ポ-ル・デルヴォ-の絵の中の物語

  • 朝日出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (149ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784255006024

作品紹介・あらすじ

絵画と文学の婚姻。観賞度2倍、デルヴォーの絵が読める。

感想・レビュー・書評

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  • それぞれの冒頭にデルヴォーの絵が付されているので、一見したところは画讃に見えるかもしれないが、掌編を連ねた中編小説である。全体は一連の夢。入って行くのは18枚のデルヴォーの絵の中の世界。そして、案内図はヴェルヌの『地底旅行』だ。デルヴォ-の絵は、氷河や氷が描かれているわけではないが、そのいずれもから温度感が全く伝わってはこない。そして、時間が突然にそこで静止してしまって、もはや動き出すことはないかのようだ。ヌーヴォー・ロマンの作家、ビュトールは、ここでまさに「視る」ことに徹して、幻視世界を旅してゆく。

  • 薄闇がうつつとうつろの線路を跨ぎ、眠りを取り囲む夢の後衛を迎え入れようとするとき、街は数々の神秘を解き放つ。
    琥珀の黄昏から電気石の夜へ。
    空がふるえ、懐胎する星座からきららかな旋律が生まれて。歳月を越えてきたこだまが一枚の大きな布のようにわたしの上で波うつから。仄白い月はたゆたいつづける揺籃。
    まどろむ古代遺跡に魂を置き忘れてしまい、日ごと目覚めていることが困難になってきているわたしたちだから、今夜も一つの約束事、絵空事をたずさえ、それぞれの寝台に横たわる。意識の断層破裂帯に落ちるわたしは廃墟の跡訪う巡礼者。

  •  久しぶりに『好きだけど意味が分からない』ものを読んでしまった。後書きを読んでようやく読んでいたものが世界七不思議の旅行記らしいことを知るが、後半は読解を諦めて詩を読んでいる気分でイメージに遊んでいた。

  • ヌーヴォー・ロマンの旗手、ミシェル・ビュトールがポール・デルヴォーの18枚の絵画をモチーフに物語を編んでいる。

    ミシェル・ビュトールは、ヌーヴォー・ロマンの作家たちのなかでも高い芸術性と教養を備えた人物であった。

    『心変わり』は、進む列車に乗り込んだ主人公の心の変異が時間軸を巧妙に操りながら構成されている小説である。

    ミシェル・ビュトールは、『時間割』や『心変わり』などの小説にとどまらず、評論やエッセイ、詩、旅行記ほか、多ジャンルの作品を発表してきた。
    画家とコラボレイトしている作品も複数あり、本書にまとめられたものもその一部である。

    ポール・デルヴォーは、言わずと知れたベルギーのシュルレアリスムの画家。多くの個性的な作品を遺した。
    デルヴォーの絵画は、幻想的で無機質である。一度見たら忘れられない作品ばかりだ。
    無表情の髪の長い美しい女性たちが、多く登場する。立位であったり、座位であったり、臥位であったりするが、彼女たちは例外なく動きがない。
    背景は、屋内外を問わず、昼夜も問わない。ギリシア神殿様の建造物がみられたり、山や木や階段や、列車や、シャンデリアなど、デルヴォーの絵にはデルヴォーの背景とデルヴォーの女で構成されている。

    デルヴォーの作品は、非常に幻想的であるため、物語を紡ぎやすいオブジェクトだ。

    ジュール・ヴェルヌの『地底旅行』の鉱物学教授であるオットー・リーデンブロックは、デルヴォーの絵画によく登場する。ヴェルヌ(またはリーデンブロック教授)とデルヴォーとビュトールは、息もぴったりであった。

    残念なのが、デルヴォーの絵がモノクロで、ビュトールのテキストも数ページに渡り、一体化の愉悦が減ってしまっている。カラーで、堪能できれば幸せだったナァ(笑)。

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著者プロフィール

Michel Butor (1926‐2016) フランスの小説家、詩人、批評家。フランス北部モン゠ザン゠バルールで生まれる。ヌーヴォー・ロマン(Nouveau Roman)の作家の旗手のひとりと目される。1956年、小説第二作『時間割』(L’emploi du temps)でフェネオン賞(le Prix Fénéon)を受賞、翌年1957年第三作目の『心変わり』(La Modification)でルノドー賞(le Prix Théophraste Renaudot)を受賞し注目を集めた(主人公に二人称代名詞「あなたは」を採用した小説作品として有名)。1960年に四作目の『段階』(Degrés)を発表後は小説作品から離れ、1962年『モビール──アメリカ合衆国再現の習作』(Mobile: Étude pour une représentation des États-Unis)を皮切りに空間詩とよばれる作品を次々と発表し始める。画家とのコラボレーション作品が数多く、書物を利用した表現の可能性を追究し続けた。

「2023年 『レペルトワールⅢ [1968]』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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