- Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344032750
作品紹介・あらすじ
大切な人を、帰るべき場所を、私たちはいつも見失う――。読むほどに打ちのめされる! 忘れられない恋愛小説。
富士山を望む町で介護士として働く日奈と海斗。老人の世話をし、ショッピングモールだけが息抜きの日奈の生活に、ある時、東京に住む宮澤が庭の草を刈りに、通ってくるようになる。生まれ育った町以外に思いを馳せるようになる日奈。一方、海斗は、日奈への思いを断ち切れぬまま、同僚と関係を深め、家族を支えるためにこの町に縛りつけられるが……。
感想・レビュー・書評
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介護士の男女とその周りの出会いと別れ、再会。
やるせなく、情けなく、リアル。
富士山を臨む地域で介護士をしている日奈。
失業することはないが、老いと死に直面する仕事です。
幼馴染でかっては付き合っていた海斗も、介護士。
日奈にふられた海斗は身近な女性と付き合い始めるが、日奈のことを諦めきれないでいる。
東京から取材に来たデザイナーの宮澤に惹かれていく日奈。
宮澤が通ってくるようになり、やがて日奈は町を出るが…
狭い町から出て行けないでいた日奈と海斗。
しかも介護という仕事なので、重労働の割に低賃金という実態も出てきます。老人の世話をする大変さ、いつか来る終わりを思ってしまうしんどさ。
在宅介護をしていたので、わかる面もあります。
そして恋愛も…
そのとき当人は真剣だし、いちいち迷いつつも一度は猪突猛進で燃え上がる。
都会から来た男と恋に落ちても、そううまくは続かなかった。かなりグダグダ感ありますが、そこがリアル。
それはどういう出会いでもありうること。恋愛はしょうがないよねえ…
ぱあっと明るい気分には全くなれないけど、まあねえ、そうだったの、あるよねえ…と同窓会の二次会で、友達に相槌を打つような気分に。
恋を知らないよりも、恋を知って失った方がいい。と、古来の名言にもありますし。
それぞれ一生懸命、自分の道を歩いているだけなんじゃないかな。
ほの明るい穏やかさがともる結末でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
富士山を望む町で介護福祉士として働く日奈と海斗を中心に、どこかちょっとずつダメな人間模様を描く。
物語の始まりは24歳。そのせいか、冒頭は年上の男に溺れていく日奈の性描写から始まる。そして、章ごとに日奈、海斗、海斗の同僚でシングルマザーの畑中、日奈が人生で初めて恋をした宮澤の視点で物語は紡がれる。
それぞれがみんな上手く生きられない。そんな人生にどこか投げやりで、年を重ねるごとに疲弊していく様子の描写が実に上手い。
この作品を読んで、「ふがいない僕は空を見た」を思い出した。この作家さんを好きになったきっかけの作品で、その頃の良さも維持しつつ、高齢化社会だったり、介護職の仕事のきつさだったり、社会問題にもきちんと触れており、すごく感銘するわけでもないけれど、じわじわ心に残る良作だと思う。
いっぱい遠回りをした後のラスト。希望が見えた気がする。 -
働けど働けど将来に希望が見えない3Kの職業に就いている地方に住む日南と海斗。彼らの世界はとても狭く目の前にはいつも「死」がある。彼らの住む町にも「死」のにおいが濃く漂う樹海がある。
「そんな中で何が楽しくて生きているんだ」と問う都会から来た女。その夫との恋によって外へ外へと向かう日南の心と身体。残される海斗。
いくつも繰り返される対比。生と死。妻と愛人。老人と子供。幸と不幸。都会と地方。未来と過去。やるせない関係性の中で自分の気持ちを見失う日南と海斗。どこまで行っても平行線なのか。
窪美澄の小説にはどうしようもない人間ではなく、人間のどうしようもなさ、が描かれている。こうなるしかなかったんだ、と最後の最後に思う。彼らがもう一度人生をやり直せることがあったとして。やはりおなじ人生を選ぶんじゃないか、と思う。男と女が出会い、どうしようもない渦に巻き込まれていくその様に強く共感した。
誰かにそばにいてほしいと思うこと、そばにいてほしい誰かに手を伸ばすこと、伸ばした手を握り返してもらえること。今の私は何に、誰に手を伸ばすのか。誰の手を握るのか。 -
決して明るい未来を描いているわけではないのだけれど
読み終わった私の心の中は、
なんだかすっかり清々しい感じになっているのである。
『人間なんて、そんな大したもんじゃないのよね~』と、肩の力が抜けた感じでしょうか。
介護の仕事に就いている主人公たちの日々は、
一般的に見たら眉を顰められてしまうようなことがてんこ盛りで、とっても危うい。
だけれど、どうにもならない気持ちを抱え
不器用にそれでも踏ん張って生きている姿に
どうやら私は、いつの間にかたっぷりの勇気を
もらっていたようです。 -
2018年上半期直木賞候補作品。連作短編集。
富士山山麓の地方都市で介護士として働く日奈と海斗。日奈は東京から来たデザイナーの宮澤に惹かれ、二人の関係は終わる。一方の海斗は日奈のことを忘れられない中、同僚の畑中と付き合うことに。日奈と海斗を中心に繰り広げる、不器用な人たちの切なくやるせない恋愛物語。
なんともいえない重たさというか、虚しさが残る。最後もハッピーエンドではなく、終わりの始まりのように感じてしまうのは私だけだろうか。 -
縛られたくない、でも、一人でいたくない。
新しい人生を生きてみたい、
でも、気がつけば古巣に戻ってしまう。
人間の弱い部分が生々しく描かれている。
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田舎の退屈さがこの本から感じられました。
主人公の女性が宮澤さんに浮気してしまったのも
普遍的な生活に刺激を求めているように
思えてしまいました。
けれど、刺激は少しでいいもの。
最終的に落ち着くのは、平凡な生活。
文章や情景描写の美しさに対して
ストーリーはなかなかのゲスいもの。
美しすぎて、登場人物が美化されているけれど
冷静になると「普通じゃないひとびと」ばかりで
人間の欲深さを垣間見ました。