時は老いをいそぐ

  • 河出書房新社
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本棚登録 : 212
感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309205861

作品紹介・あらすじ

東欧の元諜報部員、国連平和維持軍の被曝した兵士、ハンガリー動乱で対峙した二人の将軍、古びた建物を駆け抜ける不思議な風の歌…。ベルリンの壁崩壊以後、黄昏ゆくヨーロッパをさすらう記憶の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 短編集。須賀敦子さんのエッセイで知った。登場人物たちの語りによって徐々に状況が明かされていき、はっきりとわかった瞬間の、目の前が開けたような気持ち。開放されたような、心細いような、不思議な余韻の残るお話ばかりだった。

  • タブッキを手にしたのは、須賀敦子さんが『インド夜想曲』の訳者だったからですが、『逆さまゲーム』や『島とクジラと女をめぐる断片』など、ユニークなタイトルからも夢と現実のシームレスな混淆の世界がぽんと目の前に放り出されたような、居場所の定まらない夢のような心持になる。最終章で主人公は幻想的な修道院に辿りつく。そしてストーリーは『インド夜想曲』のように、物語構想と現実が渾然となったところで、虚空に吸い込まれていくように終わる。これはつまり9つの物語すべての終点でもある。そして自己という存在の。

  • 文学

  • 図書館

  • タブッキを通勤電車で読む幸せよ
    示唆に富んでいる、以外の良い言い回しを知りたい訳だが、これは腰を落ち着けて音楽なしで読むべきだなと。遡って色々読みたい。書評も読みたいね。ピアチェーレ!

  • 過酷な歴史を生き抜いてきた人たちの記憶を巡る物語。
    時に難解で、時に捕らえどころがなく、時に皮肉のようなおかしみを漂わせ、我々は主人公たちの不確かな内面へ導かれる。

  • アントニオ・タブッキのシンポジウム、展覧会、映画上映のお知らせ
    新刊『いつも手遅れ』、『時は老いをいそぐ』などの著者である、アントニオ・タブッキの関連イベントが開催されます。
    ぜひお越しください。

    アントニオ・タブッキ
    水平線の彼方へ
    Antonio Tabucchi
    Oltre il filo dell'orizzonte

    2013年10月18日(金)~11月2日(土)
    会場:イタリア文化会館
    主催:イタリア文化会館
    協賛:シティカードジャパン株式会社、フィアット クライスラー ジャパン、アリタリア-イタリア航空
    http://www.kawade.co.jp/news/2013/10/post-54.html

    イタリア文化会館 東京
    http://www.iictokyo.esteri.it/IIC_Tokyo

    河出書房新社のPR
    「東欧の元諜報部員、ハンガリー動乱で相対した2人の将軍、被曝した国連軍兵士など、ベルリンの壁崩壊後、黄昏ゆくヨーロッパで自らの記憶と共に生きる人々を静謐な筆致で描いた最新短篇集。」

  • 渋谷区で借りてもらった。
    千葉の図書館は本がなさすぎる(T_T)

    タブッキの最後の著書になるのかな?
    前作がダマセーノ・モンティロだとすると、ほんとにずいぶん間があいた。
    短編集だけど、はじめの一編から、なんか意外!と思った。
    訳者がいつもと違うせいかな?
    だいぶ現代っぽい匂いがした。
    ダマセーノのときも少しそう思ったかも。
    全体に、いつもの幻想的な感じよりは少し殺伐としてるというか、現実味があるというか…あの乾いた感触はタブッキだなぁと思うんだけど。
    タイトルさながらに、時代とか過去とか人生とか、そんなものがテーマに組まれているのかも?

    風に恋して とかフェスティヴァル とかちょっと意外な側面。
    いきちがい で終わったのがなんだか良いと思う。

    すっきりさっぱり解決しない物語が好きだから、タブッキの深いような掘り下げてないようなふわふわした感じはすごく好きだ。
    水面だけたゆたう感じ。

  • 今年(2012年)3月に急死したタブッキの短編集。死の直前に発行されているが、ずいぶん前に執筆された作品主体だ。

    収録されている9編は、いずれもイタリアを離れた異国の地を舞台にした作品。どの作品にも人生経験豊かな人々が登場するのだが、それぞれの語る物語にはどれ一つとして似たところがない。

    強いて言えば、韜晦に満ちた老人特有の堂々巡りのような繰り返しの言葉が共通しているところかもしれない。

    読者に既視感を与えながら、タブッキらしいさりげない技巧によって、先の見通しをみごとにはぐらかしていく筆の運びはさすが。

  • 『歳月はひとを巻き込んでは、かつて実際に起きたことまで幻にみせるものだ。そんなことを考えながらベラ・バルトークの音楽を聴き、ニューヨークの空に沈む太陽の下、健康維持のためと称してセントラル・パークまで義務みたいにして散歩する』ー『将軍たちの再会』

    タブッキの突き放したような生に対する達観の奥には、連ねられる言葉と裏腹に、ひどく凡人染みた未練のようなものがある。それが不条理な世界に対するタブッキ独特の身の振り方なのだと思う。それこそが自分がタブッキに惹かれる大きな要素なのだけれども。

    タブッキが取り上げる世の中の不条理は、往々にして主義主張に付随する不自由さに由来しているような気がする。そういう状況の中でタブッキが取り上げるのは常に自分の意思とは関係なく不条理に絡め捕られてしまう人々だ。おかしなことに、自分の意思とは関係がない、ということは、世の中の流れにただ流されているだけ、ということを意味しない。ディレッタントの旗を振る人であったり、祖国を守る立場に立つ人であったり、と、むしろ自分の主義主張をはっきりと持つ人であると他人の目には映るであろう人である。しかし、その他人からはそう見えるであろう役割に居心地の悪さを覚えこそすれ、昂揚感など微塵にも感じない、という人物ばかりが登場するように思えるのである。

    『ふと気づけば両手に弾力を失った風船がのっている、誰かが盗んだのだ、いやそうではない、風船はちゃんとある。中に入っていた空気が抜けただけ。そういうことだったのか、時間は空気だったのであり、気がつかないほどのちいさな穴から空気が抜けるのをそのままにしてきたということ?』-「『円』

    そうして時間が過ぎ去っていく。むしろ「時間だけが」と言った方がよいかも知れない。本人は周りの変化に対応することを拒絶しているつもりですらないのに、気が付けばいつも時間だけが過ぎ去っており、変化を拒絶したかのように佇む自分がこの現在に存在している。あの時代でも、仮にそう呼んで懐かしむことのできる時が本人にあったとして、決して居心地の良さを感じることはなかったけれど、今、この瞬間に自分自身を見出している時代には輪をかけたような違和感を覚える。すべて物語がそんな風に進んでいく。

    『ひとつ学んだのは、物語ってやつはきまってわたしたちより身の丈が勝っていて、わたしたちの身にふりかかったときには、気づかないまま主人公気取りでいる』-『将軍たちの再会』

    確かにそうなのだ、と思う。物語は、勝手に原因と結果を結び付け、本人の断りなしに本人の行動を定義する。そしてそれに対して責任を取れと迫る。もちろん、そんなことはできやしない。しかし、それでも「本人の意思」と周囲が誤解して看做している、その「原因」の種のようなものが、どの主人公の中にも、自分は見出せるような気がするのだ。それを自分は、全体主義に対する嫌悪感であるとみる。

    『我々の国では、暴力といえば灰色、モノクロームでもなく、灰色でした』-『フェスティバル』

    全体主義に駆られた社会の中に溢れる「白か黒か」的な脅迫は、その発端となる精神が如何に正義心に満ちたものであろうとも白の(あるいは灰色の?)選択のみを迫る時点でファッショと同じことである。ここに一筋縄ではいかないタブッキ独特の反骨精神の根源があるように、自分は思う。そのことが最も際立って表れているのが「将軍たちの再会」という短篇だ。

    ニューヨークのセントラル・パークで耳にするバルトークが(あるいはそれはドミトリ・ショスタコビッチであってもよい、とハンガリー人ではない自分は思うが)、過去を語らない主人公の頑固に閉ざされた精神を一瞬だけ解放する。しかしその解放された気持ちを義務のような日常に押し込んで再び蓋をするシニカル。そこには何も肯定したくない、肯定すれば再び物語に絡め捕られてしまう自分が居るということを自覚する精神活動が存在する。それがよしんば美しく響く物語であろうとも、そこに自分の身を置きたくはない。そんな気持ちが透けて見えてくる。だから、タブッキを読むということは勇気をもらうということと同じなのである。 f

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著者プロフィール

1943年イタリア生まれ。現代イタリアを代表する作家。主な作品に『インド夜想曲』『遠い水平線』『レクイエム』『逆さまゲーム』(以上、白水社)、『時は老いをいそぐ』(河出書房新社)など。2012年没。

「2018年 『島とクジラと女をめぐる断片』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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