本。

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著者プロフィール

1964年兵庫県明石市生まれ、千葉県千葉市育ち。文筆家。東京大学教養学部卒業。日本テレビ勤務中、1995年『クジラを捕って、考えた』でノンフィクション作家としてデビュー。退社後、1998年『夏のロケット』で小説家デビュー。小説に『せちやん 星を聴く人』『銀河のワールドカップ』『算数宇宙の冒険』『ギャングエイジ』『雲の王』『12月の夏休み』など。ノンフィクションに『PTA再活用論』『動物園にできること』『ペンギン、日本人と出会う』『イルカと泳ぎ、イルカを食べる』など、著書多数。現在、ナショナル ジオグラフィック日本版および日経ビジネスオンラインのウェブサイトで「・研究室・に行ってみた。」を連載中。

「2020年 『「色のふしぎ」と不思議な社会』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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