論文捏造はなぜ起きたのか? (光文社新書)

著者 :
  • 光文社
3.39
  • (3)
  • (7)
  • (10)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 87
感想 : 18
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334038175

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 論文捏造はなぜ起きたのか?
    著:杉 晴夫
    光文社新書 714

    各国で熾烈な競争が続く、生命科学の最先端で起きた、理研STAP細胞事件
    その原因と、その背景にある文部科学行政の病理を描く

    気になったのは以下

    ■理化学研究所

    タカジアスターゼやアドレナリンの合成者である高瀬譲吉が渋沢栄一らの援助を得て設立した民間研究所が理化学研究所である

    GHQは、理化学研究所を解体を命じ、生産部門は、科研製薬として分離、研究部門は和光に移転して、理化学研究所となった

    STAP細胞事件が発生したときの、理事長は、ノーベル化学賞の野依良治
     背景としては3つ
     ①ノーベル生理学賞を受賞した京都大学のips細胞の権威、山中伸弥に対抗する
     ②STAP細胞を成功させ、政府の政策的予算を獲得する
     ③そして、その天下り先として、理化学研究所の事務部門を確保する

    小保方氏1人に責任をなすりつけ、組織をまもろうとしたが、結果、調査委員会は総崩れ、所管の科学技術庁は、文部省に吸収合併されるに至っている

    ■生命科学史

    日本

    明治時代の研究者は、研究室に閉じこもるだけの学者ではなく実学の人々であった

    ・理化学研究所 高瀬譲吉
    ・北里柴三郎 コッホ門下なるも帰国後不遇に、福沢諭吉の援助を得て、北里研究所を創立
    ・山極勝三郎 ウサギの耳にコールタールをつけて、初の科学物質による発がんに成功
    ・鈴木梅太郎 オリザニン、ビタミン研究
    ・池田菊苗 グルタミン酸ナトリウム
    ・秦佐八郎 感染症に対するサルバルサンの開発、初の化学物質を使用する化学療法を創始
    ・野口英世 ロックフェラー研フレクスナーの寵愛を受ける。黄熱病の発見はまちがいか、バイタリティはあった

    1930~1950 分子生物学 にて、ブレークスルーが起きる
    ・ロックフェラー研のエイブリー
    1953 ワトソン、クリックのDNA2重らせん構造の発見、分子遺伝学の興隆
     核酸研究へ
    1987 利根進ノーベル生理学・医学賞授賞 分子免疫学

    DNA解析にてもアメリカからの圧力がなければ日本は引き気味であった

    <科学史上データ改ざんは何度もあった>
    ・ガリレオ、ニュートン、メンデルにも改ざんの疑い
    ・ロックフェラー研リップマン研究室
    ・コーネル大学スペクター事件
    ・マサチューセッツ総合病院 論文捏造 培養細胞はフクロウザルのもの
    ・ピルトダウン人 人骨捏造事件
    ・神の手、藤村新一、旧石器捏造事件
    ・北朝鮮 キム・ポンハン事件 ツボの研究

    ■日本の科学行政

    寺田寅彦氏の言
    我が国では、自国民の独創活動を軽視してその芽を摘み、一方欧米で発展した研究分野をありがたがり、これをそっくり輸入して模倣し、何年かしてやっと彼らの研究レベルに追いついたと自賛する
    しかし、そのころには、欧米で別な独創的研究が半ば出来上がっている

    ■学術誌ネイチャーの実態

    ・ネイチャーは、露骨な商用主義による、論文のえり好み
    ・査読という、論文チェックも、権威者ではなく、未熟で無知な研究者も加わっている
    ・PLOSというアクセス・フリー学術誌の台頭
    ・雨後の竹の子のごとく、PLOSを模倣する劣悪なフリー学術誌の乱立している
    ・サイエンスもフリー学術誌の論文には、独自の調査を行っている

    ■日本の大学改革の状況

    ・国立大学を法人化させて、これまでの文部科学省・大学の対等な関係から、主人と使用人の関係へ変質
    ・通常予算を削減し、国家的要請のある研究に予算を配分、役立たずと思われた研究室は姿を消していった
    ・研究者は、競争的研究資金を獲得しなければ、学会への出席に自費でゆかなければならない状況に陥る
    ・教授の数は維持できても、助手が減り、学生の面倒や、助手自体の研究もできないことに

    ・予算申請しても、日本では、NGの理由も公表されることはない
    ・研究費用のチェックや、申請そのものも、密室で、かつ、権威者が行っているわけではない、予算がついていない
    ・一方、巨額予算をつけてもらっても、使うのが大変、高価な家具やPCに囲まれていた小保方研究室、予算の執行に対するチェック機能もない。逆に予算を使い切ってしまうと、4,5月の空白期間になにもできなくなってしまう

    ・しょせん、日本の教育行政、科学行政は、政府の関連省庁内のほんの一握りの人々によって立案実行されている

    ■ips細胞の真相 山中氏 宝くじにあたったようなもの ⇒ 非常な運に恵まれた

    受精卵の初期では、どんな組織、器官への細胞にも分化しうる
    発達してくると、特定細胞にしかならなくなる
    ⇒このままでは、受精卵とはいえ、人間なのであるから、尊厳をもっている
    ⇒そこで分化した細胞を、初期状態へ戻すことが研究テーマとなる
    体細胞から、万能細胞を抽出する方法にて、取り出した細胞をips細胞と命名した

    目次
    はじめに
    第1章 理化学研究所STAP細胞事件とは
    第2章 研究者はなぜ、データを捏造するのか
    第3章 明治時代の生命科学の巨人たちはいかに活躍したか
    第4章 近年のわが国の生命科学の沈滞
    第5章 科学史上に残る論文捏造
    第6章 分子遺伝学の歴史と、今後の目標
    第7章 わが国の生命科学の滅亡を阻止するには
    おわりに
    主要参考文献

    ISBN:9784334038175
    出版社:光文社
    判型:新書
    ページ数:256ページ
    定価:760円(本体)
    発売日:2014年09月20日第1刷

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB99696065

  • 国立大学が独立行政法人になって以降、日本の研究機関はやばいことになった。

    要は金だな。

    国の意向に沿った研究にしか予算がつかず、自由な研究が潰れていく。

    文脈に関係なく、著者の、愚痴と嘆きと嫌味が放り込まれて来るのも笑える。

  • 背信の〜と一緒に借りた3冊のうちの一冊。
    読みやすく、筆者の想いが詰まっていた。
    論文捏造が起きたメカニズムというよりも、生命科学のこれまでとこれから、という内容の方がしっくりくる。
    研究者として、読んでおいて良かったなと思う一冊。

  • 2015/2/3 ジュンク堂書店神戸住吉店にて購入。
    2015/3/25〜4/2

    昨年の理研の問題を機に書かれた本。内容的には首肯すること多し、だが、個人的な恨みが背景に透けすぎているような気もして、ちょっと閉口するところも。20年ほど前に始まった極端な予算の傾斜配分が日本の科学を停滞させている、ということには全く同意する。

  • 日本の生理学者がSTAP細胞に関する報道等から、日本の研究環境の異常事態を論じている。教授選におけるインパクトファクター重視による弊害、旧科学技術庁主導による研究費配分の偏在の問題、国立大学独立法人化による研究室の改廃、競争的資金など、現在の制度の何が問題なのかということもわかりやすく書かれている。
    もちろん、これによって、莫大なお金を得て、進歩した研究もあるのだろうが、おそらく大半はそうではないであろうと思っていたのを納得させるに十分な話であった。
    だから、大学はダメなんだというのは簡単で、こんな中で何が出来るだろうかと投げかけられたような気もして、身も引き締まる思いになりました。
    でも、巨額の資金を手にしている研究者が幸せなのかと思うと決してそうも見えなかったりして、お金が無くても無いなりの活動が出来ていれば、大学本来の自由な活動は出来るのではないかとも思う。
    これらの活動がある一定の社会的認知を得られることが次に必要なステップなのかもしれません。続いていかなければ、それまでのものでしかないわけですし。

  • STAP細胞の論文の捏造の原因を、小保方さん個人ではなく、組織の問題として捉え、解釈し、説明した本です。

    まだまだ日本は、科学の面でも民主主義の面でも遅れている、ということだと思います。

    それにしても、日本の科学リテラシーの低さはひどい…。
    それらを改善するためにも、できるところから手を付けていくしかないですね。

  • STAP細胞という妄想が引き起こしたのは、不毛な争いばかりじゃない。日本の科学界がいかにお粗末で、パクリだらけの論文を提出する学者たちと、それをチェックできない学界の無力・無知が明らかになったことは、不幸中の幸いだろう。

    そんな腐敗した学界は今にはじまったことではなく、内情はもっともっと腐りきっていると、現役研究者が説いた怒りの本書。なかなかの過激さで、小保方氏はもちろん、理化学研究所所長の野依良治の脱税問題や野口英世の不確かな功績までもバッサリ切ってしまう。研究者らしからぬ思い切りの良さだ。そのあまりの暴れっぷりで、説明不足の点がやや気にかかるが、日本の学界の主義のなさに比べれば、許容範囲だ。

    特に同意するのは、STAP細胞騒動を小保方氏一人の責任にして、理研や共同論文著者の責任が問われずに片付けられようとしている現状に、著者が警鐘を鳴らしている点。これだけの問題を若い下っ端研究者の暴走で片付けてしまっては、日本科学界は世界からも世間からも取り残されてしまうだろう。自殺した小保方氏の上司だって、死者に鞭打とうとも、責任を明らかにされるべきだろう。

  • 2014年10月に実施した学生選書企画で学生の皆さんによって選ばれ購入した本です。
    通常の配架場所: 開架図書(3階)
    請求記号: 460.21//Su32

    【選書理由・おすすめコメント】
    今、話題のSTAP細胞から過去の捏造事例まで詳しく書かれていました!
    (薬学研究科、1年)

全18件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

帝京大学名誉教授

「2021年 『筋収縮の謎 研究の歴史とこれからの課題』 で使われていた紹介文から引用しています。」

杉晴夫の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×