構造主義的日本論 こんな日本でよかったね (文春文庫 う 19-5)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (307ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167773076

感想・レビュー・書評

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  • 著者の本の中では淡々と読んだほう。

    [more]<blockquote>P42 言葉を単なる主体の思考や美的感懐の表現手段だと考えている人々は,「言葉の力」についに無縁な人々である。

    P49 「分岐点がない言語」というのはストックフレーズのことである。【中略】外国語を学ぶ時に,わたしたちはまず「ストックフレーズ丸暗記」から入る。それは、外国語の運用の最初の実践的目標が「もうわかったよ,君の言いたいことは」と相手に言わせて,コミュニケーションを打ち切ることだからである。【中略】自分が何を言いたいのかあらかじめわかっていて,相手がそれをできるだけ早い段階で察知できるコミュニケーションが外国語のオーラル・コミュニケーションの理想的な形である。それは母語のコミュニケーションが理想とするものとは違う。

    P71 「もう存在しない他者」「まだ存在しない他者」の現時的な不在を「欠如」として感じ取ることは人間が種として生き延びるために不可欠の能力である。この能力の重要性を過小評価すべきではないと私は思う。

    P97 目の前に「なまもの」がある時に,とりあえず「手が勝手に動いておろしてしまう」というのが機能主義者の骨法である。だから「原理主義はダメだ」というようなことを機能主義者は決して言わない。「原理主義はダメだ」というのはもう一つの原理主義である。

    P163 責任を取るつもりでいる人間が自前の「生身」を差し出している限り,常識的に考えてありえないような度の過ぎたルール違反はなされない。「度が過ぎる」のはいつだって「前任からの申し送り」を前例として受け入れ,その違法性について検証する気のないテクノクラートたちである。

    P174 システムをクラッシュさせた責任は「起源」にはない。「誰に責任があるのだ」と声を荒げる人間たちだけがいて,「それは私の責任です」という人間が一人もいないようなシステムを構築したことにある。

    P195 労働条件が劣化し,消費欲望だけが更新し,性差の社会的な価値が切り下げられた社会に投じられれば,遠からず労働者たちは結婚も出産もしなくなるだろうしそもそもエロス的関係の構築に手持ちのわずかばかりの生物資源を投じなくなるだろうという蓋然性の高い未来予測をグローバリストたちは見落とした。

    P209 自分の手で未来を切り開けるということはない。当然ながら100種類の願望を抱いていた人間は,一種類の願望しか抱いていない人間よりも「願望達成比率」が100倍高い。大方の人は誤解しているが,願望達成の可能性は,本質的なところでは努力とも才能とも幸運とも関係がなく、自分の未来についての開放度の関数なのである。
    未来の未知性に敬意を抱くものはいずれ「宿命」に出会う。未来を既知の図面に従わせようとするものは決して「宿命」には出会わない。

    P247 ある種の「病」に罹患することによって,生体メカニズムが好調になるという事がある。だったらそれでいいじゃないか,というのが私のプラグマティズムである。

    P249 どのようなトラブルについても、最初にしなければならないのは「被害評価」である。【中略】これは極めてテクニカルで計量的な仕事である。悲壮な表情で悲憤慷慨しつつやる仕事ではない。過剰な感情はほとんどの場合,評価を正確にすることには役立たないからである。

    P254 社会成員の全員が,自分でコントロールし,自分でデザインできる範囲の社会システムの断片を持ち寄って,それをとりあえず「ちゃんと機能している」状態に保持すること。私たちが社会をよくするためにできるのは「それだけ」である。「社会を一気によくしようとする」試みは必ず失敗する。

    P275 「荒唐無稽な幻想はそうでない未来計画よりも現実化する可能性が低い」という命題には同意しない。

    P280 だから日本は「毒の回りが速い」のである。「リセット」の誘惑に日本人は抵抗力がない。

    P295 構造主義的なものの見方というのは,私たちの日常的な現象のうち,類的水準にあるものと,民族誌的水準にあるものを識別する知的習慣のことであると言えるのではないでしょうか。</blockquote>

  • 37

  • 散文的で読みづらい。

  • 仕事の合間時間にたまに手に取って読み進めたから、正直内容はあまり覚えていないのです(苦笑)。でもいつも通りの論調だったと思うし、何といっても最後にまんまそのもの、その後一冊の新書に発展する「日本辺境論」の章が収録されているのがその証左。定期的にコンスタントにその著作を読んで、その度に襟を正される作家です。

  • 日本辺境論がでた頃衝撃を受け、内田先生の著作物は全部読んでやろうというくらいの勢いで読んでいた。が、余りにその出版数が多く、中身が薄くなってないか心配になり、最近ご無沙汰していた。

    本書を読み、改めて先生の感性、物の考え方には同意するところも多かった。日本の政治状況に対する捉え方など秀逸で、十年一日の如く、改革、改革と叫んでいる人が多いが、本当に必要な改革なのか考えたほうがいい。先生もおしゃっているように、三等国でも暖かい社会の方が絶対にいいと思う。今の状況は、本書が書かれている時点よりもっと悪くなっていて、不寛容な社会が進行している気がする。弱いものいじめや、正論を押し通すのは、もうやめにしませんか。

  • 戦後の言論空間は「自由」については論じられたが、遂に「責任の所在」については論じられることはなかった。
    蟻の穴を塞ぎ、洪水を防ぐローカルな責任論は良い。

  • 著者がブログに掲載した文章をまとめた本です。

    著者のブログは、コピー・フリー、転載フリー、盗用フリーを謳っています。それは、ブログに発表された考えを一人の主体性を持ったパーソンに帰することはできないという立場を、著者が採っているためです。そしてこうした立場の基礎は、「人間が語るときにその中で語っているのは他者であり、人間が何かをしているときその行動を律しているのは主体性ではなく構造である」という、フランス現代思想の構造主義の考え方があります。

    本書で取り上げられているさまざまなテーマも、こうした構造主義の立場から現代の世相を見たとき、どのような光景が映るのか、というものになっています。とくに、「未来の自分は他者である」ということに気づかず、この広い世界のどこかに自分の適性にぴったり合ったたった一つの仕事があるはずと信じ込んだために苦境に陥った若者たちや、至上のものを求めてばかりで、現在のリソースで何とか折り合いをつけようとするブリコラージュの発想を持たない原理主義への批判などに、著者の基本的な発想のスタイルが明瞭に示されているように思います。

  • 皮肉で付けられたであろうタイトルだけれど、こんな日本でよかったかもしれないと思ってしまった。
    何年も前の文章であるのに、全く古く感じない。
    知的な人間として生きたいな。

  • 本書単行本の広告が新聞に出たとき、すぐ読みたくて書店で探しました。見つけて、立ち読みをしたのですが、これより先にまだ読んでいなかった「寝ながら学べる構造主義」の方を購入しました。それはそれで正解でした。そして、今回文庫になったのを見つけて即購入、ダラダラ読みました。おもしろい。けれど、いつものことながら、だれかに説明できるほど分かっているわけではない。それでも、いつの間にか読んだことが身体に染み込んで知らぬ間に自分の言葉として口から出てくるのではと信じています。振り返って、いくつか気になったところを。格差社会は拝金主義が生んだ。少子化問題は存在しない。コミュニケーション感度の向上を妨げる要因は「こだわり・プライド・被害妄想」。「正しいこと」は「いいこと」とは違う。男女雇用機会均等法の導入に財界が一言も文句を言わなかったのは自分たちに都合がよかったから。グローバル資本主義は行き着くところセックスを禁止する(あいだにもっと理屈がありますが)。「愛国心」という言葉は公共の場で語るべきではない。そして最後に、もうすでに私の身体に染み込んだ考え方。子どもたちに学びを動機づけたいと望むなら、教師自身が学ぶことへの動機を活性的な状態に維持していなければならない。もう一度肝に銘じよう。

  • すべてはじめからあったんだよね。

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著者プロフィール

1950年東京生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。神戸女学院大学を2011年3月に退官、同大学名誉教授。専門はフランス現代思想、武道論、教育論、映画論など。著書に、『街場の教育論』『増補版 街場の中国論』『街場の文体論』『街場の戦争論』『日本習合論』(以上、ミシマ社)、『私家版・ユダヤ文化論』『日本辺境論』など多数。現在、神戸市で武道と哲学のための学塾「凱風館」を主宰している。

「2023年 『日本宗教のクセ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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