- Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167693015
感想・レビュー・書評
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だいぶ前に読んで大好きだなと感じたまま内容の一切を忘れていた本をもう一度読み直した。
やはり心打たれた。
慎や薫は母(愛人)に何かを教えてもらうのではなく、ただその背中を見る。生き様のようなものを見る、と言えるだろうか。
母や愛人たちのあまりに素直でフラットで、でも弱いような、強がっているような、タフなような姿は、子供を過剰に守りもしなければ排除もせず、子供の目にはまるで見てはいけないものを見てしまっているようで、「猛スピードで母は」というタイトル通り、そこで言葉を止めざるを得ない、子供らの切実な無言を感じるように思える。
また「洋子さん」や、猛スピードな「母」はある意味では不様かもしれないが、不様であることを恐れない。残酷さや薄情さを兼ね備えた、しなやかでひりひりするような女性たちのありように感動する。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
文庫本には「サイドカーに犬」と、「猛スピードで母は」の2作が収められている。
サイドカー…の方は幼い頃の自分と、弟と、父と、父の友人と、父の愛人との一夏の生活をつづった物語。
猛スピード…の方は小六という年齢の割に淡々とした少年「慎」と、その「母」の物語。
いずれの作品も、淡々としている。
両主人公が冷静な性格であり、彼らを中心に話が進んでいくからだろう。
けれど決して読んでいて退屈するわけではない。
するすると言葉が体に入ってくる。
登場人物に感情移入したりしなかったり、共感したり反感を覚えたりしながら
けれど淡々と読み進めていける。
水底から空を眺めているようだ。
自分の周りは少し薄暗く、少し肌寒く、目の前はきらきらとしかし形ははっきりしない。
透明で不安で美しく、ほの暗い。
そんな感じ。
ただ、皮膚の周りになにかまとわりついていて、
ダイレクトに感じることができないもどかしさもあって、
何だか、作者から距離を置かれているような気がして、
ちょっとはがゆい。
「なんかクールなんだけど、もっと本音あるよね。見せてくれよ」と、絡みたくなる。
そんな印象。 -
久しぶりに再読してみた。
今の長嶋氏のような軽快さはこの頃にはないけれど、繊細そうにみえないけれど繊細な移り変わり、みたいなものはしっかりとある。
いつもは最後の解説文みたいなものは読まないのだけれど、ふと読んでみて、書いてあったことに、なるほど、まさにこの感覚、これが長嶋氏だ。
読んでいるといつの間にか吸い込まれていく。アレッ?と思ってもう一度読む。しかし何度でも同じ現象が起きる。その場その場の時間が無限で、こちらはそこに漂うしか術がないのである。 -
とある日常をそのまま切り抜いたような小説。親と子の間にある不思議な距離感の捉え方が好きだった。
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『サイドカーに犬』
ダメ男の父に愛想を尽かして母親が家出している間、
家にやってきた愛人の洋子さんとの日々を主人公が回想する形。
洋子さんのキャラがかっこいい。
ストーリーは特別な点はないものの、人物描写が鮮やかである。
快活で豪気な洋子さんがふと見せた女性としての顔が印象的だった。
表題作よりこちらの方が好きだったかな。
『猛スピードで母は』
北海道で暮らす母子の物語。
小学生の主人公が母の恋人と交流したり、学校でいじめられたりする日常が綴られている。
ちょっと盛り上がりに欠ける感じで、母親にも感情移入できず。 -
これは、「芥川賞」って感じしない。直木賞っぽいよ。
なので、2編ともとっても読みやすい感じでした。
どっちも大人しい子供に、GOING MY WAYの女たちが絡んでいくストーリー。
ん~~。設定がなんか。。。。
こういう子供っている?
まぁ、こういう大人は今の世界いそうだけどね~。
でも、時代設定は私の小さい頃を同じ。。。ちょっとタイムスリップした感じがしたわ。
んーー。
両方とも賞を取ったわりには、なんかこんなもん?って感じがいないでもない。。。(苦笑)
悪くはないけど、普通の本。 -
こういうのはかえって評価が難しい。
嫌いではない。平易な文章。すーっと入っていく話の筋。カメラの視点というか距離間。
だけどそのぶんひっかかる部分がないし、おそらく内容はすぐ忘れる。
「サイドカーに犬」
表題よりこっちのほうが好きだ。
夫婦喧嘩の末に母はいなくなり、代わりに洋子という女がやってくる。父親の友達は麻雀をしに来るし、子供は夜更かししても怒られない。洋子の到来とともに母の決めたルールはすべて取り払われた。
「私」にとってはいつもより自由でちょっと特別な夏休み。
特に母親のことを心配するわけでもなく、母が戻ってきたら戻ってきたで少し罪悪感を感じる「私」の視点が好ましい。
「猛スピードで母は」
タイトルがいいね。
小六なのにクールな慎と、カッコイイ母親の母子家庭。
弱い母親を発見することによって、大人(男)としてちょっと自覚にめざめる、みたいな話。
書き方が露骨じゃないしまなざしがクールなので安心して読める。 -
結婚に失敗した後、一人息子を育てながら市役所で“借金取り”の仕事をする母。車のタイヤ交換もすれば4階の部屋まで梯子で登るのもへっちゃらな、まるで父親を兼ねているような母親を、小6の息子慎の視線で描く。
母が恋人と別れるたび、母が“ふった”のだと決めつけていたが実は違ったのかもしれない・・・。あることがきっかけで慎がそう思い至るシーン。慎の中で母の虚像が崩れて新たな母子関係が生まれた感があって印象的だった。
芥川賞を受賞した表題作の他、文学界新人賞受賞作「サイドカーに犬」を収録。
☆芥川賞・文学界新人賞 -
女性の心理描写が自然なので勝手に女性作家だとばかり思い込んで読んでいたら、男性作家なんですね。描写は繊細なんだけど、登場人物がパワフルで好感が持てます。
表題作が芥川賞。同時収録の「サイドカーに犬」は映画化。 -
とりたてておいしいわけでも、
格別に目をひくわけでもないのに
なんだか癖になる。
大好きだと声を上げて叫ぶほどではないが、
また読みたいと思ってしまう。