雲上雲下(うんじょううんげ) (文芸書)

著者 :
  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198645595

感想・レビュー・書評

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  •  事実は、物語があって、初めて歴史となる。
     先日、韓国映画『タクシー運転手』を鑑賞したときに、ふとそんな昔読んだか聞いたかした言葉を思い出していた。史実となった事象は書物に残され、言の葉に乗って、人々の記憶に残り未来永劫語り継がれる。
     そして、その逆もまた真なり。語られなくなった事象は人々の記憶から消え、歴史として残らない。なぜなら、その事象には語り継ぐべき物語がないからだ。

     このロジックを、昔話、お伽話、神話の世界に当てはめて、予想を超えた壮大な物語に仕立て上げたのが、この作品。
     迷子の子狐が草どんに、眠る前の物語をせがむ。そんな筋立てで話は始まる。草どんが、いろんな物語を語って聞かせる。それが単なる懐かしい昔話の寄せ集め、オールスターキャスト登場のメデタイお話と思っていたら、大きく足元を掬われる。作者の奇想天外な発想力に舌を巻いた(これから読む人にも驚いて欲しいので、詳細は伏せる)。

     朝井まかては、過去、『恋歌』『阿蘭陀西鶴』『眩』と読んできた。『恋歌』の構成の妙、『阿蘭陀西鶴』の視点のユニークさ、『眩』の時代の色合いを描き出す筆力、それぞれに文章表現に留まらない工夫が光る作家さんだが、今作はそれが際立っていた。
     昔話然とした言葉遣い、表現が、まさに“声に出して読みたい”と思う豊かな日本語であり、様々な昔話を作者流にアレンジし新たな物語として読ませる確かな構想力といい、そして、そう来たか!と唸らせる筋書きの巧さ、面白さ。

     新聞連載当時のタイトルを変えたのも奏功か。草どんの正体が分からないまま話は進むし、物語のスケール感を、今のタイトルのほうがよく表現できている。

     また、語り継ぎたい良作に出会えた。

  • 読み始めは,どんな物語が始まるのか,予想もできず,しかし,読み始めると,どんどん「草どん」の語りに引き込まれていきました。

    個人的には「猫寺」の話で落涙し,忠義ものの亀の話が心にしみました。

    幼いころ,民話を繰り返し読みました。民話の中には,トラウマになりそうな残酷な話も理不尽な話もありましたが,それも含めて,今の自分を形成している大切な要素だったと思います。
    いつまでも,民話が語り継がれることを願ってやみません。

  • 昔TVで観ていた まんが日本昔ばなし を思い出しました
    観て読んで知った昔話を改めて読み返したようでした
    今の歳だから味わえるお話かな


  • 『人はいつ死ぬと思う?』
    『人に忘れられた時さ』

    あるヤブ医者の言葉ですが、琴線に触れて忘れられない場面の一つ。それを思い出させる一冊。
    ヤブ医者と同じく、忘れてしまって無くしてしまう前に、つなぎとめようとする精神は美しい。

  • 昔話をテーマに、話の世界と現実が交錯しながら物語を伝承していくことの大切さを伝えているような作品。

    昔話の世界で物語が世界から消えるという現象が勃発すると、それが現代で昔話が忘れられていることと連動し、昔話の世界では草どんのように、現代の世界ではおばあちゃんのように、物語を脈々と伝えていくことがいかに難しく、いかに大切であるかを訴えかけているように感じられた。

    読み終わってみると自分も何か物語を子供達に伝えたくなるような気持ちにさせられる。

    この作品では日本の昔話がテーマになっているが、きっと世界でもおなじなんだろうなぁとも思わせられるような、想像以上に考えさせてくれる作品だった。

  • なかなか読み進められず、少しずつ進めてようやく読了。相変わらずの文章の名手っぷりはかわらず。ただ個人的にこのような昔話的な物語世界になじめず。あまり面白いとは感じなかった。著者の現代ものも読んでみたい。

  • 2018 7/10

  • 我々は子供時代に童話や昔話を読み聞きして育ち、長ずればより現代的な小説やドラマに傾斜するようになる。朝井まかてのこの本はそういう流れとは全く異なり、昔話を大人向けに味付けして提供する。

    例えばアンデルセン童話が元は大人向けの残酷な教訓話だったように、童話・昔話も元は現代性を持っていた。しかし、時が経てば、朝起きて鍬を担いで野良に出る百姓はいなくなり、囲炉裏端での団らんなど遠い世界の話になる。そうして福耳彦のピンチは訪れるのだが、より現代的にアレンジすれば福耳彦の語る物語も現代に再生できる、ということを筆者は示したかったのだろう。

  • とても良かった!今年読んだ本の中ではベストです!山奥にはるか昔から生えている草(草どん)が、子狐にせがまれて物語を語る。話など知らないはずなのに、なぜか内から物語が溢れてくる。「とんと昔のさる昔、」草どんの口から語られる話に引き込まれて、ページを捲る手が止まらない。「そうか、言い伝えの元になった真実を物語ったのか。お前さんは我知らず、蘇らせたのよ。物語の者らの心を。醜さと弱さ、身勝手のほどを。いかんともしがたい、いたたまれぬほどの運命を。そして、希を」昔から語り継がれてきた物語を、私も語っていきたい。

  • 昔話をベースにした朝井まかてさんのファンタジー。

    「何ゆえこうも、さまざまな物語が立ち上るのだろう」と不思議に思いながら子狐に昔話を語るのはなんと大きな<草>。そこに山姥もやってきて・・・不思議な不思議な話と懐かしい昔話の世界に魅了されます。
    まかてさんの語り口はいいなあ・・・大好きです。
    https://booklog.jp/users/yutapon18#
    小太郎がちょっとわからなかったので調べてみたら長野の昔話で「龍の子太郎」の元になったお話なんですね。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『朝星夜星』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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