物語のルミナリエ (光文社文庫 い 31-36 異形コレクション 48)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (498ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334763442

作品紹介・あらすじ

全篇新作書下ろしショートショート78篇。小さな物語の光を集めて、人々に元気を与える。そんなコンセプトを立てて原稿を集めた。

感想・レビュー・書評

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  •  今年も13回目の3.11がやってきます。毎年、未読の震災関連ルポや小説を手にする事を恒例にしています。
     今年は特に元日の能登半島地震があり、被災者の方々が抱える悲痛な思いに対して、想像しお見舞いを申し上げることしかできません。

     本書は、東日本大震災(2011.3.11)後、多くの作家も傷が癒えぬ中、「未曾有の災厄の前で人は無力だが、物語の持つ力が心に温かな灯、安らぎ、笑みを生みだす」と信じ、同年12月に発行された78人の著者が贈るショートショートアンソロジーです。

     ご存知の通り、「神戸ルミナリエ」は、阪神・淡路大震災(1995.1.17)の犠牲者への鎮魂の意と、街の復興・再生への夢と希望を託し、同年12月から毎年行われてきました。ルミナリエはイタリア語で、英語のイルミネーション(電飾)のことだそう。
     新型コロナの影響で3年連続中止となるも、犠牲者の鎮魂にふさわしい1月に改め、2024.1.19〜1.28の期間に30周年に向け再開されました。一度観てみたいです。

     そんな素晴らしい表題を冠した本書。なかなか書店や近くのBOOKOFFでも見つけられず、Amazonでポチッとしました。
     震災直後の小説誌等を様々読んできまたが、本書も画期的な企画で素晴らしいと思いました。
     あらゆるジャンル・タイプの、多くの短篇が収められ、読み手の嗜好が分かれるのは致し方ありません。それでも、存じ上げない多くの作家さんの作品に触れられたこと、それぞれの作家さんたちの想いが感じられたことが収穫でした。
     簡単に通り過ぎることはできない、通り過ぎてはいけない作品群でした。

  • [p. 380 以降]
     読了。本書を読み始めたのは、4/18(土)に予定されている、井上雅彦さんを迎えられての超短編イベントの予習(復習?)のためもあったのだけど、先日お別れの日をお迎えすることになった森山東さん追悼の気持ちもあった。本書が刊行されたのは 2011 年。この本の成り立ち自体にも追悼の意味合いが含まれており、今となっては森山さん以外にも鬼籍に入られた執筆者の方がたも多い。震災からは時日が経ち、刊行当時と今とでは読むにあたっての心構えはずいぶん変わったけれども、こうして読み返すことができることを、幸のひとつとして数えたいと思う。
     時節柄、イベントの開催に関しては流動的だろうと思う。スタッフの方がたには大変なことだろうと思います。どちらに転ぶにせよ、本書を再読できたきっかけを与えていただいたことを感謝したいと思います。

    --

    [pp. 261-379]

     加門七海「灯籠釣り」。俺達にできることには限りがあり、そこを越えることはできない。

     坂木司「神様の作り方」。人の思いが重なって生まれるものがある。それは強い。

    --

    [pp. 162-260]

     牧野修「俺たちに明日はないかもね:でも生きるけど」。いろいろと息苦しい。息苦しいまま、この世は終わるのかもね。でも生きるけど。

     田丸雅智「桜」。美しい。

     皆川博子「そ、そら、そらそら、兎のダンス」。ああ、もう、パーフェクトに面白いなぁ。すごいなぁ。

     間瀬純子「蛇平高原行きのロープウェイ」。このイメージはたまらない。つかみきれないようでいて、なんとなくわかるような説明が丁寧に施されていて、残酷で長閑な風景がなんとなく想像できてしまって、それがまた酷い。すごい。

     宮田真司「星を逃げる」。壮大な話なのか身近な話なのか。タイトルも含めて面白い。

     松本楽志「時計は祝う」。誕生日のお祝いなんだ。可愛い。

    --

    [pp. 70-161]

     瀬名秀明「AIR」。このテーマのアンソロジーで、ここまで正面切ってその日のことを描けるのかと、時間をおいてから読んでも、やはりいろいろな思いが甦ってきて、なんとも言えない気持ちになる。辿り着いた未来が「ここ」だと思うと、情けない心もちにもなるが、業ではなく、エネルギーを得て先に進みたいと思う。

    --

    [p. 69 まで]

     草上仁「オレオレ」。ひとつひとつのエピソードがかなり古い印象があるのは、本書の刊行が 2011 年だからだろうかと思いながら読み進めると、最後に種明かしが待っている。そうして、迷路に入り込む。それはいつの時代のことで、本作の想定年はいつ頃のことなんだろう。

     梶尾真治「すりみちゃん」。読み終わったあと、心がぽかぽかした。涙腺が弱くなっているので、ちょっと涙ぐむ。

  • 短編集。ショート・ショート。アンソロジー。
    異形コレクションってホラー作品を集めたアンソロジーと思っていたら、全然ホラーじゃなかった…。予想外。
    メンバーはなかなか豪華。ホラー、SF、ミステリ、ショート・ショート、各ジャンルで名前の通った人が多い印象。

    以下3作品が好き。
    小中千昭「空を見上げよ」ゆるSF。
    上田早夕里「石繭」再読。幻想?進化?
    新井素子「林檎」ネコ。

  •  神戸で毎年12月に開催される「神戸ルミナリエ」は、多くの電飾が夜の街を彩る幻想的な催しだ(東京で開催されていた「東京ミレナリオ」と語感が良く似ていることでも有名である)。例年数百万人が訪れるというこの催しは、今では冬の神戸を美しく照らし出すイベントとしてすっかり定着し、そこには商業主義的な華やかさが色濃い。しかし、そこには何処か厳粛さが漂っている事に観光客らは気づいているだろうか。
     ルミナリエは阪神・淡路大震災が発生した1995年に、その記憶を次代に受け継ぐためのイベントとして始まったのだ。その華麗なイルミネーションの中に、鎮魂の祈りが込められている。

     そして2011年。東北地方を中心に再び巨大な災害が東日本を襲った。大地震とそれに伴う大津波、そして原発事故。「阪神・淡路」の傷も癒えようかという時期に発生した東日本大震災は多くの人の命を奪い日本の社会に大きな衝撃を与えた。
     あまりにも理不尽な悲劇の中で、多くの人たちが助け合いの心で自分にできる事を考えていた。それは募金であったりボランティアであったりしただろう。それが苦しんでいる人たちを救う少しでも手助けになれば、という気持だったに違いない。

     そんな時、僕は一つの事を考えていた。直接的に「モノ」を製造しているわけではない、いわゆるアーティストやクリエイター、広義の表現者らがこのような局面でできることとは何なのだろうか、と。
     そう考えたのは僕が個人的に昔から小説好きだった事によるものだ。だからもっと直截に言えば、この震災に直面して作家は一体何ができるのだろう、と思ったのだ。

     本書はその問いへの一つの答えである。井上雅彦監修により1998年から刊行が続けられているホラー・アンソロジー・シリーズ「異形コレクション」。その48巻目となるこの本は、78編の作品が収められたショートショート集である。このシリーズは殆どが短編集の形をとっているが、以前にも一度だけショートショート集が刊行された事がある。39巻の「ひとにぎりの異形」だ。しかし序文にも書かれている通り、その時とは違うもう一つの意味が本書には加えられている。大災害で失われてしまったものへの哀悼と復興への祈りだ。

     序文や巻末の「感謝の辞」に記されている通り、井上雅彦はあの災害を目の当たりにして、自分にできる事、すべき事について思い悩み抜いたようだ。自らが事務局長を務めていた「日本SF作家クラブ」で義援金を集める活動など進める内に、やがて「物語の力」へと思いが至ったそうだ。
     確かに、寝る場所や食べるものも覚束ないなかで小説を読む気力など生まれないだろう。しかし、再び歩み出すための一歩を踏みしめようとしている人に、物語は確かに強い力を与えてくれるはずだ。
     自分はどうしようもなく創作者なのだ、と語る井上雅彦の姿勢は、真摯に災害と向き合っているように思える。
     「ショートショートなら停電までの短い時間を利用して物語の世界で憩うことができる、などとそんなことまで考えてしまったのだった」という彼の言葉が印象的だ。
     計画停電という前代未聞の状況まで引き起こした原発事故の中で、果たして苦難の中にいる人たちがどれだけ物語で癒される事ができたかはわからない。中には今でも生きていくのに精一杯で、フィクションどころではないという人も少なくないだろう。
     しかし、ここに集められた作家達の作品は、決して手抜きの無い、今の時代にしか書かれえなかったものばかりだ。時間がかかっても、少しだけでも、その想いが傷を癒せればいいと思う。

     正面から震災を扱った作品もあれば、あえて馬鹿な笑いに取り組む作家もいる。それぞれのスタンスで震災に向き合い、困難に向き合っている。最も象徴的なのは、冒頭に収録されている岩手県在住の作家・平谷美樹の「猫」と題された一編。たった8行しかない、収録作の中でも群を抜いて短いこの一編の中に、破滅と新たな出発が描かれており、本書の持つ意義と作家たちの決意を高らかに表明しているようだ。

     時期柄、昨年7月に亡くなったSF作家・小松左京への哀悼が込められた作品も収められている。『日本沈没』で文明の脆さを抉り出し、阪神・淡路大震災を経験し、東日本大震災を目撃したSF作家は、復興の道を歩み始めたばかりのこの国をどう思いながら空へ旅立っていったのだろう。

     夜空を彩る燦めき(ルミナリエ)が人の心に暖かいものを灯すように、少しでも物語の力が再生へのエンジンを駆動させてくれるよう。災害の影響から遠く離れたところに暮らす僕が言うのもおこがましいかも知れないが、それでも、だからこそ、想像力は決して無駄なものではないと、僕は信じている。

  • ショートショート集。震災を意識されたものもありますが、基本的にはさまざまなテイストで描かれています。幻想あり、SFあり、心温まる物語あり。誰にとっても、きっとひとつはお気に入りが見つかるはず。
    お気に入りは新井素子「林檎」。……いえ、猫好きのえこひいきなのかもしれませんが(苦笑)。なんともいい話だなあ。微笑ましくって温かくって。だけど一番大切なのは、自分なりの幸せを見つけ出すことなのかも。

  • 今回は昨年3月11日の東日本大震災への追悼、チャリティー色が濃く、「異形コレクション」というアンソロジー・シリーズ中の1冊としてはかなり異色。
    何より慰霊、鎮魂、追悼というイメージが強く、また構成的に似たカラーの作品が続くので、正直なところ読み進めるのが辛くなるというかいたたまれなくなることも。
    単純に読んで愉しむという代物ではないような。

    詳細はこちらに。
    http://rene-tennis.blog.so-net.ne.jp/2012-02-08

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著者プロフィール

1968年千葉県生まれ。大学卒業後、会社勤務を経て執筆活動に入る。2004年、「キリング・タイム」で第26回小説推理新人賞受賞。同年「小説推理」掲載の「大松鮨の奇妙な客」は、第58回日本推理作家協会賞・短編部門の候補作に選ばれた。同二作を含む短編集『九杯目には早すぎる』でデビュー。著作に「4ページミステリー」シリーズ、『ロスタイムに謎解きを』『最初に探偵が死んだ』など。

「2016年 『お隣さんは、名探偵 アーバン歌川の奇妙な日常』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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