- Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334036614
作品紹介・あらすじ
福島原発事故は、本当は、どこまで深刻な事態に陥っていたのか?「冷温停止状態」の年内達成で、一段落なのか?「汚染水処理」の順調な進捗で、問題解決なのか?「原子力の安全性」とは、技術の問題なのか?SPEEDIの活用、環境モニタリングの実施は、なぜ遅れたのか?なぜ、浜岡原発の停止要請をしなくてはならなかったのか?なぜ、玄海原発の再稼働を安易に認めるべきではないのか?-原子力の専門家であり、内閣官房参与として原発事故対策に取り組んだ著者が語る、緊急事態で直面した現実と極限状況での判断。緊急出版。
感想・レビュー・書評
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「我々は、運が良かった」
実際、それが真実なのです。たしかに、原発事故という「最悪の事故」は起こった。しかし、幸運なことに、それが「最悪の最悪の事態」にまで行き着くことなく、収束に向かうことができた。
もとより、その陰には、事故現場で、犠牲的精神で事故対策に取り組まれた方々の献身的な努力があった。そのことには、改めて、深い敬意とともに、心からの感謝を申し上げたいと思います。
ただ、やはり、我々は、運が良かった。
あの後、水素爆発も起こらず、ふたたび地震や津波に襲われることなく、原子炉と燃料プールの構造も崩壊することなく、事態は収束に向かうことができた。
その幸運を、我々日本人は、誰もが、知るべきでしょう。
(P252)
ビジネス界のグル、田坂さんの言葉にすべては尽くされているな。
政府や東電を批判し、原発の不安に駆られて過ごすより、この幸運を受け止めて、日々を充実させて生きるかのほうが、個人にとってはよほど重要なはず。 -
(2012.03.29読了)(2012.03.22借入)
【東日本大震災関連・その67】
著者の名前を見て、似た名前で経営関係の本を書いている人がいて、昔何冊か読んだことがあるけど、まさか同じ人じゃないよな、と思ったのですが。同じ人でした。
経歴を見ると、工学部原子力工学科を卒業して、医学部放射線健康管理学教室研究生を経て、核燃料サイクルの環境安全研究で、工学博士になっています。
その後、青森県六ケ所村核燃料サイクル施設安全審査プロジェクトに参画もしています。
原子力委員会専門部会委員も務めていたということですので、2011年3月11日の東日本大震災に伴う、福島第一原発事故に対応するための内閣官房参与として、2011年3月29日~9月2日の間、関わったということです。
内閣官房参与をやめた後、福島第一原発を含めて、原子力発電所について、今後どのようなことが問題になり、どのようなことを解決していかないといけないのかについて、インタビューに答えたものをまとめたものです。
原子力発電を続けるにしても、止めるにしても、核廃棄物の処理をどうするのかということが残ってくるし、核廃棄物が無害になるまでの時間が10万年とかいうことですので、未来の人類に対する負債となるということです。
まじめに取り組めば、もっと短い期間で解決しそうな、国の財政赤字でさえ、容易に解決策が見いだせない中で、たいへんな問題です。
【目次】
はじめに
第一部 官邸から見た原発事故の真実
第二部 政府が答えるべき「国民の七つの疑問」
第一の疑問 原子力発電所の安全性への疑問
第二の疑問 使用済み燃料の長期保管への疑問
第三の疑問 放射性廃棄物の最終処分への疑問
第四の疑問 核燃料サイクルの実現性への疑問
第五の疑問 環境中放射能の長期的影響への疑問
第六の疑問 社会心理的な影響への疑問
第七の疑問 原子力発電のコストへの疑問
第三部 新たなエネルギー社会と参加型民主主義
謝辞
著者略歴・著書紹介
●避難勧告(27頁)
首都圏に福島原発からの放射能プルーム(雲)が飛来したと言われる3月15日。
あちこちに、何組もの外国人の家族連れが新幹線で西に向かうため、列車を待っていました。
●アメリカが首都圏避難を勧告しなかった理由(30頁)
「首都圏九万人のアメリカ人に避難勧告を出すと、日本人を含めた首都圏全体がパニックになる」
●国民からの信頼の喪失(40頁)
政府に進言する原子力の専門家が「水素爆発は起こらない」との予測をした直後に、その水素爆発が起こったこと、「メルトダウンは、まだ起こっていない」との推測をしたにもかかわらず、一号機では、かなり早期に全面的なメルトダウンが起こっていたことなど、政府の専門家の予測がしばしば裏目に出ている
放射能の拡散を予測するシミュレーション・システム「SPEEDI」の予測結果が迅速に活用されなかったこと、事故直後に適切な環境モニタリングデータが収集・活用されなかったこと
●トイレ無きマンション(54頁)
以下に「安全な原発」が開発されても、必ず、放射性廃棄物は発生します。従って、放射性廃棄物の「安全な最終処分方法」が確立されなければ、その原発もまた、「トイレ無きマンション」の状態になり、操業を続けることができなくなってしまう
●十万年以上(56頁)
高レベル放射性廃棄物は、その中に、プルトニウムやネプツニウム、アメリシウムなどの、極めて長寿命の放射性物質が含まれているため、それらお放射性物質が時間とともに減衰して十分な低レベルになるまでに「十万年以上」かかるのです。
●信頼回復のために政府がすべきこと(65頁)
「原子力行政の徹底的な改革」を行うことと、「原子力事故対策と原子力政策の長期的な展望」を国民に対して示すことです。
●原子力事故の要因(72頁)
これまで世界で起こった原子力事故の大半が、「技術的要因」ではなく、「人的、組織的、制度的、文化的要因」によって起こっているのです。
●SPEEDIの活用(83頁)
SPEEDIでの放射能拡散予測そのものは、原子力安全センターが、事故直後、すぐに行っていました。しかし、事故を起こした原発四基から放出された放射能について正確なデータが無かったため、仮定の数値を入れて予測計算をせざるをえませんでした。
●公表の判断(84頁)
放射能放出量や住民被曝線量が不正確な値しか予測できなくとも、風向、風速のデータは分かっていたのではないか。その風向、風速データを使えば、どの方向にどの程度の速度で放射能プルーム(雲)が流れ、どの地域が危険な地域になるかは分かっていたのではないか。そして、それを迅速に公表すれば、北西方向にある村などの住民の無用の被曝は避けられたのではないか。なぜ、行政全体として、その判断ができなかったのか
●環境モニタリング(86頁)
国民の立場からすれば、環境中に放出された放射能、飲料水や食品に含まれている放射能など、すべての放射能情報を収集、分析、評価することを政府に期待している
農地、林野、牧草については農水省、食品や水道については厚労省、環境については文科省と環境省という形で、環境放射能をモニタリングする責任主体が別々になっており、それを統括する主体組織が無かった
●金融工学(117頁)
サブプライムローンという金融商品の背景には「金融工学」と呼ばれる確率論を用いた「リスク最小化の手法」があるのですが「最先端の金融工学を用いてリスクを最小化した商品」という売り文句の商品が、世界全体に最大のリスクを発生させたわけです。
リスクを発生させた原因の一つが「ローンが返済不能になる確率」を過小評価したことです。これなどは「恣意的評価」の典型的なものでしょう。
●「廃炉」へ(158頁)
メルトダウンの事故を起こした原発の場合は、この極めて高放射能のロウソク(核燃料)が、完全に溶けて床と一緒になってしまっているのです。すなわち、核燃料が圧力容器の底部と融合してしまっている状況なのです。
●放射性廃棄物の地層処分計画(170頁)
国際的な枠組みで高レベル放射性廃棄物の地層処分を実現する
モンゴル政府とアメリカ政府との間で検討されてきた「包括的核燃料供給サービス」と呼ばれる、モンゴルでの高レベル放射性廃棄物の地層処分計画です。
●政府の責任(176頁)
原発事故において、政府の責任は、第一に、周辺住民の緊急時被曝を最小にすることであり、第二に、放射能汚染した環境による住民の長期的被曝と健康被害を最小にすることなのです。
☆関連図書(既読)
「私たちにとって原子力は・・・」むつ市奥内小学校二股分校、朔人社、1975.08.03
「原子力戦争」田原総一朗著、筑摩書房、1976.07.25
「日本の原発地帯」鎌田慧著、潮出版社、1982.04.01
「六ケ所村の記録 上」鎌田慧著、岩波書店、1991.03.28
「六ケ所村の記録 下」鎌田慧著、岩波書店、1991.04.26
「食卓にあがった死の灰」高木仁三郎・渡辺美紀子著、講談社現代新書、1990.02.20
「原子力神話からの解放」高木仁三郎著、光文社、2000.08.30
「原発事故はなぜくりかえすのか」高木仁三郎著、岩波新書、2000.12.20
「私のエネルギー論」池内了著、文春新書、2000.11.20
「ぼくとチェルノブイリのこどもたちの5年間」菅谷昭著、ポプラ社、2001.05.
「原発列島を行く」鎌田慧著、集英社新書、2001.11.21
「朽ちていった命」岩本裕著、新潮文庫、2006.10.01
「原発と日本の未来」吉岡斉著、岩波ブックレット、2011.02.08
「緊急解説!福島第一原発事故と放射線」水野倫之・山崎淑行・藤原淳登著、NHK出版新書、2011.06.10
「津波と原発」佐野眞一著、講談社、2011.06.18
「ルポ下北核半島-原発と基地と人々-」鎌田慧・斉藤光政著、岩波書店、2011.08.30
「亡国の宰相-官邸機能停止の180日-」読売新聞政治部、新潮社、2011.09.15
「災害論-安全性工学への疑問-」加藤尚武著、世界思想社、2011.11.10
「見捨てられた命を救え!」星広志著、社会批評社、2012.02.05
☆田坂広志の本(既読)
「イントラネット経営」田坂広志著、経営生産性出版、1996.06.20
「日本型エレクトロニックコマース」田坂広志著、経営生産性出版、1996.11.26
「複雑系の経営」田坂広志著、東洋経済新報社、1997.02.17
「創発型ミドルの時代」田坂広志著、日本経済新聞社、1997.07.14
「なぜ日本企業では情報共有が進まないのか」田坂広志著、東洋経済新報社、1999.02.10
「これから日本市場で何が起こるのか」田坂広志著、東洋経済新報社、1999.12.23
「日本型IT革命新たな戦略」田坂広志・石黒憲彦著、PHP研究所、2000.09.28
(2012年4月3日・記) -
専門家でまさに当事者の話
原発は国民の信頼なくしては成り立たない
もう解決に向かっていると考えるのは甘いと -
<目次>
はじめに
第一部 官邸から見た原発事故の真実
第二部 政府が答えるべき「国民の七つの疑問」
第一の疑問 原子力発電所の安全性への疑問
第二の疑問 使用済み燃料の長期保管への疑問
第三の疑問 放射性廃棄物の最終処分への疑問
第四の疑問 核燃料サイクルの実現性への疑問
第五の疑問 環境中放射能の長期的影響への疑問
第六の疑問 社会心理的な影響への疑問
第七の疑問 原子力発電のコストへの疑問
第三部 新たなエネルギー社会と参加型民主主義
<メモ>
これまで世界で起こった原子力事故の大半が、「技術的要因」ではなく、「人的、組織的、制度的、文化的要因」によって起こっているのです。(72)
「推進」と「規制」の部署が「同じ組織」の中にあり、人材的にも「渾然一体」となって「推進」と「規制」を進めてきたということは、国民から一つの疑問と不信を抱かれることを意味しているわけです。(90)
「そもそも、そうした疑問と不信を抱かれるような組織と人材の在り方」が問題なのです。(91)
米国では、たとえ小額であっても、規制をする立場の人間が、推進をする立場の人間との関係で「贈収賄」と誤解されかねない行為をしないという職業倫理が徹底しているのです。(92)
社会心理学者エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』
「第二次世界大戦前において、ファシズムが台頭した本当の原因は、彼らの政治宣伝の巧みさにあったのではない。この時代の人々の心の中に『自由に伴う責任の重さから逃れたい』との無意識があり、その責任を肩代わりしてくれる協力なリーダーを求める社会審理が生まれたことこそが、本当の原因であった」(242)
2014.02.27 田坂氏のツイートで見つける。
2014.03.05 読書開始 -
"大阪へ向かう新幹線で読む。本日は東日本大震災が起きてちょうど1年たつ3月11日。原発事故対策として内閣官房参与として活躍した著者。
事故の影響の大きさを改めて知る。そして、まだわからないことが一杯あることも知った。
日本は、原子力爆弾を2つも落とされ、核実験でも被害を受け、今回の原発事故。これだけの(この言葉が適切かどうかわからないなが)災害、被害にあっている国として果たすべき役割があるのだと考える。
統計調査も長期的に行っていく必要もあるのだろう。先日、週刊誌にこんな調査が紹介されていた。がん検診を受け続けていた人と、受けていない人のがん発生率の調査を新潟大学医学部の教授が紹介していた。20年、30年という単位での調査は欧米では行っているが、日本ではあまり行われていないそうだ。
目に見えない放射能とわれわれは付き合っていかなければならない。
科学的な事実を理解して、適切な判断ができないといけないと痛感した。
この日は震災の起こった時刻に黙祷をささげた。" -
内側から原発事故と真摯に向き合ったということがとても良く伝わるインタビューであった。インタビュー形式なので、それが読みやすかったり、逆に読みづらかったりするところもあったけど、内容は大体わかりやすくおさえてられてたと思います。最後に書いてあった、我々は運が良かったというくだり。胸に刻まなければならないと思いました。
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原子力推進側にいた筆者が、原子力行政の不透明性を指摘し警告している作品。
とりわけ原子力発電を再び推進しようとしてい政官財について、安易な原発推進をしないよう警告している。
・原子力発電は課題が山積している技術であり、特に最終処理についてはフィンランド以外全くめどが立っていない状態。
・経済学的視点から考えることの危険性
→原発事故は確率論を超えた回数が発生しており、こうした思想から原発を設計・運営することにそもそも問題が生じている。
・原発行政についての国民の広範な不信感を払拭するのが根本的な課題にも関わらず現状の政権は、「経済性」だけを問題にして再稼働・推進か原発廃止かの二択を迫っており、国民的議論が広がったとはとうてい思われない。
原発のコスト
=原発建設・稼働・立地・社会心理・危機時のコスト
→果たして本当に安価な発電といえるのだろうか? -
原子力の専門家であり、内閣官房参与として震災後の福島原発事故の対応に取り組んだ著者。果たして、原発事故は官邸からどう映ったのか、その際浮かび上がった7つの疑問とは? インタビュー形式で、著者の見解を語る。事故を風化させないためにも、これからのエネルギー政策、課題と展望を見つめ直す役割を果たす一冊。
第一部 官邸から見た原発事故の真実
第二部 政府が答えるべき「国民の七つの疑問」
第三部 新たなエネルギー社会と参加型民主主義