ロスト・ケア

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334928742

感想・レビュー・書評

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  • ひさびさに読んだ小説は読み応えあるものでした。

    43人もの人間を殺し死刑を宣告された時、男は微笑んだ。
    想像した。
    やがて来る世界の未来を。
    後悔はない。
    全て予定通りだ。...

    マタイによる福音書 第七章 十二節
     だから、
     人にしてもらいたいと思うことは何でも、
     あなたがたも人にしなさい。
     これこそ律法と預言者である。

    そして、<彼>は剣をとった。
    介護という社会に暗部に。

    サイコパスのようなミステリーが展開されるかと思っていた。
    もっと深い物語だった。
    「なぜ人を殺してはいけないのですか?」
    「死刑で犯罪者を殺すのが世のため人のためならば、社会が産み落とした暗部に本人も、家族も苦しんでいる人を助けるために殺すのは人のためにならないのですか?」
    というような件がでてくる。

    悩みますね...。

    ミステリーの謎解きの要素は軽めかもしれない。
    しかし、世の中にぽっかりあいている穴へのミステリーの扉に誘なわれた感じは重いです。


    追伸:
    週刊少年サンデー「犬部!ボクらのしっぽ戦記」のシナリオ協力もしている作者だったんだ。
    こちらもペットから見える社会の穴を貫くシナリオです。
    諦めるのではなく、落ち込むのでもない主人公が魅力のマンガです。

  • 介護をテーマとした大量殺人事件

    介護と安楽死と尊厳死
    どれも一言では語ることの出来ない現代社会での大きな問題

    自分ならどうするのか?
    考えさせられた一冊になった

  • 殺人事件の裁判の判決「死刑」言い渡しの場面から始まる。
    事件に関わる登場人物のそれぞれの独白から、時間をさかのぼりその事件が明らかになっていく。その事件とは、介護度の重い認知症で、在宅で介護されている老人が亡くなっていく。事件性は認められていなかったが、自然死を装った殺人だった。
    さて、その犯人は?

    「こいつが犯人だ」と思いつつ読み進むが、自分の推理は見事に覆される。
    介護する側と介護される側、双方のQOL(生活の質)を守ることがいかに困難か。
    実際に介護の仕事に就いている私にとって、身につまされる場面が沢山あり、今まで経験してきたことが脳裏を駆け巡っていた。

    「みんながニコニコしていられる介護」を目指して介護業界に飛び込んだけれど、特に在宅ではそんな綺麗ごとでは済まない。
    相模原障害者施設の殺傷事件の裁判も始まった。
    これからはもっともっと介護を必要とする高齢者が増えていく。
    「みんながニコニコ…」は絵に描いた餅なのかもしれないけれど、初心に戻ったタイムリーな読書になった。

  • 介護の問題は、映画や小説で何度も題材にされるが、いずれもまだ正解がでない
    救いがでない問題であることを改めて考えさせられた。

  • 戦後犯罪史に残る43人を殺害した凶悪犯『彼』に下された死刑判決。

    死刑判決に満足げな『彼』

    性善説を信じる検察官・大友は…

    親の介護に追い詰められ、働くこともままならない。
    斯波宗典や羽田洋子のように、貧困の連鎖に陥ることは決してめずらしいことではないだろう。

    大友秀樹の父親のように、『安全地帯』の高級老人ホームに入居できるのは、ほんのひと握りだろう。

    佐久間が言うように、『この世で一番えげつない格差は老人の格差』なんだろう。

    働きたくても働けない…
    思うように動けない…
    認知症で記憶もままならない…

    その介護に引きづられ、その息子や娘も…

    介護は経済的負担、体力的負担、そして精神的負担が大きい。

    貧困の連鎖が始まる…

    介護疲れから親を殺してしまう。

    『彼』のやったことは許されることではない。
    が、『彼』がやったことで救われた人もいるだろう、羽田洋子のように…
    『彼』がやったことは、日本の高齢化社会、老人介護問題に警鐘を鳴らしただろう。

    『ロスト・ケア』という観点からも考える必要があるのではないか…

    介護をする側へのサポートをもっと大きくしなければ…

    が、犯罪は犯罪であり、暴力による解決はあってはならない。

    同じ立場に立った時に何ができるのだろう…
    考えさせられる。

  • とある地方裁判所では、43人もの人を殺した殺人事件の公判が行われていた。…

    老人介護の複雑な問題を切り込んだ作品。
    犯人に至るまでの展開に工夫があり、想像はついたものの面白かったです。

    多くの人が抱える介護問題。
    介護にも、明らかな貧富の差があることは知っていても、今はまだ身近に感じてはいませんでした。

    世の中の制度の充実を望みながら、それだけでは解決しないことも多々あるだろうと思います。
    介護の終了が救いであることも否めないとも、今回感じました。

    人それぞれに適した介護ができる、受けられる世の中が来るといいなと思います。

  • ずっと前に読んだ本。
    日々、介護に追われる身としては
    これはフィクションではなく、現実とリンクする。

    底流に流れるのは「キリストの黄金律」

    心身削られて、痛い。

  • ぐいぐい引き込まれた
    老人介護問題 みんな分かっていた、これからも
    日本の抱える問題がえぐられている
    そして ラスト えっ!
    ミステリーの面白さを堪能できる

    ≪ 介護とは 何を守るか?ロストケア ≫ 

  • 現代日本が抱える社会の「穴」、介護問題、介護ビジネスに焦点をあて、抉る。
    問題の周辺に付き纏う、偽善、欺瞞、立場の違う正義感が次々に晒されていく。
    犯人の思考に完全に異を唱えられない自分が確かにいた。
    クライマックスに近づく中で明らかになる真相も、思わず読み返さずにはいられなくなる上手さ。
    これは面白い。

  • 第16回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
    デビュー作とは思えないほど堂々と、作品の
    骨子が太くそしてグサリと突き刺さってきます。
    ミステリの装丁を身に纏う事で自分のような
    人間にも、見事にその重さと避けては絶対に
    通れないこの先...を見事に提示してくれ、
    自分自身が向かって考えないといけない...という
    当たり前の事実を認識させて貰えます。
    社会派ミステリーなんて枠を越えてでも
    多くの人が手にして欲しい...と思える作品。

    所謂コムスンの事件をベースに現代の
    介護が抱える(というか単に先伸ばしに
    している)問題、家族、高齢化...さらに
    性善説、そして正義対正義と話は絵空事ではなく
    確実に将来に待ち構えている事...について
    淡々と抉るように展開されていく事に、
    誰もが他人事...ではない現実と比べながら
    身を削がれるような想いになってしまいます。

    作中で犯人とされた「彼」がしてきた事の罪を
    裁く現代社会と現代の法。「彼」の行ってきた
    正義は一矢報いる事が出きるのか...。テーマが
    重い...だけで済ませてしまうことが出来ない
    痛烈な作品。

    ちなみにミステリとしても犯人である「彼」
    を追いつめる手法も見事でかなり面白い。
    自分の今年のベスト3確実...っぽいです。

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著者プロフィール

葉真中顕

1976年東京都生まれ。2013年『ロスト・ケア』で第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞しデビュー。2019年『凍てつく太陽』で第21回大藪春彦賞、第72回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。

「2022年 『ロング・アフタヌーン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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