わたしは英国王に給仕した (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309709659

作品紹介・あらすじ

いつか百万長者になることを夢見て、ホテルの給仕見習いとなったチェコ人の若者。まず支配人に言われたことは、「おまえはここで、何も見ないし、何も耳にしない。しかし同時に、すべてを見て、すべてに耳を傾けなければならない」。この教えを守って、若者は給仕見習いから一人前の給仕人となり、富豪たちが集う高級ホテルを転々としつつ、夢に向かって突き進む。そしてついには、ナチスによって同国の人々が処刑されていくのを横目で見ながらドイツ人の女性と結婚。ナチスの施設で給仕をつとめ、妻がユダヤ人から奪った高額な切手で大金を手に入れる-中欧を代表する作家が、18日間で一気に書き上げたという、エロティックでユーモラス、シュールでグロテスク、ほとんどほら話のような奇想天外なエピソード満載の大傑作。映画『英国給仕人に乾杯!』原作。

感想・レビュー・書評

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  • 221029*読了
    この世界文学全集の中では、一番薄い本なはず。
    鈍器?くらい分厚い本も多い中で、一般的な単行本くらいの厚さ。

    「わたしは英国王に給仕した」というタイトルをなぜか昔から知っているような気がしていて。
    しかも、映画のタイトルだったような気がしていたのだけれど、確かに映画化されているものの、日本では「英国王給仕人に乾杯!」なんだよなぁ。
    わたしの勘違いなのだろうか。

    イギリス好きのため、このタイトルが気になって、早く読みたかったのだけれど、いざ読んでみると、英国王出てこないやないかーい。笑
    主人公自身はエチオピア皇に給仕したのに、師であった給仕長の経験である、「英国王に給仕した」の方をタイトルにするっていうのも、なかなか考えつかないよなぁ。

    給仕見習いから給仕人に、ホテルを移って、給仕長になり、ついには自らがホテルの支配人となる。
    そんなサクセスストーリーかと思いきや、世情により、というか自ら進んで凋落の道を歩き出す。
    最後には山奥深くでひっそりと道路工夫になってしまうという、大きな山を描くような人生。
    他の長編に比べるとまとまっていながらも、ガツンと来る。滔々と流れるように語られる人生、人生は流れるけれど合間合間のスパイスが強い。
    フラバル氏の著作ってほとんど和訳されていないみたいなので、もったいないなぁ。おもしろいのに。

    そして、エロティックな場面も時々あったし、どんな映画になっているのだろう、というのが読みながら気になりました。
    映画は見たいような見たくないような。笑

  • 金持ちになることを夢見る給仕人の少年。英国王ではなくエチオピア皇帝に給仕して貰った勲章を大切にして激動のチェコを生きる。天国館やドイツ人のリーザとの結婚など女性遍歴もそれなりにあって、感受性豊かに彩る。
    最後孤独に人生を振り返る主人公の回想という形の物語だが、この難しい時代のチェコスロバキアを描いた物語ともいえて、興味深いシーンが多く中身のギュッと詰まったたくさんの物語を読んだ印象です。

  • 一人の人生航路と、チェコの歴史とが重なる絵巻のような物語。これは読書中の実感としては、場面が段々と変わっていくのだが、最後は一人の人生としてまとまりが見えてきた、という感じである。

  • とても魅力的な与太話。私たちの存在は物語を必要としている。

  • 訳がこなれていないせいなのか、面白いのになかなか読み進められないというか、読み進めるのに苦労した。
    私にとっては馴染みのない東欧チェコの近代史の断片に触れられたり、チェコの人の気質などが垣間見えて面白かったし、全世界の人間に共通するような普遍的なテーマが裏側を一貫して流れているため、奥が深くて、時間をかけて考え、一つ一つの言葉を飲み込みながら読みたいと思う本だった。

  • 食べ物はおいしく女の子はかわいい、の生きる喜びがいっぱいな序盤から、意地以外に依って立てるものがない砂をかむような後半。まとめ方によっては説教くさい本になってしまうなあ、と危ぶみながら読んでいたのだけれど、さみしいながらも絶望的ではない終わり方で、よかった。年を取るまでの生き方がどんなものであっても、独居老人になったらああいうふうな心持ちで過ごすものなのかもしれない。それにしても男の人は負の感情を語らないよなあ、と思う。後半の「無」な文章、ヤンには辛すぎたってことなんだろう。でも、折れなくて偉かったよ。わたしもがんばる。

    カラフルなほら話と歴史に翻弄される個人の苦しみが描かれているという点で『族長の秋』みたいだなあと思いながら読んでいた。あんまり辛いからつい盛っちゃうという点で、マジックリアリズムの要素があり、そういうのが好きな人には特におすすめ。

  • 訳がうまくないのか、とにかく読みづらい。
    お話自体は面白いのに、残念。

  • 文学

  • チェコ人の若者給仕のヤンは働き始めた見習いの時に支配人に諭された心得「何も見ないし何も聞かない」でも胸に刻まないといけないのは「ありとあらえることを見なければならないし、ありとあらえることに耳を傾けなければならない」との教えの通りの人生を歩む。いつか百万長者になることを目指しながら人生でどんな職につき艱難辛苦にあっても喜びを見出してもそのように人を社会をよく見聞きして歩み、しかもどんな得意な体験であったとしても押し黙り語らない。ところがどうだ、彼の心の中ではその瞬間の一部始終をエロティックにグロテスクにコミカルにシュールな世界を弾丸トークしまくっているのだった。それを表現するとしたら、ジンベイザメ級を余裕で不自由なく遊泳させている大型水族館の水槽に満々とたまる「水塊」を愛でていたら、亀裂と同時に中のなみなみ溢れる海水が自身に向かって津波のように襲ってくるようなもの。その「文塊」にのまれたままいつ引くとも解らないのに読み続けてしまうといった感じかな。どんなにシュールでもグロでもエロなシーンでもなぜか私の脳内映像には、チャップリンやバスター・キートンらのようなコミカルなトーキー映画ふうに展開していったので、切実なシーンでもコメディに映った。日本のコメディとは感覚が違うけど私にとって楽しくて面白い本の一冊となり大好きになりました。

  • 「その人を知りたければ、その人が何に対し怒るかを知れ」というセリフを漫画で読んでなるほどと思ったことがある。『英国王に〜』を読んでいて、金の使い方を知るのも人間観察の重要なファクターだなと気付かされた(当たり前かもしれないけど、世間知らずなもので)。
    百万長者になって、何をしたいか。この主人公君は、「ホテルを買いたい」までは思い描けたのだけど、その先に展望がなかったのだな。金でできることの限界を示しているのだろうか。雪で閉ざされた山小屋に、村の人々が会いに来てくれるラストがなかなかいい。彼らはヤンが勲章をもらうほどの有能な給仕だからでも、ホテルを持つ大富豪だからでもなく、「面白い話をするただのヤン」に会いに来る。この素朴な愛情が人生のすべてでいいじゃない。でもこのありがたさも、いろいろ経験してみないとわからないことかもね。どうしても人は誰かに見ていてもらいたいものだから。

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著者プロフィール

20世紀後半のチェコ文学を代表する作家。
モラヴィア地方の町ブルノに生まれ、ビール醸造所で幼少期を過ごす。
プラハ・カレル大学修了後、いくつもの職業を転々としつつ創作を続けていた。
1963年、短編集『水底の真珠』でデビュー、高い評価を得る。その後も、躍動感あふれる語りが特徴的な作品群で、当代随一の作家と評された。
1968年の「プラハの春」挫折後の「正常化」時代には国内での作品発表ができなくなり、その後部分的な出版が許されるようになるものの、1989年の「ビロード革命」までは多くの作品が地下出版や外国の亡命出版社で刊行された。
代表作に『あまりにも騒がしい孤独』(邦訳:松籟社)、『わたしは英国王に給仕した』(同:河出書房新社)などがある。

「2022年 『十一月の嵐』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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