「悪」と戦う

著者 :
  • 河出書房新社
3.56
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本棚登録 : 696
感想 : 132
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309019802

感想・レビュー・書評

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  • ブ厚いページにちょっと怖気づいたが、軽快なテンポで読み切ることができた。
    しかし、中身は一回では理解し切れないぐらいに盛りだくさんで、そう簡単に済ませられない小説のようだ…。
    読了直後、高橋源一郎氏自身のツイッターにおける本作のメイキングを読んだ(まとめだけど)。こんなにも様々なテーマが盛り込まれていたのか…と舌を巻いた。大学の授業を受けてるみたいで面白かった!

    予想通り、この小説は高橋氏の身の周りがベースとなっているらしい。
    言葉の発達が遅れているキイちゃんになぞらうように、お子さんが実際に急性脳炎にかかり、言語機能を失う恐れにさらされたという話にはぞっとした。奥さんに「あなたがそんな変な小説を書いているから。ハッピーエンドにして」と言われても、それでも、小説の中の運命を恣意的に変えることはできないと決意する高橋氏からは、小説家としての気迫を感じるとともに、小説家という職業の悲しさも感じる。
    幸いなことにお子さんは回復したようだが、家族にふりかかったそのような災難をも題材に使い、また偶然出会った奇形の女の子から触発されるものを得て、自分の頭の中にある「考えごと」と融合させて作品を生み出す作者から、私は何かしたたかさのようなものを感じた。

    パラレルワールドって個人的にはあまり興味がないんだけど笑、いろんなミアちゃん、ランちゃんが各章ごとに登場するのは面白かった。
    「悪は100%悪いものとは限らない」っていうのをいろんな角度から何度も訴えてきていて、人間に脅かされてきた動物たちの話はかなりわかりやすかったけど、生まれなかった赤ちゃんや生まれてからすぐ捨てられた赤ちゃんが「悪」の側に配置されているという設定は意外で、目を瞠った。
    また、無事生まれて世界を知った側と、生まれることなく世界を知らない側との中間の存在として登場する、奇形の顔を持つミアちゃんのインパクトはかなり大きかった。
    ミアちゃんは障害を持った子供であり、いわばマイノリティである。ミアちゃんは様々な種類のマイノリティの人々の代弁者であるだけでなく、すべての人が悪にも正義にもなりうる、オセロの駒のようなものなんだ、という事実を、姿を変えながら切々と伝えてくる。

    それから、言葉を否定するような箇所が出てくるところが興味深かった。しゃべれないキイちゃんの存在自体が言葉を否定している。小説は言葉から成り立っているのに、その矛盾が面白い。

    小説全体を通して、高橋氏の子供への愛情が感じられた。5回結婚されたことぐらいしか知らないけど笑、お子さんにメロメロなんでしょうね。

  • 言いたいことはわかった、というか大変普遍的な事を言っている。しかし、そのためにここまで荒唐無稽なストーリーが必要だったか?
    小説と言うよりマンガ。文章と言うより詩に近い。好きな人は好きかもしれない。

  • とてつもなく不思議な世界の描写。悪とは何か、結局は何と戦ったのか、ぼんやりとしたものしか残らなかった。
    しかしながら、作者が表現する世界にはものすごく引きつけられる。ここでは、様々なパラレルワールドが描かれている。その各物語が人間の中にある悪の心を描写しているようにも感じた。
    最終的に、悪とは何なのか、そして、悪はホントに悪いの?という疑問も浮かび上がる。

    非常に読みやすく書かれているので、本が苦手な人にもお勧めですね!

  • ラジオ版学問のススメの話が興味深い。悪と戦うの「と」はバーサスではなくウィズであって自分の中でどうやって悪と共存していくか。

    気に入った場面

    好きな子の名前であいうえお作文
    弟を助ける前にごみの分別をする兄

  • 世界は一つではなく他にある、いや無数にあるのではないか…

    誰もが自分を中心にした世界に住んでいる、世界の中心に自分がいる…

  • 装丁を見て以来ずっと気になっていた小説。予想以上におもしろかった!

  • 大人と子供の寓話を、現代の様々な社会的背景をからめて語る物語。
    個人的には物凄く楽しめました。
    特に、後半のスピード感・盛り上がりは非常に素晴らしい。
    ただ、舞城王太郎の「阿修羅ガール」を読んだ後だと、この寓話的試行も、そつの無い優等生的な感じはぬぐえないかな。
    この作品で、舞城王太郎の破天荒っぷりが浮かび上がった感じはしました。

    読ませる文章・テンポ・クリエイティブな表現など、さすが高橋源一郎の作品っという感じもするし、作品としても非常にレベルの高いものになっているとは思うので、オススメです。

    ただ、最後のまとめはどうかな?
    現代って、悪と戦うって難しい時代なのでしょうか?
    悪をどう定義して、その悪にどう立ち向かっていくか?そのへんの高橋源一郎節を読んでみたかったな。

  • タカハシさんで「悪とたたかう」というテーマだけに、もっとラディカルなものを期待して読んだのだけど、わりあいにまっとうな路線に落ち着いた小説という印象がする。ちょっと、いとうせいこうの「ノーライフキング」を思い出した。それでも数年ぶりにタカハシさんの小説を読むのは心地よい。

  • ふむ。
    帯コメント、過去に群像新人賞を受賞、タイトルの俊逸さ。
    以上のことから気になって購入したんだが……
    文芸を学んでいる見習いとしては
    少し肌に合わない作品だった。
    内容はまだ理解出来ない点はある。
    文体は脱純文学といった感じで
    挑戦&実験的に感じたが
    そこが自分には合わなかったかな。

  • 文体は話し言葉を織り交ぜているので、かなりポップ。
    最初はちょっと読み辛かったけど、すぐ慣れます。
    設定は面白いと思う。
    でも、読み終わって何かが残ったかと言われると…
    言わんとする事は推測できるし、思うところもあるけど、
    小説として心に響いたかと問われたら、イエスとは言えない。
    だから、星は二つです。

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著者プロフィール

作家・元明治学院大学教授

「2020年 『弱さの研究ー弱さで読み解くコロナの時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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