「家庭教育」の隘路―子育てに強迫される母親たち

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  • 勁草書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326653331

感想・レビュー・書評

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  • この本は、育児について、母親に焦点をあて、インタビュー調査と既存のアンケートのデータから(アンケートは子による回答もあり)、現状と問題点を分析している。その内容は↓のようなことでした。

    ・母親の育児の方法は、子供の能力や就業、意識などに長期的な影響も含めて(間接的な場合もあるが)影響している
    ・育児の方法には母の学歴が影響している傾向がある。とはいえ、特定の育児方法を採用することが望ましいわけではなく、子育ての方法は一長一短である

    ・母親にはその負担がのしかかり、自分のキャリアプランを後回しにしたり、仕事との両立に苦労したりしている

    筆者は、どんな子育てをすればどうなるかを論じて推奨しているのではなく、格差のある現状、母親が葛藤を抱える現状を解決する政策の必要性を提唱している。

    最近教育政策で提唱されてるように、人間性、非認知能力が大事なのはわかるけど、それを育てる責任が母にのしかかったら確かに辛い。母を追い詰める政策はやめるようにという筆者の主張には賛成。

    同時に、そんな血眼で教育しなくても、親子共に幸せになれることが理想的だよなと思いつつ。。教育って、何かの能力があがるのと引き換えに別の能力や精神面の幸福度はさがるかもしれないし、それも人によりちがうだろうし、難しい。。

  • のびのび育てるとコミュ力はアップするが、いい仕事には就けない。きっちり育てると親子関係に悪影響だが、いい仕事に就ける可能性が高まる。

    のびのび、且つきっちり育てられれば最高だが、普通そこまで出来ない。公的資源がここを補ってくれればいいが、今の政治はここを家庭に押し付けている。家庭の仕事は現状女の仕事。子供にはやりたいことをさせたいが、女はそのロールモデルにはなれないという矛盾。

  • 自分が著者のことを知ったのは、NHKの「爆笑問題のニッポンの教養」出演時でした。
    太田光の挑発的な問いかけに激しい剣幕で真っ向勝負していたのが印象的でした。
    共著した「「ニート」って言うな!」も話題になりましたね。

    政府の教育再生会議で「親学」が議題に上るなど、昨今「家庭がダメだから子供がダメになるのだ」という趣旨の家庭教育責任論が活発化し、一方で家庭での教育をメインに取り上げる雑誌などが次々と創刊されるなど、「家庭教育」への関心が非常に高まっている状況にあります。
    著者の問題意識は、限りある時間的・経済的リソースの中ただでさえ「正しい親であらなければならない」というプレッシャーにさらされている世の母親たちが、こうした「家庭教育」重視の風潮によりますます苦境に追い込まれていく状況が発生しているのでは、という点にあります(著者自身小学生の子供を持つ母親だということです)。

    39名の小学生の子を持つ母親へのインタビューと、青年期の子供とその母親とのペアを対象にした質問紙調査データとを材料に、社会階層が家庭教育の在り方に影響を与える「格差」の問題、および、母親たちが子育てそのものの中で、或いは、自身の人生設計との間で直面している「葛藤」の実態をあぶり出していきます。
    読み応えがあるのはやはり、かなりの紙幅が費やされているインタビューの部分です。
    母親たちが何を考え何に悩みながら「家庭教育」に向き合っているのか。
    分かったようで分かっていなかったことが赤裸々に生の声として込められています。
    ウチのコドモはまだ教育前段階ですが、今後父親として或いは夫としてどのような配慮が必要になるのか、考えさせられるものがありました。

    ポスト近代化社会では、単にテストで好成績を上げ高学歴を得ることが必ずしも社会的な成功を保証してくれはしない。
    求められるのは知識や学力だけではなく、コミュニケーション能力や独創力などいわゆる「人間力」的なスキルが重視されることになります。
    それじゃあ学歴は全く関係ないかというとそんなことはない。
    ちゃんと勉強して学力を上げるとともに生活習慣や社会のルールを身につけるための「きっちり」した教育と、子供の個性に合わせて様々な体験をさせることで「人間力」を身につけさせる「のびのび」した教育が、どちらも必要とされるわけです。
    ところがこの両者を両立させることはなかなかに難しい。
    厳しく躾け過ぎればのびのびとした個性は育たないし、放任し過ぎれば規律は身に付かない。
    そうしたアンビバレンスに母親たちは日々悩んでいるわけです。

    正直、はじめに主張ありきでそれを裏付ける調査結果を組み立てた、という印象も多少はするんですが、結論には同意するし、調査結果の分析内容も興味深く、読んでよかったと思える一冊でした。

  •  学術書スタイルなので、あまり読みやすいとは言えない。でもまぁ学術書スタイルということは、仮説・実証・結論がわかりやすく分かれているということでもあるので、「はじめに」と「第一章」、それから「終章」と「おわりに」だけ読むというスタイルでもいい。もちろん図書館でいい。「教育」というものに興味がある人には読んで欲しいと思うのだ。大事なことが書いてある、と思うのだ。
     この人の仕事は好きだ。ていねいで、ブレなくて、自分がある。「ハイパー・メリトクラシー」というのが、この人のキーワード。本人の発言(http://www.rieti.go.jp/jp/events/04110901/honda.html)からこの言葉を説明させると、
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    「メリトクラシー社会」では学校教育を経て達成されるような能力が人々の社会的地位達成において重視されてきました。これに対して「ハイパー・メリトクラシー社会」で重要視されるのが「ポスト近代型能力」で、問題解決能力や意欲、対人コミュニケーション能力といった捉えどころのない能力が重要化しています。これは努力を通じて達成されるものでもなく、きちんと証明されるものですらありません。むしろ生まれ持った資質や家庭環境などによって形成される能力が有効だといわれ、実際に「ハイパー・メリトクラシー社会」ではそのような能力に優れた人が高い社会的地位を得ます。
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     というかんじ。学歴とかより「人間力」とかそーいうのが大事、という考え方が世間に認知されてるよね、ってことだ。ガリベンくんじゃなくて、コミュニケーション能力がある人がいい目を見る……というのは一昔前までは「あらまほしき」状況だと思われてた、んじゃないかな。でも、実際そういう社会になってみると、カネを稼げない(ニートであるとか、彼女がいないとか)=人格的に劣っている、みたいなことになっちゃった。これはキツイ。
     で、学力じゃなくて「人間力」ってことになったら、当然、学校じゃなくて「家庭教育が大事」って話になるよね。お母さん、たいへんだよ。ってところから、本田は出発する。そんなにお母さんにプレッシャーかけて、どうすんの? 結局、子どもがどうなるかは「家庭次第」ってことにしちゃっていいの? だって、豊かな家庭、貧しい家庭、忙しい家庭、ゆとりがある家庭、高学歴な家庭、低学歴な家庭……いろいろあるじゃん。子どもは別として、お母さん自身の人生だってあるじゃん。お母さんが子どもにかけられるリソースって、一定じゃないじゃん。お母さん、いまでさえがんばってるのに、これ以上「子どもは家庭次第!」って追い詰めちゃっていいの?
     と、そういう問題意識のもとに、「家庭教育」が、将来にわたってどういうふうに子どもに影響するのか、を調べたのが本書。親の学歴は、子育ての方針や、子育てにかけるリソースに、どういうふうに影響するのか。「のびのび」育てられた子どもと、「きっちり」育てられた子どもは、将来どんなふうに育つ傾向にあるのか。そういうところを、インタビューをもとにした調査でしつこく食い下がっている。
     山田昌弘とかが、かんたんに「親が高学歴な子どもは優位だよね」って一言で済ませちゃうところを、本田はしつこくしつこく「その1+1はホントに2になるのか」って考えてる。こういう融通の利かない学者さんは好きだ。じっさい、「きっちり」方針の親のもとで育つと、子どもは学力・学歴というところでは優位に育つ。しかし「のびのび」方針で育つ子どものほうが、ニート・フリーターにはなりにくい傾向にあるという。山田のヤマカンとはまた微妙に違う結果となっているわけだ。こういうところに、「学問」の価値があると思うんだよね。
     タイトルにある「隘路」というのは、文字通り言えば「狭い道」のこと。八方ふさがりとまでは言わないけれど、だんだん「子育て」って狭く厳しくつらい道になってんじゃないの、という筆者の実感がこめられているんだと思う。広田照幸が「学校教育」へ過剰な期待を寄せることに警鐘を鳴らしているならば、本田のこの仕事は「家庭教育」へ際限なく押し寄せる自己責任論への防波堤たらんとしているのだと思う。

  • 母親の「家庭教育」は既に可能な限りの力を注いでいるにもかかわらず、そこには格差と葛藤が渦巻く。更に今後「家庭教育」に、より重点を置こうとする政策により、その格差と葛藤が増大する事が避けられない。「家庭教育」による格差・葛藤をより小さく押える為には、家庭から外に出た、公共の教育機関の充実が最も必要である。どうなる事か・・。

  •  「自殺」「いじめ」「非行」「学級崩壊」「不登校」・・・・
    子ども達の問題行動が話題になる度に、「家庭教育」の重要性が指摘される。これはこれで正しい。子育てには、学校でできることと学校ではできないことがあるからだ。最近では、「早寝、早起き、朝ご飯」というキャッチフレーズとともに、規則正しい家庭生活の重要性が強調されるようになり、それができない家庭は社会的な批判に晒されるようになった。
     子育ての主体は家庭である。だから、このこと自体は正しいのだが、このような社会からのメッセージは、どのような形で誰に届いているのだろうか。
     本書はそれを問うている。
     真に規則正しい家庭生活を意識すべき家庭には届かず、それなりに精一杯頑張っている母親達がそれを過剰に受け止めて「子育てに脅迫され」るようになっている現実。少子化が問題になっているのに、保育園等の託児施設が足りず地域によっては数多くの待機児童があるなど子育てが大変になっている現実。
     この国は本気で少子化に対処しようとしているのだろうか。
     政治家だけの責任ではない。「自分さえ良ければいい」という身勝手な思考で、あれほど「高校全入」「15の春を泣かせるな」「偏差値教育反対」を叫んだ世論は、今全く別のことを言っている。
     子育てについても同じだ。今必要なことは、「早寝、早起き、朝ご飯」と家庭教育の必要性を強調し、それができない母親を追い詰めることではないはずだ。たとえ、定職のないシングルマザーでも家庭教育に専念できる環境を整えることが政治の責任なのだ。しかし、このようなことを言っても選挙民は、それよりも道路をつくる側に一票を投じるだろう。
     ああ、この国の未来はどうなることだろうか。

  • いや、多分いま読んどいて良かったのだけど・・・
    すげー気分が落ち込んでいく本でした。うん。
    そりゃあそうよね。そうなのよね。うんうんよくわかる・・・けど。。。。

    「女性として」の困難なんて一口に言っても多様すぎて、
    男性と比べて"自分が"どうかてことを自分の女性性に還元して一般化するのはほんと無理。
    ただ唯一、確信をもって男性と比した時に難しいだろうと思っているのは、
    「ロールモデルを前の世代に求める」ということのレベル。

    勿論男性にとってだって時代の変動は激しいし、どの時代にも様々な男性像があるしで「ロールモデル」なんてカタカナ言葉な抽象を描くことは大変に困難でしょう。
    けども。

  • 統計データと学歴・階層別の母親が子供の教育にどのような方針をもっているかについてのインタビューから分析しており、特に、母親の学歴別の教育方針の違いが読んでいて面白いです。ただ、この手の本を読んでいつも感じるのですが、大学教授自身が、子供の教育や学歴格差をテーマにした本を執筆していることが、学校外教育費に多額のお金をかけないと子供の将来に希望がないかのような風潮をつくりだしている印象を強く持ちます。逆の視点から、つまり、学校外教育費を出す余裕がない家庭出身で、高学歴履歴を歩んだ人がどのように学び方を身につけたかをテーマにした本が出てくれればいいのですが。

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著者プロフィール

本田 由紀(ほんだ・ゆき):東京大学大学院教育学研究科教授。専攻は教育社会学。著書に『教育の職業的意義』『もじれる社会』(ちくま新書)、『教育は何を評価してきたのか』(岩波新書)、『社会を結びなおす』(岩波ブックレット)、『軋む社会』(河出文庫)、『多元化する「能力」と日本社会 』(NTT出版)、『「家庭教育」の隘路』(勁草書房)、『若者と仕事』(東京大学出版会)、『学校の「空気」』(岩波書店)などがある。

「2021年 『「日本」ってどんな国?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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