ザ・ナイン ---アメリカ連邦最高裁の素顔

  • 河出書房新社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309246246

作品紹介・あらすじ

保守派の台頭と9人の最高裁判事(ザ・ナイン)。人種、性、妊娠中絶、福音派、大統領選挙など、巨大国家の行方を定める判事たちの知られざる闘いを追った傑作法廷ノンフィクション!ニューヨーク・タイムズ年間最優秀図書。

感想・レビュー・書評

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  •  タイトルの「ザ・ナイン」とは、連邦最高裁判事(長官含む)の9人のこと。アメリカという国の行方を決める重大な決定を下す、米司法界の頂点を極める超エリートたちである。

     その地位は終身制で、誰かが亡くなるか自ら引退するまで顔ぶれは変わらない。交代する場合、後任の任命は時の大統領の重大な仕事となり、その人事をめぐって全米のマスコミが大騒ぎをくり広げる。日本の最高裁判事よりもはるかに目立つ存在なのだ。

     本書は、1986年から2005年までつづいたウィリアム・レンクイスト長官時代を中心に、連邦最高裁の舞台裏を明かした法廷ノンフィクションである。
     大統領でいうと、レーガン時代からブッシュ(息子)時代までが主に扱われている。その時代のアメリカ政治の変遷を、連邦最高裁という窓から眺めた記録ともいえる。

     一見堅苦しそうなテーマだが、著者は人間ドラマに的を絞っているため、サクサクと読み進めることができる。デヴィッド・ハルバースタムの諸作のように、綿密な取材でつかんだ事実を小説のように再構成するニュー・ジャーナリズムの手法が用いられているのだ。

     また、主人公たる連邦最高裁判事たちも、それぞれ意外なほど人間臭く、キャラが立っている。
     米国社会や法曹界にくわしい人ほど楽しめる本だが、とくにくわしくなくとも十分に面白い。

  • 「本書は裁判やアメリカ合衆国憲法といった一見難解かと思われる題材を取り上げているが、一般読者向けの語り口で書かれた内容は読みやすく、堅苦しさはない。訴訟事件を通じて、いままでとは違う側面からアメリカ史をながめることができる。また人間ドラマとしても面白く、判事をはじめ人間味あふれる人々の姿に、反感や共感を抱きつつ引き込まれる。読者もつい肩入れしたくなる人物が出てくるのではないだろうか。」訳者あとがきより

  • ふむ

  • 題名の「ザ・ナイン」は、アメリカ合衆国最高裁判所 首席判事(Chief Justice、長官)1名と、陪席判事(Associate Justices)8名の計9名のことを指す。なお、判事の人数は合衆国憲法ではなく、法律によって定められている。

    この9名は、いずれも終身制。死去または自ら引退するまでその地位を保証され、弾劾裁判以外の理由では解任されない。自ら引退する事例もあり、引退(退官)した連邦最高裁判事のうち存命であるものも存在する。なお、弾劾裁判の事例はあるが、弾劾された事例はない。

    裁判官の空席がいつ発生するかは、偶然に左右される。

    大統領が指名し、上院による助言と同意後に、任命する。上院の休会中に欠員が生じた場合、上院の助言と同意なしに最高裁判事を任命することができるが、その任期は次の上院の会期の終わりまで。大統領には(自分の任命した)最高裁判事を罷免する権限はない。

  • アメリカの最高裁判所の判事は、日本のそれと比べて国民に対する知名度が高く、またその主義主張(保守派だとかリベラル派だとか、そもそもそういった政治的なスタンスから距離を置こうとしているとか)といったことも、国民の間で比較的よく知られている。

    また、アメリカでは最高裁での争いに持ち込むことで世論を喚起し、それによって新しい権利の確立や社会制度の改革につなげるということがよく行われている。

    アメリカの憲法史の中には過去の有名判決が数多く残っており、憲法改正の歴史は最高裁判決とともにあるといってもよい。

    これは、「アメリカ人は訴訟好き」といった個々の国民の性格的な違いのレベルではなく、裁判というシステムそのものを通じて国の在り方を議論していくという社会の仕組みが国民の中にある程度根付いているということだと思う。

    そのうえでこの本を読むと、国の在り方を方向づける基幹的な統治システムである最高裁判所という組織を支えている最高裁判事の気概と、社会的なプレッシャーを含めた大変さが非常によく伝わってくる。

    この本の中で描かれる20世紀終わりの~21世紀初頭にかけては、アメリカの社会の在り方も非常に大きく変わった時代であるとともに、アメリカ社会がかつてないほど割れた時代とも言われている。世論調査等でも共和党支持と民主党支持はほぼ半数に割れるとともに、それぞれの党の支持者の中でもネオコン、茶会党等といったグループが政治の中でのキャスティングボートを握ることが多かった。

    そして、この本の中でいくつかの事件を通じて描かれているように、このような時代において最高裁の判決も、多くが5対4(つまり4対4から最後の1票を投じる判事の判断により判決が定まる)ということが非常に多くなったことが分かる。

    それが、異論は有りつつも新しい時代の社会の方向性を見出していく場合(妊娠中絶に対する判決)もあれば、最高裁の役割に疑問符を突きつけられる結果になってしまった場合(ブッシュ対ゴア判決)も有ったということも、よく分かった。

    また、判決の法的な背景を過度に簡略化せずに描いている一方で、各判事の人柄やそれを取り巻く人々の動きがち密に描かれていることで、長く重厚なストーリーのはずが、とても生き生きとしたものにもなっている。

    筆者のノンフィクション作家としての力量の賜物だろう。

    アメリカでは、国の在り方、公論を喚起する場が、大統領選挙、議会、マスメディア、地域と、さまざまにあるが、最高裁の場も間違いなくその1つになっていると感じられる本である。

    日本の最高裁判所の判事の方々も、高い使命感を持って職務を遂行されているのであろうが、その中での議論や判決が国民の中に根付いていくような動きがアメリカほどには見られないというのは、ある意味残念なことである。

  •  読了。アメリカの法の番人である連邦最高裁の判事は9人からなっており、彼らの投票によってアメリカの法と国のあり方が示されている。その9人のそれぞれの背景や信条と、そこから導かれる判決までの人くさく展開されるドラマを解説した良本(長いけどw)
     多くの案件についてリベラル派と保守派が対立して紛糾し4対4となり、最後の一票を決めるキーマンがどの政権時代も存在していた、と。特に本書はその中でも1994年~2005年までの固定面子に焦点を当てるんだけど、この判事達がとにかく良いキャラしてるw
     特に主役となるオコナー判事については、中道を意識しつつも政権と環境の変化によって特にブッシュ政権でのポジションに苦労していく描写がすごく面白かった。果たして日本の最高裁でこれ程濃いキャラが登場する物語が描けるか、と考えるとやや暗澹とした気持ちになるけど、そこはまぁご愛嬌。
     読んでる途中ずっと話の展開の仕方に既視感があったけど、さっき分かった。この最高裁での判事の在り方は、有名ラノベの十二国記での王と国と麒麟の在り方と物凄く似ている。麒麟が王を選び、王は自分の信条に基づいて政を行い、その結果で国や麒麟が物理的に栄えたり衰退したり長生きしたり死んだりする、あのシステムに。
     当たり前だけど現実のそういった三権とか法とかを小野不由美女史が元ネタにしたのかなぁ。王とか判事の判断によって国の在り方が大きく変わるという壮大なシステムだけど根底にあるのは個人としての考えなので、全てがどこか人の織り成すドラマ的な雰囲気を持つっていう雰囲気は、個人的にかなり好き。
     超長かったけど、それに見合うアツさ(と、厚さw)を伴った良いノンフィクションだった。満足。

  • 地元の図書館で読む。

  • ・アメリカ最高裁の最上階には体育館があって、「全米一高いコート」と呼ばれている。
    ・今の最高裁長官ロバーツは、ブッシュ対ゴアの法廷闘争のときにブッシュ側弁護士団に助言している。
    ・ブッシュ対ゴアの最高裁内部のごたごたを見て、スーター判事は涙を流しなら去就を考える日々が続いた。

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