猫の傀儡(くぐつ)

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334911652

感想・レビュー・書評

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  • あやかしの謎解き人情話ミステリーですね。
    短編連作七話で最後に大団円になる江戸の物語です。
    本来はあまり「あやかし」系は読まないのですが、『猫』の文字に引かれたのと、この本が図書館の除籍本として譲渡棚に並んでいたのを拾ったのでした。
    せっかくだから、少し目を通してみようと、ページを開いたのが運のつき。見事に西條マジックに陥りました。
    「あやかし」と言っても、別に猫が妖術を使うわけでもなく。怪しげな妖怪が出るでもなく。
    猫が主人公で、その猫が「傀儡師」として人間の「傀儡」を導いて、猫の関わる事件を解決させるという物語です。
    作中で、猫の言葉は人間に伝わらず、猫の知恵でそうと気付かせて、猫ばかりか人間の問題まで解決させるという筋書きは、さすがに人情話の名人の成せる技ですね。
    かなり制約がありますが、「あやかし」が強く出ない手法は好感が持てます。
    猫の仕草や習性を小まめに気持ちよく書かれているのが嬉しいですね。特に子猫の「ゆき」が巧みに効いていて、猫好きにはたまらない作品です。
    江戸話は西條さんのお得意ですが、言葉や江戸の事情も細やかでさすがに感心しました。
    この本が図書館の除籍本となるとは、ちょっと意外ですが、文庫が出てそちらに貸し出しが回ったかなと推察します。
    いずれにしろ、奇な出会いで面白い読書ができました。
    西條さんの現代のミステリーは、時々読ませてもらいますから、これからも作品を探りたいですね。

  • = 猫の傀儡

    ミスジが行方不明の順松の後を継いで傀儡師になったいきさつ。
    初仕事として,キジが銅物問屋の主が丹精した変わり朝顔の鉢をめちゃくちゃにした濡れ衣を晴らす依頼を受ける。
    変わり朝顔は,旗本の殿様へ献上する予定となっており,それが縁で銅物問屋の孫娘が殿様の縁続きの家に嫁にもらわれる事になっていた。しかし,娘は家に出入りする魚売りを好いており,嫁入り話を壊すために,自ら壊していたのだった。
    銅物問屋と魚屋では身分が違う,と思い込んでいたが,実は魚屋は大きな魚問屋の跡取りで,修行の一環で魚売りをさせられていたのだった。

    = 白黒仔猫

    ミスジが子供の頃に烏に襲われたのを救ってくれたのが順松で,その烏が三日月。三日月が白い仔猫をさらって飛んでいるところを,今度はミスジが救う。白猫は,ひょんなことから傀儡の阿次郞が飼う事になる。
    その後,黒い仔猫が行方不明になったのを調べる事に。黒猫は隣家の両替商の娘に可愛がられていたが,その娘も同時に姿を消した。娘が連れて行ったらしい。
    実は,娘は実の母親に疎んじられており,それを不憫に思った以前世話をしていた女が連れ出していたのだった。
    阿次郞が名主を立てて,両替商には養女に出すように進言する。

    = 十市と赤

    風呂屋の主人が境内で襲われ,下手人として十市という若者が捕まった。
    十市は自分ではないと泣くばかり。十市が可愛がっていた,野良猫の赤が縁で,ミスジになんとかして欲しいという依頼が来る。
    風呂屋は裏で金貸しをやっており,金を返せない料理屋夫婦が一計を案じ,
    十市に濡れ衣を着せる工作をしたらしい。
    しかし,赤が隠していた,十市をおびき出す手紙についていた重しの跡が証拠となり阿次郞が犯人を特定した。

    = 三日月の仇

    子供にいじめられていた烏をミスジが助けたところ,それは三日月の女房だった。
    女房は,団子の串みたいな物が飛んできて刺さったという。猫町ではこのところ同じような傷をつけられ,更には惨い殺され方をした猫が何匹も出ていた。
    ミスジがなんとか阿次郞に,団子の串が手懸かりだと知らせたところ,吹き矢ではないかと言う事になり,吹き矢を使う遊技場での情報から,武家の子供が犯人ではないかと見当をつける。
    吹き矢を吹いていた子供は見つかったが,それを無理に命じていたのはその兄で,惨い殺し方をしていたのもその兄だった。
    ミスジはそれを庇う弟とともに,兄に切られそうになったところを,三日月に助けられた

    = ふたり順松

    白猫(ゆき)とミスジと阿次郞が散歩していたところ,辰巳芸者の春奴がゆきは自分の姉芸者のものだという。
    それが縁で,姿を消した姉芸者(順松)と,同時にいなくなった時雨を阿次郞が探す事になる。時雨が飼っていた猫が順松で,同じ頃に姿を消している。
    芸者の順松と時雨は恋仲だったらしい。
    時雨は実は大西屋の元主人(婿養子)で,三年前に隠居して,弟に身代を譲ったという。
    その際,嫁(大西屋の実の娘)と離縁し,弟とその嫁が結婚した。

    = 三年宵待ち

    調べを進めていくうちに,大西屋の現主人(佐吉郎)から新たな情報を得る。
    佐吉郎と大西屋の娘は元々が許嫁だったが,ちょうど佐吉郎が身体を壊し,長い事回復しなかったために,兄に養子のお鉢が回ったとのこと。
    しかし,佐吉郎と娘は実は恋仲で,時雨との祝言の日にそのことを娘から打ち明けられた。そこで,兄は佐吉郎の身体が回復したら身を引く事にした。
    その間10年。
    一方で,芸者の順松は,16年前に押込みに会った叶屋の娘で,時雨と許嫁だったおもとであった。ふたりはほとぼりが冷めた頃に一緒になるつもりでいたらしい。
    それが両国の川開きの日で,ようやく二人で会えるというその日に,二人は姿を消した。その日,最後に時雨の姿を見たのは,履物小売りの丸吉の主だった。
    話を訊きに行くと,ミスジに対して恐怖と殺意を顕わにし,懐に潜ませた匕首を振りかざす。

    = 猫町大捕物

    丸吉の主が怪しいと睨んだ阿次郞は,一計を案じ,丸吉の主を罠に嵌める。
    丸吉の主は,16年前に叶屋を襲った墨縄一味の生き残りだったのだ。
    まんまと罠に嵌まった丸吉の主は,さらに猫町の全猫の襲撃を受け,神社の石段から転落する。一命は取り留めたが,その後お縄に。
    一味の残党が捕まったことを知り,各地を転々と逃げ回っていた時雨とおもとも江戸に戻ってくる。
    猫の順松は,丸吉の主が2人を襲うところを救おうとして,命を落としたのであった。
    時雨はどうも自分が傀儡で会った事を知っているようで,ミスジがあとを継いだ事も分かっているようだ。

  • 猫目線、カラス目線。面白かった。
    私らカラスは、一生同じ相手と添い遂げるんだ。こうして言いたいことを言い合っていかないと、とても持ちやしないよ。
    人も同じだきっと。

  • 新しく猫町の傀儡師となった、ミスジ。
    傀儡の阿次郎を使い、猫世界の平穏を保とうとする、連作短編集。

    おもしろかった。

    とにかく暇で、察しがよく、何にでも興を示し、猫が好き。
    そんな人間を傀儡とし、猫の役に立つようにしむけるのが、傀儡師の猫の仕事。

    猫好きで、まっすぐな阿次郎の人間性が魅力的。
    なんだかんだ言いつつも、阿次郎を信頼していくミスジとの関係性もよかった。

    猫たちも愛らしく、犬や烏なども含めた、動物たちのやり取りもたのしい。

    ミステリあり、人情味あり。
    コミカルなやり取りに笑ったり、時にぐっときたりする作品。

  • 西條 奈加作品。3作品目。

    江戸、猫町のミスジは傀儡師となって、傀儡の阿次郎を使って依頼をこなす、連作短編集。

    壱、まず暇であること。弐、察しと勘が良いこと。参、若い猫並みの数寄心をもち合わせていること。肆、何よりも猫が好きなこと。
    ご存じ、傀儡四箇条です。私には、弐参が微妙かな。ウチの猫の言いたい事すら判らないからなぁ。まぁ、ウチは俗にいう”マンション猫”のため、集会にも出なければ、傀儡師にもならないと思うけど、、、

    傀儡師のミスジと阿次郎のやり取りが傑作です。上手く傀儡を操るところは、さすが!と感心してしまいました。猫と人間の関係って、本来、こうありたいものです。一番大事なのは、「壱、まず暇であること」が、悲しい。

    『三日月の仇』:動物に残酷なことをする子供の話。どの時代でも、心に溜まっている子はいるとは思うけど、やっぱり悲しいね。動物に復讐された子が、憎悪を膨らませたまま大人にならなきゃいいけどと、願う。だけど、最悪の場合は、「猫の祟り」にお願いすることになるのだろうなぁ。

  • 直木賞を取った。と言うニュースで、「そういえば、この作家さん、読んだことがないなー。お名前は知っているけれど。」と思い、読んでみた。

    猫好きなので、まずは猫からだと思い、その作品を読んだのだが。。

    面白い。の一言。

    リズムの良い文体、読みやすい言葉選び、風景がくっきりと浮かぶ文章。
    全てが自分にはあっていたようで、あっという間に読み終えた。

    これ、シリーズ化してないよな?
    シリーズ化していたら、読みたいなー。。

  • 直木賞を取った作家さんだからという訳でもなく、なんとなく選んで読んだけど、やっぱり面白かった。猫はあまり好きではないがこんな猫なら飼ってもいいかなという気にさせられた。

  • 江戸の人情と猫情(?)、猫による猫のための連作短編。

    「人を操り、人を使い、猫のために働かせる。」そして問題を解決していくというお話なのだが、これ、大喜びで志願する人間が多く居そう。
    小さなユキが可愛くて可愛くて、胸をかきむしり悶えました。阿次郎の気持ちがよく分かります。
    猫好きが幸せになれる本。

  • 猫が人を(気)遣う話。読みやすい。

  • 阿次郎を傀儡として扱う、猫の傀儡師ミスジの物語。

    風情あるフィクション。江戸の情緒が良い。
    せかせかした日常からトリップできるのでは。
    阿次郎も暇そうだし

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著者プロフィール

1964年北海道生まれ。2005年『金春屋ゴメス』で第17回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。12年『涅槃の雪』で第18回中山義秀文学賞、15年『まるまるの毬』で第36回吉川英治文学新人賞、21年『心淋し川』で第164回直木賞を受賞。著書に『九十九藤』『ごんたくれ』『猫の傀儡』『銀杏手ならい』『無暁の鈴』『曲亭の家』『秋葉原先留交番ゆうれい付き』『隠居すごろく』など多数。

「2023年 『隠居おてだま』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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