- Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309464442
感想・レビュー・書評
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ルネサンス初期に掲げられた、ヨーロッパにおける物語文学の最高傑作の一つ。下巻は8日目~10日目の30話。
第八日以降は話の様相がガラリと変わり、西洋文学史上の重要な位置を占める『デカメロン』が、単なる艶笑談の寄せ集めではないということを実感した。
第八日はイタズラや悪だくみがテーマとなり、笑えない悲惨な話や壮絶な復讐譚などが続く。ここで数話に渡って同じ三人組が登場するが、どれも気持ちのよくない話で読んでいる方も凹む。しかしその分、学びのある話ではある。第四話や第十話のように痛快な話もある。
第九日はテーマなしとなり、教訓のある話や笑い話などで十人の若者たちの空気は少しなごむ。そこで第十日は愛や善行についての、ハートフルな感動話に移っていく。この第八日でいったん落としてから盛り上げていく構成が、単なる短篇集とは異なる枠物語の面白さだと思った。特に第十日の第三話、第四話、第五話と次々に前話の感動を上回っていく話の流れは圧巻だった。本書の多くの部分であれほど情欲に溺れる人間の弱さを描いておきながら、今度はそれらを克服する人間の高潔さを示して感動を誘うのは極端にも思えるが。第十日第九話は最高に美しい話で、ここでキレイに終わればよかったのだが、次の最終話で物議を醸すような物語を例のディオーネが語り、本作がただならぬ深みを持つ作品であることを痛感させられた。
平川祐弘先生は過去の翻訳も参考にされており、ダンテとの関連、当時のイタリア周辺の政治的・文化的背景など、注釈が非常に詳しい。解説もこれだけで一冊の本にできるほど詳細だ。ゆえに今からデカメロンを読むなら本訳は外せないと思う。物語の内容だけ楽しむのみならず、ここからあらゆる方面へ知識と関心を広げていけることだろう。
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