女のいない男たち (文春文庫 む 5-14)

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 9507
感想 : 780
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167907082

感想・レビュー・書評

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  • 映画で話題のドライブマイカーが入っている短編7話。
    どれも独特の世界観があり、面白かった。
    特に、東京育ちであるのに大阪弁を話す学生の「イエスタデイ」、憧れている同級生の家に忍び込む女子高生の「シェエラザード」、親戚から譲り受けた家で開店したバーテンダーの「木野」が面白かった。

  • 文庫版につき再読。映画観たいな。

    ↓書籍の感想
    https://booklog.jp/users/makoco/archives/1/4163900748

    多分あまり感想は変わらないけど、内容はかなり忘れていて新たな気持ちでまた読めたのが良かったです。たしかに名前があると読みやすくて分かりやすいね。そしてだんだん名前がなくなっていって難しく感じる。

  • 村上春樹氏の『国境の南、太陽の西』が好きなのであるが、本作品のテイストも似ており個人的に好みであった。ある日忽然と何かを喪失する或いは何かが変容する、それに伴う環境的若しくは感情的変化、近しい言葉で表せばセンチメンタルや郷愁感であろうか。刹那でありながら哲学めいた示唆に富む言葉も多数。少し肌寒い、薄雲った天気の、僅かな日のしたで午後に適した小説である。

    短編6作が収録されおり何れも好みだが、特に『ドライブ・マイ・カー』『シェエラザード』『女のいない男たち』が面白かった。つまりは、半分。以上。

  • 先に映画を観た。すべての短編がああ村上春樹だなあと思いながら、映画を思い出す。それほど強烈にシンクロしている。

  • 男女関係についての短編集。村上春樹曰くコンセプトアルバム。(好き)
    どれも面白かった!
    男の傷心をこんなにも味わい深く表現できるとは。
    とてつもなく酷い目にあっても淡々としている男たち…
    でもそうだよな、平気なわけないよな…切ない余韻。滲みる。
    やっぱり時々意識迷子になる笑 でもそんな謎めいた雰囲気の中で、圧倒的リアリティを感じられる。読んだ人と語り合いたくなるような素敵な一冊。

  • ドライブ・マイ・カーとイエスタデイ、独立器官が好きだった。以下、抜粋。《》は個人的になもの。

    p.24 帰り道ではよくベートーヴェンの弦楽四重奏曲を聴いた。彼がベートーヴェンの弦楽四重奏曲を好むのは、それが基本的に聴き飽きしない音楽であり、しかも聴きながら考え事をするのに、あるいはまったく何も考えないことに、適しているからだった。
    →私もBGMにしよう。

    p.25
    彼は主人公の女刑事を助ける易者の役だった。その役になりきるために彼は変装して実際に何度も街に出て、本物の易者として通りがかりの人々の占いをした。よくあたるという評判まで立った。

    p.28
    妻が他の男の腕に抱かれている様子を想像するのは、家福にとってもちろんつらいことだった。つらくないわけはない。目を閉じるとあれこれと具体的なイメージが頭に浮かんでは消えた。そんなことを想像したくはなかったが、想像しないわけには行かなかった。想像は鋭利な刃物のように、時間をかけて容赦なく彼を切り刻んだ。何も知らないでいられたらどんなによかっただろうと思うこともあった。《しかしどのような場合にあっても、知は無知に勝る》というのが彼の基本的な考え方であり、生きる姿勢だった。たとえどんな激しい苦痛がもらたされるにせよ、俺はそれを知らなくてはならない。知ることによってのみ、人は強くなることができるのだから。

    p.28
    しかし想像することにも増して苦しいのは、妻の抱えている秘密を知りつつ、自分がそれを知っていることを相手に悟られないように、普通に生活を送ることだった。胸を激しく引き裂かれ、内側に目に見えない血を流しながら、顔にいつもの穏やかな微笑みを浮かべていること。何ごともなかったように日常的な雑事をこなし、何気ない会話を交わし、ベッドの中で妻を抱くこと。おそらく普通の生身の人間にできることではない。でも家福はプロの俳優だった。生身を離れ、演技をまっとうするのが彼の生業だ。そして彼は精いっぱい演技をした。観客のいない演技を。

    p.41
    もし妻がこんな光景を目撃したら、いったいどう感じるのだろう?そう思うと家福は不思議な気持ちになった。しかしおそらく死んだ人間はもう何も考えないし、何も感じない。それは、家福の観点からすればということだが、《死ぬことの優れた点のひとつ》だった。

    p.52
    「実を言うと、その男をなんとか懲らしめてやろうと考えていたんだ」と家福は打ち明けるように言った。「僕の奥さんと寝ていたその男を」。そしてカセットテープをもと会った場所に戻した。「懲らしめる?」「何かひどい目にあわせてやろうと思っていた。友だちのふりをして安心させ、そのうちに致命的な弱点のようなものを見つけ、それをうまく使って痛めつけてやるつもりだった」みさきは眉を寄せ、その意味を考えていた。「弱点ってたとえばどんなことを?」「そこまではわからない。しかし酒が入るとわきが甘くなる男だから、そのうちにきっと何かを見つけられたはずだ。それを手がかりにして、スキャンダルをーー社会的信用を失墜させるような問題を起こさせるのは、そんなにむずかしいことじゃない。もしそうなれば、離婚の調停で子供の親権はまずとれなくなるだろうし、それは彼には耐え難いことだ。おそらく立ち直れないだろう」「暗いですね」「ああ、暗い話だよ」
    ★復讐を考えるシーンは村上春樹の最骨頂だと思う!『レキシントンの幽霊』然り。

    p.54
    「うまく説明できないんだけど、あるとき急にいろんなことがどうでもよくなってしまったんだ。憑きものがすとんと落ちたみたいに」と家福は言った。「もう怒りも感じなくなっていた。あるいはそれは本当は怒りではなく、何か別のものだったのかもしれない」<<「でも、それは家福さんにとって間違いなく良いことだったと思います。どのようなかたちにせよ、人を傷つけなかったことは」>>「僕もそう思う」


    p.54
    家福はそこで話しやめ、心の流れを辿った。少しでも事実に近い言葉を探した。「でも、<<はっきり言ってたいしたやつじゃないんだ。>>性格は良いかもしれない。ハンサムだし、笑顔も素敵だ。そして少なくとも調子の良い人間ではなかった。でも<<敬意を抱きなくなるような人間ではない。>>正直だが奥行きに欠ける。弱みを抱え、俳優としても二流だった。それに対して僕の奥さんは意志が強く、底の深い女性だった。時間をかけてゆっくり静かにものを考えることのできる人だった。なのになぜそんななんでもない男に心を惹かれ、抱かれなくてはならなかったのか、<<そのことが今でも棘のように心に刺さっている>>」

    イエスタデイ
    p.67
    「大学なんてつまんないところだよ」と僕は言った。「入ってみたらがっかりする。それは間違いない。でもそこにすら入れないって、もっとつまんないだろう」

    続く

  • この話は、女とはどういうもので、その女(ひと)を失うことが自分にとってどのようなことなのかを、咀嚼して、飲み込んでいく男たちの話だと思った。彼等も思い思いのことを語っていたのでわたしも思ったことを残しておこうと思う。

    男女の関係って不思議。関係が終われば、気持ちが冷めれば、潮が引くようにすっとなかったものになる。新たな関係ができれば古い関係は断ち切るのが善となる。でも今のわたしがあるのは、そんな失った関係たちがあったからこそなのよね。潮が引いて何もないと思っていた場所に貝やヤドカリがいるように。絨毯にこぼしたワインが消えないように。なかったことになんてできない。今、あなたを失うのが怖いとおもう感情は、愛を知ってしまったが故に感じ得るもの。いつだってわたしたちには、彼等の残したものがあって、それを手放したりまた拾ったりして少しずつ過去にしていくのかもしれない。別れを繰り返すたびに傷ついていたけれど、今その傷があの時より痛まないのは、その喪失感と傷ついた自分を受け入れて進めていたことを意味するのかも。読了後に夏の日の恋を聴きながら、そんなことをぼんやりと考えました。

  • 映画「ドライブ・マイ・カー」を観て、その足で本屋に。映画のラストが解釈できるかと思って。
    結果的には映画は表題作をベースに他の短編の要素をうまく組み合わせて、何倍もに膨らませたオリジナルだったので、ラストの解釈には役立たなかった。
    映画からは離れて、村上春樹的な色が少し薄いけど、様々な女のいない男たちが描かれ、なかなか面白かった。「木野」は当初から不穏な感じはあったけど、突然ホラーの展開となって答えの与えられないまま終わって解釈を探しに行くことになってしまったが、一番印象的。

  • 『ドライブ・マイ・カー』を観てから読んだ。

    溜まっていた、女性に対する感情や、本能的なものを、短編小説という形式でまとめて吐き出したような印象を受けた

  • 女に去られようとしている、あるいは去られてしまった男たちのエピソード全6編からなる短編集。
    詩的で、性的で、読後は不思議と余韻が残る物語。

    特に何か理由があった訳ではありませんが、
    これまで村上春樹氏の小説は読んでおらず、先月、
    本著者訳の「ティファニーで朝食を」を読んだことをきっかけに、今回、「ドライブ•マイ•カー」の
    映画が話題となった本小説を読んでみました。

    だいぶ官能的な作品だったなぁという印象で、
    好き嫌いはハッキリ分かれそうです笑

著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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