冥土めぐり

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (156ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309021225

感想・レビュー・書評

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  • 「冥土めぐり」
    自分の不幸と他人の悪意にからめとられて動けない家族の殻に、不幸にも悪意にも鈍感な人間が穴をあけられたのか。母弟が人としてだめすぎて苛々する。
    「99の接吻」
    下町で暮らす4姉妹の話。優雅で艶っぽい。浮世離れした感じで進むのだけど、姉妹の話というのはちょいちょい共感がもてる。

  • あんな生活、と呼んだ日々。
    かつて裕福で豪勢な生活を送っていた名残を忘れられずにいる母と弟。
    父が脳の病気で死んでから、母と弟は働きもせずに浪費ばかりして、自分に嘘を重ねて生きてきた。

    奈津子とともに母と弟にたかられる運命だった夫の太一は、突然脳の病気になり、彼らの呪縛から運良く逃れた。

    母から何度も聞かされていたかつての高級ホテルは、今ではすっかり寂れて朽ち果てた施設となりながらもなんとか運営している状態で
    体の不自由な太一とともに思い出をめぐった小旅行。

    負の連鎖というのか。そういったものから奈津子は太一の存在によって抜け出せるようなところまできている感じ。

    そういう選択肢もあるのだ、と気づくまでにかかった時間の途方のなさを悲観することはないよね、きっと。

    ほか3人の姉を愛する末っ子の話。

    どちらも読みやすかった。
    しかし末っ子の菜菜子が4姉妹のなかで一番だよ成熟しすぎでしょw)^o^(

  • 太宰治『斜陽』を思わせるけど、もっと痛々しさのある話。
    華やかな過去を持ちながら没落した母親。
    母親に甘やかされ、堕落した生活を送る弟。
    その二人に搾取される主人公。

    今まで母と弟という世界の中でしか自分が見えていなかったのが、夫という場所を得たことによって、全く別の自分の人生が見えてくる。

    夫という人間も、人によっては受け入れられない部分もあるけど、主人公にとってはかけがえのない救世主だった。

  • 2019.4.30 再読
    前回読んだのを忘れて借りてきてしまった。
    すっきりした終わり方ではないけど家族の呪縛から太一のお陰で解放されて良かった。

    99の接吻は合わなかった。


    家族コンプレックスの話。娘への愛情より過去の贅沢な思い出とお金に執着する母と盲目的で傲慢な弟に嫌悪感を抱き続けてきた奈津子。めまぐるしい負の感情を抱えてきた彼女が、正反対の性格をした夫、太一と母の栄華が刻まれたホテルを旅し、過去を断ち切り、これまでとは違う見方や感じ方を得るという物語。芥川賞って確かに深そうだけどちょっと暗い物語が多いな。言葉もするする入ってくるというよりはひっかかる感じがした

  • うーん、なんだか凄まじかった…内容的にはつまらないとは全然思わないけれど、再読はしないかなぁ…ということで、★2つ。
    2編が収録されていて、そのうち1編が芥川賞を受賞した「冥土めぐり」。金持ちだった過去から抜け出せず、借金を重ね、主人公に美人局のようなことをさせながら、己れのプライドや生活レベルを維持しようとする母と弟。かなり過酷な状況だけれど、私には、思考停止状態に陥ってしまったかのような主人公に共感したり理解したりできなかった。幼い頃からこんなふうに精神的に虐げられて育つと、自己を確立し状況を打破しようとする気概を持つことは難しいのだろうか…と、そればかりが気になってしまった。
    もう1編はかなりエロティックだった。女性ばかりの家族で築き上げた完結した世界に、「よそもの」たる男性(異分子)が混入してくることによって起こる変化をじっと見つめる主人公。姉たちを異常なまでに愛する主人公。自己に内包してしまっているのか、自己が内包されてしまっているのか…

  • 読み終わって、あぁだから冥土をめぐるってことなのかーと思った。

    失ったものを辿る。
    辿ってそれがなんだったのか、と判明するというか、わかるのかなと思ったけどそんなこともなかった。
    失くしたこと、不在を確認するための旅のように思える。
    辿っていかなければ自覚にならない。実感として身の内におさめなければどこにも行けなくて、誰からも逃げられない。
    渦中にいる奈津子は逃げるという選択肢すら持っていなくて、それが当たり前だった。空気のようにまとわりついていた。
    だから、一度失くなったものたちが集まる冥土に行って、そこらか帰ってくるという行為が必要だったのかなぁ。
    そして行きっぱなしになってしまわないためにこっちにひっぱってくれる人が必要で、それが太一だったのかなと思う。

    「99接吻」の方では、前に読んだことのある小説を思い出した。
    女の子から女へ。自由なものから不自由なものへ。
    一度固くなってからまた柔らかくなるのかなぁ女って。
    同性への憧れがとても強い時期があるというのが、女性の特徴だと思う。そしてその憧れが限りなく恋に近い。でも近いだけであって恋ではない。
    そこらへんが男の人とは全然違うんだろうなぁ。

  • 2014.5.28読了

    2012年上半期 第147回芥川賞受賞作

    受賞当時、文藝春秋で読んだ。
    混雑した帰宅途中の電車の中で、不意に号泣しそうになって、すごく辛い思いをしたから、強く記憶に残っていた。

    なんであんなに感動したんだろうと思って、ずっと気になっていて、今読み返してみた。
    当然ながらあの時の感動はなかった。

    酒が入っていたせいもあるだろう。
    いろんなことが行き詰まっていた気持ちになっていたせいもあるだろう。
    自分を客観的にみて、母と弟に重ね合わせ、その存在の情けなさ、先行きの絶望感に感極まったせいなのかもしれない。
    あるいは、今よりはるかに繊細な感覚が残ってたのかなとも思う。

    その時々で、同じ作品に対しての感じ方が違うんだよな、ということを面白く思う。

    芥川賞の選評で村上龍が厳しい評価をつけていたのは、弟の表現の仕方だったかな、なんて勝手に思ってみる。
    村上龍の小説に出てきそうなセリフそのままだったから。

    単行本には、もう一作掲載されていて、とても気に入った。

    その作品を、「99の接吻 」という。

    芽衣子、萌子、葉子、菜菜子の四姉妹の日常が、菜菜子目線で綴られる。

    谷崎の細雪のオマージュかと思う。

    すごく楽しめた。
    また年齢を重ねてから読みたいと思った。

    また一人、好きな作家を見つけた。

    著者略歴
    1976年東京生まれ
    1998年『二匹』第三五回文藝賞
    2005年『六〇〇〇度の愛』第一八回三島由紀夫賞
    2007年『ピカルディーの三度』第二九回野間文芸新人賞

    純文学賞三冠は、女性では笙野頼子以来とのこと。俄然気になる。
    笙野頼子氏は泉鏡花賞もとってる。
    幽界森娘異聞、すごく気になる。

    気になった箇所の引用↓

    「…太一に対して妻らしい気遣いはなにもしない。入退院を繰り返していた頃はいろいろと世話を焼いたが、もう疲れてしまったのだ。いまや残酷とさえいえる冷めた目で夫を眺め、太一の後ろを歩き、隣の席に腰を下ろす。夫という人間を見ているというよりも、理不尽という現象そのものを見ているかのように。」

    「結婚して太一が病気にかかり、入退院を繰り返して三年、それから病名がはっきりして五年が経つ。だけどその八年間は奈津子の人生の中で、いくらかましなほうだ。それ以前の環境については思い出したくもなく、奈津子はその自分の過去についてを、「あんな生活」と呼んでいた。あんな生活。まさにそんな言葉でしかいいようのない体験を奈津子はしてきた。それは貧困でも、孤独でも、病気でもない、なにものかだ。」

  • 妙にリアルな生ぬるさが辛すぎて二度と読めない感じなのがいい。
    2012夏、芥川賞受賞作。

  • 心情描写、かな。でも、情景も思い浮かべることができて、リズム良く読了。他の作品も読んでみたい☆

  • 初芥川賞。
    う〜ん。またいつか読み返したら違う感想を持つのだろうか?
    美術館のところは、主人公が徐々に冥土から抜け出していく感じがして良かった。

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著者プロフィール

1976年生まれ。1999年、「二匹」で第35回文藝賞を受賞しデビュー。2004年、『白バラ四姉妹殺人事件』で第17回三島由紀夫賞候補、2005年『六〇〇〇度の愛』で三島由紀夫賞受賞。2006年「ナンバーワン・コンストラクション」で第135回芥川賞候補。2007年『ピカルディーの三度』で野間文芸新人賞受賞。2009年「女の庭」で第140回芥川賞候補、『ゼロの王国』で第5回絲山賞を受賞。2010年『その暁のぬるさ』で第143回芥川賞候補。

「2011年 『小説家の饒舌 12のトーク・セッション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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