- Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309410937
作品紹介・あらすじ
戦後まもなく渡ったパリで、下宿先のマダムが作ってくれたバタたっぷりのオムレツ。レビュの仕事仲間と夜食に食べた熱々のグラティネ-一九五〇年代の古きよきフランス暮らしと思い出深い料理の数々を軽やかに歌うように綴った名著が、待望の文庫化。第11回日本エッセイスト・クラブ賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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(抜粋)
オムレツは強い火でつくらなくてはならない。熱したバタにそそがれた卵は、強い火で底のほうからどんどん焼けてくる。それをフォークで手早く中央に向けて、前後左右にまぜ、やわらかい卵のヒダを作り、なま卵の色がなくなって全体がうすい黄色の半熟になったところで、片面をくるりとかえして、火を消し、余熱でもう一度ひっくり返して反面を焼いて形を整えたら出来上がる。
いやあ、朝ごはん食べたばっかりなのに、またお腹すいてきちゃったな。石井さんがパリに渡られた(1951年頃)ばかりのころ、下宿されていたアパートの白系ロシアの未亡人に作ってもらっていたオムレツは特別美味しかったらしい。
フランス人は卵は肝臓に悪いと決めているので、一週間に二度以上、卵料理は食べないのだそうだ。そのかわり、食べるときは出来るだけ美味しく料理する。上のアパートの家主の未亡人のオムレツにしても卵4個に対して、バターを56gほども入れていたそうだ。どんな料理にもフランス人はバターをよく使うらしい。そんなに贅沢に使ってたら、こっちじゃ業務スーパーで買って来たって2週間くらいで無くなるんじゃない(テキトー)(°_°)っていうくらい。
このエッセイ集はもともと1963年に暮らしの手帖社から出されたもの。石井さんは戦後早々にアメリカ留学、パリでシャンソン歌手としてデビューされ、世界各国の舞台で活躍され、帰国後は歌手、エッセイストとして活躍された。
食べることと料理が大好きだった石井さん。今では誰もが知っている、フランスのポトフやチーズフォンデュ、クレープ、スペインのパエリアなども「こんな料理があるのですよ」というふうに作り方と共に紹介されている。ちなみにポトフの作り方
(抜粋)
ずいの通ったすじ肉を買って、人参、キャベツ、玉ねぎ、セロリ、などの野菜を適度に切って入れ、塩で味をつけ、ぐつぐつ水を足しながら、2.3時間煮て、ブイヨンを作る。
(略)このブイヨンの中に肉のかたまり(ばら肉)をいれ、玉ねぎ、人参、ネギも形のまま入れて、ぐつぐつ2時間くらい煮る。はじめは強火で、煮立ったらとろ火にして、最後にあくをすくいだし、もう一度塩コショウで味付けして、熱いところを食卓にのせる。スープは少し濃いめが美味しい。肉や野菜の味はこくがないから、からしを付けて食べるほうが良いが、肉や野菜の上からスープをかけて食べても美味しい。
失礼しました(°_°)。「知っている」なんてウソでした。ポトフはスーパーでアルミパウチの容器に入った「ポトフスープ(ストレート)」と書いてあるのを買ってきて、野菜やベーコンやウインナーを入れて煮るものだと思ってました( ̄▽ ̄)。だいたい“ずいの通ったすじ肉“がどういうものなのかも分からない。ちなみに私は何でもかんでも火がすぐ通るように薄切りにして入れるので、ポトフなのかスープなのか区別のつかないものを作ってしまう。うちの家族はめんどくさがりの私の料理を食べるよりも、一食抜いて石井さんの本を読むほうがお腹も心も満たされるかもしれない。
パリのパン屋さんやお菓子についての記述も素敵だ。以下抜粋。
・パリではお菓子だけを売っている専門の店もあるが、たいていはパン屋とお菓子は兼業だ。
・朝食用のパンは、この(バゲット)の他に、バタをたっぷり入れてあげた三日月形のクロワッサン、それからちょっと甘いお菓子ふうのブリオッシュ、甘味のないラスク風のビスコットが売られている。
・一月に入ると菓子屋の店頭にはギャレットが並ぶ。なにも入っていない、丸い円形のパイで、いっしょに金色に塗った紙でできた王冠が売られている。
・四月一日のエイプリル・フールはフランスではプワソン・ド・アヴリルといい、どういうわけか、お魚の形をしたチョコレートが店頭に並ぶ。
・マルディ・グラと呼ばれる謝肉祭にはクレープを食べることになっているが、クレープはたいてい家庭で作るものなので、クレープを作る時、片手に金貨を握って、片手にフライパンを持ち、うまくクレープが空中で回転すれば、幸運が掴めると言われているという話だ。
ああ、フランス行きたいなあ。石井さんのパリ生活は60〜70年くらい前のことみたいなので、今のパリっ子にとっても知らない、古き良き時代なのかもしれないけれど。
石井さんはこの時代にアメリカ留学を経てパリでデビューしたほどの華麗なるご経歴で、画家の藤田嗣治氏や評論家の小林秀雄氏にも手料理を振舞ったとか、パリの料理学校で江上栄子氏と一緒に学ばれたとか、住む世界が違う方といえばそうなのだが、そんな世界のことを自分たちのものだけにせず、こうやってエッセイに書いて庶民や後の世代の人々の心を満たし、知識を与えて下さっている。若い頃、玉ねぎと間違ってスイセンの球根を刻んでオムレツに入れてしまい、家族を食中毒に合わせてしまったという、今となっては笑い話になるようなエピソードも石井さんの意外な側面が見えて楽しい。
それから、Wikiで調べたことだが、あのフランス童謡「クラリネットをこわしちゃった」の歌詞を邦訳された方だとは知らなかった。「オー、パンキャドパオ」は適当な擬音ではなく、フランス語のままなのだそうだ。
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Macomi55さんのレビューで出会えた本です。ありがとうございます!
著者は米国留学を経て1951年フランスパリでシャンソン歌手としてデビュー。世界各国の舞台出演、帰国後は歌手、エッセイストとして活躍。
素敵なカバーデザイン(佐々木暁)。目次にユーモアがある。表題の「巴里の空の下オムレツのにおいは流れる」「また来てまた見てまた食べました」「外は木枯 内はフウフウ」「西部劇とショパンと豆と」「紅茶のみのみお菓子を食べて」「私のゆくところに料理がある」などなど。軽快なおしゃべりと料理を味わうようにページをめくるのが楽しい。
マロニエの花を調べたり、フランスパンの温め方やレタスの味わい方を真似したくなりました。
彼女の視点からすると、フランス人は、身を粉にして働いてためたお金でも、高い肉を買うのには惜しまない、強情だから食べものの話にまで自我を出す、たべもののことなら物知り、「焼肉は太らない」と決めてるらしい。小林英雄さん、藤田嗣治さんとの交流エピソードも素敵。石井さんの歌声が聴きたくなった。 -
タイトルに惹かれて購入。
90年以上も前に生まれて、パリでシャンソン歌手としてデビュー、活躍された著者によるエッセイでした。
パリやスペイン、ドイツなど海外の話や、おいしい食事の話が綴られていて、一昔前の話だということを差し引いてもどれも新鮮で見たことのない世界ばかりで読んでいてうっとりしました。
当時は日本人が海外で活躍するなんて、旅券も自由に手に入らないということを鑑みても非常に希なことだと思います。
上流階級に生まれた人特有の品の良さや機知に富んだ様が垣間見れて、すこし背筋が伸びるよう。もちろん女性一人海外で活躍するにはかなりの努力と覚悟が必要だったと思いますが、おいしい料理を作って大切な人をもてなして、彼女の文章には悲壮感や苦労感は一切なくて、女性から見ても惚れ惚れする女っぷりを感じました。
特筆すべきは、やはり食べ物のこと。
食べるのが好きという著者が描くだけあって、読んでいて思わず食べたくなる、作りたくなるものばかり。難しい言葉なしに作り方がさらさらっと書かれてあるので、思わず作れそうな気もしてくるし、おなかがすいている時に読むと危険です。
古き良き時代、なんて言葉が脳裏をかすめるくらい、この本からは素敵な時代の香りが漂ってきます。それも、おいしい料理の匂いとともに。こんな生き生きと活躍された日本人女性がかつて海外にいたことを誇りに、長く読み継がれてほしいエッセイでした。 -
タイトルだけでもう素敵だ。
およそ六十年ほど前に書かれたものだと思うが、全然古さを感じない。
世界が平均化してしまった現在よりも、色濃く異国を感じられ、味わい深い。
流行りの美食、というものではなく、土地に根ざした伝統的な料理が紹介されているためかもしれない。
『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』
白系ロシア人の、マダム・カレンスキーのアパートに部屋を借りた。
せまくて細くて、中庭に向かった窓があいた台所で、マダムと食事をした。
フランス語のレッスンを取るより私と話している方が勉強になりますよ、とマダム。
『また来てまた見てまた食べました』
初めてパリに来たのは昭和26年。
フランス人は楽しそうに食事をする。
『よく食べよく歌え』
モンマルトルは下町の人情あふれるところ。
仕事が済んだ後の夜食とおしゃべりは一番の心がほぐれるなぐさみ。
『外は木枯 内はフウフウ』
寒い季節は西洋でも鍋や煮込み料理があたたまる。
スイスでは「ブルギニヨン」と、家庭では「チーズフォンデュ」
パリの冬は「グラティネ(オニオングラタンスープ)」、家庭では「ポトフ」南のマルセイユでは「ブイヤベース」
『西部劇とショパンと豆と』
西部劇に出てくる男たちが食べている、ポークアンドビーンズに憧れ、ショパンの伝記映画の中で豆をむく女性が素敵だと思ってグリーンピースが好きになった。感化されやすい。
『紅茶のみのみお菓子を食べて』
フランスではお菓子の歴史は古く、店頭に並ぶお菓子によって季節を実感する。
『作る阿呆に食べる阿呆』
パリに住んでいた頃、日本食が食べたくてお客に来てくれた日本人の偉い人たちにも、ひどい失敗料理をたくさん出してしまった。
『とまとはむぽてと』
トマトも果物も、汁を垂らしてかぶり付くのがおいしい。
フランスでは、ジャンボンとよばれるハムをよく食べた。
じゃがいもは戦時中さんざん食べたが今でも好き。
『フランスの料理学校』
「コルドンブルー」という料理学校へ3週間通った。
『わが家の食い気についての一考察』
両親、姉、弟二人の六人家族で育った。
父は大食いで美食家。母は父とは正反対で、薄味好み。
姉は料理がきらい。
上の弟は味に無頓着、下の弟は食通で、どちらも妻は大変。
母方のおばあちゃんは料理好きで、懐石料理一式を自分で作れた。
『私のゆくところに料理がある』
料理の随筆を書きはじめてから、料理上手と思われたり言われたりすることが増えたが、自分では上手とは思わず。食べる事に熱心なのだ。
この十年内は、国外も国内も旅行し、旅の思い出は食べ物とつながっていることが多い。 -
大分前に読んだのだが、食や日々の暮らしを綴る言葉遣いがとても上品な香りだったことを覚えている。「バタ」や「ソテ」といった音の響きも素敵。
名エッセイ。 -
好きだなあ。
出会い自体は、古本の販売もしている喫茶店で読んだこと。
かなりいい人そうなご夫婦がやってらっしゃるお店で、好きなお店です。
お店の紹介はさておき、
有名な本だったのは知らなかったんだけど、
半年くらいずっと頭から離れなくて、
本屋さんで文庫本を見つけてテンションアップ。
「バタ」っていうのがいいんだよねーー。
これを読んでから、夜食=オニオングラタンスープだと思うようになった。
そして実際、作った。おいしいし幸せだ。
服がよれよれでもおいしいものを食べるって 本当かよーーなんか素敵じゃないかーーー -
半世紀も前に書かれたエッセイ、なのに全く古さがない。なんてセンスのいい人なんだろ。バタ。たくさんの料理レシピ、エピソードの中で父弟に食べせさせたら腹痛を起こして...の話がよかった。
2014.4.10 -
パリだけではなく、スペインやアメリカなど仕事で訪れた先での食事にまつわる思い出やレシピを綴った50年ほど前のエッセイ。
図や写真なしでもその料理のにおいと湯気が漂ってきそうな文章。
「バタ」とか「メリケン粉」なんて表現に少し古さがあって、それも良い。
本当に食べること、料理することが好きなんだなあ、とわかる本でした。
おいしいものを食べたくなるし、おいしいものを作りたくなる。
それを仲間で囲みたくなる、そんな本です。 -
著者が下宿していた巴里のアパートの未亡人が作るオムレツから始まり、歌手の著者が舞台合間に食べたカフェのメニュー、フランス料理の数々、留学したアメリカでの食事、演奏旅行したスペイン、イタリア、ドイツの料理を詳しいレシピ付きで描いたエッセイ集。もの凄い数の料理とそのレシピが書かれていて、行間からその料理の匂いが浮かび上がり、食欲はそそられ、空想力は羽ばたく事請け合いです。レシピも著者自身が作っている物なので十分手に入る材料で仕上げ具合の描写もわかりやすい。ただ、この本は空腹時に読むのはお薦め出来ません(笑)。
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いやはやずうっと気になりつつ読んでいなかったので、文庫化に際して購入。
いいですねぇ。予想に違わず大変好きでしたわ。半世紀も前のエッセイなのに今でもオシャレと言われちゃうようなお料理がたくさん。
バタをたっぷり使った西洋料理、わたし大好きなのです。ほんと和食より西洋料理が好き。そんな人にはたまらないものがあります。「東京の空の下オムレツのにおいは流れる」 (河出文庫) も読みたい!
こちらのレビューのおかげで読むことができました。ありがとうご...
こちらのレビューのおかげで読むことができました。ありがとうございます☆
石井さんのハミングが聞こえてきそうで美味しい香りもしそうな楽しい本でした♪
コメントありがとうございます。
石井さんのエッセイの美味しさ共感して頂けて嬉しいです。
“バタ“という響きだけで、香りがた...
コメントありがとうございます。
石井さんのエッセイの美味しさ共感して頂けて嬉しいです。
“バタ“という響きだけで、香りがただよってきますよね。
お返事ありがとうございます!
“バタ“の響き良いですね~
ほんと、フランスに行って朝食用のパンと...
お返事ありがとうございます!
“バタ“の響き良いですね~
ほんと、フランスに行って朝食用のパンとお菓子買いに行きたいです♪