なめらかな社会とその敵: PICSY・分人民主主義・構成的社会契約論

著者 :
  • 勁草書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326602476

感想・レビュー・書評

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  • つんどく

  • タイトルにある通り「なめらかな社会」を実現するために、
    具体的な方策が提案してある。
    現代の計算機の計算速度の向上を見れば、
    実現できそうというのが筆者の考えのような気がするが、
    どのシステムも厳密に実行しようとすると、
    システムに含まれる人口をNとすると、
    N×Nの行列計算を毎秒行うというようなことが
    必要になりそうなので結構大変。
    最初の2章である膜、核の話は面白い考え方だが、
    直接には本論とは関係ないような気がする。
    アイデアが出てくる土台のようにはなってるかもしれないが。
    ①新たな貨幣システムの提案:PICSY
     通常の貨幣では過度の蓄財や、経済倫理について根本的に問題を抱えている。
    PICSYではA→Bの取引のあと、B→Cの取引によってAの財が増える。
    このように自分の生産物が社会にどの程度役に立ったかで財の多寡が変わる。
    ある意味ですべての取引が投資的になることを意味している。
    このモデルを実際にマルコフ過程としてすべての構成員のネットワークに
    あてはめて、行列計算する。
     経済のことはよくわかっていないので、過度の蓄財が解消されるのかは
    よくわからなかった。経済倫理の問題点一部解消は納得できた。
    起業や教育への投資及びその関連職業の重要度が高くなる、
    などの話は面白いと思った。
     筆者自身も認識しているように、完璧なシステムではない。
    まず大規模になると行列計算が現実的にはできないのではないか?
    貨幣の新規発行が人口増加時のみになるが、物価上昇などの時に経済対策どうなるのか?
    A⇔Bの相互に空売りするような不正をどう取り締まるのか?
    などいろいろ問題はありそう。
    ただ今までにない、課題を解決できる方策をここまで具体的に
    (実際にデモ用のソフトウェアまである)考えているのは意義深い。
    オンラインゲームなどの一部コミュニティで実証実験とかしてもらいたい。

    ②分人民主主義(Divicracy)と伝播委任投票システム
     人は多面的で、一貫しておらず、矛盾している。
    分割不可能な個人(individual)はもはや幻想で分人(dividual)の概念が要求される。
    政策決定にこの分人の概念を適用できるようなシステムが伝播委任投票システム。
    1人1票を分割して投票できる。投票先は政策や議員だけでなく、うまく政策を選んでくれそうな市民に委任する、ということもできる。
    すべての人がすべての人に投票できる。というような感じ。
     これも具体的な実装方法が提案されていて、
    基本的には①と同じような感じに見える。
    秘密投票、責任所在、納得感などの問題もあるが自分が割と気になるのは、
    いわゆるインフルエンサーへの票の集中。
    信用できるかどうかより、面白いかどうかなどで票が集まってしまうのではないか。
    しかしこれは現行の投票システムでも結構そんな感じなので、
    特有の問題ではないかもしれない。

    ③構成的社会契約論
     法の制定と実行を、ルソーの言う社会契約ととらえる。
    ただ本当に契約した人は実在しない。契約を実際に構成するにはどうすればよいか。
    それをどう実行すればよいか。
     前者ははっきりとはわからなかった。
    分人民主主義のようなものをベースにWikiの編集のような感じで、
    契約に参加することによって、伝播的に契約しているとみなせる、
    という主張のように今のところとらえている。
     後者については、ライフログとIoT(ユビキタスデバイス)の技術を活用して
    自動実行するようにできるのではないかという試論ととらえた。
    ここはかなりSFチック。
    野崎まどの『Hello World』や『Know』が思い出された。
    あとは伊藤計劃の『ハーモニー』でのWatchMeとかもそれに近いかな。

    直接関係ない感想
    最近の「意識」の研究では、
    人間の意識は脳内の神経ネットワークのある種の極大構造として現れる、
    という風に考えられているらしい。
    左脳と右脳をつなぐ脳梁を切断すると2つの意識が混在するようになったり。
    つまり、二つの極大構造があって、その2つのつながりが弱いと
    意識はばらばらの2つになるが、強い(相互的な)ネットワークで結ばれると、
    二つの意識が統合されて、元の2つを下位構造に持つ、
    新たな意識が生まれる。
    人はそれぞれ極大の意識だが、会話などのネットワークでは弱すぎて
    意識が統合されない。
    PICSYやDivicracyのように自動的に相互ネットワークが構築され、
    それが(それこそ『Know』の世界のように)自動的に自分の脳に反映されるようになると、
    人類をつなぐ新たな「意識」、「ハーモニー」が生まれるのではないか。
     あるいはTwitterなどやっていると意識レベルが下がったような感じがするが、
    その下がった意識状態で、たくさんの人とつながっていると、
    すでに新たな弱い意識が生まれていたりするんだろうか。

  • 20世紀は正義の世紀。21世紀はゲームの世紀。

  • 着眼点はとても面白いと感じましたが、具体的なところが難解で理解できなかった。現代の問題をよくよく捉えていると思いますが、提示している理想像が現実から遠過ぎるように思えました。既得権益層から強い反発を受けそうで、やや実現が難しいのかなと感じさせました。テクノロジーや適切なinfluencerの出現、漸近的な置き換えで理想に近づいて欲しい。

  • 難解であった。しかし、興味深かったのは、社会全体を細胞のメタファーと捉える一方で、固定的なものから流動的なものへと変化している状況を、貨幣や組織に所属すること、民主主義や政治、軍事に至るまで解釈し直そうとしていること。確かに、分人主義があり得るなら、分人民主主義もあり得るわけで、分割投票や部分的委任投票もあり得る。一人一票でない「なめらかな社会」が実現するかもしれない。理解できた部分は少ないが、そこから発展させたい内容だった。

  • これからの社会のあり方の理想の構造を、ただ理想論を述べつらうだけではなく、数学を用いて説明していく本。

  • 難しくてわからないけど、共感する。社会をなめらかにするために自分ができる小さなことを探したい。

  • 複雑な物事を複雑なまま受け入れ、なめらかな社会を作るための思考実験。
    1章では、人間社会を細胞構成に見立て、核、膜、網と分解したり、オートポイエーシスなど動的に観ているところなど、とても面白かった。
    2章以降については、論理は分かるが現実的ではない話が多く、「学者論文」という感じがしてしまった。

  • 社会、テクノロジーを生物学的・数理的に捉える一章の試みはロジカルでありながらユニークで、知的興奮を生むものがあった。ただ、二章以降における打ち手の社会実装のパートは、現実味がない印象だった…ただ、その後のスマニューの成功を見ると、思想的な試みとビジネスのバランスは元来すごく強い方なのだろうなと。
    二章のPICSYなどは捉え方によってはVALUで実装された概念と近いですが、うまくいかなかったですね…

  • 思想が好き

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著者プロフィール

南カリフォルニア大学客員教授及びケンブリッジ大学客員研究員を経て、現在、明治大学情報コミュニケーション学部教授。ノースウエスタン大学よりコミュニケーション学博士(PhD)/メディア批評及びカルチュラル・スタディーズ。
主な編著書に(共編)『説得コミュニケーション論を学ぶ人のために』2009年, (共編)『パフォーマンス研究のキーワード』2011年, The Rhetoric of Emperor Hirohito: Continuity and Rupture in Japan's Dramas of Modernity. 2017年, The Age of Emperor Akihito: Historical Controversies over the Past and the Future 2019年, Political Communication and Argumentation in Japan 2023年、翻訳書に(共訳)『議論学への招待ー建設的なコミュニケーションのために』2018年がある。財部剣人のペンネームで『マーメイドクロニクルズ 第二部 吸血鬼ドラキュラの娘が四人の魔女たちと戦う刻』を2021年出版。

「2023年 『ポップ・カルチャー批評の理論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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