〇第1章 会計とファイナンスはどう違う?
・会計とファイナンスの違い N138~
☑会計は「利益」を扱い、ファイナンスは「キャッシュ」を扱う。N138~162
利益:売上から費用を引いたもの。この売上や費用は、実際のキャッシュの入り払いにかかわらず、商品を販売した時点、商品を仕入れた時点で、会計上「認識」され、その結果、会計における決算書を構成する損益計算書に記載される。
←このことが、同じ会社であるにもかかわらず、「会計上の利益」と「キャッシュの残高」が違う原因のひとつとなっている。これに関係するのが利益は出ているのにキャッシュがなくて倒産に追い込まれる「黒字倒産」。
キャッシュ:入金や支払いがあって、企業の預金の残高に反映された時点で「認識」される。「利益」の会計基準はまちまちだが、「キャッシュ」は残高を調整できず、「キャッシュは噓をつかない」といわれる。
☑会計は「過去」を扱い、ファイナンスは「未来」を扱うN166~173
「現在の投資」と「将来のリターン」のバランスをとる必要があるため、ファイナンスが重視される。
・財務会計と管理会計N196~
①財務会計:外部向けの会計。ここがファイナンスと関係。
②管理会計:経営に役立てるための内向けの会計。
・財務三表N205~
①賃借対照表:左側に資産・右側には負債と資本(純資産)、これが釣り合う。その企業がどうやって資金を調達し(負債か資本か)、どのように資産として運用しているのか、を示している。
☑資本は資本金(立ち上げたときや増資したときに払い込みしたお金)と余剰金(稼ぎ)に分かれる。N239
☑流動資産:資産のうちすぐ現金化できるものN246~
例)現金や預金、投資有価証券、売掛金、受取手形など
売掛金/買掛金:取引から支払い受取りまでラグがあるもの。売ったけど支払は月末みたいなものが売掛金で、資産の部に計上。買掛金はその逆で負債の部に計上。N246
約束手形:商品を販売した際に、その代金をキャッシュではなく「掛け」で受け取る際の手形を受取手形、逆を支払手形という。
棚卸資産:在庫のこと。流動資産の項目に計上される。
☑固定資産:現金化するのに時間がかかる資産N280~
有形固定資産:土地や建物、機械設備など
無形固定資産:営業権や特許権など。長期保有の有価証券や保有する子会社の株式もこれに該当するが、連結決算では子会社の株式は親会社の投資有価証券と子会社の資本金が連結処理の際に相殺されるためBSには出てこない。
☑流動負債:すぐに返す必要のある負債N290
例)支払手形、買掛金、短期借入金(1年以内に返済要)
☑固定負債:すぐに返す必要のない負債N290
例)長期借入金、社債
運転資金:通常、売上代金の入金よりも先行して原材料などの仕入れ代金の支払いがある。両社のタイムラグを埋め合わせるために必要なキャッシュを運転資金という(車は売った後、代金がローンなどによって後から支払われる)。N333
現金商売(スーパーマーケットなど)は売上入金が原料支払いよりも先に来るから資金繰りがしやすい。N355
②損益計算書:収益からかかった費用を引いたら、これだけの利益や損失が出てきた、ということを示している。N377
5つの利益
Ⅰ.売上総利益=売上高ー売上原価:商品そのものからいくら儲かったか。企業が商品にどれだけ付加価値をつける力があるかを表している。N382
Ⅱ.営業利益=Ⅰー販売費および一般管理費:本業の営業活動から生み出された利益
Ⅲ.経常利益=Ⅱ+営業外損益:通常の営業活動や財務活動から生み出される利益
Ⅳ.税引前当期純利益=Ⅲ+特別利益・特別損失:企業のすべての活動から生み出される利益
Ⅴ.税引き後当期純利益:Ⅳー法人税等:税金の差し引き後に最終的に残った利益
PL上の利益がBS上の資本に積み重なる。PLが原因でBSが結果。N415~420
③キャッシュフロー計算書:企業にどれだけの収入があって、どれだけの支出があったか、というキャッシュの動きを表すもの。N431~
Ⅰ.営業活動によるキャッシュフロー:企業がどれだけのキャッシュを生み出す能力を持っているかわかる。これがマイナスの場合は「経営上問題あり」となる(スタートアップやライフサイクル導入時には往々にしてみられる)。N439
Ⅱ.投資活動におけるキャッシュフロー:企業が何に投資しているのか、(有形固定資産を取得するための支出額と減価償却費を比較することで)投資活動に積極的かどうかがわかる。N451
Ⅲ.財務活動によるキャッシュフロー:営業活動並びに投資活動におけるキャッシュの過不足の状況や資金の調達方法を把握できる。N464
企業のライフサイクルに応じでキャッシュフローのパターンも変わってくる。N496
→導入期はⅠとⅡがマイナス、Ⅲがプラス。事業が軌道に乗り、成長期を経て成熟期に入るとⅠはプラス、Ⅲはどんどん減っていく。
上場したばかりの企業(つまり導入期)のⅢがマイナスになる場合もある。上場を果たした創業社長は、おいそれと株式を売却することができず、金銭的恩恵がないために、ならばと増資によって調達した資金を使い増配することで、創業者のポケットにキャッシュが入る。N505
・デットとエクイティN221~238
資金調達には
①有利子負債(デット)による調達
②株式資本(エクイティ)による調達の2種類がある。
デットには銀行借入と社債の2種類がある。
銀行借入は間接金融、社債と株主出資は直接金融と呼ばれる。
・企業に成長性を求める株主と安定性を求める債権者のマインドの違い
「融資」も「預金」も「投資」であるN514
投資家にとってのいい企業とは、成長性の高い会社。そのためには、ある程度の有利子負債を増やすのもやむなし。
「あの会社は無借金経営だからいい」と安定性を求めるのは、債権者の視点。N539
両社のマインドの違いは、損益計算書と利害関係者との関係からくる。N551
企業は顧客から得た売上から、取引先に原価→従業員に人件費→金融機関等に元本と利息→国家に法人税→経営者に役員報酬→株主に配当を払う。
←株主は最後に残ったものを受け取る。さらに損失は出資金の範囲なので限定的なのに対し、利益は青天井なため、「とにかく売上を上げてくれ」というマインドになる。
債権者は、支払いのタイミングが、同じ投資家でも株主より手前。さらに利益は利息の形で固定で入る。よって企業がどれだけ売上を上げようが関係ないし、ハイリターンを求めてリスキーな投資をするよりも、堅実に売り上げを上げることを求めるマインドになる。
・経営者の役割N570
株主重視の経営は従業員を軽視している、とよく言われるが、決してそんなことはない。
上述の通り、株主は利益配分の流れで最後に位置するわけだから、株主の利益を最大化することによって、川上に位置する従業員にも恩恵がもたらされる。
企業にとって一番重要なことは事業の継続であり、常に最適なリソース配分が求められる。それを可能にするためにうまくかじ取りを行うのが、株主の代表である経営者の役割。
〇第2章 ファイナンス、基本のキ
・コーポレートファイナンス(企業財務)N602
①投資に関する意思決定
②その投資に必要な資金調達に関する意思決定
③運用して得たお金をどう配分するかという意思決定
の3つの意思決定にかかわる
上記3つの意思決定の目的は、企業価値の最大化であるが、ファイナンスにおける企業価値とは「投資家(株主と債権者)にとっての企業価値」N613
・リターン=利回り=収益率N716
・期待収益率N736
=予想収益の期待値
利回り2%になる確率が60%、6%になる確率が20%、8%になる確率が20%の時の期待収益率は
2%×60%+6%×20%+8%×20%=4%となる
投資家にとっては「私はこれくらいリスクをるのだから、これぐらいのリターンは欲しい」という期待が込められている。
・株主資本コスト(株主が要求するリターンのことN789)の計算式N807
CAPMを使う。株主資本コスト=リスクリフレート(国債に投資した場合に投資家が期待する収益率)(約2%)+β(株式全体の変動に対して、その会社の株式がどれだけ連動するかを表した数字。ブルームバーグのHPで調べられる)×マーケットリスク・プレミアム(市場株式全体(TOPIXやS&P500)のリターンとリスクりフレートの差)(TOPIXなら約5%)
!欧米に経常利益の概念がない理由N921
経常利益は負債コストしか反映していない。
かつての日本のようにメインバンク制度があって、資金調達の大部分を銀行融資という形で賄っていた時代には、確かに株主資本を意識する必要性は少なかった。
・経営者が抑えるべき加重平均(WACC)の考え方N936
負債コストと株主資本コストを加重平均して求めたもの。加重平均資本コストともいう。
投資家の要求にこたえるために企業が資産を活用して生み出すべき最低限の収益率といえる。N953
負債D(Debt)と株主資本E(Equity)のそれぞれの時価ベースでの按分でコストを算出するのが基本。【表N959】
←ここでいう実効税率とは、有利子負債の場合は損金として、支払利息が課税所得から控除できるので、税引き後の値で計算することを意味している。N959・N1004
WACCは企業の資金調達コスト。つまり、この会社が投資家からいくらで資金を調達してきているかを表した数字。N986
←ふつうは銀行など債権者から借入する場合の調達コスト(負債コスト)にしか目がいかない。しかし資本株主を考慮したWACCの視点に立つと、意外と資金調達コストは高くなる。そして、WACCの利益率を達成しないと、株主が離れ、株価の下落が起きる。
経営者としてWACCを認識していないのは失格。設けているか否かを、会計上における利益の増減だけでとらえ、運用再度ばかり見るのではなく、調達サイドも見るべし。
・WACCを下げるのは広報の役割N1030
WACCが高いということは、投資家はリターンを高く求めている(期待収益率が高い)ということ。ここには「ハイリスク・ハイリターン」が適用される。
実は、WACCを下げることこそが、IR(Invester Relation 投資家向け広報)の役割。適切な企業情報を適切なタイミングで公開することで、投資家のリスク認識を下げる。
WACCが下がれば、資金調達コストが下がる。このことは、企業にとってはかなり重要な目標のはず。見逃されがちだが。
←企業はもっとWACCを下げることに注目してもいい。
経営者は必ずROIC(後述)とWACCの両方に目を凝らすべき。
結果が良ければいいというわけではない。「いい時しか報告しないなら、悪い時は隠して発表しないのではないか」と、投資家が考えることもありうる。
→信頼関係の構築は、いつだって十分なコミュニケーションによって成り立っている。
・企業の収入は税引き後営業利益N1090
・投下資本利益率(ROIC)をWACC以上に!N1135
投下資本利益率(ROIC)=税引き後営業利益/投下資本(有利子負債+株主資本)。つまり事業の利回り。
これをWACC以上に、そしてさらに拡大させていくのが経営者の使命。
ROICとWACCの差をEVAスプレッドという。
さらに投下資本にEVAスプレッドをかけたものを、EVAという。EVAとは、単年度でどれだけ企業価値が増加したかを表す指標。これがマイナスだと、資本を投下すればするほど、企業価値を毀損することになる。
〇第3章 明日の1万円より今日の1万円~お金の時間価値
・お金の価値は、いつ受け取るかで変わる。そして、明日のお金より、今日のお金のほうが価値がある。N1179
・将来価値の計算N1221
ファイナンスにおける利息とは、複利のことであるN1216
将来価値とは、今のお金を複利で運用した場合に、将来どれくらいの価値になるのかということ。元本×(1+利率)の年数べき乗。【式N1240】
・現在価値(PV)の計算N1242
お金の価値は、遠い未来のものほど小さくなる。今日の100万円を年率10%とすると、1年後には110万円になる。つまり、今日の100万円のほうが、1年後の100万円よりも10万円分価値が高い。
現在価値は、将来の金額を利率で割り戻して出す。元本/(1+利率)の年数べき乗【式N1261】
!現在価値の考え方をマスターすると、世の中の様々な金融商品の理論価値を計算することができる。金融商品の理論価格とは、その商品が将来生み出すCFの現在価値の合計だから。N1285
割引率=要求する利回りなので、割引率が高くなると現在価値は低くなり、割引率が低くなると現在価値は高くなる。リスク認識が変わると、要求する利回りも変わるので、割引率も変わるわけだ。N1293【グラフN1327】
・永久債の現在価値n1328
満期がなく永久に利息が支払われる債権。
永久債の価格の算出公式は、それが将来生み出すキャッシュフロー(現金収支)を現在の価値に割り引いたもの。
永久債権の現在価値=毎年のキャッシュフロー/割引率(期待収益率)【式n1346】
・成長型永久債の現在価値n1360
永久債は「毎年一定額(例えば100万円)のキャッシュフローを受け取ることができる債権」についてだったが、今度は「その100万円のキャッシュフローが毎年3%ずつ成長していく」債権。
成長型永久債権=初年度のキャッシュフロー/(割引率-成長率)【式n1365】
←企業は永遠に続くものであるということを前提にしているため、企業価値の算定に用いられる。
〇第4章 会社の値段
・事業価値と非事業価値n1381
企業価値=事業価値+非事業価値
非事業価値:事業と直接関係のない絵画や遊休地やゴルフ会員権などを時価評価したもの。
事業価値:企業が将来生み出すフリーキャッシュフローを現在価値に割り引くことによって求める。
フリーキャッシュフロー=営業利益*(1‐法人税率)+減価償却費‐設備資金‐運転資金の増加額【式1437】であり、企業が将来生み出すキャッシュフローから将来支払う必要のあるキャッシュフローをひいたもの。n1405
・減価償却費とは、使った分だけ価値が下がる機械設備の価値の減額分をその耐用年数に応じて、費用として計上したもの。実際にキャッシュが出ていくわけではない。
!一度に設備投資額を費用に計上してしまうと、初年度は赤字になってしまう場合があり、そうすると税金が取れないから、減価償却費という考え方が生まれた。n1447
・FCFには運転資金の増加額がマイナスされるn1473
企業が行う投資には、設備投資(お金になって戻ってくるのに時間がかかる)と在庫投資(=運転資金、原材料など)に分けられる。
製品も売れるまでは在庫であり、売れて実際にお金を回収するまでは売上債権になり、最終的にはお金となって戻ってくるもの。売上債権の増加や回転期間の変化、在庫の増加によって必要となる運転資金は異なる【グラフn1486】
この運転資金は支払う必要のあるキャッシュフローであり、差し引かなければならない。
・割引率にはWACCを使うn1489
事業価値を求める際に、割引率にWACCを用いる。
経営者にとっては資金調達コストであるWACCで、なぜ割り引くのか?
←投資家の視点に立った場合の期待収益率がWACC。視点が違うだけで、資金調達コストと期待収益率は同じ数字。WACCとは、投資家視点で言い換えれば、運用してほしい最低限の収益率ということ。だから企業が生み出す将来のフリーキャッシュフローをWACCで割り引く。【グラフn1503】
・企業価値の計算n1504
まず、企業が生み出すであろう将来のフリーキャッシュフローを予測。永遠には予測できないから、企業が成長期から成熟期に移行するまでの年数をある程度予測して、それ以降はその先のフリーキャッシュフローが横ばいか、一定成長率で増加するものとする。成熟期の事業価値(継続価値)はn1328で述べたように永久債や成長性救済の現在価値を求める公式を使う。
継続価値=予測期間の翌年のFCF/(WACC-FCFの成長率)【式n1517】
←これはあくまで「予測期間終了時点における現在価値」であるため、さらに現在価値に割り引く必要がある。
・株主価値n1522
企業価値から債権者の取り分である有利子負債(債権者価値)をマイナスすると、株主の取り分である株主価値が求められる。
株主価格と、株式の時価総額を比べて、マーケットがつけた株価が割安なのか割高なのかわかる。また、M&Aのベースになる。
たとえば、経営者が企業価値を算定して考えた妥当な株価に対して、マーケットがつけた株価が高すぎる場合、2つの原因が考えられる。
①投資家が将来のフリーキャッシュフローを高めに考えている。
②投資家のリスク要因が低すぎる。
いづれも中長期的な視点に立てば、企業の実態とかけ離れた株価は是正される。いつかは株価の下落という形で、顕在化することになる。
・企業価値を高めるにはn1539
①フリーキャッシュフローを極大化。
←営業利益を多くする・節税する・設備投資を見直す(WACC以上のROICが見込めなければ企業価値を毀損する恐れあり)・運転資金を管理する(在庫を管理する(在庫を抱えるということは、売れてキャッシュ化するまでの生産貯蔵コストを負うということ)、支払いまでの期間を見直す(商品を受け取ってから支払いまでに3か月の猶予があるということは、3か月お金を借りていることと同義))
②WACCを下げる
←n1030で述べたように、投資家のリスク評価を下げる。
③余計な非事業資産をキャッシュ化し再投資に回す。
④投資家に還元する。
←WACCが下がる。
〇第5章 投資の判断基準
・投資判断の決定プロセスn1588
①そのプロジェクトから生まれるキャッシュフローを予測する
②予測したキャッシュフローの現在価値を計算する
③投資判断指標の計算を行う
④その計算結果と採択基準とを比較、基準を満たしていれば投資
・NPV法n1597
プロジェクトに投資することは、「プロジェクトが将来生み出すであろうフリーキャッシュフローを購入する」ことと同義。将来のキャッシュフローを現在価値より安い価格で購入できたら「良い買い物」となる。
ファイナンスでは、あるプロジェクトが将来生み出すキャッシュフローの現在価値(キャッシュインフローの現在価値)と、そのプロジェクトに必要な投資額の現在価値(キャッシュアウトフローの現在価値)を比べて、前者のほうが大きければ「投資してOK」。「キャッシュフローの現在価値」から「キャッシュアウトフローの現在価値」をマイナスしたものがNPVであり、第3章の現在価値(PV)とは別のもの。
式はNPV=キャッシュインフローの現在価値‐キャッシュアウトフローの現在価値
・割引率の設定は高すぎても低すぎてもダメn1633
現在価値を求めるには割引率を用いる。
投資判断に用いる割引率(ハードルレート)の設定にはなかなか難しいものがあり、少なくとも死因提供者である投資家(株主と債権者)の要求するリターン(期待収益率=WACC)以上にする必要がある。
しかし、割引率が高すぎると新事業を展開しにくくなりチャンスを見逃し、低すぎると雑多なプロジェクトまで手を伸ばすことになる。
・本社機能のNPVがマイナスになる理由n1654
各プロジェクトの事業価値の合計+非事業価値が企業価値となる【グラフn1659】
ここで本社機能のNPVはマイナスになるが、それは本社がプロジェクトに投資しておらず、キャッシュを生み出していないためマイナスになる。
・IRR法n1668
プロジェクトの投資判断基準のひとつ。
IRR(内部収益率)とは、「あるプロジェクトがあったときに、NPVが0になるような割引率」。つまり「価値と価格がちょうど均衡するような割引率」。
たとえば、IRR5.71%のプロジェクトがあるとして、そのプロジェクトに投資するということは、預金金利5.71%の銀行にお金を預けることと同義。
・IRRとWACCを比較して投資判断をせよn1694
IRR法を使ってプロジェクトの実行を判断する際に、判断基準となるのがWACC。
IRR法における投資の意思決定プロセスは
①そのプロジェクトから生み出されるキャッシュフローを予測する
②プロジェクトのIRRを計算する
③IRR>WACCなら投資実行、IRR<WACCなら投資見送り
ところが実際にはWACCを考慮して投資判断をしている会社は少ない。NPVがプラスなどというよりも、「ああ、あのプロジェクトの利回りは8%か、結構いいな」と感覚で思えてしまう(笑)。
しかし、重要なのはその投資資金の調達コストがいくつであったのか。10%で調達してきたお金を、8%で運用するなんて馬鹿げた話はない。調達コスト(WACC)以上の収益率が期待できるIRRのプロジェクトに投資する必要がある。
・IRRはプロジェクトの規模を反映しないn1715
IRR法の欠点は、プロジェクトのキャッシュフローパターンによって解が存在しなかったり、解が複数ある場合があること。また、永続的にキャッシュフローが発生する場合は計算できない。
そして、IRR法は期間の短いプロジェクトほど高くなる。つまりプロジェクトの規模の違いを反映しない。例えば、IRRとNPV法では、結果が逆になる場合がある【表n1715】
上記の理由からも、企業価値の観点からすれば、NPV法での結果がより高いプロジェクトを選択するべき。プロジェクトの利回りが単純に高くても、企業価値に与えるインパクトが小さくては意味がない。
・回収期間法n1737
投資したお金が何年で返ってくるのかを計算したもの。
わかりやすいが大きく4つの欠点がある。
①お金の時間価値を無視している。
②回収期間以降のキャシュフローの価値を結果的に無視しているため、回収期間以降に急激にキャッシュフローが増えるようなプロジェクトを見送ってしまう。
③プロジェクト全体のリスクを無視している。NPVやIRR法では割引率を調整することでプロジェクトのリスクを反映させていたが、回収期間法ではできない。
④回収期間の基準があいまい。
〇第6章 お金の借り方・返し方