丁庄の夢: 中国エイズ村奇談

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309204734

作品紹介・あらすじ

本書は、「生と死が対話する」という構造を持った悲劇の物語である。この物語は「死者」である一人の少年の口から次から次へと語られる。象徴と現実の間で、作者は稀有の想像力を駆使し、叙述の起伏に沿って物語の哲学を構築している。これは単に「エイズ村」の悲劇というだけでなく、中国の大地で生きている八億の農民の共通した戸惑いなのである。1990年代の中国河南省、政府の売血政策で100万人とも言われるHIVの感染者を出した貧農の「エイズ村」を舞台に繰り広げられる、死と狂気と絶望と哄笑の物語。「現代の魯迅」と評される第一級の反体制作家が書下ろし、たちまち15万部を売り切ったスキャンダラスな傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 3.82/66
    内容(「BOOK」データベースより)
    『本書は、「生と死が対話する」という構造を持った悲劇の物語である。この物語は「死者」である一人の少年の口から次から次へと語られる。象徴と現実の間で、作者は稀有の想像力を駆使し、叙述の起伏に沿って物語の哲学を構築している。これは単に「エイズ村」の悲劇というだけでなく、中国の大地で生きている八億の農民の共通した戸惑いなのである。1990年代の中国河南省、政府の売血政策で100万人とも言われるHIVの感染者を出した貧農の「エイズ村」を舞台に繰り広げられる、死と狂気と絶望と哄笑の物語。「現代の魯迅」と評される第一級の反体制作家が書下ろし、たちまち15万部を売り切ったスキャンダラスな傑作。』

    著者:閻 連科(えん れんか)
    訳者: 谷川 毅
    出版社 ‏: ‎河出書房新社
    単行本‏ : ‎358ページ

  • 死んだ子供の視点から語ること自体が、唯物論を標榜する共産党への悪意であろうか。

  • 売血政策によって、HIVの広がった貧しい農村。
    死んだ孫は死者の目から現実を語り、生きている祖父は夢を通して現実を語る。
    現実が夢や死という境から溢れ出し、最後には神話にまで結びつく。
    小さな村の話でありながら、読後には壮大な手触りが残った。
    農村の人々は政府や搾取する人々の被害者ではあるのだけど、単に哀れな犠牲者ではなくずるさや悪どさもしっかり描かれていて、活き活きとしている。
    それがより事の残酷さを痛感させた。

  • 『愉悦』につられてこの作家を追う。現代中国で問題になった事件を取材した小説。売血を生業にする村々で熱病といわれる病が流行る。熱病とはエイズであると県は把握していた…… やっかみと恨みから毒をもられてすでに死んでいる少年が語り部だ。この少年が一族の親と祖父が主要な登場人物である。彼らはこの村への加害者でもあり被害者でもある。中国的というか、容赦無い剥き出しの欲望と心情には唖然としてしまう。この作家の他の作品にもあるが強烈なロマンチシズムを感じる。ラテアメ文学好きはぜひこの作家を一読して欲しい。ぜひオススメ。

  • 本書は、「生と死が対話する」という構造を持った悲劇の物語である。この物語は「死者」である一人の少年の口から次から次へと語られる。象徴と現実の間で、作者は稀有の想像力を駆使し、叙述の起伏に沿って物語の哲学を構築している。これは単に「エイズ村」の悲劇というだけでなく、中国の大地で生きている八億の農民の共通した戸惑いなのである。1990年代の中国河南省、政府の売血政策で100万人とも言われるHIVの感染者を出した貧農の「エイズ村」を舞台に繰り広げられる、死と狂気と絶望と哄笑の物語。「現代の魯迅」と評される第一級の反体制作家が書下ろし、たちまち15万部を売り切ったスキャンダラスな傑作。

  • 図書館の新作に入っていて姉が薦めていたので読んでみました。正直、サブタイトルからなんとなく連想したお話とは違っていました。

    売血が元でエイズに感染、日々亡くなっていく村人達。物語はエイズに焦点を当てるのではなく、エイズにかかった人間たちの生活に焦点を当てて描かれていきます。(自分としては不衛生な売血の所為、とはありますが病原菌はどこから?とかこの血液を使ってつくられた血液製剤の行方が非常に気になるし、背筋が寒くなるのですが)
    一方で豊かになってきた中国、近代化の道をたどる中国の報道が華やかに伝わる中で、一体いつの時代のお話ですか?と言いたくなる様な貧しく、教育も無く日々をようやくしのぐ人々が居る。あれだけ大きな国ですからねえ…と思うものの納得できないものも色々と。

    ただ自分としては文章の書き方があまり好きではなかったです。いきなり太字になったりとか。もう既に死んでしまった少年の語り口で描かれているので代名詞が複雑で分かりにくかった場面もちらほら。現実と夢と妄想の世界が入り混じり、本筋を追うのにちょっと苦労しました。

    病気の側面を追うのではなく、人の心の中の病、とあり。恐ろしいけれども自分だってこんな境遇だったらどうなのか?

    すごい作品です。

  • 売血熱に続いてエイズが村にとりつき、「木の葉が枯れて落ちるように、灯が消えるように」人々は次々と死んでいった。死んだ少年が語る、死と崩壊と絶望の物語である。
    1990年代初頭、改革開放を推進する中国政府は、貧しい農民たちに、売血による現金収入を奨励した。不適切な衛生管理や、採血後に不要な成分を再び体内に戻すやり方が、肝炎やHIV/エイズの爆発的感染を引き起こし、家族やコミュニティがまるごと崩壊した例も多かったという。しかし中国政府は問題を否定し、実態を告発した医師や活動家を弾圧。実際に「エイズ村」と呼ばれる地域を歩き、人々の話を聞いて書きあげられたこの小説も、発禁処分をうけたという。
    しかしこれは告発の文学ではない。売血運動を推し進めたのは政府だが、人々の生活を破壊したのは、村人たち自身の欲望や愚かさでもあった。主人公の老人は、人々の欲望や不安を操作して富を築く息子に激しい怒りを覚えつつ、患者たちを学校に迎え入れて秩序を回復し、見捨てられた者たちのユートピアを築こうとするが、その努力も、患者たちの間の小さな物欲や権力欲のために崩壊してしまう。
    老人が拠って生きてきた伝統的な倫理と秩序は、もはやエイズ後の世界を生きる人々にとっての指針にはなりえない。物質的欲望が刻まれた墓や、伝統にもとづく死後の婚姻が、病者をさらに搾取する手段となっているように、村人たちは近代的な市場の論理にも乗れず、伝統的な共同体の価値観にも戻れずに翻弄されるばかりであり、老人は自らの無力をかみしめながら村の崩壊を見守るしかない。人々の欲望を解き放ち、伝統的価値と共同体を破壊したのは、結局は彼の息子にほかならず、彼自身であったかもしれないのだ。だから死をもって息子に罪を償わせる彼の行為は、そのまま自身に対する罰でもある。
    老人の感じる無力感と絶望は、作家自身のものだったろう。閻連科はあとがきに、作品執筆の体験を「創作の崩壊」と記している。悲惨な現実を何ひとつ変えられない無力感と絶望にとらえられながらも、作家は、老人と同じように幻の世界を夢に見続け、語り手の少年の霊と同じように、語ることをやめないのである。

  • エイズ村が舞台となった小説。
    国の売血政策がおこなわれる中、
    不衛生な環境で注射針を扱うことで
    熱病が広がる。
    村中のほとんどがエイズになり、
    生きる希望と気力を失う。
    こういうことが現実にも存在するのだから
    読み進めるほどに胸が痛くなる。

    売血政策の波にのり、
    村人をだまし、どんどんのし上がって行く男。
    その老いた父親。
    そして父親の悪行のせいで毒殺された少年。
    この少年が語り手となって話は進んでいく。
    事実を基にしたフィクション小説
    というジャンルではかなり荒削りな方だけれど、
    読む価値はあるとおもう。
    薦めないけれど。

    中国を知らない人が読んだら
    理解できないことがあまりに多いのではないかと
    おもう。
    こんな中国を知ってほしくないという気持ちが
    わいてしまう。
    こんな中国を知らずに中国を語ってもいけないとおもう。


    村人が時々人間らしく戻る瞬間だけが
    緊張から開放されるとき。
    それ以外は苦しくて、もどかしい。


    知っても何も出来ない。
    巷で流れるニュースもどこまで正しいのかわからない。
    何を持って判断するか。
    読んでからのほうが大変。

  • 売血によりエイズを蝕む。それも村単位で。
    このニュースを「Days Japan」誌で読んだ時の背筋の寒さは忘れられません。
    事実よりも、小説に衝撃を受けたのは久しぶりでした。
    暖かく体内を流れる血。家族に伝わってきた血。それらが枯渇した時、人間は…?
    秀逸です。

  • ★テーマ・手法ともにしびれる★初めて中国の小説を読んだ。舞台は売血でいったん栄え、エイズで朽ち果てた村。人々のあさましさと不条理な階級社会と死にゆく思いが混在する。事実に根付いた現代中国の一面なのか、想像力の産物なのかは私には判別がつかないが、現実と幻想が入り混じりかえって説得力が増している。テーマはもちろんだが、小説の構成が独創的。語り部はすでに死んでいる少年。村を踏み台に出世する父と、忸怩たる思いでそれを見送り村に残る祖父の3世代が小説の軸をなす。語り部が死者のためか、不思議と抵抗なく現実が想像へと移り変わる。最後に少年の墓に話題が戻り、見事に語り部の必然性が立ち上ってきた。

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著者プロフィール

1958年中国河南省生まれ。80年代から小説を発表。2003年『愉楽』で老舎文学賞受賞。その後、本書を含め多数の作品が発禁扱いとなる。14年フランツ・カフカ賞受賞。ノーベル賞の有力候補と目されている。

「2022年 『太陽が死んだ日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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