王国 (河出文庫 な)

著者 :
  • 河出書房新社
3.44
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本棚登録 : 2136
感想 : 168
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309413600

感想・レビュー・書評

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  • 長らく積読になっていたので、やっと読めて良かったです。久し振りの中村文則作品で、あらためて
    中村作品の魅力に惹かれました。海外でも話題に
    なった「掏摸」の兄妹作で、中村作品の特徴でもあるダークな世界観と、闇に堕ちながらも、次に再生していこうとする希望も描かれていて、久し振りに、読めてよかったです。木崎の支配者っぷりが
    よかったですね。

  • 化物で絶対悪の木崎。その立ち振舞いが妙に人間臭く思える瞬間がこの小説の魅力だと思う。

  • 『掏摸(スリ)』の兄妹編に位置する犯罪小説で、今回の主人公・ユリカもまたあの「巨大な悪」である木崎と対峙することになります。哲学的だったり思想的だったりする部分では十分に考え抜かれているし、そういった思弁的色合い一色にならないように、参考文献を用いて補強した知識を咀嚼してちりばめてあるし、ストーリーの起伏・緩急は巧みでぐいぐい読ませるエンタメ性もあるし、背後にはいくつかのテーマが配してあるようですし(木崎が自ら語る部分以外、僕には拾えていないと思います)、著者一流の馬力をフルに発揮して作り上げた作品といった感じは、『掏摸』と同じくらいあります。

    ただ、ここまで野蛮で、強烈な悪の領域に踏み込んで書いていて、著者はその執筆中にまともな生活を送れていたのだろうかが気になる、というのはありましたね。家庭とか会社とか、そういったものに属する日常がある者には書けないような気がするのです。少なくとも、僕がもしもこういった種類の小説を書こうとするなら、日常から逸脱してアパートの一室で誰ともコミュニケーションを取らずに過ごす日々の中で書く、だとかになりそうです。堅気では無理なんじゃないかな? と思えてしまう。

    児童養護施設出身のユリカは、女であることのセクシャリティを武器に、裏の世界に足を踏み入れている。ホテルに派遣され、その現場で相手の男の弱みになる写真を撮るべく、薬を盛るなどしてうまく仕事をこなしていく。そこにあの木崎との接触が生じることで、物語は大きく暗転していくのでした。

    木崎の述べる「闇の哲学」とでも仮に呼んだらよいようなものの説得力と引力が、『掏摸』同様に読者を揺さぶります。価値観や世界観といった、根幹部分に迫ってくる内容だからです。特に、「人間の苦しみと健気な善行という相反する二つの感情を自分の中で混ぜ合わせ、その神は幾千年も悶えながら陶酔し続けているんだ。」という神観と、それを自ら体現する木崎の考え方や行動に、なんだこれは、と揺れるのです。これらの部分での著者の筆致からしても、著者の重心が偽りなく木崎の立ち位置にあることが感じられもして、さきほども書きましたが、日常生活できていたのか、と気になってしまうのです(俗っぽいですね)。

    さて。男性作家が描く若い女性の一人称小説で、驚くほど文章がなじんでいるように感じるのだけれど、第4章では男性目線が前面に押し出ているように感じられました。珍しく読んでいて違和感に取りつかれましたが、それはそこまでの章で一度区切ってから再び読んだせいであるかもしれませんし、また、若い女性を違和感なく描けるような器用な男性作家だろうか? という疑いの先入観のせいなのかもしれません。その後はふつうに読めましたから、よくわからなくはあるんですけれども。

    下世話かもしれませんが、『掏摸』『王国』を読んだ後、読みたいなと思うのは、最終決戦的な物語です。ここまでいくんだ、っていうくらい遠くまで読者を放ってくるような最終決戦を欲してしまいます。まあそれだけ、この二作を楽しんで味わったということなんでしょうかねえ。

  • 作者さんの思想や宗教に関する知識が上手く作品に投影されてて、面白かった!抽象的な話だけど、主人公に移入して読めた。木崎の存在のインパクトは前作の方が強かったけれど、主人公が女性なのもあってか(?)自分はこっちの方が引き込まれたかな。何度も読めばもっと解釈考察ができる作品だろうな、と思った。

  • 『掏摸』の兄弟篇。強大な力、運命によって翻弄される主人公という構図が同じである。運命を掌握する存在として、本作でも木崎が登場する。しかし、前作の主人公との僅かな接触によって運命が捻じ曲げられる。前作のラストで描かれた、世界全体には何も影響を及ぼさない微かな奇跡が、別の物語に干渉し、大きく物語のうねりを改変する。今作では新約聖書のように神からの裏切りを受けるキリストの立場を主人公に置いているが、前述の外部からの干渉によって、グノーシス主義の物語へと変化してゆく。この時木崎は不完全な神の立場に置かれることになる。不完全な神は更に上位の存在、月、によって運命を操作する自身の運命が改変されてゆくが、それ自体をも取り込み、快楽へと変化させる。

  • うーん。面白かったー!

    『掏摸』を読んだのは、随分前なのでストーリーの細部までは覚えていないのだけど、かなり好きな展開。
    木崎の絶対悪の強さ。結局、どの登場人物よりも王たる風格は凄まじく、跡を残してくれる。

    対するユリカの瀬戸際の動きが良い。
    考え、絶望し、また考える。そこに何の価値もないと分かっていながら、最後まで抗い続ける強さは好きだ。
    私の人生、と呼ばれるものが実はそうでなかったと“分かって”しまうことの嘆き。クライマックスは、考えさせられる。

    そうして、月の描写。
    「頭上には、ネオンの光さえ照らす、月の輝きがある。太陽が沈んだ後も、その光を盗み、わたし達のような存在を照らすーー、月。」
    ただ、静かに善悪さえも超越する存在として、モチーフどころではない存在感を発揮してくれている。

    一気読みの一冊だったー。

  • 『掏摸』の兄妹篇に位置づけられる本作。そう筆者が銘する通り、主人公はユリカという女性。

    面白さは、その夜の世界の描写にあろうか。
    相手の弱みを握る・人工的に作ることを専門にするユリカは言わば美人局。女を武器にして、クライアントからの要望に応じる。そのやり取りの生々しさとは対照的に、筆致はあくまで静謐で淡泊。この冷静な描写は筆者の魅力の一つではないかなあと感じます。

    ・・・
    また木崎というミステリアスな人物構成がよい。
    裏の世界で全能感を誇示するこの人物は、身を明かしたりタネを明かすのかと思いきや、寸止めで説明を仕切らない。それは作中の相手に対してのみならず読者をもヤキモキさせる。

    ・・・
    さて、今後楽しみなのは、この木崎が一体どういう人物なのか、ということでしょう。
    今後の続編に期待するものであります。

  • 今回は女性が娼婦のフリをして依頼された男性を騙し弱みを握る謎の組織に属する主人公の話し

    化物と呼ばれている『木崎』に接近を試みるがあえなく失敗する。失敗の理由は
    木崎は前回同様小さい頃から目を付けその人の人生のシナリオを作りやがて破滅へ導く!見事にシナリオに嵌っていた。

  • 暗く照らす

  • 掏摸と明らかに繋がってるってわかる部分は登場人物の木崎だけ。だけど、読む人が読めば何となく、ああってなる感じが良い。直接的な“妹”だとか“兄”とかいう表現は出てこない。

    個人的には、掏摸よりも王国の方が鬱度高めだしドキドキするしすき。

著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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