ねむり姫―澁澤龍彦コレクション 河出文庫 (河出文庫 し 1-28 澁澤龍彦コレクション)
- 河出書房新社 (1998年4月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309405346
感想・レビュー・書評
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作者の退廃美・倒錯美への偏執的なまでの一途な愛を、そこはかとなく感じる昭和末期版あやかし説話集。
どのお話も、
奇怪で歪でどことなく淫美で、
劇的明快なストーリーでは決してなくて、
むしろ曖昧模糊で煙に巻くような結末で、
時に残酷。
それなのに、この吸引力はなんなのでしょう。
時折り挟まれる、まるで誰かから聞いた伝承に対して自身の見解を冷静に述べるような文章が、妙なリアリティと奥行きを添えているせいでしょうか。
収録作は、すべて日本の中世〜近世を舞台とした六編。
「ねむり姫」
「狐媚記」
「ぼろんじ」
「夢ちがえ」
「画美人」
「きらら姫」
人生初の澁澤龍彦作品だったのですが、つかみどころのない謎の魅力に、別作を読んでみたくなりました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
しばしのインターバルを経てTasso再読祭再開。
様々な典籍に材を取った幻想時代劇、全6編。
何度読んでも味わい深く、しみじみ面白い。
眠りに落ちたまま年を取らなくなった珠名姫と
異母兄つむじ丸の物語「ねむり姫」や、
望楼に幽閉された万奈子姫の悲恋「夢ちがえ」が
殊の外、切ないが、
もう一人の姫こと「きらら姫」が
遂に正体不詳で終わるところにニヤリとさせられる。
以下、多少の余談なぞ。
「ぼろんじ」(虚無僧の意)において、
主人公の兄を振武軍に導き入れたとされる
澁澤成一郎(1838-1912)は
明治以降、幼名に復して澁沢喜作と名乗った実業家で、
日本資本主義の父と呼ばれる澁澤栄一の従兄であり、
作者の親類にも当たる。
「夢ちがえ」の「箱の蓋を持ちあげてみると」の条(p.178)では、
つい、泉鏡花「天守物語」
朱の盤の登場シーン(これは汁が出ました)を連想。
「画美人」の、
ガラス鉢の金魚に情事を見られている気がする……云々は、
作者の初期短編「撲滅の賦」のヴァリアントだろうか。
江戸の大工の倅・音吉が
鎌倉時代へ時間旅行する「きらら姫」。
彼は地震で倒壊した日蓮上人の草庵を建て直すのだが、
日蓮の弟子・日興が「伯耆房」の名を賜り、
日蓮と共に身延山に入った経歴が、
鳥取の地名である「伯耆」を苗字として名乗る人々が
山梨県の身延町に存在するという謎に迫る鍵ではないか……
と愚考する。 -
どの話も惹かれる要素はあるのだが、手放しで「面白い!」と言い切れるほどではなかった。むしろ、あと一歩なのに、という残念な気持ちが……なぜだろう。時代にそぐわない言葉がたびたび出てくるのもひっかかる。こういうスタイルなのだと思えばよいのだろうが、E・Tはさすがになあ(苦笑)。せっかく『狐媚記』から辿ってきたのに、読み終わってみれば『狐媚記』が一番よかったという結果になった。
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『ねむり姫』リーダビリティはよい。ポニーで田舎者を馬鹿にするのがなんか
『狐媚記』狐の好物ってさうなのね。(原典読んで「澁澤作品の方が」と言へるレヴェルの筈)
『ぼろんじ』澁澤先生みとこーもんくらゐは見てたってどっかに書いてあった筈
『夢ちがえ』 琵琶湖の畔の話なのね。(田楽を舞ふ異形のなんぞが鎌倉でどうたら話があるさうなのだが先生の地元シリーズに入らない)
『画美人』へそー
『きらら姫』おさるスーツと、欲望に弱いキャラがそれを叶へて「あぁ、俺がナニしたあれが」と言ふのであったと言ふのが、衝撃。しかもタイムトラベルをするではないか。で先生の地元シリーズの壱。 -
平安や江戸が舞台の幻想夜話。
他の作品も読んでみたいです。 -
12/18 読了。
再読。ほとんど忘れてたので読みながらオチを思い出すのが楽しかった。 -
「夢ちがえ」「狐媚記」「画美人」が特に好き。後味は決して良くない、むしろ残酷と言ってもいいような話なのに、美しい物語だったと感じる不思議な読後感。端正な文章の中に時折顔を出す悪ふざけ(と言っていいのか分かりませんが)がくすりと笑えて楽しい。「(省略)。特異体質だな。」「いやですよ。そんな近代のテクニカル・タームは存じませぬ。」。ついつい笑わされる。
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河出文庫の表紙違いの作品を読んだ。「狐媚記」「きらら姫」が面白かった。
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短編集。
『ねむり姫』と『夢ちがえ』が残酷で美しくて良かった。
古い日本の物語なのにちょこちょこ横文字が出てくるところが澁澤氏らしくて好きです。 -
裏表紙に“あやかしの物語”と書かれていたけれど、不可思議というひと言では片付けられない世界だった。この作品を読んでいる最中、二度ほど憑き物的な夢を見た上、金縛りにもあった。脳が独特の魔術にかかってしまったのかもしれない。
淫靡でもあり、エッシャーの騙し絵のような怖さもある。洒落に富む上質でリズミカルな文章がなんとも小気味よかった。
澁澤龍彦、怖いもの見たさ的興味で、その扉の奥をもう少しだけ覗いてみたい気がする。 -
和風幻想小説。
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難しいと思っていたけど、読んでみたら言葉の響きと文章のリズムがとても心地よくて、するすると読んでしまった
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表題の作品がいちばん頭に残ってる。手を食べられてしまうとかどうやったら思いつけるのだろう。強烈。
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澁澤龍彦小説シリーズ。短編がいくつか入っているのですが、表題作「ねむり姫」がやはり一番お薦め。
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澁澤龍彦はやばい。スラスラ読める。一番引きこまれるものがある気がする。華麗なる虚構世界。
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『うつろ舟』などにならんで、晩年の『高丘親王航海記』への過渡作品とも言える、秀逸な短篇集です。『思考の紋章学』や『ドラコニア奇譚集』などに顕著なエッセイらしさが少なくなり、物語性に重きが置かれています。『高丘親王〜』よりはまだ文章/文体は固いかもしれませんが、ちゃんと分かるしちゃんと面白いです。
澁澤さんの模索過程が垣間見えるようで楽しいですね。『画美人』の金魚のくだりは初期の短編を彷彿とさせますし、文章の難渋さ自体は丸くなったものの、古語や漢語で飾られた豊麗な文章は典雅で気品があり、硬質な印象も受けます。どの作品のどの部分を見回してみても、洗練され高く築き挙げられているかのよう。この象牙の塔は、澁澤龍彦という匠にしか建てられぬものでしょう。
個人的お気に入りは、やっぱり『狐媚記』ですね。 -
星たちの燃ゆる障子の向こう側、狐火が誘う怪しい魔の入り口は恍惚と見た夢に似て妖艶。懐に差し入れたほんの少しの遊び心が、跳ねた小石と川面を撫でて、沈んでゆくのもまた一興。山越え谷越え向かった城の、庭で描くは女の愛。それが毒だと知らぬが仏、絡まる蛇は見知った欲望、すべてゆめゆめ忘れるな。
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現実と夢が交差する「夢ちがえ」が印象的、幸せの絶頂から不幸のどん底につき落とされるのつらすぎる
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2008年10月8日~9日。
面白い。
そして凄く切ない。
無償の思いの美しさと残酷さに心が震えます。 -
現実から、ひょいっとはみ出してとける。不思議と現実のはざまを語る。そんな短篇集だと思う。上るのではなく潜るのに近いけれど、手引きがあるので溺れずに済む。ただ、その手引きがどんなもので、どこへぼくたちを連れて行くのかを考えはじめるとすこし怖くなる。グロテスクが道中にあるような、白骨を横目に潜っていくような、感覚。初期短篇選や唐草物語より、語り口が軽妙な気が、なんとなく。
2017.8.不明. -
久しぶりに澁澤にハマってしまいそう。
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時代劇ものって読みやすかったっけみたいな本です。
内容は落語の左甚五郎の、題が出てこない。話のようで
すね。 -
少し難しかった。漢字の勉強をした後また再び読みたい。
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2014/10/22
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幻想文学っていいなあ……という気分にはなったけども、"澁澤龍彦の"良さを感じるにはやや物足りない。他のものも読んでみようという気にさせられるといえばまあ、そう。
面白さとは関係ないが、時代物なのに外来語が入るのはいつものこととはいえ突然のE.T.にはさすがに笑った。 -
澁澤龍彦といえば、エッセイの数々で、古代ギリシャから中世、ルネッサンス、果ては現代文学から現代芸術全般に至るまで、まさしく博覧強記の衒学趣味。だが、ここには彼のもう一つの顔―すなわち、日本の古典をこれまた縦横無尽に駆使した、翻案幻想物語の語り手としての澁澤がいる。彼の語る物語はそのいずれもが、空間も時間も周囲からは隔絶し、ぽっかりと中空に浮かんでいるかのような独特の様式を持っている。ここに収録された6篇のいずれもが、そんなスタイルだ。澁澤の語る物語を読むのは、まさにしばし仙窟に遊ぶといった趣きなのである。
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【収録作品】
ねむり姫/狐媚記/ぼろんじ/夢ちがえ/画美人/きらら姫 -
随分昔に購入していた本です。
西洋風のおとぎ話を日本の昔話に置き換えた風ですね。そして必ずしもハッピーエンドにならない辺りがさらに面白い。幻想小説と言うのはこういう感じの取りとめの無いものなのかなあなどと思いした。面白かったです。また何か違う本も読んでみようと思います。 -
短編集。この作家さんは初めて知りましたが、近現代というより現代作家さん?
なのに近現代風というのがなんというか掴みきれず。
雰囲気はありましたが、自分好みかと言われるとちょっとキツかったです。