対岸の彼女 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (334ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167672058

感想・レビュー・書評

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  • この作品の感想は、とても一言では言い表せません。けれど人の心理って本来はこういうものなんだよなと思います。
    複雑で、難解で、一度は何でも分かり合えると思った人でも、突然知らない人に見えたり。
    自分でも自分の行動に驚いたりするのだから、人の心を全て理解することなんてできないのだと思いました。

    高校生の頃の葵と現在35歳の小夜子は、時代は違えどもとてもよく似ています。
    高校生の葵には高校生のナナコが、現在の小夜子には現在の葵がそれぞれ対岸の存在として描かれています。

    葵は、対岸に踏み出そうとしてナナコと二人で川に落ち、どんどん流されていってしまうようでした。
    小夜子は、対岸への憧れはあったけれど、歳を重ねると共にできた大切な人への思いが、小夜子を引き止めたように思えます。
    それが、高校生と家族を持った女性の違いなのでしょうか。

    葵とナナコは事件後に一度会ったきり、35歳になった今まで二度と会うことはありませんでした。
    しかし小夜子は一歩踏み出し、一度は決裂した葵と、もう一度関係を築こうとしたのです。
    対岸の彼女ともう一度、同じ方向へ走り出そうと。

    「歳を重ねるのは新しい人と出会うためだ」と結論づけた小夜子。終盤の小夜子の変化は、葵にもたらされたものでしょうか。
    35歳まで歳を重ねた女性はもう大きく変わることはないのでしょうが、それでも新しい人との出会いが自分を変えることもある。
    その変わらなさがリアルで、とても人間らしい。

    葵と小夜子の出会いに限って言えば、人と出会い関わることに希望を持つことができる作品だと思いました。

  • 学生の頃ずっと一緒にいた親友を思い出した。

    社会人になり、たまにしか会えなくなり、ライフステージが変わり会わなくなった。
    あの頃何もかも共感し共有していたものが、離れると、育つ価値観や経験値が変わってくる。
    そうすると自然と会わなくなって、ふと悲しくなるときもある。

    そんなことを繰り返していると、できれば当たり障りなく適度な距離でなんて思ってしまい、大人は本当の友達を作るのが難しくなる。(でも本当の友達ってなんだろう?)
    それでも最後の小夜子みたいに一歩踏み出せばまた違う世界が見えるのかもしれない。

  • 専業主婦の小夜子と社長の葵の二人の主人公を軸に、人と人とのわかりあえなさと、女性の友情を描く直木賞受賞作品。

    自分に取れる選択肢が限られていてがんじがらめの学生時代から、年齢を重ねて「選んだ場所に自分の足で歩いてい」けるようになるまで。大人になる楽しさってそういうところにあるべきだよな、と思った。

    森絵都さんの解説の言葉が美しくて、これも良かった。
    (引用)人と出会うということは、自分の中にその人にしか埋められない鋳型を穿つようなことだと思っていた。人と出会えば出会うだけ、だから自分は穴だらけになっていくのだ、と。
    けれどもその穴は、もしかしたら私の熱源でもあるのかもしれない。時に仄かに発光し、時に発熱し、いつも内側から私をあたためてくれる得難い空洞なのかもしれない。


    一方で、日本の小説を読んでいて定期的に感じてしまうのは、言葉足らずによるすれ違いの多さ。
    共有している文脈の多さに信頼をおいて、気遣いの文化を構築している(=相手の思っていることが分かるという前提で、相手から言われる前に先回りして動く)のは大切にしていい日本らしい文化だと思うけど、
    こと友情関係を結びたいと思っているときに関しては、もう一声腹を割って話すことをしてもいいんじゃないかと思ってしまう。特に苦難に直面しているとき、同じ日本人同士でも、感じることは結構一人一人違うのではないか。日本人の中の多様性に目を向けた方が、より生きやすくなる場面もあると思う。

    これについてはフランスの書評家さんも「日韓文学の基盤にある、コミュニケーション不足の文化」みたいなことを指摘しているのを見たことがあり、ヨーロッパ文化圏との違いが際立つ部分らしく、つい毎回反応してしまいます。

  • ほんとうに女性の描写が上手な作家さんだなあと思います。

    引っ込み思案で人付き合いが苦手な主婦小夜子が、女性社長の葵と出会う。前向きで、色んなものに手を出してしまう社長の葵。思春期の葵時代と交互に話は展開され、明かされる葵の過去…。

    しかし…あまりにも身につまされてねぇ。読むことがしんどくなり、すすまないすすまない。それだけ上手な作家さんだということだと思います。

  • 第132回直木賞受賞作。

    角田さんの作品は「八日目の蝉」以来2冊目の読了となりました。

    まだ2作品しか読んでいませんが、どことなく共通する雰囲気があり、それが角田作品の特徴なのかな。

    本作の主人公は田村小夜子でいいのかなぁ?
    人間関係に疲れ、寿退社をして以来、家に篭もり専業主婦として家事と子育てを行ってきた35歳の小夜子が、家族以外の他者と交わることのない生活から一念発起し働きに出ようと面接を受け、その会社の女社長である葵と出会うところから始まります。

    一見して真逆の人生を歩んできた小夜子と葵。

    彼女たちなりの苦悩が描かれていますが、同時に描かれるのは葵の幼少期。

    時間軸がクロスするばかりでなく、「現在」は小夜子を中心に、「過去」は葵の物語と、主人公もクロスします。

    幼少期の葵は現在の小夜子に似た雰囲気があり、現在の小夜子と葵は真逆な感がする。

    複雑に絡み合ったストーリーをしっかりとまとめあげるのは角田さんならではの見事な作品。

    対人関係の苦悩、自分自身との向き合い方。

    改めて考えさせられました。


    説明
    内容紹介
    結婚する女、しない女。子供を持つ女、持たない女。それだけのことで、どうして女どうし、わかりあえなくなるんだろう。ベンチャー企業の女社長・葵にスカウトされ、ハウスクリーニングの仕事を始めた専業主婦の小夜子。二人の出会いと友情は、些細なことから亀裂を生じていくが……。多様化した現代を生きる女性の姿を描く感動の傑作長篇。第132回直木賞受賞作。 夏川結衣、財前直見が主演、堺雅人、根岸季衣、木村多江、香川照之、国分佐智子、多部未華子の豪華スタッフが共演したWOWOWのドラマは、平成18年度芸術祭テレビ部門(ドラマの部)優秀賞を受賞した。
    内容(「BOOK」データベースより)
    専業主婦の小夜子は、ベンチャー企業の女社長、葵にスカウトされ、ハウスクリーニングの仕事を始めるが…。結婚する女、しない女、子供を持つ女、持たない女、それだけのことで、なぜ女どうし、わかりあえなくなるんだろう。多様化した現代を生きる女性の、友情と亀裂を描く傑作長編。第132回直木賞受賞作。
    著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
    角田/光代
    1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。90年『幸福な遊戯』で第9回海燕新人文学賞、96年『まどろむ夜のUFO』で第18回野間文芸新人賞、98年『ぼくはきみのおにいさん』で第13回坪田譲治文学賞、『キッドナップ・ツアー』で99年第46回産経児童出版文化賞フジテレビ賞、2000年第22回路傍の石文学賞を受賞。03年『空中庭園』で第3回婦人公論文芸賞、05年『対岸の彼女』で第132回直木賞、06年「ロック母」で第32回川端康成文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

  • 自分と主人公が重なる部分があって
    共感しながら読めた。
    人って裏切るし、離れていくけど
    自分を変える価値観を与えてくれたりもして
    人付き合いってやめられんなと思った。
    私も一歩前に踏み出してみたくなった。

  • 読んだことを忘れて再購入。最初の方で既視感あったものの、途中からは初めて読むような勢いで読んだ。男性の暴力的なイジメと違って、女性のイジメはジワジワとくるようですね。公園デビューもそうですが、仲間に入れるかどうか。違和感を感じても、一人になるのが嫌で仲間になる。そんな経験した二人が大人になって出会い、何となく惹かれて、反発したものの、最後は・・?
    その後の物語も知りたくなった。

  • 角田さんは特に日本の女性に共通する感性や価値観を描くのが本当に上手だなと思った。
    充分な自己肯定感を持てずに育った女性が、学生時代も含め、他者と多くを共有しているつもりでいることで、自分の居場所を見つけようとするのはあるある・・・。

    他人と異質であってはいけないという漠然とした強迫観念や、共感に過剰に価値を置く社会の要求に苦しめられているのかも。

  • 人は人と出会うことで、成長する。
    私はいつもそう思っている。

    人の良いところや嫌なところ、
    それらを感じて、感じたことを
    自分に加えて行く。
    そして成長していく。

    この物語も、対岸にいた2人が出会うことで
    2人が成長していく姿に心が動かされました。

  • 心の中の言葉にしにくい感情や、女性独特の感覚が、さらっと、でも的確に表現されているなぁと思った。
    グループとかマウントとか噂話に悪口に。。無くならないし、自分も輪に加わってる時もある。

    でも自分がずっと持ちたいもの、大事にしたいこと、また会いたいと思う人、大人になるに連れて少しは選べるようにもなるんだと思う。
    選ぶって言葉だとなんか上からな感じでちょっと違うな、感覚的には共にって感じかな。選べないこともいっぱいあるし後悔もあるけど、また次に出会えるものもあるから、なんとか踏ん張ってるのかなぁと、私も少しずつ変わっていけてるんかなぁと思った。

著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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