希望の地図

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344021488

作品紹介・あらすじ

「希望」だけでも、「絶望」だけでも、語れないことがある。人々の価値観や生き方は、大きく変えられてしまった。それでも人には、次の世代につなげるべきものがある。去ってゆく者、遺された者の物語を書き続けてきた著者が、被災地への徹底取材により紡ぎ出した渾身のドキュメントノベル。

感想・レビュー・書評

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  • ──3.11から始まる物語。

    仙台に戻ってきてから気付いたことがある。
    東京在住時には風化していた震災の実感──。
    あの震災からもう1年半以上過ぎた。
    1年半は長い。
    当初毎日のように報道されていた震災関係の報道も1ヶ月経ち2ヶ月経ち、半年も過ぎれば全国ニュースで放送される頻度は目に見えて少なくなっていた。
    それとともに実際に被害に会った街の人以外、遠く離れた東京に住むような私たちの心情も、過去のものとして風化しつつあったのは事実だろう。
    私自身、自分の故郷のことであるのに、過去の記憶になり、実感が薄れていた。
    しかし──。

    街を車で走ってみると、その爪あとはまだまだ残っているのだとあらためて思い知った。
    荒れ放題の野原、瓦礫の山。そこはかつて住宅地や田畑だった場所だ。
    そんな風景が、海沿いに行けば、まだまだそこかしこにあった。
    中心部にあるこの図書館でさえ、10月にようやく建設された新しい市民文化センターの一角に復活したばかりだ。
    ローカルのニュースやバラエティ番組では、未だに震災関係の話題が毎日のように報じられる。
    東日本大震災はまだまだ現在進行形だということ。
    それを私にまざまざと気付かせてくれたのだ。

    この本は、震災後半年を経た2011年9月11日時点からの復興状況に対するルポルタージュ形式をとりながらも、そこに不登校に陥った(架空の)少年を登場させ、彼を被災地に同行させることでその少年が震災後の現場を見て何を思い、感じるかをテーマに据えて描いている。

    汚れて泥まみれになった写真を綺麗に修復し、被災した人たちに届けようとする『写真救済プロジェクト』。
    震災直後から、資金をやりくりして、みんなを励ますために立ち上がったコミュニティFM局『りんごラジオ』。
    踏まれても踏まれても復興に向けて『ぼくらは、世界に対して無力さを感じることに負けてはいけない』と逞しく立ち上がる釜石市の人々。
    水族館の魚を飼育することができず、死んでいく魚たちを水槽から出すことに苦渋の思いで専念する飼育員。
    みんな『希望』という光を捨てずに、あきらめず、立ち向かっていく。
    そのフィクションではない、真実の姿に心を打たれる。

    この本を多くの人、特に若い人たち(小中学生)に読んでもらいたい。
    あの記憶を風化させないために。
    実際に体験した人が何を思い、絶望し、心が折れそうになりながらも、僅かの光に賭けて、希望を見出し、戦ってきた(いる)のかを知ってもらうために。
    そして、それはまだ続いているのだと──。
    わたしはこの本を読んで、あらためて重松清という小説家に敬愛の念を抱いた。
    終わりと始まり。絶望から希望への旅立ち。
    未来の日本を支えていくのは誰か、そして彼らにどのような希望を与えるのか。
    彼の作品には家族を大きなテーマとし、子供が主人公だったりするものが多い。
    どんなにつらくても、苦しくても、若い世代に希望を持ち続けてもらうために。
    重松氏は今後もそれを書き続けていくのだろう。
    戦時中の子供たちに“人間の生き方”を問うた吉野源三郎の名作「君たちはどう生きるか」の平成版とも言うべき名著だと思う。
    是非ご一読ください。

  • 私は東日本大震災の後に生まれたので当時の詳しい様子はあまり知らなかったのですが、この本を読んで東日本大震災についてを知ることが出来ました!

  • 東日本大震災(2011.3.11)後の東北各地を取材するフリ-ライタ-(田村章)が、不登校の中学生(光司)を伴って歩いたノンフィクション・ノベルです。 被災地で出会う人々、家族や友人を亡くした人々が、復興への夢と希望を語る姿をとおして震災後の時代に生きる我々に語りかける魂のメッセ-ジには、今を生きる者への「命のバトンリレ-」の重き思いが託されています。

  • 東日本大震災の事実をもとに、それを小説風に書き表したもの。
    極限状態に追い込まれながらもそれでもなお「希望」を忘れず、持ち続けようとする現地の人たちに胸が震えました。生きるって、協力し合うって、支えあうって、こういうことなんだろうな、と思い知らされました。

  • 読書途中ですが、感想を書きます。
    まずプロローグのフィルム修復作業とボランティアする人の姿に感動、落涙してしまいました。

    この小説(小説です)は3.11東日本大震災以後(半年後) この言葉も軽々しく使いたくないが、復興中の東北が舞台です。
    主人公?はいじめにあって不登校の中学生。その彼が縁あって知り合いの記者と東北の現状を見ていく内容です。
    ルポルタージュ小説という形で物語は進行します。無論、綿密な取材に基づいた話です。それならば、ただ単にノンフィクションでも良かったのではという声も聞こえそうですが、あえて作者が小説にこだわった為、非常に読みやすい内容になっており、小中高生にも是非読んでもらいたい本になりました。
    後半になって、主人公を不登校の中学生に据えたことに意味が生きていました。重松さんはこうした形(小説)でもなんでも記録、記憶として残しておきたかったのでしょう。緻密な取材、的確な表現文章本当に頭が下がります。私は前述したようにプロローグから泣かされっぱなしでしたが、それだけではいけないんだ、勇気をもらいました。まだあれからすべては終わってなく、まだ途中なんだと改めて思いなおしました。

  •  若者の挫折、いじめ、そこからの脱却が、他人の大人との大震災跡地をめぐる取材旅行での、多くの出会い、発見を通じて図られるという展開。
     若いうちの苦しみは、大きな視点で人のあり方、社会のあり方と関係させて自分の生き方を考えれば、必ず希望を持てるということを教えてくれる書だ。
     取材の対象はとても厳しい状況におかれていても、生きることへの前向きさを共通に持っており、これが人間の現実だと悟らせてくれる。
     中小企業家同友会会員の取り組み、被災地の子供たちの本へのむさぼるような渇望、私自身の生きる環境と深くつながる部分も多く、ますます重松清に傾倒しそうだ。

  • 「やらなきゃいけないことをやる、誰かのせいにするんじゃなくて、ただ自分がやるべきことをやる…カッコいいよな、三人とも」
    ー田村章

    風化させてはいけない。

  • 3.11震災の物語。
    物語と言っても、100%フィクションではない。
    不登校になった中学生と、その父親の友達である記者が被災地をめぐるが、めぐった各地でインタビューに答える人、内容は全て事実。
    事実だけを連ねる大手新聞記事よりも、この本の方が受け入れられる気がしたのは、おそらく、人間味があるからだと感じる。

    主人公の中学生が被災地を見て感じた思いは、2012.4に初めて被災地を見た時に私も感じた。
    ニュースで何度も何度も見ていた風景、話のはず。
    でも、実際に肌で感じたものと、ニュースとでは、全くかけ離れていた。
    そこで感じたことは、忘れないというより、忘れられない。

    希望って、なんだろうか?
    希望は、一筋でも未来に光が見えた時に目指すもの。という感じを受ける。
    だからこそ、希望と絶望は表裏一体。

    この本が書かれたのは2012年。あれから3年がたっているが、復興が大きく進んでいるとは、いえない。
    でも、たしかに、少しずつでも、未来に進んでいると思う。
    希望を持って進んでいると思う。

    長々と私見を書いたが、この本は読みやすくて、色々と考えさせられる良い本だと思う。

  • 重いけど、素晴らしい話し。
    忘れたくない言葉ばかり。

    重松さんは、向き合うことが難しかったり、心の中でどうやって言葉で表せばいいのか分からないものを、ポンっと書いてみせてくれる気がする。

    3.11を経験した者として、日本人として、読むべき本だと思います。

  • 重松清さんがフリーライターのペンネーム田村章として3.11後を取材した記録を、希望の地図を描く旅として小説化した物語。

    (印象に残った言葉)
    夢と希望の違いとは、「夢は無意識のうちに持つものだけど、希望は、厳しい状況の中で、苦しみながら持つもの」
    東京大学 玄田有史教授

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著者プロフィール

重松清
1963年岡山県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。91年『ビフォア・ラン』でデビュー。99年『ナイフ』で坪田譲治文学賞、『エイジ』で山本周五郎賞、2001年『ビタミンF』で直木三十五賞、10年『十字架』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『流星ワゴン』『疾走』『その日のまえに』『カシオペアの丘で』『とんび』『ステップ』『きみ去りしのち』『峠うどん物語』など多数。

「2023年 『カモナマイハウス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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